あらすじ
三島由紀夫、中井英夫、澁澤龍彦らの系譜を継ぐ“美の幻視者”皆川博子の一頂点を示す珠玉の短篇集!
男がインパール戦線から帰還すると、妻は情夫と同棲していた。二人を銃で撃ち下獄した男は、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に特攻帰りの下男とともに暮らす。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて……。戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が綴る、詩句から触発された8つの短篇。
「空の色さへ」はポオル・フォル、「蝶」は別所真紀子、今井豊、音羽和俊、「艀」「龍騎兵は近づけり」は横瀬夜雨、「想い出すなよ」はロオド・ダンセイニ、「妙に清らの」はハインリッヒ・ハイネ、「幻燈」は薄田泣菫、「遺し文」は伊良子清白の詩歌が引かれている。
解説・齋藤愼爾
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
詩句が引用され、そこから紡がれた物語はどれも暗い影が射し複雑な感情を引き出す。
戦前から戦後と移ろう中で、人々の感情には容易に切り替えられない虚しさや悲哀が見て取れ、やり切れない。
研ぎ澄まされた文章の裏を探りたくなる艶かしさがある。多くを語らない部分に奥深さを感じる。読後は悲しみに包まれ、今もふと考えてしまう。
Posted by ブクログ
8篇から成る短篇集。それぞれに俳句、詩の引用が載せられている。
皆川博子さん初読。大満足。まず「空の色さえ」から、灰まみれになった他人の想い出でも覗いているかのような感覚を覚え、物語に引き込まれた。片目のない叔父、小間使いと戯れる奥様……。「妙に清らの」と「幻燈」には特に惹かれた。幻想的な世界に夢中になって読んだが、自分に詩句の知識がないことが悔やまれる。どういう意図があってこの詩や俳句が引用されているのか、というのを知りたい。
皆川さんのほかの作品も読みたいと思った。
空の色さえ/蝶/艀/想ひ出すなよ/妙に清らの/龍騎兵は近づけり/幻燈/遺し文
Posted by ブクログ
戦前戦中戦後の混沌とした空気と、残酷な昏さと静かな狂気に絡めとられる短編集でした。
大好きな空気です。
作中で使用される詩や句も素敵です。
「想ひ出すなよ」の少女たちの残酷さ、「妙に清らの」の凄絶に美しい綾子叔母と叔父のラスト、「龍騎兵は近づけり」の勝男のバグパイプ、「遺し文」もその後が切なくて切なくて…皆川ワールドを堪能しました。
皆川さんは幻想小説も美しくてとても良いです。
もう逃れられません。
Posted by ブクログ
初めて読む皆川博子で、本書は8編からなる短編集。
大半の作品は戦中・戦後が時代背景になっている。
価値観が180度変わってしまった、いや180度変えなければならなかった時代に、上手く溶け込むことが出来なかった、あるいは迎合することが出来なかった人々の話が多い。
著者の作品に対して、幻視、夢幻といった単語が散見できるが、確かにそう呼ぶ以外にない作品がある反面、現実そのものを描き上げたと思しき作品もある。
ここに登場する、少年や少女、男や女たちは、きっとあの時代に実際に現実として存在していたのだろう、と思わせてくれるのだ。
どの作品も壮絶であり、凄みがあり、妖しくも哀しい。
どの作品も強く胸を締め付けられる。
Posted by ブクログ
この作者、どうしてこんな小説が書けるのだろう。
子供のもつイノセンスと、愛欲と、さらに大人にも備わるイノセンスと、愛欲。
「たまご猫」などと比べて、異様に密度が濃い。
Posted by ブクログ
短編集。人間の「生という凶暴性」が、終戦後の時期に「自由」や「民主主義」を掲げていて、そのことを忌んでいたという風にも読み取れる。しかし実はそれよりも、人間のある部分、狂奔するのとはまた違う、「生きている」ナマの部分を繊細かつ骨太な文章で描き出しているように感じた。やわらかい、あやうい美しさが頭を内から照らし出すようであった。
Posted by ブクログ
なんて幻想世界…
ずっと入り浸っていたい(それは、出来ないけれど)
薄暗くて、ねっとり湿っていて、甘くてキツい香りー
毒々しくも、魅力的な物語ばかり。
例えば、こんなの。
蝶の胴だけ食べる伯母
二階に住む住人
足の傷口に食いつく何か
眼窩に挿す花々
…
うん、いい。
何か覗いちゃいけないものを好奇心で見てしまう、背筋がゾクっとする感じ。クラクラする。
8篇あるうちの「妙に清らの」、「龍騎兵は近づけり」が特にお気に入り。
Posted by ブクログ
美しい。ほんとうに、美しい小説集だ。
作者や作品についてなんの予備知識もなく読み始めて、ひといきでその匂いに引き込まれた。さまざまの美しい詩句が、解説にある通り一篇の中に「象嵌」されている。詩句の呼び起こす情景、それを借景として、あるいは幽霊のごと溶け込むように同化して、はるか過去にあったはずの場面をここに現存させる。
それぞれの物語には歴史の翳さす暗い色調のものが多く、黴臭い死の匂いがまつわりついて、決して清潔ではないのに、この美しさはいったい、なんなのか。
どの話もひとしい密度をもって訴えてきた。八篇、どれも好きであまり差がないというのもすごい。あえてあげるならやはり「龍騎兵」かしら。
よい出会いを得ました。
Posted by ブクログ
戦前〜戦後にかけての個人の喪失感を描いた作品群。ただひたすら文も話も美しいです。割とどの話も後味の悪い終わり方をするのですが、読後感はさらっとしてます。久しぶりに当たりを引いた気分で、他の作品も読んでみようかと思ってます。
Posted by ブクログ
乱歩の「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」がしっくりくる短編集。
作品はすべて戦前から戦後を舞台に、戦前の生活は夜の夢のように追想される。
各作品に引用された詩歌が印象に残って、1編は20分くらいで読めるみじかさでも読んだ後に想像が広がった。
時代背景は共通しているが、連続性はないのでどこからでも読むことができるが、「艀」と「想い出すなよ」や、ラストの「遺し文」の並びも美しいと思う。
特に気に入った「幻燈」は映像作品でも見てみたい。
Posted by ブクログ
あさましくも美しい人間の心の闇、そして狂気を、鉱物に喩えられるような硬質な文章で描いた短編集。
なかでも個人的に大好きなのが『妙に清らの』。ため息が出るほど美しい。
ゾクゾクするぜ!
Posted by ブクログ
短編が八篇収載されているが、どれも一本の映画になりそうなくらいにドラマティックだ。日本、近代の闇から生まれた人間像を、美しく哀しく垣間見せてくれる文章は、直裁でありながら鮮やか。各々の物語に散りばめられた、詩や短歌も美しい。
Posted by ブクログ
ほの暗さとどこか幻想的なお話たち…でも現実的な描写もしっかりしてあって妙に生々しい部分もあります。
自分に詩が理解できたらよかったなあ…。
「想ひ出すなよ」「妙に清らの」「幻燈」が好きですが話の最後はすべて印象的でした。
Posted by ブクログ
短編8作。
蜻蛉や蝶のような小さな生き物たちを、思わず摘み殺してしまった、子供の頃に自分に感じた小さな残酷さを思い出す。
詩句と情景の美しさが、深く影を落とす。
言い知れない怖さがたまらない。
Posted by ブクログ
8作の短編集。太平洋戦争前から戦後直後くらいまでの時代の話です。
子供の目から見た、大人の世界。
変わってしまった世の中に復員してきた男。
支配される女性。
世の不条理さというものに押しつぶされそうな、いや、押しつぶされる人々の話なのかな。
その不条理さを、それぞれ受け止められない者、受け流して行く者それぞれかもしれないけれど。
好きとか嫌いとかそういう次元は超えてしまったと思われるような小説でした。
言葉の強さというか、異次元の世界へ引きずりこまれたというか、何かの力に翻弄されて読み切ってしまいました。
固い単語や文章で書かれていて、強烈な印象とともに、詩や歌が絡んでくるせいか、頭の中でセピア色のその場面が浮かんでくるようでした。
なんだろう、どこか暗くて淫靡で、残酷で、清らで哀切。
またこの作者の新しい本が読みたいです。
でも言葉が難しい(T . T)
Posted by ブクログ
皆川博子の本を読むときは、自然に背筋が伸びるような感覚を味わう。
自分の感受性やら、言語感覚やらを、試験されてるような感覚。
圧倒的な美意識の高さは、難解で、曖昧で、いつも必死ですがりつくような思いで読んでいる。
楽しいか、面白いか、と言われればなんと答えればいいだろう。
素敵です、とでも応えようか。
Posted by ブクログ
タイトルがなんだか耽美だなあと思って手に取ってみた作品。
これは、筋肉少女帯とか江戸川乱歩とか京極夏彦が好きな人にはとってもはまる作家さんだと思います!あと若合春侑。
退廃的でとても耽美。子供目線の、戦前〜戦後くらいの時期の短編集がいくつか収録されています。
一番良かったのは、良縁を紹介してもらうために奉公しに行ったお宅の奥様と女性同士で恋仲になってしまった小間使いの話。奥様が防空壕で焼け死んでから最後までの幻想的なくだりが読んでいてドキドキした。
戦時中〜戦後までのエログロというかなんというか、あの時代特有の暗いエネルギーに満ちています。ミステリーもたくさん書いているらしいので、読んでみたい。
Posted by ブクログ
背景に戦争があって、それに翻弄される人々が主役である。
大人だったり、子供だったり、妾だったり、孤児だったり・・・
幻想に惑わされるのか、知らずに狂気が育っていたのか
気が付くと「死」が纏わりついていた。
戦争がそうさせたのか、そうなる運命だったのか
美しくて、なげやりで、悲しくて、空っぽで、
そして残酷な物語。
幻想世界は、実はすぐそばにあった・・・
やはりたまりません!
Posted by ブクログ
ホラーっぽいけど幻想世界。
戦前から戦後にかけての独特な社会の雰囲気が描かれています。ゾクっとするトコロも多々ありますが、怖くはなくあくまでも神秘的な文章が素敵です。
Posted by ブクログ
幻想的であり陰鬱であり濃厚である。
一つ一つの作品が
個々に世界観があり、
でも一冊の本として
しっかりまとまりもある。
しっかりした描写なのに
輪郭がぼやける。いい意味で。
この作家さんの作品を
今まで読んだ中で一番好き。
Posted by ブクログ
陰美さがほの暗く薫り立つような短編集。読む側の精神状態によってものすごく好き嫌いが分かれそう。嫌いではないけど今の私には読解力が足りず、この世界観に浸りきることが出来なかった。「蝶」「空の色さえ」「幻燈」「遺し文」が好き。「龍騎兵は近づけり」はよくわからなかった…。
Posted by ブクログ
表題作のほか、7つの作品が収められた短編集です。舞台はいずれも第二次大戦前後の日本。退廃的で、死の匂いのするこのような作品を美しいと思うのは、生きることは罪深く、哀しいことだと、誰もが知っているからかもしれませんネ。詩のように紡がれた言葉が描く、密やかで耽美な幻想世界に、どっぷり浸ることのできる1冊でした。
Posted by ブクログ
昭和初期が舞台の幻想的な短編集
とにかく文章が綺麗で、グロい展開でも切ない展開でもとにかく綺麗なイメージは崩れない
全体的に仄明るいような仄暗いようなイメージ
私は表題作ももちろんですが、『妙に清らの』『龍騎兵は近づけり』『幻燈』が特に好きです
「わたしはもう、何も怖くはない。」
「いつまでもお若くておいであそばしますねえ。」
という終わりかたも凄く好き
幻想的で切なくてとにかく綺麗で…
いい読書ができました
Posted by ブクログ
内容は
詩片に沿って書かれた短篇集で
いつもの皆川さんのごとく綺麗グロ怖い切ない
けれども、今回のこの短篇集はホント絵になる。
そしてそのえが美しすぎて、好みすぎて震えちまう。
例えば、「妙に清らの」という話では
義眼の夫が看護婦と浮気していて
看護婦が眼窩に舌を突っ込み、義眼を舌で救い取る場面がある。
嫁は、静かに涙流して歌を歌ったりしてるのだが
ある日、死んだ夫の顔を膝に乗せ、眼窩に紫陽花の花の小さな花弁を
1つずつ生けていくというような描写が
あたしでは説明口調だが、誠に美しい表現で描かれている。
Posted by ブクログ
文章から立ち上る貫禄と美しさに圧倒され続けて、最後のお話にやっとこの作品群を言い表せるような言葉を見つけた。「凄艶」。
「想ひ出すなよ」「幻燈」が特に好き。どちらのラストも衝撃的で、頭をくらくらさせながら何度もその終りを繰り返し読んだ。
Posted by ブクログ
山尾悠子と雰囲気が似ている。
静謐で美しい文章。
どの小説も終わり方が印象的だが、
「蝶」のラストと「妙に清らの」はもう
あっ としか言えなかった。
紫陽花のひんやりした感触を思い出して。
Posted by ブクログ
先の大戦前後の日本を舞台にした短編集。
谷崎潤一郎のような悪魔主義的な背徳の美を綴る。
筋書きや文章でなく、雰囲気を堪能する作品に思える。
ひたすらに美しく、通州事件の生還者である令嬢が凄惨な最期を遂げる一篇「遺し文」にて、彼女の描写として選ばれる凄艶という語が、全作品の評価として最も相応しいのではないかと。
現と幻、生と死、美徳と悪徳とが等価に溶け合い、その境界が曖昧であるために全作品が、一つの短編の題名である「幻燈」の如くに非現実的な色合いを帯びている。
たまゆらの白昼夢に魂を奪われるかのような怖さを宿す一冊。
Posted by ブクログ
ずっと読みたいと思っていた皆川作品をようやく初読みしました。
自分の読書力と日本語力の未熟さを痛感させられたというのが、最初の、そして正直な感想です。
いやぁ〜まいった。
深い、実に深い。
皆川文学を読むにあたって、手始めにと手にした理由は本書が短編集である事。
さらっと読み進められると思っていた自分が情けないやら、恥ずかしいやら(苦笑)
それぞれの物語に密接にかかわり、深みを増すのが添えられた俳句や詩。
叙事詩的な文体であるが、これぞ日本の純文学なのであろう。
現段階では最後に記された「遺し文」のみが、少し理解出来た気もするが、本作を読み取れる読書力を身につけ、再読した時にはきっと違った景色を想い描き、空気を感じ、涙することが出来るのだろう。
その日を楽しみにこれからも読書を続けていきたい。
説明
内容紹介
インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて……戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。
目次
空の色さえ/蝶/艀(はしけ)/想ひ出すなよ/妙に清らの/龍騎兵(ドラゴネール)は近づけり/幻燈/遺し文/解説・齋藤愼爾
『蝶』は、現代文学の砂漠の沖に光輝まれなる孤帆として、美の水脈を一筋曳いてきた皆川博子文学の一頂点といえる短篇集である。──解説より
内容(「BOOK」データベースより)
インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて…戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。