皆川博子のレビュー一覧
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壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。(裏表紙)
トマト・ゲーム
アルカディアの夏
獣舎のスキャット
蜜の犬
アイデースの館
遠い炎
花冠と氷の剣
漕げよマイケル
今まで皆川さんの初期の作品は幻想と狂気が薄めだと思っていたのですが、単純にモノを知らなかっただけだったんだなぁ、と。
全編、濃淡あれど狂気に彩られていました。
近頃のものであればそこに幻想が加えられますので、幸か不幸か生々しさが薄れていたのですが、これはもう、グロテスクな感じさえ受けました。 -
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名言をあげるスレ、みたいなのは割と好き。でもって本を読んでてそういうのがあると、まぁ気にするような、気にしないようなで、意外と忘れるんだよなぁ。でも今回はいろいろと名言が散りばめられていて、さりげなく名言を吐きたいというあなたにぴったり!なんである。
「友情とは、誰かに小さい親切をしてやり、お返しに大きな親切を期待する契約である」と言ったのはモンテスキューだそうで。モンテスキューなんて20年くらいぶりで聞いたわ。何やったかは覚えてないけど。
「自由を!と叫ぶ連中が僕の自由を阻害している」なんてなかなか良いね、好きよ。
「風邪は、放っておけば一週間続くが、治療すれば七日間で治る」って、一休さんか、おまえは。
まぁそんな感じで無駄な知識を蓄えたい自分にぴったりな言葉がたっぷりで満足。最後の大団円っぷりも、割かし良かった。
しかしこの人はけっこう前から書いてるよなぁ、って思ったらこの本を書いた時に81歳って。グレートな婆さんだな、これは。さいとうたかをもけっこう歳だよなぁ、って思ったらやっと81歳になったとこだった。重ね重ねすごい婆さんよ。 -
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『「ドイツは豊かになった」ヴェッセルマンはつづけた。「だが、その代償に、内に向かう目をドイツ人は失った。人は、重く、下へと成長し、根を地底に広げ、大地の水を吸い、そして思考は鳥のようにはばたき光につつまれる。しかし、不安という糸が、鳥の脚を地上の風につなぐ。そのようにして、我々ドイツ人は思索のなかに生きてきた。」
「思索の結果が、戦争でしたよ。」』
ナチスドイツの思想とそれを体現したクラウスの狂気。妻となったマルガレーテの発狂。その狂気に育てられた子供たち、フランツ、エーリヒ、ミヒャエルそれぞれの悲劇。
緊張感の途切れない気持ちの悪い恐ろしい作品。
発狂したマルガレーテの手記がうまく使われて、本当は誰が誰なのか、、、。ミステリー要素も入って面白い作品! -
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絵師として花開きたいともがく英泉の葛藤は乾いている。
乾き過ぎて、ちょっとした摩擦で燃え上がりそうなほど。
けれど、彼を取り巻く人の情や思惑はとにかく重く湿っている。
そしてその情が英泉の筆に乗り移り、紙を湿らせ、絵を描かせる。
春画にはあまり描かれないという吉原の遊女を好んで描いた渓斎英泉。
彼が筆を執り、成功、そして没するまでを書いた「みだら英泉」。
有名一門との確執、春画が弾圧される時勢、実在する絵師たちと英泉の交流……
あたかも江戸の町並みを見てきたかのような、匂いすら立ち上る筆致は、確かに情緒あふれる時代小説のものだ。
しかし、あくまでも話は英泉と妹たちを中心とした生臭くも艶っぽい関係性。
英泉を巡る人々の情動が、この魅力ある男に「女」を描かせる原動力となっている。
その濃密な人間模様に、読者は「気を悪く」して、そしてそっとほくそ笑む。
皆川節に酔う。
生真面目さに、ぎりりとした癇性すら湛えるお津賀。
掴みどころなく、くたくたと男にまつわるおたま。
二人の姉の在りようの強さから弾かれ、儚さの漂うおりよ。
じわじわと、妹たちの精を吸い取って、英泉の絵が描かれていく。
とはいえ、兄の心身に絡み付き、異形の朝顔を咲かせているのはお津賀のように思えた。
自分ではまっとうと思い込んでいる女の、歪んだ翳り。
失笑を催すほど、哀れだ。一読者に過ぎない私によく似ている。
英泉は女の何を愛したのだろうなあ。
私は愛されないかもしれない。ふと思った。そこもお津賀に似ている。 -
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絢爛と酸鼻。
この両極端をここまで描出できる作家。見事としか言いようがない。
豪華な錦糸を縦横に編み込んだような文章からは、腐臭すら漂う。
実在した歌舞伎役者澤村田之助の存在感の、なんと艶やかで無残なこと。
傲慢で鼻持ちならない言動ながら、まさに「役者」の業を煮出して全身に染め抜いた、天賦の才。
田之助はその美貌すら、狂って感じられる。
三すじの、淡々としながら、けれどほのかに覗く残酷がなんともリアル。
全編に漂う淫猥さが、あまりに惨い田之助の悲劇すら彩ってしまう。
この激しい生き様そのものが、豪華な芝居だったのではないか……
夜明けに見た悪い夢のよう。美しい。 -
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久々に“純文学”を読んだ、と思った。
著者が70代の後半頃に書いたという作品集。エンターテインメント性は感じないけれど、そういう枠とは別の意味でとても面白いというか、興味深い。
戦中、そして戦争の前後の昭和の時代の物語が多くを占めていて、そこはかとなくエロスとタナトスが漂っている。
物語の中身や流れというよりは読んだときの感覚を大事にしたくなるような作品ばかりで、だから今回は敢えて詳しい中身には触れないでおく。
時系列の飛び方に特徴がある物語もあって、きちんと読んでいないとその繋がりを見落としてしまう可能性もあるのだけど、分かるとその繋がり方に感心してしまう。
死というものが常に漂うから、不思議な色香を感じてしまうのかもしれない。
その2つが表裏一体だなんて、こんなにも感じる小説はなかなか無い。
少女の頃、他人が傷つき苦しみ血を流すのを見てうっすら興奮を感じてしまう、そういう種類の「外道」。
「巻鶴トサカの一週間」「隠り沼の」「標本箱」とくにこの3篇が好みだった。 -
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少年十字軍の悲劇を知っていれば
この子達にどんな結末が待っているのか
それを作者がどれだけ耽美、爛れた
退廃的な世界に描くのかと思いながら
読んでいったのだけど。。。
神への信仰を表面にあらわしながら
俗な人間の欲にまみれ浸りきった大人たちに
(あぁ大人の世界を縮小版で濃縮している
レイモンにもか)利用され、試され、裏切られ、
翻弄される子供たちが、ただ一心に信じている
苦難からの解放、自由な世界、導いてくれるはずの
エティエンヌ。
染まって汚れたものも、純粋なものも、全て背負い
その身を削りながらたどり着く先は。
ぜひ読んで、余韻に浸ってみてください。 -
Posted by ブクログ
この本自体、著者の内側があり、訳者の外側があり、
その大きな外側で作者の枠組みがあり、
全てが誰かの創作なのだから
どんな仕掛けがあろうとも作者の用意した世界なのだけど
最後の最後に、それもあのような場を使い、
これまで読み進めて、没頭していた世界が
一瞬にしてグニャリとゆがんでしまい、
あらゆる人、モノが違った一面、解釈を見せ始め
不確実で幻想的な世界に入ってしまう。
何が、誰が、どの部分が物語上の真実で虚構なのか。
確実なのは美へのあくなき追及。
美のために差し出されるいけにえ、犠牲になるもの、
純粋で醜くもある欲望。
今まで見ていたはずの世界の真実とともに
張り巡らされた技巧を解き明かすよう、
最初から読み直さなければ、と思わされる。
これだけ厚いのに、振り出しに戻らさせる力が容赦ない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ8作の短編集。太平洋戦争前から戦後直後くらいまでの時代の話です。
子供の目から見た、大人の世界。
変わってしまった世の中に復員してきた男。
支配される女性。
世の不条理さというものに押しつぶされそうな、いや、押しつぶされる人々の話なのかな。
その不条理さを、それぞれ受け止められない者、受け流して行く者それぞれかもしれないけれど。
好きとか嫌いとかそういう次元は超えてしまったと思われるような小説でした。
言葉の強さというか、異次元の世界へ引きずりこまれたというか、何かの力に翻弄されて読み切ってしまいました。
固い単語や文章で書かれていて、強烈な印象とともに、詩や歌が絡んでくるせいか、頭の中でセピア色のその場面が浮かんでくるようでした。
なんだろう、どこか暗くて淫靡で、残酷で、清らで哀切。
またこの作者の新しい本が読みたいです。
でも言葉が難しい(T . T)