【感想・ネタバレ】蝶のレビュー

あらすじ

三島由紀夫、中井英夫、澁澤龍彦らの系譜を継ぐ“美の幻視者”皆川博子の一頂点を示す珠玉の短篇集!

男がインパール戦線から帰還すると、妻は情夫と同棲していた。二人を銃で撃ち下獄した男は、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に特攻帰りの下男とともに暮らす。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて……。戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が綴る、詩句から触発された8つの短篇。
「空の色さへ」はポオル・フォル、「蝶」は別所真紀子、今井豊、音羽和俊、「艀」「龍騎兵は近づけり」は横瀬夜雨、「想い出すなよ」はロオド・ダンセイニ、「妙に清らの」はハインリッヒ・ハイネ、「幻燈」は薄田泣菫、「遺し文」は伊良子清白の詩歌が引かれている。

解説・齋藤愼爾

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Posted by ブクログ

ネタバレ

美しく恐ろしい、皆川博子の世界。8つの短編を読んだ。
※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

今年の読み始めはこれだったがレビューが遅くなった。
皆川さんの世界は、新年の休日で、昼夜なく過ぎていった三が日の祝いの日に似ている。
どこか非現実で、非日常的な日に似ている。あわあわとした中に生きている実感が、幻想的につかず離れずそこにあるというような、短編集だった。
それぞれの話の中には象徴的な俳句や詩が挿入されている。

「風の色さえ」
    風の色さえ陽気です
    ときは楽しい五月です    ポオル・フォル 堀口大学訳
足が不自由な私はよく祖母の家に預けられた。そこには二階があって急な階段の上は暗い穴のようで恐ろしかった。登ってみると若い男がいた。体が透けてみえるので幽霊だと思った。彼はマンドリンを弾きながら、祖母が口ずさんでいたポオル・フォルの詩を歌った。叔父は結核でその部屋で亡くなっていたのだが。

「蝶」
    冬に入る白刃のこころ抱きしまま  別所真紀子
インパールから復員してきたら、妻は男と同棲していた。隠し持っていた拳銃の台尻で二人を殴り自首した。二人とも死ななかったので死刑にはならなかった。出所して隠していた拳銃を掘り出した。小豆相場で稼いで海辺に小屋を借りた。使い走りの男を雇い犬を飼った。
映画の撮影チームが来た。主演は髪の長い少女だった。犬はじゃれて少女と海に向かって走っていった。彼は拳銃を出し遠い空に一発、自分の額にも一発、発射した。

「艀」
動かない艀がつながれている桟橋にしのぶは佇つと、そこで顔見知りになった男が自分が書いたという詩を読んでくれた。詩集が売れなかったわけをぽつぽつと話した。
海におぼれそうになったしのぶを助け家に連れて帰ってくれた、彼の母は両親がいないしのぶを施設に入れた。卒業して作家になり、昔の海に行ってみたが彼の消息も分からず思い出だと思っていたこともなんだかあやふやになっていた。

「想ひだすなよ」
父が庭の広い家を買った。後の山を借景にしたところが気に入ったのだった。質の悪い不動産屋の谷はダニと呼ばれていた。カラフルな洋館を建てて売るので父は眉をひそめていた。谷の家の離れにいいにおいがするお姉さんがいた、呼ばれて入ってみると本がたくさんあった。入り浸って仲良しの三人組と遊ぶことがなくなったが、その母親が非難した。友達がうるさく誘ってきて呼び出されたときに、とがった傘を友達に向けた。

「妙に清らの」
覗いて見た叔父夫婦の姿は、出入りを禁じられていた書斎で開いた画集の、楽園を追放されて泣きわめく男女の姿に似ていた。
ある日叔父は叔母の膝に頭を乗せ、首から黒い兵児帯がとぐろを巻くように伸びていた。動かない叔父の足が青黒かった。叔母は美しいコロラチュラソプラノで「妙に清らの ああわが児よ」とうたっていた。叔父の眼球のない目には叔母がさしたアジサイの花が盛り上がっていた。

「龍騎兵は近づけり」
    ここ過ぎて官能の愉楽のそのに 北原白秋
5つか6つの時だったか、砂浜の巨体を持つ城塞のような漁船で遊んでいた。その船は夜になると蘇り魚を従え沖に漕ぎ出すのだった。

船に乗り込むと船底に座り船首にしつらえた舞台を見ていた。私は一人で不安だった。それは海の上の死には安らぎがないと知っていたからだ。
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夏に海辺に借りた家で過ごしたことがある。隣家に少年がいて友達になった。隣の二階から音楽が聞こえて私はそれに合わせて歌った。二階に上がったがそこには水夫風の若い男たちが5人いて和やかに暮らしているようだった。珍しいヴァイオリンやバクパイプがあった。男がバグパイプを吹きそうになったのでなぜか私は階段を下りて逃げ帰った。
隣の男の子の傷の手当てをした。オニヤンマが飛んできて恐ろしかったが男の子がつかまえて服に押し付けて引っ張ると首がもげた。勲章だと男の子は言った。空が明るくなる前に人々が網を曳いていた。隣の男の子は勝男といったが小舟で沖に漕ぎ出した。風で船が揺れ、弟が落ちた。勝男が飛び込んで弟を助けて船に放り込んだ。水を透かして見ると勝男の足に二階の男たちが群がっていた。
私は東京に帰り戦争が終わった時は孤児になっていた。
音楽会の招待状が来た。私にはわかったが怖くなかった。5人の男たちは演奏をしてうたった。私は船に一人でいても恐ろしくはなかった。

「幻燈」
私は奥様のお着替えの手伝いが一番好きで幸せだった。奥様の爵位が気に入って結婚したのか旦那様はめったに帰ってこなかった。奥様は言葉が不自由だった。夜は私と一緒に眠るようになった。
お土産に買った幻燈機を奥様はとても喜んで夜になると幻燈遊びをした。戦争が激しくなって庭にt大きな避難用の穴を掘って日用品を運び込んだ。奥様は琴を私は幻燈機を入れた。爆弾が落ちでみんなが焼死してしまった、たまたま生き残った私は一枚の種板を持ち出し、それを写しては見ている。

「遺し文」
戦死した男との思い出。


皆川さんはこういった虚実の境のあるような風景を幻想的に書き、物語を読者の思いと混ぜ合わせるように差し出してくれる。恐ろしく美しい世界に誘われた。



「遺し文」では伊良子清白の「孔雀船」から「初陣」が引用されている。

ほかに有名な「漂泊」という詩がある

蓆戸に
秋風吹いて
河添の旅籠屋さびし
哀れなる旅の男は
夕暮の空を眺ながめて
いと低く歌ひはじめぬ

亡なき母は
處女と成なりて
白き額月に現れ
亡き父は
童子と成なりて
 
…………

長いが私はとても好きな詩で口づさむと母の故郷の風景が浮かんでくる。
何かの集まりに伊良湖精白の息子さんが出席されていた、背が高い落ち着いた方だった。昔々のおもいでです。

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2026年02月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

詩句が引用され、そこから紡がれた物語はどれも暗い影が射し複雑な感情を引き出す。
戦前から戦後と移ろう中で、人々の感情には容易に切り替えられない虚しさや悲哀が見て取れ、やり切れない。
研ぎ澄まされた文章の裏を探りたくなる艶かしさがある。多くを語らない部分に奥深さを感じる。読後は悲しみに包まれ、今もふと考えてしまう。

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2021年02月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

8作の短編集。太平洋戦争前から戦後直後くらいまでの時代の話です。
子供の目から見た、大人の世界。
変わってしまった世の中に復員してきた男。
支配される女性。
世の不条理さというものに押しつぶされそうな、いや、押しつぶされる人々の話なのかな。
その不条理さを、それぞれ受け止められない者、受け流して行く者それぞれかもしれないけれど。


好きとか嫌いとかそういう次元は超えてしまったと思われるような小説でした。
言葉の強さというか、異次元の世界へ引きずりこまれたというか、何かの力に翻弄されて読み切ってしまいました。
固い単語や文章で書かれていて、強烈な印象とともに、詩や歌が絡んでくるせいか、頭の中でセピア色のその場面が浮かんでくるようでした。
なんだろう、どこか暗くて淫靡で、残酷で、清らで哀切。

またこの作者の新しい本が読みたいです。
でも言葉が難しい(T . T)

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2016年08月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

皆川博子の本を読むときは、自然に背筋が伸びるような感覚を味わう。
自分の感受性やら、言語感覚やらを、試験されてるような感覚。
圧倒的な美意識の高さは、難解で、曖昧で、いつも必死ですがりつくような思いで読んでいる。
楽しいか、面白いか、と言われればなんと答えればいいだろう。
素敵です、とでも応えようか。

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2016年03月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昭和初期が舞台の幻想的な短編集

とにかく文章が綺麗で、グロい展開でも切ない展開でもとにかく綺麗なイメージは崩れない
全体的に仄明るいような仄暗いようなイメージ

私は表題作ももちろんですが、『妙に清らの』『龍騎兵は近づけり』『幻燈』が特に好きです

「わたしはもう、何も怖くはない。」
「いつまでもお若くておいであそばしますねえ。」
という終わりかたも凄く好き

幻想的で切なくてとにかく綺麗で…
いい読書ができました

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2014年02月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

文章から立ち上る貫禄と美しさに圧倒され続けて、最後のお話にやっとこの作品群を言い表せるような言葉を見つけた。「凄艶」。
「想ひ出すなよ」「幻燈」が特に好き。どちらのラストも衝撃的で、頭をくらくらさせながら何度もその終りを繰り返し読んだ。

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2011年04月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

雰囲気はすごくおいしいのに、私には難しかったです。「想ひ出すなよ」わたしと友人の従姉のエダ。わたしと友人3人の関係が生々しく、エダの人柄と人生を思うと悲しくなります。「幻燈」わたしと奥様の秘密。関係がネジ曲がってておもしろい。わたしの変わりっぷりがすさまじいです。「遺し文」涼太と外国で戦争に巻き込まれ帰国してきた秋穂。辛いけれど、一番好き。

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2026年03月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ずっと読みたいと思っていた皆川作品をようやく初読みしました。

自分の読書力と日本語力の未熟さを痛感させられたというのが、最初の、そして正直な感想です。

いやぁ〜まいった。

深い、実に深い。

皆川文学を読むにあたって、手始めにと手にした理由は本書が短編集である事。

さらっと読み進められると思っていた自分が情けないやら、恥ずかしいやら(苦笑)

それぞれの物語に密接にかかわり、深みを増すのが添えられた俳句や詩。

叙事詩的な文体であるが、これぞ日本の純文学なのであろう。

現段階では最後に記された「遺し文」のみが、少し理解出来た気もするが、本作を読み取れる読書力を身につけ、再読した時にはきっと違った景色を想い描き、空気を感じ、涙することが出来るのだろう。

その日を楽しみにこれからも読書を続けていきたい。

説明
内容紹介
インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて……戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。
目次
空の色さえ/蝶/艀(はしけ)/想ひ出すなよ/妙に清らの/龍騎兵(ドラゴネール)は近づけり/幻燈/遺し文/解説・齋藤愼爾
『蝶』は、現代文学の砂漠の沖に光輝まれなる孤帆として、美の水脈を一筋曳いてきた皆川博子文学の一頂点といえる短篇集である。──解説より
内容(「BOOK」データベースより)
インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて…戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。

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2020年02月17日

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