皆川博子のレビュー一覧
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再読でも、ここに描かれる甘やかで残酷な世界にうっとりします。
どこから狂っていたのだろう、でもきっと最初から狂っていたのだと思います。
「心中薄雪桜」と「夕紅葉」が好きですが、「妖恋」の一文「おまえ、どうして、そう、化け物と人をわけるのだろう。どっちもたいして変わりはありゃあしないのだよ」にははっとします。
「夕紅葉」の、紅葉ケ原はどこ、に、ここじゃないか、とこころの中から声がするのもぞっとしました。そうか、あの時囚われたのだ、と。
絶望的な世界なら、彼方側に行ってしまった方が楽なのか…狂気を抱えて生きるのか。。
カバーの折り返しにも載っている、近藤史恵さんの解説もとても好きです。 -
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とても面白かったです。
戦争末期の女学校で、ある少女の死をきっかけに、密かに書かれていた「倒立する塔の殺人」という物語の謎解きが始まる…という要約も難しいお話です。
今回も戦争の残酷さとそれでも損なわれない美に惹き付けられました。
YAの作品なのですが、決して子どもっぽくないどころか、登場する絵画・音楽・小説についても知りたくなる知識欲にかられる作品でした。
「どういう小説が好きか、登場人物の誰に惹かれるか、それを明らかにするのは、自分自身の本質を曝すことでもある」という一文に、それではわたしはここでは自分自身の本質を曝してるのか…と思いました。確かに。
空想あるいは物語という水を養いにしなければ枯れ果ててしまう、しかもその水には毒が溶けていなくてはならない…「毒が、わたしたちの養分なのだ」というのもわたしの本質です。
「倒立する塔の殺人」で告発されたのは誰か…カロライナ・ジャスミンという花が気になりました。
Sまではいかなくとも、親密な女学生たちの様子も良かったです。皆川さんの作品の登場人物たちには逞しさも感じます。
三浦しをんさんの解説も良かったです。色々書いても、皆川さんの物語には結局「すごい」の一言を繰り返すのみです。 -
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『開かせていただき光栄です』から5年後の物語。
ダニエル先生の解剖室は閉鎖し、エドとナイジェルが去った後、残された弟子たちは、盲目の判事ジョン・フィールディング氏の元で『ヒュー・アンド・クライ』という情報新聞の編集を任されていた。22歳になったネイサン・カレンや、アン・シャーリー・モアとの交流の中、それぞれが互いに負った心の傷をゆっくりと癒しながら生活していた。
そんな中に突然舞い込んだのは
「死体」と「謎」
・落下する天使を見た踏み車漕ぎの男。
・棺に入れられたナイジェル・ハートの遺体。
・胸に書かれた〈ベツレヘムの子よ、よみがえれ!〉と
〈アルモニカ・ディアボリカ〉の文字。
・消えた恋人を探す女性と、洞窟の演奏会
・悪魔の楽器と言われた〈アルモニカ・ディアボリカ〉とは?
ナイジェル・ハートの死因を突き止めるべくして、サー・ジョン率いるアル、クラレンス、ベンの3人、アンやゴードン、ネイサンも加わって謎の究明に奔走する。
いくつもの謎を1つずつ紐解き、証言を繋ぎ合わせて辿っていくうちに色々な謎が、すべて大きな真相へと繋がっていた…!
読みながら、作中の人物の相関図や謎について、サー・ジョンが語った事件の考察や、その他色々な言葉や地名をメモしていたらA4コピー用紙4枚分にも及ぶ量になって自分でもびっくり…。もうすぐ1年が終わる年の瀬に、こんなにも濃密な作品を読み終えることができて良かった…。
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事件を追う一方、各章の間に挟められるナイジェルが綴った、エドへの手記。ナイジェルが生まれ育った環境、そこで出会った人々、凄惨な事件、生まれた感情、過去を振り返ることで見えてくる“本当の”ナイジェルの素顔。後半は、エドに対して、懸命に問いかけるようにして書かれていく。
ラストの2行は、本作を通して何よりも彼が伝えたかった言葉。その言葉の重みや、感情、愛しさなどを含ませるための458ページだった。
死者として生きる。そう決心して解剖室を去り、次第にすれ違い、別れてしまった2人。だけれども2人とも懸命に生きて、過去を振り返りながら自分を変え、再び歩み寄ろうとしていた。
再会するための儀式、自分は“ここにいる”と伝えるためのメッセージが、永遠の別れになってしまったのが何とも悲しい。 -
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単行本版、文庫版を統合した完全版。「華麗なる狂気」という言葉がこれほど似合う短編集はなかなかありません。背徳的でありながら、どうしようもなくうっとりさせられてしまう作品ばかりです。なかなかにえげつない物語が多くって、「美しい」という表現はなんとなくそぐわない気もするのだけれど。受ける印象はやはり美しいんだなあ。
お気に入りは「遠い炎」。一番素朴な印象を受けたのだけれど、結末がなんとも恐ろしくって。読むほうも震えが止まらなくなりそうです。
「獣舎のスキャット」も凄いなあ。もうあまりに邪悪でどうにもこうにも、酷いとしか言いようがありません。なんて凄いものを書かれたんだ皆川さん! これを好きとは言い難いけれど、一番インパクトのあった作品かも。 -
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四肢を失いながらも舞台に立ち続けたという、三代目澤村田之助。
幕末から明治にかけて生きたその俳優の存在を、不勉強ながら初めて知った。
実在の人物でありながら、その生き様があまりにドラマティック過ぎて、ともすれば描写が陳腐になりがちな題材だと思うが、皆川博子氏の筆さばきにそのような心配は無用で、本当に田之助や三すじ、権之助たちが自分の身近にいるかのように、この上なくリアルに感じられる。
幼少時より妖しさを以て放たれる艶やかな美貌、傑出した芸を持ちながらもどこか一部が欠落し傲岸不遜な人格、病を患い周囲の空気が徐々に変貌していくにつれて崩れ始める心身の均衡…。
それを傍で冷徹とも言える眼差しで見つめ、支え続けた三すじの存在。
さらには、他の高名な大立者たちや大部屋俳優らが息づく、芝居小屋の糜爛した熱気。
すべてが生き生きと、確かな実在感を持って迫りくる。
それと同時に、すべてが幻、虚無なのではないか、という相反する感覚を強迫観念のように捻じ込んでくるところもまた皆川節であり、人という生き物の業を上手く描き切っていると思う。
時代が下った場面をプロローグとエピローグに配し、本筋を挟み込む入れ子構造は言うなればありがちな構成ではあるが、それがここまで効果を発揮することは少ないのではないだろうか。
終章に入り、結びに向けて急速に高まる緊張感は尋常ではない。
これぞ小説家の技術の粋というものか。 -
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ネタバレこの作品大好き!文庫を発見したので購入再読♪
前よりずっとゆっくりと噛み締めて読めて、まだまだずーっとこの作品に浸っていたい気持ちです。今度は手元にあるからいつでも読める!
世紀末ウィーンと20年代のハリウッドと魔都上海。舞台も全体に映画の雰囲気まんてんの作品。私は映画は詳しくありませんが、映画がお好きな方はもっと違った楽しみ方も出来る作品なのでしょうね^_^
↓ここから先はちょっとネタバレご注意↓
みんな好きなシーンばかりなんだけと、頭にすごく残ったところ…
パウルとアデーラの出会いからの話とか、大好き♡ え?なにこれ映画?そのまんまだよ〜みたいに思いながら読んでました。
あとは…ツヴェンゲルが名前を言う瞬間にまたドッキリしてしまいました(・・;)2回目なのに。
あ、もう一つ外せない大好きな場面、ユリアンとツヴェンゲルの再会。感動で心が震えます…ツヴェンゲルがピアノ弾いてます。メランコリックな小品ばかり弾くとかあるけど、何を弾いてたのかな。やっぱりショパンかなぁ。
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初めて読む皆川博子で、本書は8編からなる短編集。
大半の作品は戦中・戦後が時代背景になっている。
価値観が180度変わってしまった、いや180度変えなければならなかった時代に、上手く溶け込むことが出来なかった、あるいは迎合することが出来なかった人々の話が多い。
著者の作品に対して、幻視、夢幻といった単語が散見できるが、確かにそう呼ぶ以外にない作品がある反面、現実そのものを描き上げたと思しき作品もある。
ここに登場する、少年や少女、男や女たちは、きっとあの時代に実際に現実として存在していたのだろう、と思わせてくれるのだ。
どの作品も壮絶であり、凄みがあり、妖しくも哀しい。
どの作品も強く胸を締め付けられる。 -
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再読。まさに万華鏡。
あらゆる要素がはらはらはらはらと振りまかれ、読者はくるくるくるくる回る。
物語の構成が素晴らしいの一言に尽きる。
突然託された一冊の本。中には告白と虚構入り混じる「物語」が描き連ねてある。
それを見つけた少女たちが、順番に書き継いでいく……
ミステリーという体裁を取らずとも、十分魅力的な話だ。
作者の筆は、さすがの流麗さで、戦時中という舞台すらもどこか甘やかなものに変えてしまう。
少女たちは、どこまでも凛と可憐で、残酷だ。
けれどここに、上級生の少女の死や謎の死体、「本」というミステリーが絡む。読者は幻惑される。
そしてミッションスクールでの過去がじわりじわりと開示されていく。
読者は、この「本」を託された少女たちと同じく、息を詰めて読み進めるしかない。
完全に「皆川万華鏡」の中に入り込んでしまう。
「倒立」の業の深さと狂気!
謎がほどけた時の目が覚めるような感動。
すべてが乱反射した物語。素晴らしい。
時代の閉塞感と生きるためにギリギリの情勢を描きながら、ふわふわと、意地悪く、けれど逞しく生きる少女たち。
異国の男が持ち込んだ(考えてみれば、少女たちが読んでいるドストエフスキー作品の数々すらも「異国の男」という登場人物なのだ。小道具ではなく)虚無。
虚無と狂気と少女はなんと馴染むことか……
それでも、ベー様こと阿部欣子の生活感と頼もしさは嬉しくなる。
少女たちすべてに幸あれ。 -
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澤村田之助、という名を、寡聞にしてこの作品ではじめて知った。歌舞伎も、日本文化のひとつとしての興味こそあれ、見に行ったことさえまだない。当然、世界として体験することもはじめてで、慣れない雰囲気にしばらくは戸惑った。
しかし、物語を通して垣間見せてもらった世界には、見るものを引き摺り込む凄みがあり、また、巨大なエネルギーが渦を巻いていた。数々の御題目への自主的恭順を経て「きれい」になってしまった現代では感じにくくなっているものだと思う。ナマの感情、熱、冷徹、喧騒、におい……皆川作品ではそうした「生きている」人間が、完成された物語の奥でたしかに息づいている。右へ倣えに変化していくことのできる「社会慣れ」したひとびとへの戸惑いや抵抗の気持ちを抱きながら。……というのは安直すぎる感想だろうか? -
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『開かせていただき光栄です』から5年経過後の続編。
あの事件後解剖教室は解散、エド、ナイジェルは行方不明のまま。
みんなの状況も少しずつ変わっている。
何とも切ない展開だった…
事件は一応の決着を見たけれど、失ったものは大きいし取り戻すことも出来ない。
願わくはダニエル先生の下、無事に戻ったエドとクラレンス含め、もう一度和気藹々と解剖にいそしむ姿が見られたらと思うけれど(何とかベイカーさんの幸せになった姿も)、そんな続編を望むのは贅沢なんでしょうねぇ…
アンを苦手にしていたネイサンが、話が進むにつれて何気に懐いて来てるのがちょっとホッとしたところ。