あらすじ
戦前の日本。裕福な家庭に育った久緒は、出入りの植木職人・葉次が苦悶する姿を見て、苦しみや傷に惹かれてしまう「外道」の自分を自覚する。そして「この感覚は、決して悟られてはならない――」と誓う。人には言えない歪みを抱きながら、戦前~戦後の日本をひとり生きた女性画家の人生を描いた表題作。ほか、火葬場で初めて出会った男女2人が突然、人の倫理を飛び越す「巻鶴トサカの一週間」など、彼岸と此岸、過去と未来を自在に往還する名手・皆川博子の傑作短篇7篇を収録。
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Posted by ブクログ
少女外道
巻鶴トサカの一週間
隠り沼の
有翼日輪
標本箱
アンティゴネ
祝祭
ほぼ前作に共通している語りの特徴としては、
現在→振り返り→現在、か、現在と過去を交互に示すか。
大過去、近過去、現在、という構成もある。
共通した心情としては、死への憧れ、あるいは死への漸近。
29p 清浄と淫らって、一つのことだと思うわ。
45p 未だあらぬ池の面を、夕風が吹き過ぎた。→凄まじい幻視。
157p いきなり互いの魂の割れ目に嵌りこんでしまった。
187p あなた……わたしかしら。
254p 凄まじい落日の一刻に遇えた。生と死が水平線でせめぎ合っていた。横雲の間から最後の光芒を放ち、空の裾に金紅を孕ませ、陽は沈みつつあった。すべてが闇に浸されていく中で、海と空の境は金泥渦巻く戦場であった。→マルセル・シュウォブを思い出させる、これぞ文章の力!
Posted by ブクログ
「少女外道」というタイトルとあらすじに惹かれて読みました。7話からなる短編集です。
順番に感想を書きます。
「少女外道」
表題作です。
あらすじには『(割愛)久緒は、あるとき怪我を負って苦悶する植木職人・葉次の姿を見て、自分が苦しみや傷に惹かれる「外道」であることを知る―。』とあります。
期待して読んだのですが、わたしの想像していた「外道」とは少し違ったので、この本、ちょっとわたしの好みとずれてるんじゃないだろうか、大丈夫かなあと思いました。
うまく言えませんが、本当に怪我をしてしまった人には不憫で惹かれないのです。
そういう意味では主人公は本当に「外道」ですね(笑)
「巻鶴トサカの一週間」
これはけっこう気に入りました。
特に最後の二人で車に乗っているところ。
数か月前にわたしもお葬式に参列したので、火葬場の様子がよく描写されているなと思いました(どこのお家でもいっしょなんですね、きっと)
「隠り沼の」
時系列と登場人物が覚えきれず、何度か読み返しました。
兎、焼いたからという言葉は冒頭の集会での話にリンクしているのでしょうか。
「有翼日輪」
最初のお話が想像と違ったことと、その後の2話も好みとちょっと違うなあと思っていたのですが、ここらへんからお?と思い直し始めました。
とにかく結末がぞっとします。
彼の中では足場から落ちてもギイは死なないことになっていたのでしょうか。
憧れとそれを自分だけのものにしたい、という気持ちは女性的なイメージがあるように思います。
でも金閣寺(三島由紀夫)も男性だったので、男女関係なく、そういう気持ちを持つと悲惨ですね。
モールス信号に覚え方があるとは知りませんでした。
思わずハーモニカと口に出してみました。
「標本箱」
これは気に入りました。
しかし他のお話もそうですが、時代と一人称がころころ変わるので、頭を切り替えるのが大変です。
「アンティゴネ」
戦犯になった兄の遺骨を拾いにマニラに行く、というのが"アンティゴネ"のストーリーにリンクしているということでしょうか。
それと梓と江美子のこともリンクしているのかもしれません。
バレエの一件のあと、梓は江美子に声をかけなかったけれども。
「祝祭」
手鞠の中に指を入れるってどういう気持ちなんでしょうか。
身代わりになりますように、ということなのか、いつでも傍に置いてほしいということなのか。
針で刺したくらいで包帯なんて巻くかなあと思っていたのですが、伯母は見抜いていたのかもしれません。
最後の1ページの文章がとても美しく、気に入りました。
表紙にさんごの写真が小さく載っています。
加工されたものは別として、さんごそのものの形は血管や骨に見えてあまり美しく思えないのですが、一枝ウン千万を欲しがる人がいるのですよね・・・。
どこに飾るのでしょうか。玄関の棚の上とかですか。
夜見たらまさに骨みたいで怖そうです。