感情タグBEST3
Posted by ブクログ
感想を書き忘れていたことに気が付いて驚いている。本書は現在わたしが皆川作品の中で最も愛読しているものであり、幻想に踏み出すわたしの危なっかしい一歩を、整然とした理論の上に支える一冊である。熟慮と練達の上に描かれる風景は生々しく、すべてが明かされるラストには思わずあっと言わされる。すべてが偽りである可能性を残しているのが、この作者の筆力の凄まじさを感じさせる。醜い場面をいくつも描きながら、しかし、硝子のように澄んだものを透かしてみせるのである。
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複数の登場人物の視点による短編から成る一つの物語。
解説の方が作ってくれた年表が、とても役立ちました。
舞台は、第一次大戦後のドイツ。
そんな混沌の時代に生きる、6人の男女。
それぞれの思惑は当然違うから、読んでいて混乱する。
久々に頭を使いました。
皆川博子は、やっぱり凄い。
Posted by ブクログ
再読。
錯綜する時間と、人の心。
一章、二章と読み進めるうちに、得体の知れない沼の中に入り込んでしまう感覚。
どれが現実で、どれが夢なのか分からなくなるのだ。
それでいて、第一次世界大戦前後の生々しくも凄惨な戦争や、庶民の日々の暮らしの描写は的確。
読者は当時のベルリンの倦みを孕んだ熱気に身を浸しながら、出てくる人物たちの愛と絶望に寄り沿う。
ここまで緻密に物語を組み立てる、その手腕にただただ感服。
すべての話の細部が、食み合うように絡み合い、一篇の豪奢な織物のような物語を紡ぎ上げている。
時代背景描写の重厚さ、人物描写の深遠さ、さらにはすべてが幻想とも取れる人物たちの喜怒哀楽の耽美さ。
みんな、誰かが誰かを熱烈に慕い、絡み合って果てていく。
その様は、意図的に繰り返される熱帯植物園の様子にも似ている。
淫らで、よじれて、闇が吹き出す。
ツェツィリエ切ねぇなあ~;;
アルトゥールが、あそこまでヨハンを恋い慕わなければ、これら絡み合った亜熱帯性植物の蔓のような呪縛は生まれなかったんでしょうかね……?
とはいえ、時代背景も細かく書かれているので、無垢な青年らが堕ちていくその様も納得できるところがスゴイのだ。
完璧です。
皆川先生、恐るべし。
Posted by ブクログ
果たしてこれはまったい幻想小説なのか、それとも小説の内なる史実を忠実に描写しているのか…?
特に読み始めの頃は、その構造の複雑さに多くの読者は戸惑うことだろうと思う。
別々のものにしか見えなかった物語たちがページを追うごとに徐々に繋がり、絡み合っていき、あたかも、観察者にいくつもの異なる顔を見せる多面体プリズムのような壮大な流れが誕生する。
そして、幻視描写であろうと思われていた荒唐無稽な出来事たちが、見事に理屈に適った事実として整合していく。
“雰囲気だけ”の幻想小説に決して収まることなく、隅々まで巧緻に計算しつくされた魅力あふれるストーリーにちゃんと仕立て上げる皆川博子氏の超絶技術には、いつものことながら舌を巻く。
選び抜かれた美しい日本語の語彙で紡がれる世界がまず蠱惑的で、それに加えてそんじょそこらのミステリーなど太刀打ちできないほどの、娯楽小説としての面白みも備えている。
「薔薇密室」、「聖餐城」などと同様に、本の中の舞台に浸りきることがとても心地よい。
と同時に、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、1920~30年代のドイツという国は一体どのような境遇にあったのか、という史実も物語から感得することができる。
最初の大戦に敗北し、不利な講和条約締結を経て、内戦、そしてナチスの台頭…。
退廃が蔓延る危うき状態ながらも、いろいろな可能性が花開く活況を呈した時代でもあった、ということがよく分かる。
蛇足ながら、瀬川裕司氏による文庫版の解説も素晴らしかった。
Posted by ブクログ
「全ての物語を書き終えたものには、自殺の特権を与えよう」……なんて甘美な。
皆川博子による「伯林蝋人形館」。
その後、ふたたび現れる「伯林蝋人形館」のタイトル。
本編。作者略歴。
本編。作者略歴。
本編。作者略歴。
本編。作者略歴。
本編。作者略歴。
本編。作者略歴。
書簡。
こういうかたちで、同じ出来事を別の人物から描きなおし描きなおしていく。
その後、本自体の仕掛けに気づかされる最終章「書簡」。
おお。
本書に関しては解説もありがたい。
アルトゥール。
ナターリャ。
フーゴー。
ヨハン。
テオ。
ハインリヒ。
マティアス。
ツェツィリエ。
おお。
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6つの視点から描かれる1つの物語。
さまざまな視点から描かれているので最初は手探り状態。なのでなかなか読み進めづらかった。でも他の視点と重なっている部分が出てくると、物語の輪郭が見えてくる。
退廃的でほの暗く、それでいて激動的なストーリーが魅力的。
すべてを知ったあとで、もう一度読みたくなる作品。
Posted by ブクログ
大きい本を既に読んでたけど文庫購入。
幻想的な短編小説と、意味ありげな解説の繰り返しを、初めは手探りで読んでいくことになるんですが、お話の終盤、次第に全体像が見えだしてからのスピード感というか盛り上がりというか(読んでる自分の)
「これってこことつながって?」「ああっ!この人は」「このシーンは!」何度もページを繰りなおし、行ったりきたりして読んでしまいました。
Posted by ブクログ
1920年代のドイツ、ベルリンが舞台。混沌とした時代を生きる男女6人。それぞれの目線からなる幻想的な短編と、付随する作者略歴で構成されている。幻想と現実を行ったり来たりしながら徐々に全体像が見えてくるのが絶妙。内容は少し複雑だったが相変わらずの美しい文章と世界観だった。
Posted by ブクログ
正直外国を舞台にした話は苦手(というかカタカナが多用されるのが苦手w)なのでどうしようかな、とも思ったが、前に読んだこの方の短編集の面白さを覚えていたので。
第二次大戦後のドイツが舞台となっていたせいで時代背景がわからず、カタカナも多く、第一章でまず一度読むのをやめようとして、でも読み続けて見ればなるほど、これは面白い。
構成自体が変わった形態をとっていたのもあとあと考えると震えるほどよくできていて、感動した。
前に短編を読んだ時同様、このひとの頭の中はどうなっているんだろうと思ってしまう。これだけ幻想的な、ある意味幻覚のような後味を残す小説は、すごい。
個人的にはアルトゥールとヨハンの関係、ヨハンとマティアスの関係、マティアスとツェツィリエの関係という3つの他の介在を許さないような深い関わり合いが好きだった。
しかし全く予備知識のない戦後のドイツの話に、まさかこれほど夢中になるとはなぁ。
作者のもつ知識量のおかげかもしれない。
■概略
第一次世界大戦に敗れたドイツ。
極端なインフレと共産主義との闘いで混迷するなか、退廃的な文化も爛熟を深めてゆく。
持とプロイセン貴族の士官で戦後はジゴロとして無為に生きるアルトゥール――彼を巡って紡がれた、視点の異なる6つの物語の中に、ナチス台頭直前の1920年代のドイツの幻影と現実が描かれる。