皆川博子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
最後の二行のためにある長編小説。
最後の二行だけで、ミステリーが切ない愛の物語になる。
皆川先生天才か。
人物の多さに覚えるのが大変でしたが、「それより読み進めたい」と思わせる謎に次ぐ謎。
しょっぱなは「ラピュタ」を思わせるファンタジー性に満ち溢れ、けれど陰惨な事件、衝撃の事実になだれ込む怒涛の展開。
奇妙な楽器を巡る事件、ナイジェルの過去が絡み合う……
構成も無駄がなく(大変入り組んではいるが)、これだけの人数、伏線を一人一人に役割を持たせ、ちゃんと収めているところが本当にスゴイ。
傑作だと思う。「開かせていただき光栄です」よりずっと読み応えがあった。
「開かせて~」から出ている登場 -
Posted by ブクログ
何とも冷静であり、シニカルな小説だと思った。
そして最後まで、「神」と「奇跡」の正体についての謎が明かされていない。
結局、発端となる事件の真相については、それが人為的に仕組まれたことなのか、それとも本当に神による奇跡なのか、断定的には書かれていない(と私は読んだ)。
その正体が最後まで巧妙に隠されていて、まるでミステリー小説のようにスリリングですらある。
見ないで信じる者は幸いである。
それならば、見た上で、それでも信じ続ける者はどうだろう? 哀れだろうか? 不幸だろうか?
神はいるのか?
奇跡は誰が起こしたのか?
分からないけれど、少なくとも歴史を作り出したのは人間だ。 -
Posted by ブクログ
5篇の短編集。
読後に「ヤン・ジェロムスキ」の名前をググったのは私だけではないはず。
それから「エーディット・ディートリヒ」と、「ジークムント・グリューンフォーゲル」の名前も。
引用形式というスタイルで、史実や実在人物名もちょこちょこ出てくるもんだから、これははたして創作なのか? それとも史実なのか? と、訳が分からなくなってしまった人がいるに違いない。
「オムレツ少年」と「太陽馬」は歴史ものに分類できると思うのだけれど、これらも「史実」と「創作」の境目が非常に曖昧だったように思う。
特に後者の方では、ロシア・ソヴィエトの歴史を淡々と語る割と長いパートがあるのに、読後の印象としてはやっぱり -
Posted by ブクログ
ふと立ち寄った古本屋で[そして夜は甦る]の初版本と共に購入した、苦手な皆川博子の作品。奥付が二つあるし落丁か?と思ったがそれが作品の重大な秘密とは!巨大な怪物フェンリルの北欧神話と白バラ抵抗運動の二つが、私生児を生むマルガレーテの手記と関係している。会議で議論の主題と直接関係のない自分の知識をひけらかす人がいるが、馴染みのない神話や史実が傑作を生んだのか巨大な流産か、全体の1/3が終った段階では判別出来ない。ヴェッセルマンは未だ普通の高飛車な医者だし。しかし相当に面白い。ドイツの風物描写が秀逸。
苦役列車の主人公よろしく14歳になった看護婦の息子ゲルトの独白から。親にも学にも職にも恵まれず自 -
Posted by ブクログ
皆川博子という作家は、私の中では長らく『トマト・ゲーム』『奪われた死の物語』『水底の祭り』『巫女の棲む家』の作者だった。
最初に手に入れた本は『トマト・ゲーム』で、この本はもうずっと書棚の一番いい位置にしまわれていた。
あの頃好きだった作家は他に、赤江瀑、森茉莉、澁澤龍彦。
私の本棚では「耽美(BLという意味じゃなく!)」派の、一種あやういゆらぎを見せてくれる作家さんという括りだった。
当時はPCなんて便利なものもなく、田舎の高校生には書籍目録というものからも縁遠く、好きな作家の本は文庫に書かれた既刊本を注文するか、いろんな書店を何度も回って偶然店頭に並んでいるのを見つけるぐらいしか方法がな -
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美しい。ほんとうに、美しい小説集だ。
作者や作品についてなんの予備知識もなく読み始めて、ひといきでその匂いに引き込まれた。さまざまの美しい詩句が、解説にある通り一篇の中に「象嵌」されている。詩句の呼び起こす情景、それを借景として、あるいは幽霊のごと溶け込むように同化して、はるか過去にあったはずの場面をここに現存させる。
それぞれの物語には歴史の翳さす暗い色調のものが多く、黴臭い死の匂いがまつわりついて、決して清潔ではないのに、この美しさはいったい、なんなのか。
どの話もひとしい密度をもって訴えてきた。八篇、どれも好きであまり差がないというのもすごい。あえてあげるならやはり「龍騎兵」かしら。