あらすじ
壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた犯罪小説短篇集。収録作:トマト・ゲーム/アルカディアの夏/獣舎のスキャット/蜜の犬/アイデースの館/遠い炎/花冠と氷の剣/漕げよマイケル
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Posted by ブクログ
皆川博子の初期の短編作品集。
本作に収録されている短編作品は犯罪をテーマにした作品で、皆川博子の耽美で幻想や伝奇、ミステリーなどのイメージとは違うのだが、だが確かに皆川博子らしい作品ばかりが集められている。
個人的には『獣舎のスキャット』がやはり印象的である。
『獣舎のスキャット』は自分は『悦楽園』という別の短編集で触れたが、とても黒々しい情欲が顔を出すような作品で、人には薦めないが大好きな作品である。
他にも『密の犬』『アルカディアの夏』『花冠と氷の剣』が好み。
また中川多理による球体関節人形の表紙が皆川博子の作品世界と合っていてとても良い。
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単行本版、文庫版を統合した完全版。「華麗なる狂気」という言葉がこれほど似合う短編集はなかなかありません。背徳的でありながら、どうしようもなくうっとりさせられてしまう作品ばかりです。なかなかにえげつない物語が多くって、「美しい」という表現はなんとなくそぐわない気もするのだけれど。受ける印象はやはり美しいんだなあ。
お気に入りは「遠い炎」。一番素朴な印象を受けたのだけれど、結末がなんとも恐ろしくって。読むほうも震えが止まらなくなりそうです。
「獣舎のスキャット」も凄いなあ。もうあまりに邪悪でどうにもこうにも、酷いとしか言いようがありません。なんて凄いものを書かれたんだ皆川さん! これを好きとは言い難いけれど、一番インパクトのあった作品かも。
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個人的にかなりレベルの高い短編集。
ジュブナイルの悪意・犯罪にフォーカスした不条理系短編集だが、舞台装置やオチまでのトリックが鮮やかで非常に楽しめる。
『アルカディアの夏』と『獣舎のスキャット』は特に印象深く、作者の初期の良い所がギュッと詰まり、いいとこ取りな1冊では。
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未熟であやうい少年少女のヒリツキ感や性の揺らぎが生々しい。「トマト・ゲーム」では、ゲームに挑む少年たちの目線ではなく、そのまわりにいるフラフラした大人たちの目線で描かれていて、その大人たちも未熟さや不完全さを宿しているのが印象的。
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す、すごい。去年は皆川さんにハマって色々読んだけれど、こんなに毒のある作品も書けるんだ…。皆川さんらしい華麗で耽美な世界観なんだけど、底知れない闇が広がっている。
表題作のトマトゲームは、ラストにむけて物語が急降下していく様にゾッとした。
登場人物たちがみんな狂っている。少年少女の若さゆえの狂気、過去の傷が膿み広がって産まれた狂気、さまざまな狂気がある。しかし獣舎のスキャットと蜜の犬はやばすぎでは…
かなりグロテスクでショッキングな話もあるので、楽しく読める本ではない。だが、ここまでの狂気を読める本も中々ないのではないだろうか。
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面白かったです。
いつもより毒が濃かった気がします。
「蜜の犬」「アイデースの館」が好きです。
老若男女、闇に呑み込まれていく…いつから狂っているのか。
皆川さんの幻は甘美なものも感じることも多かったのですが、この作品集ではゾッとするものもありました。
「遠い炎」と「花冠と氷の剣」のラスト一行、冷水を浴びせられた感じがしました。怖い。
でもやっぱり皆川さんの世界は辞められません…虜です。
Posted by ブクログ
壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。(裏表紙)
トマト・ゲーム
アルカディアの夏
獣舎のスキャット
蜜の犬
アイデースの館
遠い炎
花冠と氷の剣
漕げよマイケル
今まで皆川さんの初期の作品は幻想と狂気が薄めだと思っていたのですが、単純にモノを知らなかっただけだったんだなぁ、と。
全編、濃淡あれど狂気に彩られていました。
近頃のものであればそこに幻想が加えられますので、幸か不幸か生々しさが薄れていたのですが、これはもう、グロテスクな感じさえ受けました。
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この密やかな毒に、指先からそっと浸して、ずっと痺れていたい……
そう思わせる皆川ワールド。
なんでこんなに底意地が悪くて性格が悪くて後味も猛烈に悪いのに惹かれるのか。
皆川先生の作品は、どれも幼女がそのまま大人になってしまったような儚さと残酷さがあって、どんな惨い内容にも、根底に無邪気さがあるように感じられる。
その残酷さに、どうしようもなく惹かれるのかも。
装丁の人形が皆川ワールドをあますことなく表現していて、美しい。
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「トマト・ゲーム」
真っ赤なトマトになっちゃいな式のバイク乗り。
「アルカディアの夏」
「獣舎のスキャット」
姉が弟を見る眼の異様さを裏打ちするのは、何か。
弟からの意趣返しが凄まじい。
「蜜の犬」
強者と弱者の関係が引っくり返る、しかも比較的ピュアな少年によって。
「アイデースの館」
アングラ演劇崩れの青年が作ったポルノムービーの、男たちが仮面をつけている。
仮面の製作者は誰か。
過去にぐいっとズームがずれる感覚。
「遠い炎」
家政婦が旧知の人物だったことで座が奪われていく。
ちょっと似た話を映画で見たことがある。
「花冠と氷の剣」
これまたロマンチックな題名。
贅指の青年に惹かれる、精神病棟入院経験のある女。
幼児への嗜虐。
「漕げよマイケル」
受験戦争。同性愛。親子。
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皆川博子の初期作品集、復刻発売。
帯、あとがきの日下氏の「いかに初期から完成されていた作家かわかる」という表現が的を射ていると思う。
比較的淡々とした書き口なのに、ことごとく狂気や不穏さを感じとれるほど、文章・表現力は高い。
自分の好みより文学性が強めであるが、折に触れて他作も読んでいきたい。
3+