皆川博子のレビュー一覧
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澤村田之助、という名を、寡聞にしてこの作品ではじめて知った。歌舞伎も、日本文化のひとつとしての興味こそあれ、見に行ったことさえまだない。当然、世界として体験することもはじめてで、慣れない雰囲気にしばらくは戸惑った。
しかし、物語を通して垣間見せてもらった世界には、見るものを引き摺り込む凄みがあり、また、巨大なエネルギーが渦を巻いていた。数々の御題目への自主的恭順を経て「きれい」になってしまった現代では感じにくくなっているものだと思う。ナマの感情、熱、冷徹、喧騒、におい……皆川作品ではそうした「生きている」人間が、完成された物語の奥でたしかに息づいている。右へ倣えに変化していくことのできる「社会 -
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『開かせていただき光栄です』から5年経過後の続編。
あの事件後解剖教室は解散、エド、ナイジェルは行方不明のまま。
みんなの状況も少しずつ変わっている。
何とも切ない展開だった…
事件は一応の決着を見たけれど、失ったものは大きいし取り戻すことも出来ない。
願わくはダニエル先生の下、無事に戻ったエドとクラレンス含め、もう一度和気藹々と解剖にいそしむ姿が見られたらと思うけれど(何とかベイカーさんの幸せになった姿も)、そんな続編を望むのは贅沢なんでしょうねぇ…
アンを苦手にしていたネイサンが、話が進むにつれて何気に懐いて来てるのがちょっとホッとしたところ。 -
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初めて読む皆川作品集。
『たまご猫』『をぐり』『厨子王』『春の滅び』『朱の檻』『おもいで・ララバイ』『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』『雪物語』『水の館』『骨董屋』の10篇。
どの短編も、短編の鏡というべき、構成のひねり、あっといわせる結末、虚実の反転、が描かれる。
そして一文の無駄もない文章。
茫洋と闇の中にゆっくりと沈み込んでいくような、えもいわれぬ恐さや不気味さを感じる。
たまご猫、春の滅び(雛人形のライトモチーフ)、朱の檻(座敷牢への取材)、骨董屋(骨の笛)、が気に入った。
解説の東雅夫も書いている通り、幽霊小説。
幽霊、異世界、幻想によって現実の世界が一変する、小さい -
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最後の二行のためにある長編小説。
最後の二行だけで、ミステリーが切ない愛の物語になる。
皆川先生天才か。
人物の多さに覚えるのが大変でしたが、「それより読み進めたい」と思わせる謎に次ぐ謎。
しょっぱなは「ラピュタ」を思わせるファンタジー性に満ち溢れ、けれど陰惨な事件、衝撃の事実になだれ込む怒涛の展開。
奇妙な楽器を巡る事件、ナイジェルの過去が絡み合う……
構成も無駄がなく(大変入り組んではいるが)、これだけの人数、伏線を一人一人に役割を持たせ、ちゃんと収めているところが本当にスゴイ。
傑作だと思う。「開かせていただき光栄です」よりずっと読み応えがあった。
「開かせて~」から出ている登場 -
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何とも冷静であり、シニカルな小説だと思った。
そして最後まで、「神」と「奇跡」の正体についての謎が明かされていない。
結局、発端となる事件の真相については、それが人為的に仕組まれたことなのか、それとも本当に神による奇跡なのか、断定的には書かれていない(と私は読んだ)。
その正体が最後まで巧妙に隠されていて、まるでミステリー小説のようにスリリングですらある。
見ないで信じる者は幸いである。
それならば、見た上で、それでも信じ続ける者はどうだろう? 哀れだろうか? 不幸だろうか?
神はいるのか?
奇跡は誰が起こしたのか?
分からないけれど、少なくとも歴史を作り出したのは人間だ。