星4.3
んーおもろい。
何度か読んだけど、まだおもろい。
テンポがよい。
読む手止まらなくなるやつ。
おもいっきりネタバレする。
まず、時系列確認。
初めて読んだとき、ラストで
んんんん?
となって、紙に書いて整理して
うひょー、おもろい
ってなった。
んで、時系列確認。
ただし、これは私の解釈。
この小説は構造が特殊だから、作者による客観視点が皆無。
この文章自体を物語の当事者が書いてるわけで、その真相がはっきりと書かれているわけではなくて。
続編で明らかになるところもあるのだけど、一旦このフジコ1作目のみからの、私の解釈。
高津区一家惨殺事件
章の「2」
ここでフジコは家族を失い、首に傷を負う。
実行犯は小坂初代。
そもそも茂子の勧めでフジコ一家へ化粧品セールスの営業をかけた。
そこでフジコの父と不倫関係になったかは不明。
不倫関係により殺害に至ったかも不明。
ここから茂子が保険金を搾取する目論みがあったかも不明。
美也子は最初から茂子の狙いだったと推理している。
ここからフジコの半生が語られる。
叔母の茂子に引き取られてから、小学生時代、そして殺人鬼と化すまでの半生。
章の「3」から「8」
そして早季子視点
章の「1」
そして事実を小説用に書き換えた「9」
早季子が遺した原稿を基に真相を掴みかけている美也子視点の「はしがき」と「あとがき」
基本的に章の「1」から「9」は早季子が書いたものであり、「はしがき」と「あとがき」は美也子が書いたものであり、作者の客観視点は無い。
二人の文章から、解釈は読み手に委ねられる形となっている。
よく、解釈は受け取った側に委ねる、という難解な作品はあるが、そもそも創作物のほとんどがそうなわけで。
受け取ってる間、受け取った後におもろいと思えばおもろい。
そして、この作品はめちゃくちゃおもろい。
時系列順に感じたことを書く。
まず章の「2」
ここは「1」から完全にミスリードさせられて。
すべてフジコの物語だと思って受け取る。
「2」はフジコ視点。「1」は早季子視点。
これは巧い。
「2」は早季子かフジコか、迷うところ。
ただ、ピンク色の口紅の母親ではない誰かが刺しに来ていることから、私はフジコの幼少期と受け取った。
美也子による「あとがき」によれば、早季子は母親のフジコに首を切りつけられているとあるから。
ただ、ここはどちらともとれる。
「9」は早季子が書き換えた真実であり、あくまで美也子は「母親のフジコに首を切りつけられたと聞いている」だけだし、書き換えた真実なので、踏切の向こう側に小坂初代はいなかったことになるため、母のフジコを殺したのが小坂初代で、その現場に駆けつけた早季子が初代に首を切りつけられたという解釈もありだと思う。
ここはどっちでもよい。
けど、私は「2」はフジコの幼少期という解釈をした。
恐るべき殺人鬼となるフジコだが、そもそもが叔母の茂子の策略となると、茂子の方が恐ろしく、またフジコの半生には、とてつもない哀しさを感じられる。
そんなフジコの半生の「3」から「8」だが。
「大人はちょろい」と子供時代を上手く立ち回ることが出来ても、やはりどこかに綻びがあり、危うさがある。
そして、終始つきまとう
「子供は親と同じような人生しか歩めない」
「カルマ」
これを避けようとすればするほどに、その通りになっていく様はとても苦しくなる。
巧いなーと思ったのが、章の「1」をフジコ視点のフジコ幼少期として読んでいると、フジコの再婚後の転落を描いた終盤で、フジコがアロエを口にいれたり、夫が職場の後輩のために出前寿司をとって宴会していたり、給食費未払いだったり、と
まさに「カルマ」背負っちゃってるじゃないかと
まんまフジコがフジコ母になってるじゃないかと思えるところ。
勘のいい人なら、ここで違和感だと思う。
私は、やりすぎなくらいだけど、やりすぎでいいよ、とことん母親みたいになりたくないを追求した結果、一番なりたくない母親になってる!という哀しさがあって、いいねー哀しいねーと呑気によんでました。
章の「7」でフジコは再婚を決めて、本当の玉の輿にのれたと思わせてからの「8」冒頭で転落しているのは即オチ2コマかのような展開で、結局そうなるのか、と。
この物語は、フジコの人生の歯車が狂い始めるところから、予想通りっちゃ予想通りの展開になる。
あらすじやタイトルを読めば、予測つくことだから当然なんだが、そのひとつひとつが重く、哀しい。
ひとつ予想外だったのは杏奈を殺したのが裕也だったことくらい。
そうそう、裕也。この存在が大きかったよね。
フジコにとって大きすぎる存在だった。
「2」をフジコの視点として見たとき、そして幼少期に茂子からかけられてた言葉。
それが茂子の思惑での言葉だったとしても、フジコは両親から愛情をそそがれていなかった。
裕也はロリコンで単に中学生に手を出したかっただけで間違いないわけだが、それを本当の愛情だと捉えたフジコが哀しくて切ない。
根本には、両親の愛が受けられていないという点があるだろう。
だが、どうしても私はこの裕也が諸悪の根源と思えてしまう。
もちろんその以前に小坂恵美を殺しているからまっとうな人生は歩めないはずなのだが、それを時効まで持っていけるのだから(絶対にいけないことではあるが)人生をやり直すことは可能だったかもしれない。
しかし
もしフジコが真っ当な人生を歩めるとすれば、裕也と出会うことなく「大人はちょろい」と上手く立ち回り、黄色いジャンパーの記者が真相まで辿り着き、茂子も小坂初代も裁かれる展開しか無かっただろうな、と。
そう考えると、やはりハードルは高い。
茂子が心酔する宗教にハマりこむフリでも出来ればチャンスはあったか。
フジコはとことん運に恵まれなかった。
これがカルマだとしても重くて悲惨である。
小さいところでは、転校先でのグループの選択から上手く立ち回ってるようでそうではない。
カナリアの死に直面したときも。
そして小坂恵美に詰められ、最初の凶行に及ぶときにも。
すべてにおいて悪手をとってしまう。
何度転落しても、何度過ちを繰り返しても、めげないし諦めない。
母親のようにはならないという執念、薔薇色の人生を歩むという執念、どう足掻いても地獄なのに足掻くにはもう、殺すしかない、そうして生まれた殺人鬼がフジコ。
そう捉えると、とても哀しくなる物語だ。
「私は悪くない」
その言葉が切なくなる。
唯一、この物語の中で、読むのがとてつもなく辛かったのは裕也との子供、美波の扱いがひどくなっていくところ。
ここは、映画「子宮に沈める」級につらかった。
やっぱり、ネグレクトは私にはつらい。
保険会社の先輩がネグレクトの末、逮捕された報道を見て我に返ったフジコが美波を着飾るシーンなんかは涙なしではいられなかった。
一体、誰が一番悪かったのだろう。
殺人鬼でありながら、フジコには救いがあってほしかったと思ってしまう、それだけ心をえぐられる作品でした。
ミスリードからのラストで衝撃の展開については
裏で糸をひいていたのが茂子というのは衝撃的だった。
私の解釈では、小坂恵美はフジコの両親を殺し、娘を虐待していて、娘は動物を虐待していて、フジコに娘を殺され、フジコの娘二人を殺したことになる。
この真相を知った上でまた読むと、また違った味わいが出てくる。
でも、結局、テンポのよさと、読み進める手が止まらない点。
結局ここ。
こういう作品がおもろい。
衝撃よりも、途中で何度も刺さる。
すごい。おもろい。
でもまー、しんどい。
哀しい話。
続編は2作品刊行済み。
これは必読と思います。