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戦前の日本。裕福な家庭に育った久緒は、出入りの植木職人・葉次が苦悶する姿を見て、苦しみや傷に惹かれてしまう「外道」の自分を自覚する。そして「この感覚は、決して悟られてはならない――」と誓う。人には言えない歪みを抱きながら、戦前~戦後の日本をひとり生きた女性画家の人生を描いた表題作。ほか、火葬場で初めて出会った男女2人が突然、人の倫理を飛び越す「巻鶴トサカの一週間」など、彼岸と此岸、過去と未来を自在に往還する名手・皆川博子の傑作短篇7篇を収録。
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Posted by ブクログ
物語の時代背景は、戦前から戦後。軍国主義の風が吹き荒れる風潮の中で、おそらく女性はその地位を不当に貶められたであろう。「少女」ともなればなおさらのこと。虐げられる存在たる少女は、一方で「女」としての独特の厳格な道徳性をも求められる。時代の波の中で、何気ない日常を送りながら、要求される「道」を少しばかり「外」れてしまう少女たちの物語が、本書には七篇収められている。
少女が日常生活の中で、おのれの心と周囲との小さな齟齬に気づいたとき、彼女の心は道を外れ始める。皆川博子はそんな少女の心情とそれとは無関係に流れてゆく日常生活を静謐に描く。文体のせいか、行間からはほのかな官能性が漂う。道を外れた少女の心は恐ろしいが、美しい文章に乗せられてむしろ耽美な浪漫性さえ帯びてくる。
少女たちは周囲の「道」から外れたおのが心に閉じこもりながら、しかし、心の隙間から冷徹な視線で日常を見ている。周囲の大人たちは、そんなことには気づきもしない。少女ゆえ、道を外れても凶暴になったりはしない。どこか狂った少女はむしろ甘やかさをまとっている。
甘美な調べに乗って読み進むと、いつしか読み手の心には凪いでいた水面に風がさざ波を立てたようなざわめきが残る。
収められた物語の多くは過去・現在・未来の時制を往還しながら進んでゆくが、少女の心はいつしか彼岸に跳んでおり、これらの物語は「死」を予感させる。究極の安寧としての「死」は、これらの物語に通底するモチーフのように思える。だからいずれの物語も、読後、不穏な安心感をもたらしてくれる。
Posted by ブクログ
久々に“純文学”を読んだ、と思った。
著者が70代の後半頃に書いたという作品集。エンターテインメント性は感じないけれど、そういう枠とは別の意味でとても面白いというか、興味深い。
戦中、そして戦争の前後の昭和の時代の物語が多くを占めていて、そこはかとなくエロスとタナトスが漂っている。
物語の中身や流れというよりは読んだときの感覚を大事にしたくなるような作品ばかりで、だから今回は敢えて詳しい中身には触れないでおく。
時系列の飛び方に特徴がある物語もあって、きちんと読んでいないとその繋がりを見落としてしまう可能性もあるのだけど、分かるとその繋がり方に感心してしまう。
死というものが常に漂うから、不思議な色香を感じてしまうのかもしれない。
その2つが表裏一体だなんて、こんなにも感じる小説はなかなか無い。
少女の頃、他人が傷つき苦しみ血を流すのを見てうっすら興奮を感じてしまう、そういう種類の「外道」。
「巻鶴トサカの一週間」「隠り沼の」「標本箱」とくにこの3篇が好みだった。
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