皆川博子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
最近初期作品の復刊が多くて、いちファンとしてはうれしい限りです。この作品集は、1970年代からの幻想小説が収められたものですが、時代の違いを感じる単語はあろうとも、作品そのものに漂っている世界の描きかたには古さがありません。
夢と現のあわいを漂わせる、艶めいた毒気漂う筆致で綴られる物語は、「お話」の魅力がけして起承転結だけにとどまらないことを改めて感じさせてくれます。ミステリ要素があろうと、恋愛を絡めた悲喜劇であろうと、作者の手わざにかかればそれは要素のひとつに過ぎない、と思うのです。あくまで、描く人々の愚かさ脆さ美しさ醜さや、世界の残酷さ哀れさ滑稽さ、その感触をつぶさに楽しむのが本質、などと -
Posted by ブクログ
皆川博子二冊目。前回読んだ『倒立する塔の殺人』よりも幻想色が強くて読みづらかったけど、それに退屈さを感じることは全くなく、重厚感のある短編をそれぞれ深く味わうことができた。
どのお話も戦前の近代日本を舞台にしたものだから現実味のない感じにはならない。むしろ現実の中に潜む異質がその幻想をより一層濃く仕立て上げている。とある中洲を舞台にした「文月の使者」から始まり、その後の数話は中州から離れるが、最後の二篇で戻ってくる。そして最後に収録されている表題の「ゆめこ縮緬」ではこの短編集がまさしく一つになるという仕掛けがあって思わずぞくりとしてしまう。
物語自体は純粋な美しさはない。登場人物たちは己の欲 -
Posted by ブクログ
皆川博子さん初読み。一癖も二癖もあるという噂を聞き、ついでにそんな癖の強い作品たちの中でもこの『倒立する塔の殺人』は比較的読みやすいということを聞いて手に取ってみた。確かに、読みづらくはなかったしストーリーの展開も面白かった。
終戦間際から終戦後にかけて、あるミッションスクールにおいて行われていた小説の回し書きが主題となる物語。物語は女学生の日常と、ノートに残された手記、そして『倒立する塔の殺人』の創作によって構成されていて、そのバランスが整っていて迷わずに読み進められた。そして戦時中やミッションスクールという設定が余計にこの話をミステリアスに仕立てている気がした。戦時中とはいえ、他所と隔離さ -
Posted by ブクログ
「夜のリフレーン」と対を成す単行本未収録短篇集。76年から96年の16作。
改めて言うが単行本未収録でここまでのクオリティ。全然書き散らしていないのだ。
「小説の女王」と呼ばれる所以もここで、小説への愛が小説を書かせているのだ。
一作ごとに語りの形式を工夫し、作者の好みや興味を突き詰めることで熟成される、短編小説の粋、まさにここにあり。
ある時代のある女性が感じていた感情のフレイバーが、数十年後のおっさんに、ここまでびんびん響くとは。
少女的な厭世観に浸されたいという願望が、あるんだ。それを皆川博子が、満たしてくれるんだ。
しかし皆川博子は甘美な少女時代に読者を封じ込めない。「かつて少女だった -
Posted by ブクログ
ネタバレ初期作品群が中心の未単行本化の短編を集めた第二弾。こちらはより「こういうのも書いておられたんだ」というまっすぐなミステリや官能色強めなものもあり、やはり作者の懐の広さを感じるものばかりでした。
表題作や「致死量の夢」、「魔笛」あたりが艶めいていて個人的にはとても好きです。幻想混じりというより、人間の業の深さをえぐった話が多いように思います。「死化粧」は謎解きとしての物語の面白さのほかに、飄々とした語り口が良い意味で「らしくなく」、凄く新鮮でした。
近作の技巧と知識と幻惑さが極まった長編作品はもちろん大好きですが、こういった過去作品があってそれらがあるのだと思うと、大袈裟のようですが確かな「歴史 -
Posted by ブクログ
物語の時代背景は、戦前から戦後。軍国主義の風が吹き荒れる風潮の中で、おそらく女性はその地位を不当に貶められたであろう。「少女」ともなればなおさらのこと。虐げられる存在たる少女は、一方で「女」としての独特の厳格な道徳性をも求められる。時代の波の中で、何気ない日常を送りながら、要求される「道」を少しばかり「外」れてしまう少女たちの物語が、本書には七篇収められている。
少女が日常生活の中で、おのれの心と周囲との小さな齟齬に気づいたとき、彼女の心は道を外れ始める。皆川博子はそんな少女の心情とそれとは無関係に流れてゆく日常生活を静謐に描く。文体のせいか、行間からはほのかな官能性が漂う。道を外れた少女の心 -
Posted by ブクログ
壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。(裏表紙)
トマト・ゲーム
アルカディアの夏
獣舎のスキャット
蜜の犬
アイデースの館
遠い炎
花冠と氷の剣
漕げよマイケル
今まで皆川さんの初期の作品は幻想と狂気が薄めだと思っていたのです