皆川博子のレビュー一覧

  • 愛と髑髏と

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    最近初期作品の復刊が多くて、いちファンとしてはうれしい限りです。この作品集は、1970年代からの幻想小説が収められたものですが、時代の違いを感じる単語はあろうとも、作品そのものに漂っている世界の描きかたには古さがありません。
    夢と現のあわいを漂わせる、艶めいた毒気漂う筆致で綴られる物語は、「お話」の魅力がけして起承転結だけにとどまらないことを改めて感じさせてくれます。ミステリ要素があろうと、恋愛を絡めた悲喜劇であろうと、作者の手わざにかかればそれは要素のひとつに過ぎない、と思うのです。あくまで、描く人々の愚かさ脆さ美しさ醜さや、世界の残酷さ哀れさ滑稽さ、その感触をつぶさに楽しむのが本質、などと

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    2020年04月25日
  • 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

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    19世期の退廃的な雰囲気に包まれたロンドンが舞台のミステリー。なんとなく続きが気になって、ページをめくる手が止まりませんでした。丁寧に張り巡らされた伏線が、最後に「あっ」と言わせる結末へと導いてくれます。400を超える厚みのある物語だったにも関わらず、長いと思う事なくすらすらと読み終えました!

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    2020年04月12日
  • 双頭のバビロン 下

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    下巻も面白かったです。壮大。
    人の汚いところも美しいところも、余すところなく描かれていました。
    最後までゲオルクとユリアンはちゃんと会うことはなかった。けれど、ユリアンとツヴェンゲルはお互いの間に誰も入り込ませたくなかったのだと思います。
    「私はハリウッドの安直なハッピーエンドには辟易している。けれど、現実の不幸はできるかぎり少ない方がいい。」

    最後のユリアンの章、そしてラスト10行、泣けてしまいます。精神感応は出来たのだろうか。

    「君によき日の続くことを。」

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    2020年04月10日
  • トマト・ゲーム

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    面白かったです。
    いつもより毒が濃かった気がします。
    「蜜の犬」「アイデースの館」が好きです。
    老若男女、闇に呑み込まれていく…いつから狂っているのか。
    皆川さんの幻は甘美なものも感じることも多かったのですが、この作品集ではゾッとするものもありました。
    「遠い炎」と「花冠と氷の剣」のラスト一行、冷水を浴びせられた感じがしました。怖い。
    でもやっぱり皆川さんの世界は辞められません…虜です。

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    2020年02月01日
  • ゆめこ縮緬

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    皆川博子二冊目。前回読んだ『倒立する塔の殺人』よりも幻想色が強くて読みづらかったけど、それに退屈さを感じることは全くなく、重厚感のある短編をそれぞれ深く味わうことができた。

    どのお話も戦前の近代日本を舞台にしたものだから現実味のない感じにはならない。むしろ現実の中に潜む異質がその幻想をより一層濃く仕立て上げている。とある中洲を舞台にした「文月の使者」から始まり、その後の数話は中州から離れるが、最後の二篇で戻ってくる。そして最後に収録されている表題の「ゆめこ縮緬」ではこの短編集がまさしく一つになるという仕掛けがあって思わずぞくりとしてしまう。
    物語自体は純粋な美しさはない。登場人物たちは己の欲

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    2020年01月28日
  • 恋紅

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    純粋でいいですね。
    難しい言い回しが多いのですが、そこから昔をとても感じます。きつの桜があとあと心に響きます。

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    2020年01月23日
  • 薔薇忌

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    面白かったです。
    きらびやかですがその分影も多い、舞台芸能の世界。暗く、愛憎入り交じる濃密なお話たちでした。
    特に「桔梗合戦」「化鳥」が好きでした。
    「化鳥」はバンギャ心が疼きます…この気持ち、わかる。。嘗て心酔していた人の凋落を目の当たりにしたら……。
    裏方さんに光が当たっている作品が多いのも面白かったです。こんなお仕事があったのだな。
    舞台と幻想。堪能しました。

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    2019年12月03日
  • 少女外道

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    面白かったです。
    日常を超えた世界に憧れ、まわりの決める結婚をしないだけで「少女」たちが「外道」とされる…黒田夏子さんの解説で、惹かれる書名の意味がやっと解りました。
    それならわたしも「外道」なので、久緒や苗子や倫に近しいものを勝手に感じてしまいます。でもこんなに凛と立ててない。。
    「隠り沼の」と「標本箱」がとても好きです。囚われ、壊れたり逝ってしまったり。
    戦争の影響も色濃く漂うお話たちでした。

    「そのあとにつづく躰が生きている私の時間を、私は思った。空無の中で、空無を包み隠す肉体は、しぶとく生きている。」

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    2019年11月13日
  • 倒立する塔の殺人

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    皆川博子さん初読み。一癖も二癖もあるという噂を聞き、ついでにそんな癖の強い作品たちの中でもこの『倒立する塔の殺人』は比較的読みやすいということを聞いて手に取ってみた。確かに、読みづらくはなかったしストーリーの展開も面白かった。
    終戦間際から終戦後にかけて、あるミッションスクールにおいて行われていた小説の回し書きが主題となる物語。物語は女学生の日常と、ノートに残された手記、そして『倒立する塔の殺人』の創作によって構成されていて、そのバランスが整っていて迷わずに読み進められた。そして戦時中やミッションスクールという設定が余計にこの話をミステリアスに仕立てている気がした。戦時中とはいえ、他所と隔離さ

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    2019年08月21日
  • 夜のアポロン

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    「夜のリフレーン」と対を成す単行本未収録短篇集。76年から96年の16作。
    改めて言うが単行本未収録でここまでのクオリティ。全然書き散らしていないのだ。
    「小説の女王」と呼ばれる所以もここで、小説への愛が小説を書かせているのだ。
    一作ごとに語りの形式を工夫し、作者の好みや興味を突き詰めることで熟成される、短編小説の粋、まさにここにあり。
    ある時代のある女性が感じていた感情のフレイバーが、数十年後のおっさんに、ここまでびんびん響くとは。
    少女的な厭世観に浸されたいという願望が、あるんだ。それを皆川博子が、満たしてくれるんだ。
    しかし皆川博子は甘美な少女時代に読者を封じ込めない。「かつて少女だった

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    2019年08月12日
  • アルモニカ・ディアボリカ

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    『開かせていただき光栄です』の続編。
    今回も死体の謎だけど、解剖とかはあんまりなし。
    ファンタジー的な、宗教色あるものかと思ったけどそうでもない。
    サー・ジョンたちとバートンズがわちゃわちゃしてるのは本当に好き。
    伏線は全く見破れず。切ないラストでした。

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    2019年06月19日
  • 夜のアポロン

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    日下三蔵氏の執念が生んだ短編集、とでも言うべきか、版元を超えてタッグが組まれ、「夜のリフレーン」と対を成す一冊。
    いわゆる幻想小説にカテゴライズされる作品が主だった「夜のリフレーン」と異なり、少しヴォリュームがあるミステリーを中心に収められている。
    とは言いつつ幻想的なテイストが横溢するものがあったり、古典芸能の裏側を描いた作品があったりと、中世~近代欧州を舞台とする長編群とはまた趣を異にしながら、実に皆川博子氏らしい物語が並んでいる。
    個人的には、小粋なタッチで遊び心が満載の「ほたる式部秘抄」が秀逸で、強く印象に残った。

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    2019年06月17日
  • 夜のアポロン

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    短編集16編
    忘れられていた原稿がみごとに蘇って読むことができた幸い.どれも素晴らしく皆川ワールドである.特に表題作,兎狩り,死化粧が好きだった.ほたる式部秘抄は軽妙でシャレっ気があって結末が明るくこういうのもいい.

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    2019年06月17日
  • 夜のアポロン

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    主に1980代に書かれた短編を収めた短編集。

    「夜のリフレーン」と対になっているらしい。

    昭和の香り高く、近年の著者の作風とはやや違い濃厚で湿り気が強く、「性」と「死」がモチーフとなっている。

    最後に納められた一編は最近のもので、他の編との対比が面白い。

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    2019年05月18日
  • 夜のアポロン

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    ネタバレ

    初期作品群が中心の未単行本化の短編を集めた第二弾。こちらはより「こういうのも書いておられたんだ」というまっすぐなミステリや官能色強めなものもあり、やはり作者の懐の広さを感じるものばかりでした。
    表題作や「致死量の夢」、「魔笛」あたりが艶めいていて個人的にはとても好きです。幻想混じりというより、人間の業の深さをえぐった話が多いように思います。「死化粧」は謎解きとしての物語の面白さのほかに、飄々とした語り口が良い意味で「らしくなく」、凄く新鮮でした。
    近作の技巧と知識と幻惑さが極まった長編作品はもちろん大好きですが、こういった過去作品があってそれらがあるのだと思うと、大袈裟のようですが確かな「歴史

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    2019年05月09日
  • 少女外道

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    物語の時代背景は、戦前から戦後。軍国主義の風が吹き荒れる風潮の中で、おそらく女性はその地位を不当に貶められたであろう。「少女」ともなればなおさらのこと。虐げられる存在たる少女は、一方で「女」としての独特の厳格な道徳性をも求められる。時代の波の中で、何気ない日常を送りながら、要求される「道」を少しばかり「外」れてしまう少女たちの物語が、本書には七篇収められている。
    少女が日常生活の中で、おのれの心と周囲との小さな齟齬に気づいたとき、彼女の心は道を外れ始める。皆川博子はそんな少女の心情とそれとは無関係に流れてゆく日常生活を静謐に描く。文体のせいか、行間からはほのかな官能性が漂う。道を外れた少女の心

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    2019年05月08日
  • 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

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    死体の謎を解くお話。

    始めの方は屍者の帝国みたいな雰囲気でした。
    皆川さんの本、今まで読んだのは割と難しい言葉が出てくるのが多いイメージだったので、身構えていましたがこれはそんなことなかったです。
    ダニエル先生と5人の助手が和気藹々としていて、とても良いなーと思っていました。
    だからなーなんか最後そうなるのか〜
    からの…という感じでした。
    読み終わってみると、あれ伏線だったんだなというのがいくつも…全く気づきませんでした。

    ここで感想を書こうと探していたら、似たような装丁の本が…続編!?
    そちらも是非読みたいです。

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    2019年01月05日
  • アルモニカ・ディアボリカ

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    前作『開かせていただき光栄です』の続編。
    続編というよりも18世紀のイギリスを舞台にした
    上・下の作品といっても良いぐらい前作と今作の絡みはとても濃厚。
    こちらはホガースの「放蕩者一代記」の一枚
    「べトラム精神病院」で描かれた、
    実際に現存する王立ベスレム病院を軸に描いている。
    悲惨で残酷でもあり、しかしにウィットに富んだ会話も楽しく
    、皆川博子氏の文体にいつも惹き込まれてしまう。
    エドとアル、そして慈愛に満ちあふれている人たちに
    幸あれと願わずにはいられない。
    アルモニカ・アンジェリカ。

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    2018年12月03日
  • 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

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    皆川博子氏2作品目。
    18世紀の画家ホガースの「ジン横丁」そのままの、
    ディケンズの「オリバー・ツイスト」を彷彿とさせる世界が広がっていく。
    素晴らしい。あの時代を目の当たりにしたのではと、
    まるで翻訳本の趣き。
    ミステリーとしても巧く絡めてあり、ワクワクして読んだ。
    死者として生きると決めた2人の少年のその後は、
    今読み始めた『アルモニカ・ディアボリカ』で語られる。
    この美しい文体を操られる皆川博子氏の世界観に魅力される。

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    2018年12月03日
  • トマト・ゲーム

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    壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。(裏表紙)

    トマト・ゲーム
    アルカディアの夏
    獣舎のスキャット
    蜜の犬
    アイデースの館
    遠い炎
    花冠と氷の剣
    漕げよマイケル

    今まで皆川さんの初期の作品は幻想と狂気が薄めだと思っていたのです

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    2018年11月19日