皆川博子のレビュー一覧
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ネタバレ著者の皆川博子氏曰く、自発的に楽しんで書いた小説は「花闇」とこの作品だけ、という「妖櫻記」。
歪んだ想いを御しきれず持て余す阿麻丸、幼い花の香りに容易く惑い堕ちてゆく高僧、まさしくサイコパスと称すべき純真無垢な狂気に満ちた清玄、人間の原罪と業を凝縮し体現したかのような異形かつ異能の存在である百合王…、迸る想いを負託されたかの如く、確かに登場人物たちは作者の創意の手が届く範囲を飛び出して自由自在に動き回り、作中世界に何とも名状し難い粘性を与えている。
それがまた、戦国時代の幕開けたる応仁の乱に向かって混沌が深まりゆく当時の世相と良く合う。
水も漏らさぬ緻密な構成で以て組み上げられた作品では決してない。
しかし、氏の数々の作品を彩る要素となっているすべてのエンターテインメント性の原型がオンパレードで詰め込まれたかのような、まさしくフィクションの極致ともいうべき形に仕上げられており、あまりに書くのが楽しかったのか? ところどころ少し筆が暴れ過ぎてしまっている下りがあるようにも感じたが、時空の設定こそ違えど、後の「死の泉」、「薔薇密室」、「聖餐城」などといった傑作群の系譜に連なっていくであろう道筋が目に見えるようだ。
謎の桜姫蘇生事件以降の終盤は、なんだかふわふわして掴みどころのないロードムーヴィーを観ているような不思議な気分にもなった。
「死所を得たとき、初めて、生きたと言える。」
「『いのちが、形をとれば、現の世。形消えれば、無辺際の〈時〉に還る。そう、わたしは、知った』」 -
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ネタバレ著者の皆川博子氏曰く、自発的に楽しんで書いた小説は「花闇」とこの作品だけ、という「妖櫻記」。
歪んだ想いを御しきれず持て余す阿麻丸、幼い花の香りに容易く惑い堕ちてゆく高僧、まさしくサイコパスと称すべき純真無垢な狂気に満ちた清玄、人間の原罪と業を凝縮し体現したかのような異形かつ異能の存在である百合王…、迸る想いを負託されたかの如く、確かに登場人物たちは作者の創意の手が届く範囲を飛び出して自由自在に動き回り、作中世界に何とも名状し難い粘性を与えている。
それがまた、戦国時代の幕開けたる応仁の乱に向かって混沌が深まりゆく当時の世相と良く合う。
水も漏らさぬ緻密な構成で以て組み上げられた作品では決してない。
しかし、氏の数々の作品を彩る要素となっているすべてのエンターテインメント性の原型がオンパレードで詰め込まれたかのような、まさしくフィクションの極致ともいうべき形に仕上げられており、あまりに書くのが楽しかったのか? ところどころ少し筆が暴れ過ぎてしまっている下りがあるようにも感じたが、時空の設定こそ違えど、後の「死の泉」、「薔薇密室」、「聖餐城」などといった傑作群の系譜に連なっていくであろう道筋が目に見えるようだ。
謎の桜姫蘇生事件以降の終盤は、なんだかふわふわして掴みどころのないロードムーヴィーを観ているような不思議な気分にもなった。
「死所を得たとき、初めて、生きたと言える。」
「『いのちが、形をとれば、現の世。形消えれば、無辺際の〈時〉に還る。そう、わたしは、知った』」 -
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ネタバレ『開かせていただき光栄です』続編。
外科医で解剖学の先駆者、ダニエル・バートンの解剖学教室を舞台に起きた連続殺人事件から5年。
愛弟子のエドとナイジェルが出奔し、解剖学教室は閉鎖中。元弟子たちもそれぞれの生活を送りながらも、変わらず先生を敬愛している。
ある日、盲目の治安判事として知られるジョン・フィールディング卿の元に、胸に暗号を刻まれた“天使の屍体”の情報が舞い込む。
調査のため、そしてバートン先生に屍体を提供すべく現地に向かった元弟子たちが発見したのは、消息不明になっていたナイジェルの屍体だった…
前作のラストのほろ苦さを思い出しながら読み始めたら、登場人物紹介リストの筆頭は「ジョン・フィールディング」となっていて、軽くびっくり。
「バートン先生と愛すべき弟子たち」のシリーズとばかり思っていたんだけど、実は「盲目の判事ジョンと男装の令嬢アン」シリーズだったのかぁ。
またまた屍体が増えたり消えたり、暗号に導かれてナイジェルの過去や、幻の楽器にまつわる悲劇、過去のスキャンダル…と、複雑に物語は交錯。
登場人物が多すぎる…!
そして、前作のようにクスッと笑える場面がほとんどなく、腐敗しきった権力者たちがさらにおぞましく、何人もの悲劇がただ重く、やるせない。
もうさすがに続編はない…んでしょうね。
バートン先生、さびしいねぇ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「U」と書いて「ウー」と読ませるが、萩尾望都「ポーの一族」からの遠いこだまとも見做せる。
1915年「U-Boot」(ウーボート)の章は、三人称。視点が寄り添う人物は、ティルピッツと、ミヒャエル。
1613年「Untergrund」(ウンターグルンド)の章は、初めは三人称と見せておいて、すぐに手記という形式……一人称が潜んでいると判明する。
また、手記は実は二人の合作であること、二つの時代の関係、書き手の熱意の不均衡、が比較的序盤で仄見えてくるが、この不均衡が中盤終盤でさらに揺らぐ。
この「語りの形式」そのものがドラマチックだから、やはり皆川博子は信用できる。
ある瞬間には「同じ獣の半身になった」と思える相手が、いったん離れるや全然別の生を……という諦念と切望と。
歴史の暴流の中で、動かず書く者と、動く者と。
現在時点と、過去と、大過去と。
歴史は歴史書の中ではちっともドラマチックではないが、その記述にドラマを幻視する作家がいる。
そしてこの作家が偶然、書き残すという人の欲望に自覚的で、現在時点、誰がどういう想いで書いているのかを曖昧にしたくない、という人なのだ。
いつどこでだれが何のために書いているのか、を明らかにしている手記は、信用できる。
信頼できない語り手であるにしても、作家のまなざしとして、信用できる。
300年をつなぐのに、岩塩鉱を置く。
「塩漬けの首級」という印象的な画や、「塩の内側に潜る」(地底、海底)→搾取された生と死が充満する棺、という、時代をゆうに超えた舞台を用意するのだから、信用できる。
というか、遠くへ、遠くへと連れて行ってくれる作者のその手腕に、ずっとこの身を任せていたい。
こんな壮大さの中に、抒情や耽美や切なさがばしばし籠められているのだから、美味しくないわけがない。
萩尾望都だけでない、SFにはまた「長命人」と「人」のギャップによる抒情があったはず。
歴史浪漫かつSFとしての皆川博子……次はこの路線で読み返してみたい。
大満足の溜め息。
本書とは全然関係ないが、つい先日「宮崎駿の雑想ノート」でQシップのことを知ったので、いろいろ関連するものだなあ、と。 -
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死の泉という作品を読んだあとに、こちらの作品にあたりました。
第二次世界大戦前後のドイツ、マッドサイエンティスト、政治や社会から隔絶された不気味な空間、登場人物たちそれぞれの運命の糸が絡み合うドラマチックな展開、などなど、死の泉と共通点がいくつもあるものの、ここでは全く異なる世界が繰り広げられ、新たな感動を得られました。こんな充実感に浸れる作品は中々出逢えません。
長年にわたりソ連やドイツはじめ周辺国に翻弄され続けているポーランドのことも詳しく知ることが出来ます。なぜドイツとポーランドを舞台にしたのかは、最後まで読めば理解できるようになっています。勘のよい方は、もしかしたら結末を予想できるやもしれません。
一番素敵なポイントは、主人公のうちの一人(この作品は見方によって主人公が変化します、そこも見所です)である、ミルカという薄幸の少女の内面描写です。
彼女の持つコンプレックス、恋への憧れ、健気さ、打算、家族への愛と本心、、様々な場面でミルカ自身が語ります。女性の方なら特に、ミルカの、ユーリクに対する自然な愛情と、一瞥しかしていない端正なヨアヒムに対する盲目的な恋慕が共存する複雑な乙女心に、グッと来るかもしれません。
大抵の人が直視したくないような自分の弱さや醜さを、よくもまぁこんな自らえぐり出してくれるな笑、とツッコミも入れたくなるのですが、これだけ描写してくれるからこそ、最初から最後まで彼女のことを自然と応援したくなり、結果どんどん皆川さんワールドにはまりこんでいくことになります。
皆川さんは、極限状態にいる人間のなかの美徳&悪徳をほんとうに違和感なく表現してくれるので、どのキャラクターも厚みがあります。なぜこのキャラクターがここでこんな行動をとるのか、ちゃんと筋が通っています。万が一わからなくても、読み進めれば必ずや理解できるよう仕掛けています。そのため、
[なんだこのキャラ、ウザいな。このキャラは嫌い]
と感じることは基本的にないと思います。
読み進めるほどに、何が真実で何が夢想なのか、今どこの視点にたってる描写なのか、徐々に倒錯していく耽美な混沌に、溺れること間違いなしです。
是非手に取ってみてください。
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Posted by ブクログ
ネタバレ塩によって生かされて、最後は海水の中に沈む。潜水艇がふたりの棺となる。好き。
ヤーノシュがオスマンの皇帝を守り支えたなら、彼は何かをなしとげられたのか。そういう展開にならないのがいいところなんですが…ヤーノシュの自己評価ちょっと低すぎるのでは…
「双頭のバビロン」のふたりほどの絆が感じられなかったのも、ヤーノシュの自己評価のせいか。シュテファンはあんまり深く考えていなさそうな…
シュテファンがどう思っていたのか、途中から記述がなくなるから分からないけれど。
彼らの軌跡が文字として残ったのかは定かではないけれど、ミヒャエルたちの中に何かしらが受け継がれているのだろうなあ。 -
Posted by ブクログ
「実際、毒のない文学、毒のない話が面白かろうはずがない」…解説の服部まゆみさんの言葉に深く頷きます。
毒が満ち満ちていました。好きです。
犯罪を犯すお話が多かったですが、それに至る心情が一筋縄ではいかず…人の心って割り切れないし、こう!と周りが表現できるものでもないけれど、皆川さんの描く人々は、心に溜まっていく澱がよくわかります。
だんだん溜まっていって、もう無理…戻れない、となったところで、妹のお臀を押したり、近所の兄さんを灰皿で殴ったり、鈴蘭入りの水を飲んだりするんだ。。
犯罪を描いても、どこか幻想的で良かったです。「猫の夜」は犬好きにはかなりキツイですが、これが1番残ります。壊れた秩序はこれからどうなるの。。
復刊なので生まれる前とか1桁の年齢だった頃に書かれたお話ばかりでしたが、今でも読めるの嬉しいです。