皆川博子のレビュー一覧
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ネタバレずいぶん前に読んだものの再読。
前半部分しか憶えていなかった。
それと、「物語を必要とするのは、不幸な人間である」という、ものすごく印象に残っている言葉を知ったのは、どうやらこの本だったらしい、ということがわかった。
ミルカとユーリクは、最後に薔薇の僧院で再会するように記憶していたんだけど、ぜんぜん違った!それこそ私の脳が勝手につくった物語だ。
前半をよく憶えているのは、私の好きな「物語」だからだろう。薔薇の咲き乱れる僧院という箱庭、アンネの日記のようなミルカの生活、いい人そうなホフマンさん。
最終的に、ミルカとユーリクは「現実」へ戻っていく。
ヨリンゲルたちは僧院に残るけれども、それは「物語」ではなく、続いていく「日常」だ。
ナタニエルだけが、「物語」を追い続ける。
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ネタバレなんとも言い表せない複雑な気持ちで読み終えた。理由の分からない妖しい夢を見たみたいな、ひとときの幻想に足を踏み入れたような短編集だった。
聞き慣れない言い回しも出てくるし、生者と死者の境目が曖昧で、すぐあちら側の世界に連れて行かれそうになる。それなのにとても読みやすい点に驚く。
幾人かの登場人物に業の深さを感じて、重さを静かに受け止めていく読書だった。八作品、読み進めるほどにハマっていく深みがあり、どれが良いというのが選べない。それぞれ主人公の見えている景色が違って、それぞれの地獄がある。
いくつか同じ中洲を舞台にした話があるのが良かった。いろんなモノやヒトが集まってくるその土地を覗いてみたい気がした。 -
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十二世紀のバルト海の島に住んでいた姉妹が、決闘裁判を機に思いもよらない広い世界へと繰り出す。冒険譚であり姉妹の絆を描いたシスターフッド的な物語でもあり、酷薄な身分制度や欲得や打算まみれの人間模様を浮き彫りにした歴史小説の側面も持った小説です。
それだけ中身が濃いながらも、合間に戯曲形式を挟み、きわめてさらりと短く的確に状況を描いていく文体で意外なほどするりと読み進められます。過去の長編大作での歴史と個人の運命をより合わせた重厚さとはまた違いますが、十二世紀という馴染みの薄い時代を的確に感じさせる細やかな小物や社会風俗の描写はさすがの一言でした。
ただ主な視点となる二人の少女と一人の奴隷の物語としては、もっと踏み込んだディテールがあれば、と思わなくもありません。終盤の邂逅は美しい場面でしたが、急ぎ足に見え、少々もったいなく感じたのも事実です。
それでも、齢90歳を超える作者が綴り上げた物語として、これほど瑞々しく自然の風景を捉え、抗えない差別や批難のもとで生き抜こうとする若者たちを描いていることは凄いなと改めて感じ入るばかりです。次作も期待します。 -
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初めての作家さん、タイトル借り。口コミ評価が高いのも納得の面白さ…!
18世紀のロンドンが舞台。行政や裁判所は買収が当たり前で治安は悪く、外科医の地位が低い・解剖学が厭われていた時代。私的解剖教室で外科医とその弟子たちがお墓から死体を掘り起こして解剖に励んでいたが、警察がきてとっさに秘密のスペースに隠す。隠した死体を取り出そうとしたら、なぜかそこには見知らぬ死体が2体。引き返してきた警察に合計3体の死体があるとばれたが、なぜだか誰もわからない…。というのがあらすじ。
前半は説明が多くあんまり気分が乗らないけど、中盤からはぐいぐい引き込まれた。毎日家に帰って続きを読むのが楽しみな本だった。何となく展開がわかってきたかと思いきや、どんでん返しで着地。頭がよすぎる…(でもよく考えれば伏線はある)
ミステリとして面白いだけじゃなく、ラストがめちゃくちゃ切なくて、人生とは…と思わざるを得ない。キャラの人格が深く描かれているのは、皆言っているとおり作者が80歳で書いたものだからかも。
あと、この物語の主人公が誰かを、私は読み終わって「三部作」だと知ったときに気づいた。そんなことある?って自分でも思うけど、何も知らずに読んだらそうなるはず。主人公を理解した上でお話を反芻したときに「人生とは…」と思ったんだった。大事なものは何か、憎むべきものは何か、そのために何ができるか。心根が戦闘民族だからか共感したな…。
次も厚そうだから、ちょっと休憩したら読みたい。 -
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うわぁぁぁあ、やばい…600ページ超、ずっとゾクゾクしてた…最後の最後までどうなるのどうなるの?という感じで…
物語の構成自体も、ドイツ語原作を訳した、という形で、その構成自体とあとがきにかえてで明かされる真相がもうこわすぎる…
科学者が彼らの興味の赴くままに人の体を使って実験できる世界って怖いな。なに、2人の人間をくっつけるって…早熟させた女の子に子供産ませるって…ああこわい。
皆川ワールドあっぱれ、すごく怖かったです。
p.253 私のしたが、フランツの唇を割った。すぼめてら吸った。そのとき、わたしの舌が、フランツの唇を割った。舌の先が軽く触れ合った。口の中に、甘やかな感覚が広がった。わたしの舌は、もういちど、ゆっくり、フランツの口の中をさまよった。フランツは目を閉じ、首に回した両腕に力をこめ、わたしを引き寄せた。わたしは舌の罠から少年を解放し、頬と瞼にキスしたが、口の中に残るこの上なく甘い柔らかい感覚が、わたしの全身を浸し、酔いに誘った。
p.409 言葉を探しているギュンターに、ミヒャエルはさらに言った。「楽しいこと、面白い事は、書物で追体験する方が、現実に勝ります。苦痛だって、想像の中から、楽しみにすり替えることができる。ほんとの苦痛は体験したくない。そうでしょう?何しても、僕は、外は要らないんです」ミヒャエルの言う外に生きてきたギュンターとしては、相手の言葉を認める事は、自分の声の否定に他ならない。
「それでは、全く、生きているとは言えない」「だから、死人だって、認めています。でも、生者が死者に勝るとは言い切れないでしょう」「君は生きているんだから」「僕だって、不安や恐怖が全くないわけではありません。でも、どうしても避けられないことなら、積極的に受け入れてしまった方が楽です。それが自分にとっていいことなんだと認めたほうが」 -
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ネタバレ視点が変わるごとに、ああ、そうなのかと。世界と世界が繋がった瞬間にああ!あなたはそうなのか、と思った。はじめのコンラートの話がありえないほどに非現実的だったのも腑に落ちました。
終わりはヨリンゲルの語りで締め括られるのだけど、敢えてミルカを止めなかったのは、どこかでその惨状を乗り越えられるだろうと思ってるのだろうか。ミルカとユーリクを再会させてあげたかったな。
そして新たな創造世界を求めて狂気の支配者は南米へ。誰かに悪夢の種を植える所業は続けられるわけだね。
身体は大人で心は子供のナタニエル、身体は子供で心は大人のユーリク。対照的な二人にそれぞれの形で愛されたミルカ。
どっぷりと皆川博子さんの世界を堪能しました! -
Posted by ブクログ
ネタバレ『開かせていただき光栄です』の続編。またあのみんなに会えるという期待で読み始めた。その中身はあまりにも哀しくてつらい、ナイジェルの半生を辿る物語だった。
知っているようで全然知らない。ベドラム出身であることが判明した瞬間は鳥肌が立った。その内外で起きた非人道的な仕打ちに言葉を失う。目を背けたくなる描写の一つ一つに息を止めて嘆く。
美しいと感じたのはグラス・ハープ。この音色の表現が、私の記憶の中の音と符合して、耳に聞こえてくるようでうっとりとした。
腐敗を少し正し、殺人の罪を自ら負い、カップルは再出発、ベドラムからの解放、判事も元の通り仕事をする。ハッピーエンドだけれど失ったものは大きい。純粋に弟子たちのやり取りを楽しむ日々がもう訪れないことは確かだ。
ナイジェルは死者の世界で満足を得ただろうか。