【感想・ネタバレ】薔薇忌のレビュー

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Posted by ブクログ

久し振りの皆川博子さん、さんといっていいのか今年で85歳になられた今まで10指に余る賞を受けて、文化功労者にも選ばれた。
多くの作品は、幻想的と冠がつく、長編小説、切れのいい短編(それでもなお妖しい)ゴシックロマンといってもいい、海外を舞台にした、不思議な出来事、怪しい雰囲気を纏った作品群。
人の暗い部分を見る目を持っている人は、何かの気配に敏感だったり、時々常にない心もちに陥ったりする。
見たり聴いたり感じたりする本来の器官の働きに、敏感な特殊な能力を持っている人なのかもしれない。
皆川さんは、そういう異界の、異形のものだったり、現実何気ない気配を、幻のように書き出してみせてくれる。
幻想作家だと呼ばれたりするが、読み始めると日常を離れた感覚を纏った大舞台が待っていて、登場人物たちに導かれて不思議な体験をする。

脇腹で繋がったシャム双生児に生まれて、切り離された後世間体もあって日陰で育てられた。一人は名家を継ぎ一人は施設で医者の手伝いをして育つ、と言う生まれながら数奇な運命を予想させる、2人の子が世界を股にかけた雄大な物語「双頭のバビロン」

医学黎明期にイギリスの医学生たちが巻き込まれる殺人事件「開かせていただき光栄です」(本格ミステリ賞受賞)などいずれも大長編だったが、妖しく面白かった。


前置きはそこまでで今回の「薔薇忌」、短編なので物足りない感じもしたが、古典的な幻想小説だったり、自分の心の中に堕ちてしまう青年、何かに疲れて壊れてしまう人などそれぞれ面白かった。題名だけでも意味ありげでいい。



* 薔薇忌
劇団で雑務をしているえくぼの出来る後輩に気がついた。聴いてみると面白い話をする。
イタリアで、仕えていた公爵にゴマをするために本心(復讐心)を隠して仮面をかぶり続けたら仮面の下で腐ってしまった男がいたそうだ。
復讐の暗殺は成功したが彼は惨殺された。
腐っていく役っていいよね、
と言うので彼の書いた脚本を使うことにした。
刑罰には薔薇の花を降らせて窒息死させるっていいよね。
それ悪趣味だね。
そのうち姿が消えた、素封家の息子だったので人知れず家に帰り縊死していた。

* 禱鬼 
波乱にとんだ宇宙で、束の間生きるということが彼には魅惑的だった。
彼が惹かれたのは化粧をし衣装をつけ、別の人格にのっとられる、舞台の面白さだった。

* 紅地獄
夢はみるという。夢を聴くとも、夢を嗅ぐともいわない。非現実的であるけれどある状況の中を生きるのである。
濃密な抱かれる夢を見続け、その正体に出会う。

* 桔梗合戦
嫌ってはいなかった人だが暴行され妊娠した、彼女は白い衣装に白い桔梗を持って身重を隠して桔梗合戦を踊る。

* 化粧坂
子どもたちは山の上と下に住んでいて、一緒に遊ぶことが少なかった、転校生が来て皆に蜘蛛合戦を教えたので、盛んになった。山の上に住む僕は、彼が仲間に入れてくれた。
来いと言われこっそりついていくと、芝居小屋に入っていった。やがて化粧をして女踊りを見せた。出送りの女たちに騒がれる人気者だった。目配せするので化粧坂の下の崖で蜘蛛を捕まえていたた。夢中になっていると肩越しに息がかかるほど彼が近づいてきたので、驚いて跳ね飛ばしたら尖った石に頭をぶつけて死んでしまった。誰も行かない淋しい場所なので恐ろしくてそのまま帰った。旅役者の子供が山から堕ちて死んだそうだ。と一時噂が立ってそれっきりになった。

* 化鳥
楽屋に見知らぬ男が落ち着いた様子で座っていた。昔この部屋にいたといった思い出話をする。役者になりたかったが怪我をして衣装係になった。衣装は命を持っている。
私は見つけた男の子をプロディュースしようとしていた。少しずつ売れ出し男は家庭も持ったが、私は女形でないと演じられない瀧夜叉を演じさせたかった、瀧夜叉を宙摺りで客の上で舞わせるのだ。しかし、もう遅かった。中年太りのおやじになった彼の扮したのは、いくら衣粧をつけても既に化け物にしか見えなかった。

* 翡翠忌
90に近い老大女優は不意に引越しをした、若い者をあごで使って落ち着いたのは公園が見えるマンションだった。
彼女は若者と知り合っていた。公園の篠流れの小川には翡翠が飛ぶという。それを見ながらそばのベンチで2人で座って話をした。散歩もした。
2人は小さな劇団員で江見、須藤というの。
老女はそう話して時々公演に行くと、新劇の大御所が着てくれたと喜んでくれるの。
長年の相手役をしてきた山岸にそう話した。
山岸は言った。
また苛めたんだろうね、あんたは惚れると苛め抜いた。その……須藤か、その男のアラを、徹底的にあげつらったんだろう。
まるで見ていたようね。自殺したわ。
だれが 
あの子よ。

心配なんです。
先生は一人であの公園に出かけられるので心配でお供しようとしたらお叱りを受けました。東屋のベンチで、お一人で何かブツブツと……それが一度や二度ではないんです。

2人がいま出ている新宿の小さい劇場に千鶴を連れて行ったら迷妄から醒めるだろうか。
このごろ千鶴先生は見えませんね、とふたりは言った。

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2020年01月05日

Posted by ブクログ

初めて読んだ皆川作品。衝撃を受けたが、著者の他作品を読んでいくうち、かなりライトなほうだと知った。皆川博子入門にいいかも。過激さは抑え目でただただ美しく、幻想的。

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2019年11月17日

Posted by ブクログ

演劇をテーマにした短編集。
演劇と皆川博子なんて、相性が良すぎる。
この人の作品はいつも息が詰まる、いい意味で。

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2014年07月22日

Posted by ブクログ

初めて読みました皆川博子さん作品。
舞台で働く人たちの会話をのぞき見しているような感覚になる7話の短編集。
どれも妖しい魅力を放っていて、今の話と昔の話が境目なくスンナリとつながっていって、しまいには現実の話なのか幻想の話なのかわからなくなってくる。
話の内容よりも話相手が気になる「祷鬼」、生首道具職人が出てくる「紅地獄」、ヒスイとカワセミはどちらも翡翠と書けるらしい「翡翠忌」など、面白話だらけ。

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2022年10月08日

Posted by ブクログ

面白かったです。
きらびやかですがその分影も多い、舞台芸能の世界。暗く、愛憎入り交じる濃密なお話たちでした。
特に「桔梗合戦」「化鳥」が好きでした。
「化鳥」はバンギャ心が疼きます…この気持ち、わかる。。嘗て心酔していた人の凋落を目の当たりにしたら……。
裏方さんに光が当たっている作品が多いのも面白かったです。こんなお仕事があったのだな。
舞台と幻想。堪能しました。

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2019年12月03日

Posted by ブクログ

演劇に携わる人々を描いた短編集。内容は「演劇の話」と聞いて想像するものの斜め上を行く、皆川博子テイストの効いた独特なものばかり。役者だけでなく、プロデューサーや小道具製作者などの裏方にもスポットを当てている。面白かった!

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2015年04月30日

Posted by ブクログ

初めましての作家さん。
90年代に出版されたものの復刻版のようです。
舞台に携わる者たちの妖しい短編集。
ミステリというよりは、幻想譚といった感じです。
でも短編集なのに、どれもこれもヤバイ。
舞台に携わる者達の話だから、どうしても妖しくなる。
だけど文章の持って行き方がヤバイ。
起承転結を当てはめるとするなら

起承~~~~転?結!!工エエェ(゚〇゚ ;)ェエエ工
って感じかなぁ~
最後の1ページで、一気に幻想に変化するというか・・・
こういうのは初体験です。
ヤバイです。面白かった。

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2015年02月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

芝居をめぐる、惹かれ期待する関係の短篇集。いじらしくて、ねじまがって、フェティッシュで、古臭くて。
短編の寄せ集めではなく撚り集めで物語が出来る。
決して「恋愛」ではないし、情愛が支配するわけではない。
欲望と怠惰と執着と希求。
純粋さよりも湛える深淵を愛す。

各編ごとに見ても仕方ないって途中までやって分かった。
各々登場人物の設定とかかれる内容は少しずれている気がする。勿論意味はあって必要な設定なんだけど、〇〇→△△となる記号ではなくて、〇〇からその人の印象と人生を推測しないと読みにくい。AパートとBパートの距離が遠い。
登場人物は等しく大きい得体のしれない(歴史を持つ)ものへの畏れを持ち取り憑かれた人たち。変わらないそれらに寄り添う(反抗しながらも?)しかない。
「化鳥」の杏二を彼はそうしたかったのだろう。「女でありながら女を超えたもの。人でありながら人を超えたもの。存在することに拠って観客を異界にひきいれるもの。」人でもなく神に近く、周囲すら巻き込んでしまう。ここにいる動けない「私」をつれだしてくれる何者か。なにか。
それに魅せられ続けた。


「薔薇忌」
祈り。自分の思いを次こそは次こそは・・・・叶わないで欲しい、かなって欲しい。自分を捉えて話さないものから必死に逃げようとし、しかし捉えられ続けたい。そんな感じ。
それをたんたんと。ひょうひょうとした女性がそんな執着を語るからいじらしい。
「祷鬼」
薔薇忌につづいて祈りについて。この流れはずるいと思った。祈ることの矛盾や無意味さ、その意味がみえる。
「紅地獄」
幼い好きと女性としてみてしまった。この合致はほんとうに怖いし、あり得ることだなあと思った。芝居や(続いてきた伝統ある)道具への畏れが書かれる。
「桔梗合戦」
得体のしれない母とそれを超える私。
多分違いはなにを失おうとしたか。
「化粧坂」
なまめかしい。ここに女装、女形への幼い思い出が残される。この体験を持って次編も読んでしまう、と罠だなと思う。
子供らしさと大人の世界。どちらもの貌をもつ彼。
「化鳥」
これか「化粧坂」が一番好き。
鳥は鳥のままでは、人は人のままでは、ただの凡夫なのだ。
芝居や舞台、身体表現に拠る芸術のある種の完成への遠さが現れている。
人は、やはり人である、と思う。
「翡翠忌」
「化鳥」とは一転。化け物が出てくる。と言っても年齢の話だが。彼女はひとを超えたことがあるのではないだろうか。



皆川博子、何冊か挫折してるけど、これは大丈夫だった。現代モノを何個かあさってみようかな。
ある意味で酷く、読みやすかった。
悪く言えば芳醇さは低い気もする。
そうとも思った。
情愛ではないと前に書いたけど、執着と言った感じには思わなかったし、すごく感情的でない印象を受けた。
すごく俯瞰された主人公が多かった。

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2014年08月13日

Posted by ブクログ


日本の舞台・伝統芸能と怪しい幻想譚を絡めた短編集。
意図的にデザインされた作品群の為、ハッとする描写や展開に欠け所々強引さを感じた。
作者にはもう少し捻られた凄惨な作品を期待してしまうが、『桔梗合戦』はウットリする出来栄え。

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2023年12月08日

Posted by ブクログ

どの話も、最後に突き放される哀しさがある。美しく残酷な秘密。決して癒されない哀しさ。
薔薇忌と桔梗合戦が特に好きだった。

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2020年10月10日

Posted by ブクログ

舞台にまつわる人々の短編エピソード。死人が出てきて普通に会話していることが、舞台という特殊な空間とも相まって、現実離れした世界観の演出にもなっている。
舞台に魅入られて、いつまでもそこに留まり続けている人々の魂を眺めているのは、演劇や映画を観終わった後もしばらくその場から離れたくないような感覚に似ていて妙な放心感に包まれる。
いつしか自分も舞台の上で繰り広げられる物語に心を奪われて、そのまま永遠に引き摺り込まれてしまいそうな、そんな恐ろしさを秘めた作品。

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2019年03月31日

Posted by ブクログ

舞台に秘められた男女の謎-妖しく華やかな幻想ミステリー。

舞台に関わる人々を描いた7つの短編集です。

ん・・・悪くないけど、良さもよくわからず。
服部まゆみ先生の作品が好きで、その帯などでよく目にするので、似ている世界観を期待して読んでみたのですが、似ていなくもないんだけど、ん・・・。よくわからない。
という曖昧な感想になってしまった。
つまらにってこともないのですが・・・どこか煮え切れない感じで、そこが良いのかな?

他の作品も読んでみようかと思います。

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2018年08月18日

Posted by ブクログ

舞台に携わる人々を描いた短編7編。どれも妖しくて美しい幻想的な話ばかり。現代の話なのに、芝居を扱っているせいか、どこか時代がかった雰囲気をもつ不思議な世界観。
少し硬めの文体なので、慣れるまでは入り込みにくいとこもあるけれど、それが却って幻想的な雰囲気を際立たせている。
皆川作品は『開かせていただき光栄です』とその続編しか読んでないけど、この作品といい、気になってる『少年十字軍』といい、ジャンルの幅広さに驚く。

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2015年07月01日

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