皆川博子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
無償に時代物の小説が読みたくなって、積読の中から選び出して読んでみました。
江戸時代の歌舞伎の世界を書いた小説です。
面白かった~。
2冊前に読んだ本は落語の世界を書いた話で、その奥深さに驚いたけど、この本はもっと奥深かった。
成田屋団十郎や、中村屋勘三郎、高麗屋幸四郎などなど、いろいろ出てき、しかも三大櫓を狙う下っ端の見世物小屋の連中たちや、中村屋の腹違いの姉妹の恋の話などを織り込んで、歌舞伎の世界の裏も表も上手く書かれていたので、週末に一気読み。
しかし、ホント火事が多くて建てても建てても燃えるから、ほんと可哀そうになるね。並大抵の精神力では、お金があっても這い上がれないと思う。
たま -
Posted by ブクログ
ネタバレ戦中の2つの女学校という空間が出てくる。
片方はミッションスクール、もう一方は都立女子校。
ミッションスクールはどちらかというと日本になじまない宗教性からか夢見がちに浮いて見られることが多い。しかし、そこには司教の体罰や異質な性癖、入信はしていない多くの女学生、エスという関係。決して穏やかなものだけでは済まされない。まるでジャスミンに似ているのにそれとは違う黄色い花を咲かせ、猛毒を持つカロライナ・ジャスミンのように。
なにが美しいと言うよりも、読んでいてとても楽しい、小説だった。
女学院の纏う愛らしさと排外性、戦争中という享楽の飢餓、それらが相まって「倒立する塔の殺人」の謎、現実の謎に垂直に -
Posted by ブクログ
ネタバレ初皆川作品。圧倒され、惑乱させられた。次々と語り手が交代していくことにより、たった今まで現実と思って読んでいた物語が虚構に切り替わり、そして次に読んだ物語も虚構へと……、現実との境界が分からなくなっていく。どれも完結しない物語。登場人物が感じる混乱が私にも伝播し、酔う。ミステリ作品として、最終的には現実が提示されるわけだが、それでも残されたひと筋の非現実-詳細は伏せる-により、この惑乱は解けずに終わる。
薔薇の僧院。薔薇と人間を合体させる狂気の研究。男娼と黴毒。姉の美しい恋人。美しき劣等体。ナチとSS。重厚な文体。出てくるモチーフは確かに倒錯、耽美なのだが、そこには頽廃のような爛れた空気より -
Posted by ブクログ
第1次世界大戦から第2次世界大戦にかけてドイツ・ポーランドの国境近くの修道院で行われた秘密の実験。
脱走兵に、ポーランドの少女、修道院の作男、と、語り手は変動していく。でもって、どれも<信用のならない語り手>なのだ。
なので、翻弄され困惑し、気がつくとがっつり世界に取り込まれている。
にしても、薔薇と人間を融合させるという実験が、あの病気の治療云々につながっていくとは…。
とはいえ、まぁ、どれもこれも共感できない人物のオンパレードで、ある意味、人間の基本的な嫌な部分、というか自分自身が嫌悪していることを凝視させられる気になる。
やっぱ、怖いです、皆川博子。
でも、癖になる -
Posted by ブクログ
「語り」自体に仕掛けがあるらしい……
という情報だけ仕入れて読んだ。
太平洋戦争末期の女学生たちの愛憎劇で、
複数の人物の手稿が連続するノートを読み進める、
という形で進行する物語。
誰が犯人で誰が被害者か、
そして、どこからどこまでが話中話なのか、
さして長くない小説だが、
気づかないうちに落とし穴に嵌まっているかもしれないと
疑心を抱きつつ、目を皿のようにして読み進めた。
結果……罠に掛からなかったのが嬉しいような、
逆にちょっと損したような、変な気分になった(笑)が、
文句なしに面白かった。
叙述ミステリ入門編として、
こういうジャンルに興味を持ち始めた方に、お薦めしたい。
騙されるのも