あらすじ
爛熟と頽廃の世紀末ウィーン。ある秘密のため引き離されて育てられた、オーストリア貴族の血を引く双子――ゲオルクとユリアン。ゲオルクは名家の跡取りとして陸軍学校へ行くが、決闘騒ぎを起こし放逐されたあげく、新大陸に渡って映画制作に携わる。出生自体を否定された片割れのユリアンは、ボヘミアにある廃城〈芸術家の家〉で、謎めいた少年ツヴェンゲルと共に高度な教育を受けて育つ。双子はそれぞれ全く異なる道を歩むかに見えたが……現代文学の最高峰を極めた名手が魔術的筆致で描く傑作ミステリ。
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Posted by ブクログ
過去のメモから。
寝食を忘れて、というけれど、こういう作品には滅多にお目にかからない。この本を忘れないために残しておかなくては。「蝶」を読む前に。
文章は耽美的、幻想的なのに読みやすく、舞台になった都市の描写も、物語にしっくり馴染んでいた。
題名のように、双頭は双子の意味で、脇腹で癒着した子供が4歳の時、手術で分離されて、お互いに数奇な運命を辿る。
オーストリアの貴族の家に生まれた子供は二人になり、ひとりは家の跡を継ぎ、一人は存在を消され「芸術家の家」と呼ばれる施設に入れられる。
そこは精神に異常がある人たちを収容した施設だった。
あとを継いだゲオルクは順調に教育を受け陸軍学校にすすむ。そこで決闘騒ぎを起こし、家からは廃嫡され、アメリカにわたる。
もう一人ユリアンは施設で高度な教育を受けて育つ。そこには一つ年下のツヴェンゲルという少年がいた。
ゲオルクはアメリカで死亡したとされ、折から勃発した戦争に、ユリアンはゲオルクになり、ツヴェンゲルとともに志願して戦場に出て行く。
そこで初めて非在であった身分が公に認められ、国籍を持てることになる。
だが、ゲオルクはアメリカで映画監督になっていた。
二人の運命が交差する様子は夢のようで、胎内の記憶が現れること、自動書記の形で覚えのない出来事が記録されること。まだ会ってもいない頃から不思議な現象で繋がっている。
ゲオルクは映画を作るために上海に来ていた。
ユリアンは映画館のアルバイトでピアノを弾いていた。そこで画面にゲオルクの名前を見つける。
教育係で父親のように親しんでいたヴァルターが殺された、ゲオルクの影を見たと思う、かれの仕業ではないか、問い詰めるために彼もアメリカへそして上海に渡る。
いつ二人は出会うのか、読むのが止められなかった。
ツヴェンゲルもアメリカにわたり、速記士になってゲオルクのもとで助監督をしていた。
こうしてそれぞれの行く先は奇妙な偶然が重なり、時に意図的で絡まった糸が次第にほぐれてくる。
ゲオルクの生家(養家)は戦後の民主化で没落していたが、教育係をしたブルーノもまたユリアンのいた収容所で死んだ。
これらの真相がミステリの部分で、最後には悲劇的な形で明らかになる。
ゲオルクとユリアンの交互の語りという形で時間が進み、それにツヴェンゲルが絡む。
上海の、眼を覆うばかりの汚泥と糞尿、貧民屈、鴉片の臭いの立ち込めた風景を生生しく描写した所もある。
無声映画時代のハリウッドの映画事情、当時の俳優たち、まさにトーキーにうつる頃の映画界も興味深い。
二人の見る悪夢のような共通の記憶も、距離のある場所でそれぞれに現れる幻影も、それに悩まされ、過去の姿を見ることが悲劇的で哀しい。
忘我の中で白紙の書き連ねられる文字、現れる過去の出来事など。不思議な繋がりを重厚な物語にした、実に読み応えのある作品だった。
ごてごてと重なり合って
悪い意味ではなく ごてごてと何層にも重なり合ったエピソードが 混ざり合うことはなく進んでゆく話。並の作家が書いたら単なるもつれた話にしか過ぎないところを、魔術的な筆力でちゃんとした作品に仕上げている。
作者は90歳を越える現役最長老の小説家であるが毎年のように新作を発表されている。作者ご本人が魔女的な力を持っているのかもしれない。
Posted by ブクログ
圧倒的な、何が本当で何が嘘かもわからないまでに該博な知識と、人間としての魅力に富んだ登場人物たち。謎と、読み進めずにはいられない引力のようなものがそこへ塗り込められたように加わり、次から次へとページを捲らせる。気付かぬうちに、幻想と現実が絡み合う中へ誘われている。まだ上巻しか読み終えていないが、下巻が楽しみでもあり不安でもある。だが、きっと手に取ってページを、止まることなく捲り続けてしまうのだろう。また、文の端々に見られる批判的……批判的? な精神に、皆川博子氏は静かで恐ろしい作家だと、強く思った。
Posted by ブクログ
書く作品書く作品すべてが代表作といってもいい奇蹟の作家。
作者の入れ込む結合双生児というモチーフを題材に落とし込みながら、往時の風俗、幻視の街、執着にも近い感情を、小説に織物していく。
陶酔するしかない。
ゲオルク―「きみ」(エーゴン・リーヴェン)
ユリアン―ツヴェンゲル
ぼくはきみを慰めたいのだ
Posted by ブクログ
双子で二人の主人公の語る時間・観点が異なり
振り返りと追いかけが平行して動く物語の中
私が今年これまで読んでいた著者の作品に比べると
美しくも濁ったような粘り気のある妖しさ、
スピード感には多少欠ける気がするが、
「あなた誰?」の章が、どうかかわるのか。
また、あの人がこの人というのが明かされ、
驚愕から、ではそれがどう結びつくのか
最後まで読みたくなる。最終的な評価は下巻で。
Posted by ブクログ
私的に、2015年に読んだ本ではナンバーワン。
1920年代の物語。ウィーンに生まれた双生児、ゲオルクは貴族の跡取りとして育てられ、ユリアンは世間から隔絶された館で育てられる。
これは、なんというジャンルに分類すればよいのでしょうね。幻想的であり、猥雑であり、醜くも美しくもある執着と呼べる感情が織り込まれ、耽美的であり、栄光と挫折が縒り合された、なんとも複雑な味わいの物語。
運命、という言葉を強く印象付けられる一冊。読み始めると、この世界に引き込まれ、濃厚な空気に酔わされる。
Posted by ブクログ
読み終わるのにものすごく時間がかかってしまった……登場人物もいまいち掴みどころがなく、これといった出来事があるわけではなく、ただ淡々と一人称で描かれるストーリーは緩慢に感じられてほとんど興味を持って読めず…….ようやく上巻最後で出来事が起きたのでここからの展開が早いことを祈ってます
Posted by ブクログ
再読ですが面白かったです。
というかほぼ新しい気持ちで読みました。。
結合双生児だったゲオルクとユリアン、分離したからはゲオルクは一旦表舞台へ、ユリアンは無き者としてこっそり成長しました。
ゲオルク、ユリアン、そしてパウルの3人の章がそれぞれ進んでいくのですが、まだどのように絡み合ってくるのかわからずわくわくします。
ゲオルクは一時期映画監督の仕事をするのですが、その章で書かれた、
〈大衆の息抜きに役立つであろうものはまた、彼らの感覚を麻痺させ、思想的に白痴化させる。民主的であると謳われる文化のほとんどは、いい意味で大衆的なのではなく、悪い意味で通俗的である。〉…私も、同意しました。
ユリアンからの?精神感応でゲオルクが描く『双頭のバビロン』という物語…ゲオルクが作った映画の数々もとても面白そうで気になります。
下巻も楽しみです。