12世紀末の欧州風で,魔術や呪われたデーン人等が存在する異世界を舞台とした特殊設定ミステリである。特殊設定ミステリであり、かつ、犯人当てミステリとなっている。
エドリックという暗殺者が呪いをかけた”走狗(ミニオン)”が,ソロン領主のローレント・エイルウィンを殺害する。容疑者は,遍歴騎士や傭兵,魔術師などの人物。容疑者の中にも魔術を使う者がいるかもしれない。しかし,「たとえ誰かが魔術師であったとしても,また誰がどのような魔術を用いたとしても,それでも〈走狗〉は彼である,または彼でない,という理由を見つけ出すのだ。」という作中のセリフのとおり,論理的に犯人を当てることができるように作られている。
下巻の途中で、実際に呪われたデーン人の襲撃を受けることになり,この部分では容疑者でもある傭兵達の活躍が書かれている。しかし,この戦いにも最後の犯人当ての手がかりとなる伏線が多数用意されている。
最後に事件の関係者を集め,走狗が誰なのかを指摘する儀式を執り行われる。容疑者全員がいる前で,論理的に,消去法により探偵役であるファルクが指摘する犯人は,謎のマジャル人ハール・エンマであった。
しかし,物語はここで終わらない。ファルクの従士であるバゴが,「ハール・エンマは走狗では有り得ない。」と指摘する。「ハール・エンマは呪われたデーン人の王の子であり,走狗とするために必要な血が存在しない。」と言う。
容疑者の全員が犯人足りえなかったように見えたが,実際は,そうではなかった。あと二人、犯人になり得る人物が残っていた。それは,探偵役のファルクとバゴ。そして,真犯人はファルクだった。
特殊設定ミステリであり,叙述トリックなどはなく,純粋な論理による犯人当てミステリ。そして,そのオチは探偵が犯人であるというもの。米澤穂信らしく,読み出したら止まらない話運びの上手さがあり,結末も見事。探偵役のファルクが犯人であるという後味の悪さの米澤穂信らしい。ただ,秋期限定栗きんとん事件やボトルネックほどの衝撃がなかったので,少しだけ割引して★4。
米澤穂信が好きな方,後味が悪いミステリでも大丈夫という方になら文句なくオススメ