皆川博子のレビュー一覧

  • 蝶

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    短編集。人間の「生という凶暴性」が、終戦後の時期に「自由」や「民主主義」を掲げていて、そのことを忌んでいたという風にも読み取れる。しかし実はそれよりも、人間のある部分、狂奔するのとはまた違う、「生きている」ナマの部分を繊細かつ骨太な文章で描き出しているように感じた。やわらかい、あやうい美しさが頭を内から照らし出すようであった。

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    2015年12月19日
  • 死の泉

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    第二次大戦下のドイツ。
    未婚で子供を生むためナチの施設に身をおくマルガレーテから話しは始まります。

    戦争、ドイツ、ナチ、と聞けば悲惨な状況しか思いつきませんがこの話しではそこまで鮮明にナチに対して書かれている訳ではないです。戦争を経験したマルガレーテのお話しとして読んでいると、途中から急にミステリー要素が出てきます。最後の最後までドキドキですが、やっぱり戦争の悲惨さも感じました。最後の『あとがきにかえて』もちゃんと読んで下さい!

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    2015年11月03日
  • 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

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    すごく面白かった。
    死体の解剖教室の先生と弟子たちが重要な登場人物だけど、そんなにグロテスクな描写はない。
    最後まで、真相はつかめず。
    わたしは犯人の1人は本当は女の子なんじゃないかと推測したけど、見事に外れた。
    まだまだ背後に事情が隠れていそうな感じがする終わり方だった。

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    2018年03月20日
  • 双頭のバビロン 下

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    ネタバレ

    書く作品書く作品すべてが代表作といってもいい奇蹟の作家。
    作者の入れ込む結合双生児というモチーフを題材に落とし込みながら、往時の風俗、幻視の街、執着にも近い感情を、小説に織物していく。
    陶酔するしかない。

    ゲオルク―「きみ」(エーゴン・リーヴェン)
    ユリアン―ツヴェンゲル

    ぼくはきみを慰めたいのだ

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    2015年10月01日
  • 双頭のバビロン 上

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    ネタバレ

    書く作品書く作品すべてが代表作といってもいい奇蹟の作家。
    作者の入れ込む結合双生児というモチーフを題材に落とし込みながら、往時の風俗、幻視の街、執着にも近い感情を、小説に織物していく。
    陶酔するしかない。

    ゲオルク―「きみ」(エーゴン・リーヴェン)
    ユリアン―ツヴェンゲル

    ぼくはきみを慰めたいのだ

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    2015年10月10日
  • アルモニカ・ディアボリカ

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    最後の二行のためにある長編小説。
    最後の二行だけで、ミステリーが切ない愛の物語になる。

    皆川先生天才か。

    人物の多さに覚えるのが大変でしたが、「それより読み進めたい」と思わせる謎に次ぐ謎。
    しょっぱなは「ラピュタ」を思わせるファンタジー性に満ち溢れ、けれど陰惨な事件、衝撃の事実になだれ込む怒涛の展開。
    奇妙な楽器を巡る事件、ナイジェルの過去が絡み合う……

    構成も無駄がなく(大変入り組んではいるが)、これだけの人数、伏線を一人一人に役割を持たせ、ちゃんと収めているところが本当にスゴイ。
    傑作だと思う。「開かせていただき光栄です」よりずっと読み応えがあった。

    「開かせて~」から出ている登場

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    2015年07月01日
  • 少年十字軍

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    何とも冷静であり、シニカルな小説だと思った。

    そして最後まで、「神」と「奇跡」の正体についての謎が明かされていない。
    結局、発端となる事件の真相については、それが人為的に仕組まれたことなのか、それとも本当に神による奇跡なのか、断定的には書かれていない(と私は読んだ)。
    その正体が最後まで巧妙に隠されていて、まるでミステリー小説のようにスリリングですらある。

    見ないで信じる者は幸いである。

    それならば、見た上で、それでも信じ続ける者はどうだろう? 哀れだろうか? 不幸だろうか?

    神はいるのか?
    奇跡は誰が起こしたのか?
    分からないけれど、少なくとも歴史を作り出したのは人間だ。

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    2015年04月28日
  • 猫舌男爵

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    皆川博子は長編2冊読んでから本書を読んだけど、ほんとに巧いし面白い。重厚な背景が毎回素晴らしいから長編向きかと勝手に思っていたが、短編でもその世界観を作れ、そのうえ作風も変えられるとは。表題作はイロモノっぽいのでズルいが最高に面白いし、「水葬楽」は廃退的な空気感に埋没させるSFでいい。ほかの3篇も皆川カラーがしっかり出ている佳作だった。そして最後の解説にもひと仕掛けというニクさ。

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    2016年01月17日
  • 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

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    18世紀ロンドン、外科医ダニエルの解剖学教室の暖炉からあるはずのない屍体が次々と発見され、盲目の治安判事ジョン・フィールディングが事件解決に乗り出す。
    二段、三段構えの展開にすっかり騙されたけれど、いっそ痛快なぐらいで文句なしに面白かった。ただ、その動機がちょっと哀しくほろ苦い。

    解剖が神への冒瀆とされ、さまざまな偏見にさらされていた時代に、医学の進歩のために力を尽くす彼らのおかげで、今の医学医療があるのかと頭が下がる思い。

    結局ナイジェルは謎が多いまま。続編も出てるみたいなので、そこで少しは分かるかな。続編も楽しみ。

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    2017年12月21日
  • 猫舌男爵

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    「猫舌男爵」三周目。文庫化をきっかけに久しぶりに読んだ。
    やっぱり「睡蓮」と「オムレツ少年の儀式」が好きすぎるんだけど、別のアンソロジーで読んだ「猫舌男爵」にどんどんはまってきた。ページが進むにつれてすべてが滑稽にとっ散らかるように感じて、けれど最後はみんな(たぶん)解放されて幸せ、みたいな。千街さんとか日下さんとか実在の人物が登場したり。あと解説ヤン・ジェロムスキって目次で見てすごくわくわくしてた。ヤン・ジェロムスキ文体そのままだった。ヤン・ジェロムスキ、架空の人物。

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    2015年01月21日
  • 猫舌男爵

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    5篇の短編集。

    読後に「ヤン・ジェロムスキ」の名前をググったのは私だけではないはず。
    それから「エーディット・ディートリヒ」と、「ジークムント・グリューンフォーゲル」の名前も。
    引用形式というスタイルで、史実や実在人物名もちょこちょこ出てくるもんだから、これははたして創作なのか? それとも史実なのか? と、訳が分からなくなってしまった人がいるに違いない。

    「オムレツ少年」と「太陽馬」は歴史ものに分類できると思うのだけれど、これらも「史実」と「創作」の境目が非常に曖昧だったように思う。
    特に後者の方では、ロシア・ソヴィエトの歴史を淡々と語る割と長いパートがあるのに、読後の印象としてはやっぱり

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    2014年12月12日
  • 死の泉

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    この耽美さは誰にも真似できない。40歳すぎてデビューして80超えても書いているって本当にすごい……。

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    2014年09月27日
  • 死の泉

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    ふと立ち寄った古本屋で[そして夜は甦る]の初版本と共に購入した、苦手な皆川博子の作品。奥付が二つあるし落丁か?と思ったがそれが作品の重大な秘密とは!巨大な怪物フェンリルの北欧神話と白バラ抵抗運動の二つが、私生児を生むマルガレーテの手記と関係している。会議で議論の主題と直接関係のない自分の知識をひけらかす人がいるが、馴染みのない神話や史実が傑作を生んだのか巨大な流産か、全体の1/3が終った段階では判別出来ない。ヴェッセルマンは未だ普通の高飛車な医者だし。しかし相当に面白い。ドイツの風物描写が秀逸。

    苦役列車の主人公よろしく14歳になった看護婦の息子ゲルトの独白から。親にも学にも職にも恵まれず自

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    2014年09月19日
  • 薔薇忌

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    演劇をテーマにした短編集。
    演劇と皆川博子なんて、相性が良すぎる。
    この人の作品はいつも息が詰まる、いい意味で。

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    2014年07月22日
  • 蝶

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    なんて幻想世界…
    ずっと入り浸っていたい(それは、出来ないけれど)
    薄暗くて、ねっとり湿っていて、甘くてキツい香りー
    毒々しくも、魅力的な物語ばかり。

    例えば、こんなの。

    蝶の胴だけ食べる伯母
    二階に住む住人
    足の傷口に食いつく何か
    眼窩に挿す花々


    うん、いい。
    何か覗いちゃいけないものを好奇心で見てしまう、背筋がゾクっとする感じ。クラクラする。

    8篇あるうちの「妙に清らの」、「龍騎兵は近づけり」が特にお気に入り。

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    2014年05月08日
  • 少女外道

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    再読。数ある皆川作品の中でも特に好きな短編集。
    「少女外道」というタイトル通り、「少女」という存在が発見した(見る側にとっては発露というほうがしっくりくるような)「外道」についての作品ばかりが収められている。黒田夏子さんの解説を読んで気づいたけど収録作中で涙を流した少女は「祝祭」の少女だけ。涙を流すという行為が少女としては一等外道。

    何が外道だこれしきと感じる人もいるかもしれないけれど、客観的に見てどの程度外道であるかなんてどうでもよくて自分を外道だと思うその心が大事なのです。

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    2014年05月02日
  • 死の泉

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    皆川博子という作家は、私の中では長らく『トマト・ゲーム』『奪われた死の物語』『水底の祭り』『巫女の棲む家』の作者だった。
    最初に手に入れた本は『トマト・ゲーム』で、この本はもうずっと書棚の一番いい位置にしまわれていた。
    あの頃好きだった作家は他に、赤江瀑、森茉莉、澁澤龍彦。
    私の本棚では「耽美(BLという意味じゃなく!)」派の、一種あやういゆらぎを見せてくれる作家さんという括りだった。

    当時はPCなんて便利なものもなく、田舎の高校生には書籍目録というものからも縁遠く、好きな作家の本は文庫に書かれた既刊本を注文するか、いろんな書店を何度も回って偶然店頭に並んでいるのを見つけるぐらいしか方法がな

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    2013年09月25日
  • 蝶

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    美しい。ほんとうに、美しい小説集だ。

    作者や作品についてなんの予備知識もなく読み始めて、ひといきでその匂いに引き込まれた。さまざまの美しい詩句が、解説にある通り一篇の中に「象嵌」されている。詩句の呼び起こす情景、それを借景として、あるいは幽霊のごと溶け込むように同化して、はるか過去にあったはずの場面をここに現存させる。
    それぞれの物語には歴史の翳さす暗い色調のものが多く、黴臭い死の匂いがまつわりついて、決して清潔ではないのに、この美しさはいったい、なんなのか。
    どの話もひとしい密度をもって訴えてきた。八篇、どれも好きであまり差がないというのもすごい。あえてあげるならやはり「龍騎兵」かしら。

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    2013年09月12日
  • 薔薇密室

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    ネタバレ

    「死の泉」では読後、というよりは最後の一文でぷんと濃いウイスキーのような悪の匂いが立ち上った。
    本作では中井英夫直系の人間=薔薇というオブセッションを受け継ぎながら、なおかつナチスを題材に取りながら、最後にはさわやかな柑橘の香りが。
    これはあくまでも良きにつけ悪しきにつけではあるが。

    視点の多様性、語ること書くことへの思索、幻想の混入、など真骨頂。

    いい気分で酔わせてもらった。

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    2013年03月22日
  • 薔薇密室

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    作中作と作中現実(?)が入り混じる物語。読み解こうと進めば進む程、こんがらがってくる。薔薇と人間の融合、等というモチーフを扱いながらもSFに走ること無くミステリーとして仕上がっていて、本当に素晴らしい小説だと思う。作中の言い回しを借りると、どんなに不幸な人間をも陶酔させる力を持った物語です。
    第一次世界大戦が舞台となっていて、最初は取っつきにくいかと思ったけれども、一度世界に引き込まれたらさくさく読めます。

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    2013年02月22日