大変面白く読めた。古典部、小市民と男女の組み合わせが多いだけに、男性コンビの今作はどうなるかと思っていたが歴代の中でも1番と思える程良い組み合わせだった。自分の水に合うのか2人の会話は淀みなく頭に入ってくる。少々嫌味な所もある2人だが、古典部、小市民といつも通りなので御愛嬌。
■爽やかでほんのりビターな青春図書室ミステリー
批判のような入りになってしまい恐縮だが、このキャッチコピーは本当に合っているのかと疑念を抱かざるを得ない。「爽やか」「ビターな青春」どこ…?
例えば、ホームルームが終わり下駄箱を開けるとそこにはハート型のチョコレートと手紙が置いてある。それを開けると「〇〇君へ渡して下さい」と仲の良い友人宛の愛の告白が書かれていた。なんて話があれば私も「なんともビターな青春である」と思うのだが、この小説にそんな話は一切無い。
ただ男子高校生という輝かしい設定の上にビターな話が乗っている小説だと感じた。
これがまた嫌なビターさで、例えば私がキャラクターとしてかなり好印象を抱いていた溌剌とした女子高生【浦上先輩】がいる。「やっほー」なんて言いながら話しかけてくるタイプの小麦色の肌をした少女で崇め奉りたくなるような明るさを持っているのだが、この少女親戚のおじいちゃんを騙してお金を毟り取ろうとしている。どんなビターさだ。しかも不法侵入という罪も犯し、主人公にも平気で嘘をついている。一旦わけを聞かせてくれ米澤先生。
浦上先輩は魅力的なキャラクターだっただけに後味はかなり悪い。たしかにキャッチコピーの通り「ビター」だが、そういうビタービターですか米澤先生と問いたくなる。思春期特有のすれ違いやぶつかり合いではなく、普通に詐称や盗みの話が出て来ますか。そして青春はどこ行ったと。こんな感じで松倉の過去もそうなんだが、然り割とショッキングな内容が出てきたりする。
■米澤作品におけるエイレーネー千反田
古典部以外の学園ミステリを読み込んだことは無いが、この物騒さは平和な学園ミステリとしては珍しい気もする。これを【そういうもの】として受け取ってもいいがあえて理由を考えてみる。もちろん米澤作品に限定してだが1つだけ理由が思いあたった。
それは【千反田の不在だ】
もちろんこの話に千反田が登場する訳もないので言い換えると【小さな謎を騒ぎ立て解決を迫る人】だ。
千反田は小さな謎の解決を主人公に求める。たしか古典部での最初の謎は、「千反田が閉めていない教室の鍵がなぜ閉まっていたか」だった気がするが、初めて読んだ時は「いや、どうでもいいだろ」と思わずに居られなかった。現在進行形で出られないのなら分かるが既に折木が開けているからもう帰れるのだ。歩いて扉まで歩き、教室を出て、再び扉を閉めて帰路につく。それだけなのに彼女はお決まりのガンギマリフェイスで「わたし氣になります」と折木に解決を迫る。そして折木は仕方なく探偵役をする。古典部では彼女のおかげで小さな謎でも1話が成立してしまう。犯人が何かやらかさなくても良いのだ。
逆に居ないとどうなるかというと浦上先輩がおじいちゃんから金を毟り取ろうとしたり、小佐内さんが誘拐されたりする世紀末学園ミステリが展開される。
もし古典部から千反田が消えたらきっと折木の姉は戦地で捕虜になり、福部はゲスゴシップで金を稼ぎ、伊原は漫画部に火炎瓶を投げ込んでいるに違いない。米澤穂信の学園もので古典部が1番平和なのは千反田のおかげだ。何故か知らないが米澤穂信先生は千反田が居ないと物騒になってしまうのだ。
それはきっと探偵役が積極的な謎解きをしないからだろう。千反田が居れば良いのだが居ない場合謎何かしらの理由で解きを"迫られる"ことになる。
話に出した手前だが小市民はまだ1作しか読んでないので省くとして、この図書委員の2人はそこまで必死に謎解きはしない。依頼されて、もしくは良心に駆られて、または何か迫られたりして謎解きをすることが多い。
例えばご老人の明らかにオレオレ詐欺ぽい振り込みを見て、助けない選択もあるけど流石に良心に従って助けるみたいなことだ。
主人公はよほどの理由がないと謎解きはしない。こうして半ば強制的な謎解きが発生する場合、それなりに切羽詰まった出来事が起きていたりする。設定上犯人も同じ学生であることが多いのだが、舞台は平和な学園ものなので犯人をブタ箱にぶち込むという訳にも行かず、犯人のやらかしが時効を迎えたり、良くないことだが明確に罪とも言えない罪だったり、総じて【ビター】な展開になることが多い。ということなのだろうか(まあ小佐内さんの誘拐は普通に犯罪だけど…小市民そんなに読んでないので図書委員にフォーカスということで…)
個人的に著者の作品の中だと氷菓の「女郎蜘蛛の会」や「心当たりのあるものは」のような解決した前後であまり劇的な変化がなく日常に溶け込んでいる謎解きが好きなのだが、意外にもそういう作品は少ない。
----改めて書き直したので以下は旧感想-----
出版社がこの作品を「爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ」と紹介するのは景品表示法違反で取り締まりを受けるのでは?キャッチコピーと中身が合っていない。まあそれは置いておくとしてとても面白かった。自分が米澤穂信の書く日常学生ミステリーが好きだということは知っていたが、さらに男性キャラクターが好きだということに気付かされた。小市民シリーズと古典部シリーズはどちらも読んでいるが松倉、堀川ペアは福部、折木ペアに並んで好きだ。キャラクターはあちらの方が立っているがこの2人なんと言っても自分の水に合う。読んでいてストレスが無く、淀みなく会話が頭に入ってくる。少々嫌味な所はあるがいつも通りなので目を瞑るとする。ストーリーはミステリである以上何かしらの謎があり、その謎解きを迫られる。が、著者の主人公は積極的な謎解きはしないので、半ば強制的な謎解きが発生する。つまり謎を解かないと何かしらの危機に陥るので仕方なく謎解きをするのだが、設定上犯人も同じ学生であることが多く、それだけの状況を作り出してしまうのだから、謎を解いたとしてもビターな展開になることが多い(キャッチコピーでこれを指してビターな青春は無いだろう)。この作品で言えば松倉の父親であり、浦上家のお家事情だ。おれは浦上さんが今作のヒロインだと思っていたんだ…なのに、なぜ家族ぐるみでジジイ騙して金掻っ攫おうとしてんだ…いつか著者の学生日常ミステリで落ち着いてキャラクターの会話劇を楽しみつつ些細な謎解きを楽しみたいものだ。(氷菓の「女郎蜘蛛の会」とか「心当たりのあるものは」みたいな…)