あらすじ
戦前の日本。裕福な家庭に育った久緒は、出入りの植木職人・葉次が苦悶する姿を見て、苦しみや傷に惹かれてしまう「外道」の自分を自覚する。そして「この感覚は、決して悟られてはならない――」と誓う。人には言えない歪みを抱きながら、戦前~戦後の日本をひとり生きた女性画家の人生を描いた表題作。ほか、火葬場で初めて出会った男女2人が突然、人の倫理を飛び越す「巻鶴トサカの一週間」など、彼岸と此岸、過去と未来を自在に往還する名手・皆川博子の傑作短篇7篇を収録。
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Posted by ブクログ
いつもながら、読む手が止まらなくなる本。
どんな内容なのか、全然説明できないのに、面白い。
登場人物に感情移入もできない。
作家が高齢だからか、戦時中の話が多いが、祖父が帝国陸軍だったため理解できる。
哀しいけど、仕方がない現実。
そして、狂ってるのか正気なのか、その境にいるのかわからない、つかみ所のない女性がよく出てくる。
その目を通じて描かれる世界の奇妙さ。
やはり、好きだ。
Posted by ブクログ
再読。数ある皆川作品の中でも特に好きな短編集。
「少女外道」というタイトル通り、「少女」という存在が発見した(見る側にとっては発露というほうがしっくりくるような)「外道」についての作品ばかりが収められている。黒田夏子さんの解説を読んで気づいたけど収録作中で涙を流した少女は「祝祭」の少女だけ。涙を流すという行為が少女としては一等外道。
何が外道だこれしきと感じる人もいるかもしれないけれど、客観的に見てどの程度外道であるかなんてどうでもよくて自分を外道だと思うその心が大事なのです。
Posted by ブクログ
著者の本は戦争を境にして仄暗い世界観で統一されている。文学的で好きな文面だけど、明るさや希望といった類のものは無い。
マイノリティな部分を内に秘めた少女たちの物語。生は暗く死は松明の灯りのようにぼんやりとだけど淡々と描かれている。最後の話は作者の話なのかな、と思うほど、他の話よりリアルだった。
短編で読みやすい。
Posted by ブクログ
面白かったです。
日常を超えた世界に憧れ、まわりの決める結婚をしないだけで「少女」たちが「外道」とされる…黒田夏子さんの解説で、惹かれる書名の意味がやっと解りました。
それならわたしも「外道」なので、久緒や苗子や倫に近しいものを勝手に感じてしまいます。でもこんなに凛と立ててない。。
「隠り沼の」と「標本箱」がとても好きです。囚われ、壊れたり逝ってしまったり。
戦争の影響も色濃く漂うお話たちでした。
「そのあとにつづく躰が生きている私の時間を、私は思った。空無の中で、空無を包み隠す肉体は、しぶとく生きている。」
Posted by ブクログ
物語の時代背景は、戦前から戦後。軍国主義の風が吹き荒れる風潮の中で、おそらく女性はその地位を不当に貶められたであろう。「少女」ともなればなおさらのこと。虐げられる存在たる少女は、一方で「女」としての独特の厳格な道徳性をも求められる。時代の波の中で、何気ない日常を送りながら、要求される「道」を少しばかり「外」れてしまう少女たちの物語が、本書には七篇収められている。
少女が日常生活の中で、おのれの心と周囲との小さな齟齬に気づいたとき、彼女の心は道を外れ始める。皆川博子はそんな少女の心情とそれとは無関係に流れてゆく日常生活を静謐に描く。文体のせいか、行間からはほのかな官能性が漂う。道を外れた少女の心は恐ろしいが、美しい文章に乗せられてむしろ耽美な浪漫性さえ帯びてくる。
少女たちは周囲の「道」から外れたおのが心に閉じこもりながら、しかし、心の隙間から冷徹な視線で日常を見ている。周囲の大人たちは、そんなことには気づきもしない。少女ゆえ、道を外れても凶暴になったりはしない。どこか狂った少女はむしろ甘やかさをまとっている。
甘美な調べに乗って読み進むと、いつしか読み手の心には凪いでいた水面に風がさざ波を立てたようなざわめきが残る。
収められた物語の多くは過去・現在・未来の時制を往還しながら進んでゆくが、少女の心はいつしか彼岸に跳んでおり、これらの物語は「死」を予感させる。究極の安寧としての「死」は、これらの物語に通底するモチーフのように思える。だからいずれの物語も、読後、不穏な安心感をもたらしてくれる。
Posted by ブクログ
苦しみや痛みに惹かれる傾向を「外道」というのが 迫力がある。出征する恋人のために手まりの中に自らの小指を入れる。後年それが 手まりの中で からころと音を立て・・・
そんな 血の匂いを感じながらも美しい世界。
古風な言い回しがとても美しい幻想的な小説でした
Posted by ブクログ
『少女』『外道』『敗戦』なんかが全体に共通して絡んでくる短編集。
皆川さんの本はなんと感想を言っていいのか…言葉にするのが難しい。
とにかくこの雰囲気と文章の美しさが好き。
ラストのしめかたもいつもすごく素敵だと思う。
今回特に好きだったのは、『少女外道』『有翼日輪』『標本箱』かな。
Posted by ブクログ
久々に“純文学”を読んだ、と思った。
著者が70代の後半頃に書いたという作品集。エンターテインメント性は感じないけれど、そういう枠とは別の意味でとても面白いというか、興味深い。
戦中、そして戦争の前後の昭和の時代の物語が多くを占めていて、そこはかとなくエロスとタナトスが漂っている。
物語の中身や流れというよりは読んだときの感覚を大事にしたくなるような作品ばかりで、だから今回は敢えて詳しい中身には触れないでおく。
時系列の飛び方に特徴がある物語もあって、きちんと読んでいないとその繋がりを見落としてしまう可能性もあるのだけど、分かるとその繋がり方に感心してしまう。
死というものが常に漂うから、不思議な色香を感じてしまうのかもしれない。
その2つが表裏一体だなんて、こんなにも感じる小説はなかなか無い。
少女の頃、他人が傷つき苦しみ血を流すのを見てうっすら興奮を感じてしまう、そういう種類の「外道」。
「巻鶴トサカの一週間」「隠り沼の」「標本箱」とくにこの3篇が好みだった。
Posted by ブクログ
皆川博子の短編集。
頁数は文庫本で250強と少ないが、中身は圧倒的に濃い。
どの編も戦時中の少女の体験が描かれるが、作者の経験が元になっているのだろうか。
変幻自在の作者の、文学の香りが非常に強い作品。
Posted by ブクログ
どれも少しずつ人の道から外れた話だが、そういうものを扱う作品に強く心惹かれたことはない。それは、自分が正常であることの証明となんとなく思っていたが、この本を読んでみて、自分の中にも「外道」の部分が潜んでいると気づく。
人の心の闇を、おどろおどろしいだけではなく、美しく鮮やかに見せてくれ、自分ひとりではたどり着けないところへ連れて行ってくれる。80歳を超えている筆者の作品を、これからも1篇でも多く手に取っていけるよう願っている。
Posted by ブクログ
なんだかただならぬ雰囲気のタイトルですが、第二次大戦前後の、ごくありふれた人々の生活と心情を、ノスタルジックに綴った短編集です。皆川作品に惹かれるのは、ほのかに死と狂気の香りが漂う深刻な内容であるにもかかわらず、声高に何かを語るでもなく、かといって暗くなり過ぎることもなく、独特の文体でさらりと描いているところにあるような気がします。生は残酷で美しく、あまりに儚いものです。だからこそ、人のいとなみが健気に映るのかもしれませんネ。どの作品も実に味わい深い、魅力的なものでした。
Posted by ブクログ
表題作が特に気に入りました。
人は誰でも己の中に"外道"な部分を持っていて、それを隠しながら生きそして老いていく。
「倒立する塔の殺人」の次に好きです。
Posted by ブクログ
少女外道
巻鶴トサカの一週間
隠り沼の
有翼日輪
標本箱
アンティゴネ
祝祭
ほぼ前作に共通している語りの特徴としては、
現在→振り返り→現在、か、現在と過去を交互に示すか。
大過去、近過去、現在、という構成もある。
共通した心情としては、死への憧れ、あるいは死への漸近。
29p 清浄と淫らって、一つのことだと思うわ。
45p 未だあらぬ池の面を、夕風が吹き過ぎた。→凄まじい幻視。
157p いきなり互いの魂の割れ目に嵌りこんでしまった。
187p あなた……わたしかしら。
254p 凄まじい落日の一刻に遇えた。生と死が水平線でせめぎ合っていた。横雲の間から最後の光芒を放ち、空の裾に金紅を孕ませ、陽は沈みつつあった。すべてが闇に浸されていく中で、海と空の境は金泥渦巻く戦場であった。→マルセル・シュウォブを思い出させる、これぞ文章の力!
Posted by ブクログ
久々に文学っぽいものを読んだ気にさせられた。
とはいえ、少女小説っぽいのかな。
人とは違う性的嗜好あるいは、そこに至りそうな何らかの感情を秘めた人物や各短編の主人公。不思議と湿っぽさがないファンタジー。
Posted by ブクログ
すごいインパクトのタイトルだなあと思って手に取ってみた。
どのお話も、悲しみと寂しさがそっと横たわっていて、でもその奥に、恍惚とさせる美しい炎が、妖しく揺れているようなイメージ。
Posted by ブクログ
「少女外道」というタイトルとあらすじに惹かれて読みました。7話からなる短編集です。
順番に感想を書きます。
「少女外道」
表題作です。
あらすじには『(割愛)久緒は、あるとき怪我を負って苦悶する植木職人・葉次の姿を見て、自分が苦しみや傷に惹かれる「外道」であることを知る―。』とあります。
期待して読んだのですが、わたしの想像していた「外道」とは少し違ったので、この本、ちょっとわたしの好みとずれてるんじゃないだろうか、大丈夫かなあと思いました。
うまく言えませんが、本当に怪我をしてしまった人には不憫で惹かれないのです。
そういう意味では主人公は本当に「外道」ですね(笑)
「巻鶴トサカの一週間」
これはけっこう気に入りました。
特に最後の二人で車に乗っているところ。
数か月前にわたしもお葬式に参列したので、火葬場の様子がよく描写されているなと思いました(どこのお家でもいっしょなんですね、きっと)
「隠り沼の」
時系列と登場人物が覚えきれず、何度か読み返しました。
兎、焼いたからという言葉は冒頭の集会での話にリンクしているのでしょうか。
「有翼日輪」
最初のお話が想像と違ったことと、その後の2話も好みとちょっと違うなあと思っていたのですが、ここらへんからお?と思い直し始めました。
とにかく結末がぞっとします。
彼の中では足場から落ちてもギイは死なないことになっていたのでしょうか。
憧れとそれを自分だけのものにしたい、という気持ちは女性的なイメージがあるように思います。
でも金閣寺(三島由紀夫)も男性だったので、男女関係なく、そういう気持ちを持つと悲惨ですね。
モールス信号に覚え方があるとは知りませんでした。
思わずハーモニカと口に出してみました。
「標本箱」
これは気に入りました。
しかし他のお話もそうですが、時代と一人称がころころ変わるので、頭を切り替えるのが大変です。
「アンティゴネ」
戦犯になった兄の遺骨を拾いにマニラに行く、というのが"アンティゴネ"のストーリーにリンクしているということでしょうか。
それと梓と江美子のこともリンクしているのかもしれません。
バレエの一件のあと、梓は江美子に声をかけなかったけれども。
「祝祭」
手鞠の中に指を入れるってどういう気持ちなんでしょうか。
身代わりになりますように、ということなのか、いつでも傍に置いてほしいということなのか。
針で刺したくらいで包帯なんて巻くかなあと思っていたのですが、伯母は見抜いていたのかもしれません。
最後の1ページの文章がとても美しく、気に入りました。
表紙にさんごの写真が小さく載っています。
加工されたものは別として、さんごそのものの形は血管や骨に見えてあまり美しく思えないのですが、一枝ウン千万を欲しがる人がいるのですよね・・・。
どこに飾るのでしょうか。玄関の棚の上とかですか。
夜見たらまさに骨みたいで怖そうです。
Posted by ブクログ
現実と幻想と、夢と記憶と、彼岸と此岸と、それらのあわいをふわふわと漂っているみたいな感覚。
そこに血の匂いが立ち込め、死の気配が漂い、すべてを見下ろしている「神」的なものの存在を感じさせる。
やっぱり皆川博子さんの短編はすごい。
「戦時中」の「少女」という視点が、すでに大きな仕掛けになっているのだと思う。
慎ましく生きることを望まれ、純真無垢であることが当たり前だった少女の中に、芽生えてしまった「外道」性。それが少女たちの心の中に隠されて、沼の奥深くに沈められているうちに、ここまで大きな幻想に成長したのだろうか。
それでいて語り手が、その「少女」自身ではなく、(神的な)第三者であったり、成長したその後の少女の視点だったりする。だから読み手が物語全体を俯瞰しているような、さらに言うと戦中から現代までの時空さえも飛び越えてしまっているような感覚にもなるのだろう。
あちら側とこちら側のあわいを漂う、というよりも、現実も幻想も、夢も記憶も、彼岸も此岸も、寧ろそれらすべてを超越している感覚、という方が正確なのかもしれない。