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あらゆる文化ジャンルが爛熟を極めたドイツ〈黄金の1920年代〉を背景に、6人の男女の人生模様が交錯する!
第1次世界大戦に敗れたドイツ。極端なインフレと共産主義との闘いで混迷するなか、退廃的な文化は爛熟を深めてゆく。映画界では「カリガリ博士」に続きフリッツ・ラングやフリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウらの〈光と影の芸術〉が花開き、表現主義建築が人々を驚かせ、演劇界ではブレヒトが独自の理論を引っさげて彗星のごとく登場する。
元プロイセン貴族の士官で戦後はベルリンでジゴロとして無為に生きるアルトゥール――彼を巡って紡がれた、視点の異なる6つの物語の中に、ナチス台頭直前の1920年代のドイツの幻影と現実が描かれる壮大な歴史絵巻。
解説・瀬川裕司
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Posted by ブクログ
再読。
錯綜する時間と、人の心。
一章、二章と読み進めるうちに、得体の知れない沼の中に入り込んでしまう感覚。
どれが現実で、どれが夢なのか分からなくなるのだ。
それでいて、第一次世界大戦前後の生々しくも凄惨な戦争や、庶民の日々の暮らしの描写は的確。
読者は当時のベルリンの倦みを孕んだ熱気に身を浸しながら、出てくる人物たちの愛と絶望に寄り沿う。
ここまで緻密に物語を組み立てる、その手腕にただただ感服。
すべての話の細部が、食み合うように絡み合い、一篇の豪奢な織物のような物語を紡ぎ上げている。
時代背景描写の重厚さ、人物描写の深遠さ、さらにはすべてが幻想とも取れる人物たちの喜怒哀楽の耽美さ。
みんな、誰かが誰かを熱烈に慕い、絡み合って果てていく。
その様は、意図的に繰り返される熱帯植物園の様子にも似ている。
淫らで、よじれて、闇が吹き出す。
ツェツィリエ切ねぇなあ~;;
アルトゥールが、あそこまでヨハンを恋い慕わなければ、これら絡み合った亜熱帯性植物の蔓のような呪縛は生まれなかったんでしょうかね……?
とはいえ、時代背景も細かく書かれているので、無垢な青年らが堕ちていくその様も納得できるところがスゴイのだ。
完璧です。
皆川先生、恐るべし。
Posted by ブクログ
果たしてこれはまったい幻想小説なのか、それとも小説の内なる史実を忠実に描写しているのか…?
特に読み始めの頃は、その構造の複雑さに多くの読者は戸惑うことだろうと思う。
別々のものにしか見えなかった物語たちがページを追うごとに徐々に繋がり、絡み合っていき、あたかも、観察者にいくつもの異なる顔を見せる多面体プリズムのような壮大な流れが誕生する。
そして、幻視描写であろうと思われていた荒唐無稽な出来事たちが、見事に理屈に適った事実として整合していく。
“雰囲気だけ”の幻想小説に決して収まることなく、隅々まで巧緻に計算しつくされた魅力あふれるストーリーにちゃんと仕立て上げる皆川博子氏の超絶技術には、いつものことながら舌を巻く。
選び抜かれた美しい日本語の語彙で紡がれる世界がまず蠱惑的で、それに加えてそんじょそこらのミステリーなど太刀打ちできないほどの、娯楽小説としての面白みも備えている。
「薔薇密室」、「聖餐城」などと同様に、本の中の舞台に浸りきることがとても心地よい。
と同時に、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、1920~30年代のドイツという国は一体どのような境遇にあったのか、という史実も物語から感得することができる。
最初の大戦に敗北し、不利な講和条約締結を経て、内戦、そしてナチスの台頭…。
退廃が蔓延る危うき状態ながらも、いろいろな可能性が花開く活況を呈した時代でもあった、ということがよく分かる。
蛇足ながら、瀬川裕司氏による文庫版の解説も素晴らしかった。
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