小説・文芸 - グーテンベルク21作品一覧

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  • クイーンの事件簿1
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    《健康の家》の主人が殺された。癌の宣告を受けた直後のことだった。ところが死体置場(モルグ)に運びこんだはずの死体は、いつのまにか石膏の像にすりかえられていた。事件にまきこまれた推理作家志望の娘ニッキーと共に、エラリー・クイーンは捜査を開始する(→『消えた死体』)。エラリーとニッキーの二人のコンビは、中国帰りの腹話術師の殺人事件の捜査に駆りだされる。スパイあり、イカサマ賭博師あり、そして怪しげな中国人、現場には謎のカード、宝石の行方は?(→『ペントハウスの謎』)
  • かわいい女
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    ハードボイルドの代表格、ロスの私立探偵マーロウが活躍する一編。失踪した兄を探してくれと、田舎出の若い女があらわれたとき、マーロウは相手の態度に不審を抱いたが、女の差し出す虎の子の20ドルを受けとって、依頼を引き受けた。報酬の多寡は問題ではなかった。真実をあばき出すことだけが目的だった。舞台は映画の王国ハリウッド。街の顔役、ギャング、映画女優、そのマネージャー、警察官たちが登場し、その中を泳ぎまわるマーロウの身には次々と危難が襲いかかる。
  • 蜘蛛
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    一九一〇年代から三〇年代にかけて「プラハの大学生」などのドイツ怪奇幻想映画の作者として不朽の名作を生み、わが国にも、熱烈なファンを生みだしたエーヴェルスは、ホフマン、ポーの系列をうけ、ドイツ読書界を風靡した怪奇文学ブームの中心人物だ。常識への挑戦のかたちをとった美神礼賛を基調とし、解放された本能や欲望が渦巻く深層心理を描き、現代都市に恐怖を出現させた。森鴎外に紹介されてより、待望久しい本邦初の珠玉短篇集。
  • マルゴ
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    読者がそれぞれの興味にまかせて、どんな読み方をしても、それなりに楽しめる小説である。『ロリータ』の読者なら、ここにその原型を見出すことはまちがいあるまい。あるアメリカ人はこういう名批評をしている。「『ロリータ』対『マルゴ』は、いってみればトスカニーニ対クレンペラーだ」(訳者)。『マルゴ』ははじめ『暗室』と題してロシア語で発表され、のち『闇のなかの笑い』と改題し、作者自身の英訳によって新しい作品として発表された。
  • パリ・ロンドンどん底生活
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    オーウェルがビルマから帰ってパリにいた一九二九年は世界大恐慌のはじまった年であり、彼がこの作品を書いていた翌三〇年、英国には失業者があふれていた。パリで彼は「職業として最低のまた最低」の皿洗いを経験し、英国では浮浪者のなかで暮したり、季節労働者としてケント州でホップ摘みをしたりした。その経験を活かし、大不況時代の社会の最底辺での生活を描いたルポルタージュ。世間からは好評をもって迎えられた。
  • 空気を求めて
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    腹の出た中年男ボウリングは日々の暮らしに倦み、田舎へ帰ってみようと思う。幻の大魚を追った少年時が頭をよぎる。だが時代はそんな牧歌的な夢を阻む。「戦争! それはまもなくやってくるだろう、それは確かだ。だが問題なのは戦後だ。憎しみの世界、スローガンの世界。色シャツ、鉄条網、ゴムの警棒。電燈が昼となく夜となく点いている監房、パレードと、巨頭の顔を画いたポスター、百万人の群衆がいっせいに指導者に向かって歓呼の声を上げ…」主人公の独白ですすむ現代のオデュッセイ。第二次世界大戦直前に発表され、戦後の『一九八四年』を予見させる作品。
  • ケストナーの終戦日記
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    世界の子供達に愛されているケストナーの、ナチズムへの抵抗日記。広島・長崎への原爆投下を糾弾して、この日記は終えられた。戦争そのものが勝敗を問わず、どんなに無意味に悲惨であるかを、このくらい具体的に感じさせる本も少ないであろう。そしてそれについては、人類全体に責任があると、ケストナーはみんなの良心に訴えている。
  • ドルジェル伯の舞踏会
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    上流社交界に群れ集まる人々の恋愛心理のきらめきを、ひだを、投影を、反射を、てらいのない透徹した文体で描いた、天才ラディゲの十九歳の作。その人間心理のロマネスクを玻璃の建築の骨組みと見て「いつまでも目に残るのは、すべてを引き絞って大団円への効果へ収斂してゆく、その光学的構造であった」…三島由紀夫はこう書いた。
  • 愛する時と死する時(上)
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    第二次世界大戦末期、ドイツの敗戦が色濃くなって行く中で、エルンストは前線の戦場から3週間の休暇をもらって故郷に帰る。だが町は爆撃で廃墟同然となり、両親は行方不明、エルンストは父親のかかりつけの医師を訪ねるが、その娘エリーザベトから父はユダヤ人だったため強制収容所に送られたと聞かされる。そのとき空襲警報が鳴り、ともに防空壕に避難したことから二人は親しくなる。短い時間のなかで愛を確かめ合った二人は結婚にこぎつけるが……戦争の虚しさと絶対悪が鮮烈に浮かび上がる。
  • カーテンの彼方
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    フレデリック・ブルース卿が晩餐会で何者かに射殺された事件は、過去に関係があった。十五年前インド国境の町で行方不明になった年若い人妻の失踪事件と、ビロードの支那靴しか手掛りのない弁護士射殺事件がそれだ。卿は回想録を書くに当って、「厚い年月のカーテンの彼方」に没し去った怪事件を追究していたのである。謎の解明にあたるのは支那人特有の警句を飛ばしてあまりにも有名なホノルル警察のチャーリー・チャン。「世界一周ツアー事件」とならぶビガーズの代表作である。
  • 快盗ルビー・マーチンスン
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    短編の名手スレッサーにかかると「殺人」や「犯罪」が血なまぐさくない、さりげない事件となり、殺人者や被害者、はてはごろつきや警察官までもが愉快で憎めない人物になってしまう。つねに「うまい犯罪、しゃれた殺人」を描くことに心を砕いていたヒッチコックは、スレッサーの作品が大いに気に入り、テレビのヒッチコック劇場の常連シナリオ・ライターに起用した。本書は根は善良な小市民、悪党気どりの愛すべき一青年ルビー・マーチンスンを主人公に設定し、ニューヨークのダウンタウンを背景に、彼が思いつく奇想天外な犯罪計画の数々とその皮肉な失敗の経緯を披露する。趣きの変った、大人の童話という感のある作品。
  • 大いなる眠り
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    ハードボイルドの旗手チャンドラーの長編処女作。主人公の私立探偵フィリップ・マーロウはこれによって一躍、有名になった。マーロウは富豪の将軍の邸宅へ招かれる。将軍の次女カーメンが、賭博場でふり出した約束手形にからまる強請りの件で、その調査を依頼されたのだ。マーロウは張本人とみられるガイガーの家をさぐりに行った。だが、三発の銃声がとどろき、ガイガーは射殺されていた。踏みこんだ所はあやしげな秘密写真撮影の現場だった。次々に現れる不審な人物に加え、将軍家の長女の夫の失踪事件もからみ、事件はいよいよ複雑に。双葉氏の翻訳はその名調子で知られる。
  • 滅びの星
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    その太陽は早朝に、惑星に暖かさと命をはぐくむ恵み深い放射をあたえていたが、午後も半ばを過ぎると放射は激しくなり、四つの惑星は消滅の道をたどった。何者かが太陽の放射を急速に増大させ、燃えあがる「滅びの星」に変えたのだ! 何者かが全宇宙の破壊と奪取を企てているのだ! もと密輸交易商人、地球出身のケトリックは星系間交易監督局の関係者ら3人を仲間として、急遽、ヒヤデス星団中の一巨星を周回する第二惑星タナナルに派遣された。…ハミルトン晩年の宇宙活劇SF。
  • 太陽から三番目
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    マシスンは代表作の長編「縮みゆく人間」でよく知られる作家だが、ホラー、ファンタジー、SFの各分野で、過去・現在・未来を舞台に創造的で刺激的なイマジネーションを縦横に発揮し、数多くのファンを唸らせてきた。信じがたいものを読者に見させ、思いもよらぬ世界へ導くその異才は、処女作「モンスター誕生」で明らかである。本短編集では、表題作のほか、タイム・トラベラー、異星人の登場するSFや、ユーモラスな作品など、作者の魅力を十分味わえる13編を収録した。
  • 発狂した宇宙
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    とにかくこれは多元宇宙SFの決定版である。多元宇宙SFのあらゆる面白さとテクニックを全部ぶちこんだ、いわば集大成であり、さらにこれによってブラウンは、多元宇宙SFを確立させたといえる。そのかわりSF作家にとってはこれ以後、多元宇宙の面白いネタを見つけるのが困難になった。処女長編とは思えぬ、完成された作品である。ブラウンの長編の最高傑作は? という問いに対して、『発狂した宇宙』をあげる人と、『火星人ゴーホーム』をあげる人がいて、好みが二種類にはっきりわかれてしまう。ぼくは『発狂した宇宙』をとるが、星新一氏などは『火星人ゴーホーム』組である。シュール・リアリスティックなドタバタが好きな人と、ブラック・ユーモアの方が好きな人とにわかれるのではないか、と、ぼくは思っている。…以上、筒井康隆氏の紹介文だ。
  • 野郎どもと女たち ブロードウェイ物語1
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    米国の作家デイモン・ラニアンは日本ではほとんど知られていない。今回紹介する4巻の短編集「ブロードウェイ物語」が初めての登場である。訳者は「まずここに収めてある短編を先に読んでほしい、作家について知る前に。〈サン・ピエールの百合〉〈血圧〉〈ブッチの子守唄〉をすすめたい。これらはラニアンの最初期の作品だから」と語る。ラニアンはジャズエイジ時代の雰囲気を濃厚に伝える新聞記者あがりの作家で、当時は英国やフランスでももてはやされ、愛好者によるラニアン・クラブまでできた作家だった。
  • ファーザー・ハント
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    ウルフとアーチーは、エーミー・デノヴォと名乗る女性から父親捜しの依頼を受ける。彼女の母親は三ヵ月前に轢き逃げに遭い、エーミーは一人残された。父親は毎月母親宛に小切手を送り続けてきていたのだという。アーチーは、小切手の振出人割り出しから追跡を開始し、それが信託銀行の元頭取サイラス・M・ジャレットだったことを突き止める。エーミーの母親は当時別名でジャレット夫人の秘書を務めていた。だが、調査は暗誦に乗り上げる。ジャレットの息子も父親に該当しないことがわかる。ウルフは捜査中の轢き逃げ事件に着目し、その犯人からのアプローチを試みる。車の運転席に残されていた葉巻の銘柄が唯一の手がかりだった。
  • 未来世界から来た男
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    奇抜な着想と語り口のうまさで定評のあるフレドリック・ブラウンが、趣向の粋をこらした作品集。悪魔から魔法のパンツをもらった好色漢のしたことは? 不死身の米国大統領の秘密とは? 超光速で飛んだ宇宙船隊はいったいどこへ? ロバはどのようにして火星人の手から地球を救ったのか? タイム・マシンで大儲けを企んだ男の運命はいかに……空想と幻想に飛翔したいという希望に応える佳品の缶詰。
  • 栄光の星のもとに
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    金星植民地と地球連邦との間には何かと火種がくすぶっていた。地球の学校に通うドンは両親の住む火星に向かうよう連絡を受け、宇宙乗り換えステーションに到着する。だがそのときステーションは金星革命軍によって占拠されてしまい、戦争に巻き込まれていく…昨日までなにも知らなかったドンは地球と金星の間で翻弄されていく。頑固な少年の成長を描くハインラインのジュブナイルSFの1編。
  • SFカーニバル
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    鬼才フレドリック・ブラウンが贈るユーモアたっぷりなSFアンソロジー。タイム・トラベル、ロボット、異星人による地球侵略、スペース・オペラ(宇宙活劇)、ミュータントなど、10人の作家による短編10作を選んでいる。SFの主要なテーマを網羅した本書は、SF入門編にも最適な一冊だ。
  • 暗号ミステリ傑作選(1)
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    「本巻に収めた短編はみな、暗号とコードのいずれかを扱ったもので、それぞれの作品が事件の謎を解くのに、暗号またはコードのキーを見出すのを必要とする。たとえそれが単純な換字法による暗号、あるいはワン・ステップの推理で解決できるコードにしても、それを優れた作家が見事に料理するときは、読者はかならず、暗号もしくはコード一般の魅力に取り憑かれるはずである」……編者は「序文」でこのような暗号論を展開し、13編の作品を選んだ。フリーマン、ベントリーからセイヤーズ、アリンガムまでを含む歴史的アンソロジー!
  • 死時計
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    時計師の家の天窓の下の部屋では、完全殺人の計画が進行していた。表のドアがあけはなたれて、死の罠へおびきよせられた犠牲者の押すベルが鳴る。中では男がピストルを持って待ち構えていた。しかし扉を開けて入って来た男は、相手がピストルを撃つ前に倒れていた。被害者は首を時計の針で刺されて、死亡していたのだ。しかもその遺体は別の殺人事件を追ってやって来た刑事だった! おなじみフェル博士が登場し、陰で微笑をもらす冷血な真犯人と対決する。初期のカーを代表する作品。
  • 愛犬
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    「スレッサーは、20年間に500編を越す短編を量産しつづけてきた、現代の最も多作なショート・ストーリー・ライターです。しかも、多作家という言葉とは本来うらはらなニュアンスをもつ「職人芸」という評言がどんな作家よりもぴったりあてはまる、心にくいほどショート・ストーリー作法の手練手管を心得た作家でもあります。それでいて、いまでも一作ごとに、キラッと光る新鮮な魅力をいささかも失っていないのはいったいなぜなのでしょう」…この編者の言葉がそのまま生きるスレッサー珠玉作品集。
  • 死ぬには惜しい日
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    アイリッシュの叙情性がうかがわれる表題作をはじめ、「高架殺人」「リンゴひとつ」「コカイン」「夜があばく」「日暮れに処刑の太鼓が鳴る」「妻が消える日」の7作を収めた傑作短編集続編。どの一編にも、サスペンス・スリラー第一人者のうまさが堪能できる。
  • 火星人ゴーホーム
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    突然イタズラ好きで人を困らせることが大好きな火星人が10億!も現れ、地球は大混乱。小さな緑色の小人の姿をした彼らは姿は見えるし、声もするが触ることはできない。クイムする、と称して瞬間移動できるし、透視も出来るので、公私を問わず秘密というものがまったく無くなってしまう。彼らの目的は侵略ではなく、ひたすら人間に嫌がらせをすることだった。奇才ブラウンが「迷惑な隣人」を突き詰めたブラックコメディ。
  • 絶対子工場
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    「RUR」「山椒魚戦争」「ロボット」で有名なチャペックの本格的近未来小説。人類が今まさに遭遇している原子力、原発、放射能汚染状況を今世紀の初めに予見した作品。レクラム版『SF作家案内』(一九八二)は、この小説を、すばらしい着想、逆説、おどけた奇妙な事柄に満たされた天才的作品とほめたあと「形而上学的なるものと、日常的なるものが、多少無形式な小説の中でグロテスクかつ逆説的に併存している。この有様はチャペックの影響を否定できないポーランドのSF作家レムの後期のいくつかの作品と似ている」と書いている。
  • 消え失せた密画
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    ナチスによってほとんどの著作が焚書にされるなかで、作者ケストナーは祖国にとどまり、ユーモア犯罪小説3作を書いた。本書と「雪の中の三人男」「一杯の珈琲から」がそれだ。デンマークのコペンハーゲンで時価60万クローネの高価なホルバインの密画が盗まれる。肉屋のキュルツという気のいいおやじがこの事件に巻き込まれるが、窃盗団と警察、美人秘書、正体不明の若者が登場してのてんやわんやの大騒ぎ。本物はどこに? 偽物はどちら? 洒落た雰囲気が充満したおもしろ犯罪小説!
  • 感情教育(上)
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    青年フレデリックはパリからの帰郷の途次、船上で偶然知ったアルヌー夫人に深い思慕を寄せる。再びパリに出て、ふとしたきっかけからアルヌー家に親しく出入りするようになるが、臆病で恋を打明けられない。作家を夢み、絵画に志し、といたずらな夢想に日々を送る彼は、社交界にも出入りし、高級娼婦ロザネットらとも知り合うようになる…。二月革命前後の動乱のパリに生きる青年と女たちを描く恋愛小説の最高傑作。
  • ナナ(上)
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    ナナはパリのヴァリエテ座の俗悪なオペレッタでデビューし、怪しい魅力によって男たちの注目を集める。老銀行家ステネール、喜劇役者ホンタンの女となる経験をへてナナは売春婦となることを決意し、寄って来る男たちを次々と破滅におとしいれることに生きがいを見いだす。伊達男ヴァンドーヴル、放蕩者のファロワーズ、さらにユゴン大尉と遍歴を続け、ついにはナポレオン三世の高官ミュファ伯爵との交渉がはじまる。彼女は老伯爵をまるで下男のように鼻であしらい、公衆の面前で恥ずかしい思いをさせることに無上の喜びを感じる。伯爵に建てさせた屋敷に引きこもり、取り囲む男たちを互いに反目させ、彼らの家庭の秘密を片っぱしから暴露する。ナナは伯爵家を破滅させるが、同時にそれは自身の破滅になる。ナナは見すぼらしいホテルの一室で生涯を終わる。ゾラは「居酒屋」についでこの「ナナ」で、腐敗した時代の社会の悪を、大きな壁画のように描こうとした。
  • 宇宙震
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    アメリカのSF勃興期から50年間、SFとともに生き、その可能性を極限まで推し進めた代表的な作家のバラエティ豊かな宇宙小説集。「禁断の星」は、宇宙伝染病に汚染された星域をめぐっての宇宙病テーマ、「失われた種族」は、宇宙に大文明を築いたある種族の謎の消滅をめぐって、その原因をつきとめようとする滅亡テーマ、「破滅が来る!」は、銀河系同士の衝突という大スケールの銀河小説、「孤独の星」は惑星全体に一個の生物がすんでいるという宇宙生物小説、表題作「宇宙震」は、宇宙規模の大災害を未然にふせごうという典型的なスペース・ドラマである。この5編だけを読んでも、ラインスターの宇宙小説のもつスケールの大きさ、そのロマンチックなムード、たくみな小説技法は、十分に読みとることができるだろう。
  • 月を売った男
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    ハインラインの「未来史シリーズ」の初編「生命線」をはじめ、「光あれ」「道路を止めてはならない」「月を売った男」「鎮魂歌」の、初期名編5編をあつめた。表題作の中編は、有人ロケットの月世界到着を目前にして一攫千金を狙う企業家がたくらむものを追究する。月における土地所有権? ウラニウムやダイヤモンド鉱の採堀権?……月にひそむ経済価値は、投機の対象となって全世界を震撼するが……。
  • マローン御難
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    嫌悪すべきことが起ころうとしていた。むかつくようないやなことが! 弁護士マローンの予感は的中した。その夜、会う約束をしていた男――有力な財界人で、防犯委員会の委員であり、おまけにマローン撲滅委員会のワン・マン委員長を自任していたレナード・エスタプールが、冷たい死体となっていたのだ。犯人はマローンに罠をかけた! 酔いどれ弁護士マローンはこの事件にどう向き合えばいいのか。クレイグ・ライス最後の傑作!
  • 奇商クラブ
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    ユニークな推理小説観をもつ著者がブラウン神父シリーズに先駆けて発表した短編集。バジル・グラントという退職判事が奇商クラブの面々を紹介するという列伝の形式をとり、会員が次々に遭遇する奇怪な事件を解決する。クラブの会員はみなクセのある不思議な商売人だが、バジル自身も元裁判官なのに、裁判官席で発狂して珍弁舌を試み、それを機会に隠退したという途方もない経歴の持ち主。どの物語にも、意想外な真相が隠されている。あわせて中編の「驕りの樹」と「背信の塔」を収めた。
  • 死体は散歩する
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    酔いどれ弁護士マローンとジェイク&ヘレンのおなじみ3人組を主役にすえた爆笑トリオ登場の第2作。ここではジェイクとヘレンはまだ結婚していない。「ジェイク、あたし、脅迫されてるの」ラジオ・ショーのスター歌手ネルはそう言い残して、姿を消した。マネージャーを務めるジェイクは、彼女の元恋人ポールのもとを訪ねてみるが、出迎えたのはポールの死体だった。ジェイクはあせってスキャンダル隠しに奔走、だが、そうするうちに死体が現場から消失、旧友の弁護士マローンの助けを借りることに。1930年代のラジオ業界を活写するライスのユーモア・ミステリ。
  • スターマン・ジョーンズ
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    宇宙船乗りは田舎育ちのジョーンズの夢だったが、その道は世襲制であり、万人に開かれてはいなかった。航宙士になる夢を捨てきれないジョーンズは、身分と経歴をいつわり、船底甲板給仕として浮浪者サムとともに、恒星間貨物客船《アスガルド》に乗りこんだ!……与えられた運命に流されることなく、おのれの道を力強く切り開いていく青年の成長! 「栄光のスペース・アカデミー」「ガニメデの少年」につづくハインラインの傑作長編。
  • 夜歩く
    5.0
    カーの処女作。「私にとって単調で退屈ということは許されざる罪悪」というカーは、本書に対する自信のほどをのぞかせて、こう言う。「神経質な読者に悪夢をもたらし、パズルの玄人(くろうと)に頭痛をおこさせれば、私は満足だ」本書『夜歩く』は成功を収め、カーは職業作家として立つ。彼は別の機会に書いた。「私の野心は今もなお真に傑出した推理小説を書くことであるが、いまだに達成したとは正直、思わない。作家がこう述べるとき、その本音はほかのすべての推理小説がつまらないものに見えるような傑作をものしたいということである。無論、それは不可能だ。しかし、いつまでも試みつづけることはできる」
  • ギッシング短編集
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    『ヘンリ・ライクロフトの私記』で知られる英国の作家ギッシング(1857~1903)の短編集。とりどりの人生の皮肉を描きながら、どこかに救いがある読み物群。苛酷ななかに忍び寄るミステリー的雰囲気(「詩人の旅行かばん」)、ロンドンの最下層民の生態を描く「ルーとリズ」、食費を削ってまで好きな本を買い漁る男を描く「クリストファーソン」など印象的な8篇を訳者が選び収録した。
  • 菊

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    著者の生れ故郷に近いカリフォルニア州のサリーナスの谷を舞台に、そこで生活する人間と自然を描いた短編集。「菊」「純白の鶉(うずら)」「遁走」「蛇」「朝飯」「殴り込み」「馬具」「自警団員」「ジャニー・ベーア」「殺人」「処女・聖カティ」まで11編。うち、「菊」「朝飯」はよく知られた佳作、「殺人」はスリラーとしての評価も高く、オー・ヘンリー賞を受けている。導入部からあっさりと物語世界に引き込む筆力は天性のストーリーテラーのものだ。
  • 地図にない町
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    フィリップ・K・ディックが黄金の50年代に発表した色とりどりの短編から、ブラッドベリ風の幻想味の濃い12編を訳者が独自に選んで訳した傑作集。存在するはずのない駅で列車は止まった。駅前にひろがるのは地図にない町だった……この表題作のほか、「おもちゃの戦争」「薄明の朝食」「レダと白鳥」「森の中の笛吹き」「輪廻の豚」「超能力者」「名曲永久保存法」「万物賦活法」「クッキーばあさん」「あてのない船」「ありえざる星」を収録。
  • 大いなる遺産(上)
    -
    クリスマスイブの夕暮れ、鍛冶屋の少年ピップは足かせを付けた脱獄囚に捕まり、やすりと食い物をもってこいと脅かされる。このときの恐ろしい経験はあとあとまで尾をひく……田舎暮らしのピップに、降ってわいたように莫大な遺産相続の話がころがりこむ。送り主は誰なのか、世話になっている異様な金持ち夫人のミス・ハヴィサムか? ピップはミス・ハヴィサムの養女エステラへのかなえられない思いを胸にロンドンに出る。だが友人もでき、都会生活にうつつをぬかすピップのまえに、謎の人物が姿をあらわす……話は急転直下、緊迫の度をまし一気に終末へ。皮肉とユーモア、ミステリーと冒険活劇が一体となったディケンズ晩年の傑作。
  • 人間喜劇
    5.0
    時は第二次世界大戦の時代、14歳のホーマーは、カリフォルニアのイサカの町で学校に通いながら、自転車に乗って電報を届ける仕事をしている。彼が運ぶ青年たちの戦死の知らせは、人びとを悲しみのうずにまきこむ。やがて出征している自分の兄の死を最愛の母に伝える日が訪れる……。一家をささえて働く少年の目にうつる、生と死が織りなすドラマ。作者サロイヤン(1908~81)はアルメニア系移民の子としてカリフォルニアに生まれる。新聞売りや図書館員などの仕事をしながら、作家を志した。『我が名はアラム』など、名作の数々は世代をこえて愛読されている。
  • ガニメデの少年
    4.5
    食糧危機にあえぐ地球をあとに、太陽系最大の衛星である木星の衛星ガニメデめざして植民がはじまる。宇宙船メイフラワ一号に植民団の一員として乗船したビル・ラーマーは、期待と興奮で胸おどった。だが六千人もの人類の植民団を一度に受け入れるには、ガニメデは小さすぎた。ビルの期待に反してガニメデでの生活は、まず土地を開拓して「農場」を作っていくことからはじまった……ガニメデの厳しい自然環境を舞台に、多感な少年の成長を描きあげるハインラインの名作SF。
  • 狐

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    マーチは飼っている鶏を盗みにきた雄狐の視線に心を焼かれる。そしてたまたま訪れた若い兵士ヘンリーの目を見たとき、マーチは狐を見たときとまったく同じ呪縛にとらえられ、逃れることができなくなる。狐という象徴に託して男と女の結びつきの本質を鋭く描いた傑作「狐」のほか、同様の主旨を盛った「歓びの幽霊たち」、形骸化したキリスト教の再生を求めて書いた「死んだ男」……ロレンスの中編3作を収めた。
  • 大宇宙の探究者
    -
    恒星間連絡船プロキオン号は、亜宇宙空間を飛行中、原因不明の事故に遭い、一部の乗員乗客を除いて全滅してしまう。だが救命艇でなんとか通常空間に戻ってきたデストン達は、強力な心霊能力…特定の元素や化合物が埋蔵されている場所を透視する能力…を獲得していた。彼らはそれを武器に銀河最大のギャラクティック・メタルズ社と協力して、地球西側の労働争議を鎮め、東側の「闇将軍」との対決にのぞむ。スペース・オペラの第一人者E・E・スミスの異色作。
  • 鐘は鳴る鳴る
    -
    シカゴでホテル暮らしを送り、バー「天使のジョー」に入りびたる酔いどれ弁護士ジョン・J・マローンを主人公にするクレイグ・ライスのユーモアあふれる本格ミステリ短編集。「鐘は鳴る鳴る」「わたしもよそ者です」「あかない部屋」「死体からずらかれ!」「うぶな心が張り裂ける」「小鳥たちはまた歌う」の6編を収録。訳者岩田宏は小笠原豊樹の別名。
  • 闇よ、つどえ
    -
    戦争によって一度文明が崩壊してしまった後の時代。政権を握っているグループは過去の科学技術を独占していて、巨神をあがめる宗教政治を行っている。科学技術は魔法と同様の扱いで、光線銃は「怒りの棒」などと呼ばれ、不可侵フィールドは「後光」などと呼ばれている。このカースト制度にしばられたなかで、一人の男が欺瞞をあばこうと立ち上がる。だが、そのとき、巨大な影となって魔人グループが姿をあらわす。壮絶な戦いが始まったのだ! SFと幻想文学を一体化したライバーの処女長編。
  • 栄光のスペース・アカデミー
    -
    21世紀後半、人類は太陽系全体に版図を広げ、宇宙の治安を守る軍隊として「惑星間パトロール隊」が活躍している。あこがれのパトロール隊士官を夢見て、マットは士官学校に入学した。厳粛な宣誓式のあと、士官候補生たちは厳しい訓練に放り込まれた。マットはなんとか二次試験を突破し、地球軌道上の練習船ランドルフ号へと向かう。脱落者が相次ぐなか、マットは親しくなった他の3人とともに、苛酷な訓練を突破して栄光をつかむ。マットたちはパトロール艦アイス・トリプレックス号へと配属され、実務に就いた……宇宙に乗り出した若者の友情と冒険の日々を鮮やかに描く傑作宇宙SF。
  • 夢みる宝石
    4.0
    里親のひどい折艦をのがれた捨て子のホーティ少年は、愛する人形とともにサーカス団の一座に保護される。団長は、へんてこな人間を集めるかたわら、不思議な能力をもつ水晶を探していた。一見なんの変哲もないその水晶は実は生きていて、痛みや憎しみなどさまざまな感情を表出できる。そして水晶が夢みるとき、土の塊から花や昆虫や、小鳥や犬が生まれるのだった…。幻想SFの巨匠の手になる処女長編。
  • 宇宙をぼくの手の上に
    -
    奔放な奇想の数々、ユーモアあふれるアイデアで、いまなお新鮮さを失っていないブラウンのSF短編名作集。月に思いをよせるネズミを描く「星ねずみ」、孤独に満ちた悲歌「緑の地球」、秀逸なオチが光る「狂った星座」など、奇抜な着想と豊かなファンタジーに彩られた全9編の物語の饗宴。どんなSF嫌いの読者をもファンに変えてしまう不思議な魔力を放つ傑作集!
  • 歌行燈
    -
    1巻660円 (税込)
    「自然派というのは、弓の作法も妙味も知らぬ野暮天なんじゃありませんか」と記した泉鏡花の、中後期の代表作を収めた名作集2。豊かな才能を持った能楽師の漂泊と芸道精進による救済の物語「歌行燈(うたあんどん)」、紅燈の巷に流される男女をモチーフとした「日本橋」はじめ、円熟期の代表作「国貞えがく」「売色鴨南蛮(ばいしょくかもなんばん)」、最晩年の名品「眉かくしの霊」のほか、戯曲「山吹」を収めた。
  • 高野聖
    -
    1巻660円 (税込)
    泉鏡花は明治20年代後半から大正期にかけて、怪奇幻想趣味とロマンティシズムあふれる独自の文学世界をひらいた。この名作集1には、鏡花文学の出発点をなした初期の代表作「義血侠血」「夜行巡査」「外科室」、はじめて鏡花を読むのに最適と評される「化銀杏(ばけいちょう)」、中期の代表作「照葉狂言(てりはきょうげん)」「女客」「高野聖(こうやひじり)」までを収めた。
  • 死の家の記録
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    主人公で語り手の男は、妻殺しの罪で10年間のシベリア追放と強制労働の判決を受ける。彼は貴族階級出身であったことから、多くが農民出身の囚人たちの悪意、憎しみをかい、当初は獄中生活に苦しむ。だが次第に収容所生活や受刑仲間に対する自身の嫌悪感を克服してゆく。ドストエフスキーが4年間シベリア流刑を経験したときの体験記でもある。現代のソルジェニツィンの手になる「イワン・デニソビッチの一日」とあわせ読むのもおもしろい。
  • 罪なき者を捜せ
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    ロイ・ヴィカーズの倒叙ミステリ「迷宮課もの」は有名である。本書収録作品には「迷宮課」は出てこないが、倒叙ミステリの魅力満載だ。「二重像」「殺人者はいつも」「女神の台座」「十二分の墓」「罪なき者を捜せ」の5編を収めるが、「二重像」はエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジンのミステリ・ベスト短編賞を受賞している。どの作にも、繊細で深い人間心理の不可思議が見事に描かれている。
  • 火星航路SOS
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    火星航路に就航中の宇宙船アルクトゥールス号は、突如何者かに襲われる。計算士として乗り組んだスティヴンス博士は、惑星間航行会社社長の愛嬢とともにすべての救援の望みを絶たれたまま、木星の未知の衛星ガニメデへと漂着する。だが、不屈の闘志と第一級の科学知識を駆使してスティヴンスは必要なあらゆる装置を完成させ、救助SOSを発信して危地を脱する……だが、異星人の魔手はふたたび行く手を阻んだ。「スペース・オペラの父」の手になる、創成期SFの活力あふれる宇宙大冒険!
  • 魔法株式会社
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    表題作と「ウォルドゥ」の2編を収めた中編集。ハインライン風ファンタジー。「魔法株式会社」は魔法がごく一般的に使われている現代世界の話だ。建築業を営むアーチボルトは、魔術でめちゃくちゃにされたとおぼしき自分の店の修復を有名な魔法使いに依頼する。魔法使いは悪の組織に立ち向かうのだが……。「ウォルドゥ」は無重力の家に住む天才技術者で人間嫌いの奇人の活躍を追う爽快な作品だ。
  • 瘋癲老人日記
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    1巻660円 (税込)
    性的不能に陥った77歳になる督助(とくすけ)は息子の嫁の颯子(さつこ)に惹かれ、ついにその美しい肉体を手にする。だが、それは倒錯的な夢の実現だった。颯子の足に変質的な愛を感じる督助は、彼女の足の拓本をつくり、それを仏足石にかたどって墓石にし、その下に骨として眠ろうと計画し実行する! 歴史的仮名遣いによるカナ書き日記体で書かれた谷崎潤一郎最晩年の作品。
  • 痴人の愛
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    1巻660円 (税込)
    平凡な小娘のナオミは、譲治に引き取られて育てられて行くうちに思いがけなかった肉体の美しさを増してゆき、手におえない淫婦に成長する。譲治は自分ではどうすることもできないほどナオミの魅力のとりこになり生活も荒廃してゆく。妖婦の一タイプを創造した話題作であり、作者の悪魔主義的傾向の一つの頂点をなした作品。
  • サンクチュアリ
    -
    判事の娘で女子学生のテンプルは、男友だちに連れられて、酒の密造所に連れ込まれ、恐怖の一夜を明かした朝、性的不能者のポパイに、トウモロコシの軸で犯される。そのおり彼女を守ろうとした仲間のひとりがポパイに射殺され、家主のグッドウィンが容疑者として裁判にかけられるが、テンプルの偽証で犯人に仕立てられ、群衆から火あぶりのリンチを受ける。ポパイは町の売春宿にテンプルを監禁して男を当てがうが、この男にそむかれて殺害し、のち自分自身も覚えのない殺人事件の容疑を問われて無実のまま断罪されてしまう。救いようのない性と暴力の残虐物語だが、この渦中に耐えて生きてゆくグッドウィンの妻を配して、救いを設けている。
  • 災厄の町
    -
    ふらりと立ち寄った町が気に入ったエラリーは土地の有力者ライツ家の持ち家を借りた。その家はライツ家の当主が次女ノーラとジム・ハイトとの結婚後に住む家として用意したものだったが、二人は喧嘩別れして、ジムは姿を消していた。それからすでに三年たつが、突然ジムが戻り、二人はよりを戻して結婚する。新婚早々、ノーラは偶然ジムが妹宛てに書いた3通の手紙を見つける。そこには、まがまがしい予告とも受け取れる出来事が書いてあった。やがてジムの妹ローズマリーが招かれてやってきた。そして感謝祭、クリスマスと、手紙の中味に符合するような事件がノーラの身に起こり、新年にはついに、ローズマリーが毒酒で死ぬ事件が起こる。ことの成り行きからジムが逮捕された……アメリカの架空の田舎町を舞台に繰り広げられる家族ドラマ。クイーン中期の代表作として名高い。
  • ゴムのラッパ
    -
    「あらゆる部署から切り捨てられた情報や証拠物件を集めて保管し、そこから事件の糸口を引き当てる」、それこそが長い歴史を誇るスコットランド・ヤードの「迷宮課」である。おもちゃのゴムのラッパが、花嫁撲殺事件と結びつく。香水瓶、カーネーション、嗅ぎ煙草入れなどの小物が、ふとしたきっかけから刑事たちの事件への肉薄をうながし、思いもかけない事件の解決をもたらす。エラリー・クイーン絶賛の倒叙型警察ミステリーの傑作短編集。
  • 人間狩り
    -
    「絶対的悪夢の戦慄すべき象徴化」と評されるディック初期の短編作品群は、著者自らが語るように、後の長編代表作の原型となるものである。廃墟を徘徊するミュータントの群れ、物質に奇襲される人間の恐怖、極限的なパラノイア状況など、ディック・ワールドの中核をなす自己と現実の崩壊の物語を中心とした選り抜き7編に、本邦初訳、子供とロボットの交感とその悲劇的な結末を描いた「ナニー」を加えた傑作短編集。
  • 夏の黄昏
    5.0
    南部の小さな町に育った十二歳の少女。背丈ばかりのびて、近所の子どもから仲間はずれになっている少女の夏の出来事。この少女の心の孤独感は、仲間はずれになったことのある誰の心にも消えがたく残っている。そして自分がどこかのグループに属したい、誰かに認められたいという願望も。この作品はこの深くて鋭い心情をとらえて、あますところがない。しかしその卓越している点は、空気さえ感ぜしめる描写の力だ。人は空気によって生きるように、この作品の三人――少女と少年と黒人女性――は作中の暑い夏の空気を呼吸して生きている。その空気は狭いキチンにいる三人の息遣いを伝え、その絶妙の会話を伝える。外で遊ぶ子供たちの叫び、ピアノの調律音、猿まわしの演奏するオルガンの音、照りつける街なかの白い光などを伝え、その脈搏によってこの作品を日常の次元よりも高い、不思議な雰囲気のものにしている(訳者あとがき)。「結婚式のメンバー」という訳書もあるマッカラーズの代表作。
  • 遺志あるところ
    -
    米国実業界の大物ノエル・ホーソーンが、義弟の国務長官の別荘近くの森で死体となって発見され、ショットガンの事故として処理された。遺書の内容はショッキングだった。妻デイジーに50万ドル、3人の娘たちには長女のジューンつまり国務長官夫人にはリンゴ1個、次女でヴァーニイ・カレツジの学長であるメイにはナシ1個、三女で女優のエイプリルにはモモ1個、ジューンの2人の子供アンドルーとセーラにそれぞれ10万ドル、ナオミ・カーンなる女性、つまり愛人に700万ドル、を遺贈するとあったのだ。未亡人デイジーは遺言無効の申し立てをすると主張するが、3姉妹は兄の遺書が公にされスキャンダルになることを恐れ、故ノエルの遺書を作成した弁護士とノエルの直属の部下を同道してウルフを訪ね、ナオミに遺産の半分を放棄するよう説得してほしいと依頼する。やがてノエルの死が殺人である可能性が浮上する……
  • 絞首台の謎
    -
    濃霧のロンドンを疾走する一台の車。だがハンドルを握っていたのは喉を切られた黒人運転手の死体であった……17世紀イギリスの首切り役人の名刺を持つ男が出没し、今はなき幻の「破滅の街」が忽然と現われる。そこには不気味な絞首台が立っていた。怪奇と魔術と残虐恐怖をガラス絵のような色彩で描く、カーの初期作品を代表する雄編。
  • さなぎ
    -
    世界が致命的な大破壊にみまわれてから長い年月がたち、中世的暗黒時代が訪れていた。幼いデイヴィッドが住んでいる村では、激しい労働と原始的な農業によって暮らしが営まれ、人びとは日夜、外からの侵入者におびえていた。なかでも、彼らがもっとも忌み嫌っていたのは、外形上ばかりでなく、普通人以上の能力、テレパシーをもつミュータントだった。そんなある日、デイヴィッドは自分もそうしたミュータントの一人であることを発見した……『トリフィドの日』の作者が未来の人類をリアリスティックに描いた文学的香気の高いSF抒情詩!
  • 宗春行状記
    -
    江戸幕府もようやく安定期に入った享保年間。将軍跡継ぎ問題の宿怨から、八代将軍吉宗と尾張の徳川宗春(むねはる)はことごとに対立した。綱紀を粛正し倹約を命ずる吉宗の政策を馬鹿にするように、大勢の供を連れて遊廓に通い、城下で芝居・遊興を催す宗春であった。江戸時代随一の風流大名、尾張宗春の豪胆奔放な半生を活写した長編時代小説。
  • 風と共に去りぬ(一)
    -
    アメリカ南部の大農園主の父と、フランス貴族の血をひく母のあいだに生まれたスカーレット・オハラは16歳、魅惑的な顔だちで、青年たちの心をとらえていたが、火のように激しい気性の持主でもあった。彼女が秘かに思いを寄せていたのは、うぶでけがれを知らぬ青年アシュレだった。その彼が従妹のメラニーと婚約したと知って驚くが、自分が打ち明けさえすればと、たかをくくっていた。野外パーティの日、彼女はアシュレを図書室につれこんで愛を打ち明ける。だが、アシュレは彼女をうけ入れようとはしなかった。スカーレットは彼を罵倒し、半狂乱になって彼の頬をなぐる。ところがこの一幕をレット・バトラーという男に見られてしまう。誇りを傷つけられた彼女はアシュレヘの面当てと復讐じみた気持ちから、彼の妹の恋人でありメラニーの兄であるチャールズと結婚してしまう。折から南北戦争が勃発、スカーレットの怒涛の人生が幕をあける……。刊行と同時にベストセラーとなり、今もなお熱烈に読みつがれる壮大な愛のドラマ。
  • ドラゴンの歯
    -
    エラリー・クイーンは自分と同じ警察官の息子ボー・ランメルの発案で、いっしょに私立探偵社を経営することになった。ボーは金も出し、足回りの仕事はなんでもやるという。ある日、そこへ億万長者カドマスが現われ、将来、事件を依頼するからという怪しげな条件で、多額の契約金を払っていった。その数日後、依頼人は愛用の豪華なヨットの上で謎の死をとげる。巨万の富を相続することになる二人の娘をめぐってまき起こる怪事件に乗り出すクイーン! 謎ときの興味横溢する本格編! ギリシア神話のカドマスはドラゴンの歯を地中に埋めて多大なトラブルを生み出したのだが……。
  • 白い修道院の殺人
    -
    ディクスン・カーの、ヘンリー・メリヴェール卿を探偵役とするシリーズ第三作。この作品も一種の「密室の殺人」を扱っているのだが、本書に取り上げられた「密室」はちょっと毛色が変わっている。一面に雪の降り積もった銀世界、そこにぽつんと立てられている「白い修道院」という名の離れ家で殺人は起こる。だが、犯人の足跡は全くない。あるのは死体を発見した者の足跡だけ。この人物は犯人ではあり得ないのだ。大自然が構成した密室の謎を、H・Mはいかにして解決するのか? 江戸川乱歩が密室を越えた不可能興味と絶賛した作品。
  • 我が屍を乗り越えよ
    -
    ネロ・ウルフのもとを訪れたひとりの女性が、ネヤという同性の友人にダイヤモンド窃盗の嫌疑がかかっており助けて欲しいと嘆願する。二人はモンテネグロからの移民で、教習所でフェンシングの教師をしているという。モンテネグロと聞いただけでなぜかウルフは尻込みしたが、再度訪れた女性はネヤがウルフの養女であると明かし、その証拠を持参する。重い腰をあげてウルフはアーチーを教習所にやるが、生徒のひとりがフェンシングの剣で刺殺される新たな事件が起こる。やがて次第に判明してくる国際的陰謀……ウルフが自らの前半生を語る異色作。
  • 闇よ落ちるなかれ
    5.0
    若き考古学者マーチィン・パッドウェイは、稲妻に打たれた瞬間、20世紀のローマから西暦535年の古代ローマの終末期にタイム・スリップしてしまう! 生きるのが難しい時代だった。各宗派間の陰惨な対立抗争、熾烈化の一途をたどる領土紛争……暗澹たる暗黒時代の到来を食いとめようと、パッドウェイは出版技術を開発し、合理的な加算法を人々に教え、ローマ侵攻を企てるゴート人、ヴァンダル人と闘った。彼は歴史のコースを変えるべく必死に生きたのだ、闇よ落ちるなかれと願いつつ……異色SFの巨匠L・スプレイグ・ディ・キャンプの古典名作。
  • 日本名城伝
    -
    城にもそれぞれ個性がある。岐阜城主はただ一人を除いてすべて非業の死をとげている、小田原城の歴史は震災史ともいうことができ、姫路城には女のからんだ秘話が多い。南は熊本城から、高知城、姫路城、大阪城、岐阜城、名古屋城、富山城、小田原城、江戸城、会津若松城、仙台城、北は函館五稜郭まで、12の名城にまつわる史話を歴史文学の第一人者であった著者が縦横に語った興趣つきない作品。
  • 幕末動乱の男たち(上)
    -
    幕末動乱の時代、勤王か佐幕か、攘夷か開国か、それぞれの立場は異なっても、激変する世相の中であくまでも己が志に忠実であろうとした維新期の人物群像を活写。その苛烈な生き様を、著者は極限まで潤色を排した筆致で鮮やかに描き上げる。上巻では有馬新七、平野国臣、清河八郎、長野主膳、武市半平太、小栗上野介の6人を、下巻では吉田松陰、山岡鉄舟、大久保利通のほか、田中新兵衛、岡田以造、河上彦斎の3人の刺客を取り上げる。綿密な実証に基づく海音寺潮五郎の「史伝」文学は、司馬遼太郎を始め多くの後進作家に大きな影響を与えた。
  • マリー・アントワネット(上)
    -
    神聖ローマ帝国皇帝妃マリア・テレジアの娘マリー・アントワネットは、15歳でフランス王ルイ16世に嫁ぐ。彼女はヴェルサイユの薔薇と咲き誇り、王国に君臨する。宮中には陰謀が渦巻き、数々のスキャンダルに巻き込まれるが、真実の恋人フェルセン伯が登場していっときの安らぎを得る。だが足下には革命の激流が迫っていた!
  • 四季屏風殺人事件
    -
    シリーズ第6弾。デイー判事は身元を秘した旅の途中、山東省ウェイピンの旅舎に宿をとった。彼の前に現われる当地の県知事、富裕な銀行家、美しい未亡人、不良少年、娼婦、そして殺人事件。朱の漆を刻んだ四季屏風の図柄をめぐる謎を軸に、錯綜する推理が展開する……。
  • 大時計
    -
    雑誌編集長ジョージは、彼の会社の社長ジャノスの愛人ポーリンと深い仲になっていた。ある夜、彼女をアパートへ送ったジョージは、そこでジャノスの姿を見かけた。翌朝、ポーリンの死体が発見される。犯人はジャノスにまちがいなかった。だが、何者かに目撃された事に気づいたジャノスは、部下を動員して、ひそかに目撃者探しを開始した。彼がその指揮者に指名したのは、こともあろうにジョージだった! 調査の方向をそらそうという努力もむなしく、ジョージはしだいに追いつめられる……息づまる筆致と意表をつく構成で描く傑作サスペンス!
  • 髑髏城
    -
    ローレライで名高い絶景のライン河畔にそそりたつ不気味な髑髏城。そこは稀代の魔術師メイルジャーの手によって成った幻想の城だった。しかし城の持主はライン川に変死体となって浮かび、あとをついだ俳優マイロン・アリソンは全身を炎につつまれて城壁から転落した。あいつぐ惨死事件の真相をさぐるべく、パリの名探偵バンコランとベルリン警察のフォン・アルンハイム男爵とのあいだに、しのぎをけずる捜査争いが展開する。本格派の巨匠カーが、魔術の世界を背景に、怪奇と不可能犯罪を描いた初期の代表作。
  • 江戸開城
    4.0
    官軍を率いて勇躍江戸に入った西郷隆盛、動揺する徳川慶喜と幕閣のあいだにあって和平の道を探る勝海舟。両者が対峙した二日間は、その後の日本の行方を決定づけた。幕末動乱の頂点で実現した史上最高の名場面の、千両役者どうしの息詰まるやりとりと、そこに至るまで、そこを経てからの歴史の歩みを、的確な資料を駆使して浮かび上がらせた、傑作長編。
  • 知られざる傑作
    -
    一つの作品に打ち込む老画家の十年にわたる執念が狂気にまでいたる経緯を描く「知られざる傑作」。この作品は、世代の異なる画家3人をパリに集めて出会わせ、具象と抽象という造形芸術の永遠の問題をうきぼりにしてもいる。重厚な描写とあわせてバルザック特有の「軽み」にも意をもちいた改訳版である。併録した「ピエール・グラスー」は「知られざる傑作」の幻想的な雰囲気とは異なり、リアルな物欲・名誉欲にかられる人物たちをコメディー・タッチで描く。画家を主人公としたこの2作は、いわば能楽と狂言のような関係にある。後者の主人公は贋作作家であるが、当代注目されている公式肖像画家をモデルにしており、芸術と金銭・権力との関係に興味のある人には必読の書。両作ともに、豊富な参考画像と当代の事情を明らかにする詳しい解説を付した。
  • 魔女の呪い
    -
    村の農場主が二度目の妻を迎えたが、花嫁の腕にみにくいあざができ、みるみる悪化していった。手を尽くしたが効なく、思いあまって村に棲む魔法使いの老人のもとを訪れると、死刑直後の犯人の首に患部をあてると治るという。折よく機会を得て彼女は刑場へと出かけていった。だが、そこに待ち受けていたものは……。この「魔女の呪い」のほか、南イングランドに伝わる迷信、呪術、生き霊などを織り混ぜながら、ハーディ的テーマといわれる運命に弄ばれる男女の悲劇を描く。他に「三石塔殺人事件」「三人の見知らぬ男」など4篇を収録。
  • 紅はこべ
    -
    いまやフランスの支配者は民衆! 栄華を誇った王侯貴族はみな国家の叛逆者なのだ……老若男女子供を問わず、ギロチンの刃は連日犠牲者を追い求める……恐怖に駆られた貴族たちを救うべく、ドーヴァーの彼方イギリスから謎の秘密結社「紅はこべ」が神出鬼没の活動を展開する。首謀者は果たして何者なのか? サスペンスとミステリー、恋と冒険とが渦まく、古典ロマンの代表作。
  • 顔のない博物館
    -
    すこし怖いような超現実世界を描く第一人者ディックの初期短編集。「ディックの原点ともいえるこの初期の短編に、センス・オブ・ワンダーと、それを超える何かを見い出し、楽しんでくれる若いSFファンの諸君に、本書を捧げる」と訳者はいう。「パパそっくり」「フォスター、お前は死んでいるところだぞ」「ドアの向こうで」「ハンギング・ストレンジャー」「消耗品」「根気のよい蛙」「廃品博物館」など11編を収めてある。
  • 掏りかえられた顔
    -
    デラとともに船のデッキに立ち、ハワイの灯影に名残りを惜しんでいたメイスンのまえに、思わぬ依頼人が現れる。夫のカール、娘のベルの三人でハワイの休日を楽しんで帰国するところだったニューベリ夫人である。夫人は、突然大金を手に入れたらしい夫を調べてほしいという。帳簿係の職を急にやめ、逃げるように引越し、その後は身分不相応なハワイ旅行。どうやってその金を手に入れたか、夫はけっしてしゃべろうとしないというのである。そのうち、夫人の耳に、夫がやめた会社で使いこみがあり、追及がはじまっているという噂がはいってきた。しかもその朝、荷物のなかに入っていたベルの写真が、彼女そっくりの女優の写真にすりかえられていた。船内の誰かが、一家の身元を調べている疑いがあった。興味を持ったメイスンは、調査の準備にとりかかった。だがその矢先、嵐の晩に、複雑怪奇な殺人事件が突発した……。シリーズ初期の名作。
  • 螺旋階段
    -
    亡き兄の二人の遺児をひきとって育て上げ、肩の荷をおろしたレイチェルは、郊外の別荘でひと夏を過ごすことにする。だが、静かな田舎に安らぎを求めた彼女を待っていたのは恐ろしい事件の連鎖であった。到着早々、不気味な物音や奇怪な人影に心を騒がされ、子供達の到着にほっとしたのも束の間、別荘の持ち主の息子が螺旋階段の下に射殺体で発見される!
  • アリストパネス傑作選(1)
    -
    アリストパネス(446年頃~385年頃BC)は古代ギリシア、アテナイ出身の劇作家で、喜劇作家、風刺作家の代表として知られる。 ギリシア喜劇は彼の時代に最盛期をむかえ、彼の死とともに衰えた。生涯に44作の喜劇を書いたが、現存するのは11作である。どの作品においても、当時の実在の人物を取り上げ、奔放な想像力と構想力で時代を風刺するのが特徴で、過激な笑いを提供した。この第1集には「蜂」「平和」「鳥」の3編の代表作を収録した。
  • 銀塊の海
    -
    第二次大戦の末期、貨物船トリッカラ号は密かに大量の銀塊を積んで、ソ連からイギリスに向かっていた。船長ハルジーは暴風雨に乗じて銀塊の略奪を計画、仲間数人を残して乗員を漂流死させ、船は沈没したと発表した。同船の生存者バーディー伍長と砲手バートは軍事法廷で反抗の罪に問われる。二人はトリッカラ号沈没の謎と船長の犯罪を糾弾するべく、脱獄する。嵐の北海を舞台に、無実の罪を晴らそうとする男と、船に隠匿した銀塊の奪還を企てる男たちの死闘の物語。
  • 蝋人形館の殺人
    -
    オーギュスト陳列館には数々の蝋人形たちが並び、薄暗い照明の中で異様な雰囲気をかもし出していた。ギロチンの下でのけぞるルイ16世、臨終のナポレオン……中でも傑作中の傑作『人殺しのルシャール夫人』の出来栄えは見事だった。その蝋人形がある娘の後を追って暗い階段を降りてゆき、そのあと、その娘が、屍体となってセーヌ河に浮かぶという事件がおきる!
  • 天界の王
    5.0
    二十世紀の地球人ジョン・ゴードンは、二十万年後の中央銀河帝国王子ザース・アーンからの呼びかけに応じ、心の一時的な入れ替えに同意した。だが、勇躍未来に飛び込んだ彼は、敵対する暗黒星雲同盟の襲撃をうけ、拉致されてしまった。果たしてゴードンは正体を隠し切れるのか、さらにはまた彼の心は元の肉体に戻れるのか? 帝国を救う切り札の超兵器「ディスラプター」は王族にしか扱えない。肉体はザース王子だが、何の知識も持たないゴードンに果たして帝国を救うことが出来るのか?
  • ここではお静かに
    -
    おなじみの野球もの「ハーモニー」「相部屋の男」「でっちあげ」のほか、「キャディの日記」「一族再会」「コンラッド・グリーンの一日」「ここではお静かに」「冷たい女が好き」のヴァラエティ豊かな5短編、「ブルペンにて」「トムプスンの休暇」の短い戯曲2編、最後に「短編小説の書き方」というおどけた短編集の序文をいれて、ラードナーの多彩さを盛り込んである。
  • 陸橋殺人事件
    -
    イングランドの田舎の鉄道陸橋下で、判別ができないほど顔のつぶれた男の死体が発見される。発見者は陸橋近くのゴルフ場でプレイ中の4人組だった。自殺か他殺か、それとも単なる事故なのか? 警察の調べのすすむなか、推理小説ファンの4人はそれぞれ独自の見解を披露していく。
  • 死骸盗人
    -
    冒険小説「宝島」で知られるスティーヴンスンは、同時に「ジーキル博士とハイド氏」など多くの怪奇小説を著した。本書にはそれらの中から、表題作をはじめ「ねじけジャネット」「マーカイム」「声の島」「びんの小鬼」など創意工夫にあふれた変化に富む8作品を収めた。
  • メソポタミアの殺人
    -
    クリスティの中東を舞台にした作品中の最高傑作! 考古学者レイドナー博士と再婚したルイーズのもとに、殺された先夫からとしか思えない奇怪な脅迫状が舞いこみはじめる。さらに、古代アッシリアの遺跡調査のため、夫とともにイラクへと渡ったルイーズを追いかけて、死を予告する不吉な手紙が届く。ポワロが「幻想的な犯罪」と呼んだ不可思議な殺人の幕が切っておとされ、殺人鬼の知恵とポワロの灰色の脳細胞とはすさまじい緊張のうちに対決した……
  • 剣の八
    -
    謎の訪問者の来た夜は、あらしが吹き荒れていた。折からの停電で屋敷の中は蝋燭の光しかなく、一瞬、屋敷に落雷したかと思うほど凄まじい轟音がとどろいた。翌朝、書斎のドアから洩れる電燈の光に、不審に思った下男が窓からのぞいてみると、主人は、頭部をピストルで射抜かれて死んでいた。兇器はみあたらず、死体のそばには、一枚のカードが落ちていた。トランプに似た、八つの剣が星型に組み合わさった、死のカードだ! ギデオン・フェル教授は、殺人鬼が、まもなく次の犠牲者をねらうことを予感した……。
  • ホームズの事件簿
    -
    コナン・ドイルの書いたシャーロック・ホームズもの最後の12編が、短篇集「ホームズの事件簿」である。当セレクト文庫でも、これによってホームズもの全作品(長編4、短編56)が読めるようになった! この巻には「有名な依頼人」「白面の兵士」「マザリンの宝石」「三人ガリデブ」「ソア橋事件」「覆面の下宿人」の6編を収めた。
  • 移動祝祭日――回想のパリ
    -
    ヘミングウェイは1921年から6年間、22歳から27歳という最も多感な時代をパリで送った。「もし、きみが、幸運にも、青年時代にパリに住んだとすれば、きみが残りの人生をどこで過ごそうとも、それはきみについてまわる。なぜなら、パリは移動祝祭日だからだ」これは彼が友人に語った言葉だが、それがそのまま遺作の本書のタイトルとなった。サン・ミシェル広場のカフェで、カフェオレを飲みながら、黙々と小説を書くヘミングウェイ…スタイン女史、エズラ・パウンド、ジョイス、フィッツジェラルドなどとの交流を通して、20年代のパリがよみがえる。

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  • ある羊飼いの一生
    5.0
    1910年に書かれたこの作品は、英国中南部のウィルトシァを舞台に、老羊飼いケイレブ・ボーカムが当時の田舎の人々の暮らしと自然を淡々と語る物語。「老羊飼いの故郷愛──羊飼い生活五十年──ボーカムの風変わりな様子──タヒバリの話──ケイレブ・ボーカムの父親──父と子──感謝する狩猟家とアイザック・ボーカムの年金──老夫婦の一方が亡くなると連れもすぐ亡くなること──村の墓地で──農業労働者の墓石とその物語」……この第一章の見出しだけでも、十分にこの作品に描かれる自然と人々の日々の暮らしの機微が伝わってくる。

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  • 湖中の女
    -
    フィリップ・マーロウはサンバーナディオの湖の別荘を訪れた。澄んだ湖水、明るい陽光…だが、緑がかった水底に発見されたのは、目も口もなくなった女の死体だった。これが化粧品会社社長の失踪した妻クリスタルなのか? そうではなかった。クリスタルの情夫を再訪したマーロウは、元気だった情夫の射殺体と対面させられる。難解な事件に奔走するマーロウ。

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  • 第四の郵便屋
    -
    近くの家で、時計が十時を打った。殺人者はあらゆる神経を緊張させて固くなった。あと数分間である。被害者は何も知らず、おそらくは口笛さえ吹きながらやって来るであろう。死体の倒れるときの、あのなじみの音がまた聞こえるはずだ。笑いとペーソスが光るクレイグ・ライスの秀作。

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  • セントラル・パーク事件
    5.0
    カメラマンのビンゴと助手ハンサムは、ニューヨークの街頭写真師だ。通行人や旅行者の写真を撮ってカードを渡し、25セントを送ってきた客にできた写真を送るのが商売。ハンサムは背が高く二枚目で、ご婦人方にもて、そのうえ、新聞に出ていることならなんでも憶えているという超人的な記憶の持ち主。その日も、二人は、セントラル・パークで、観光客相手に写真を撮っていた。7年前、公園の名物男ピジョン氏が、五十万ドルの生命保険をかけたまま謎の失踪を遂げたところだ。「ピジョン氏が失踪したその場所で撮ったあなたのお写真、すばらしい記念品になります」そう言ってカードを差し出すと、だれもが受けとった。商売は上々だった。だがその夜、暗室で昼間の写真を引き伸ばしていたハンサムは、笑っている男女を撮った写真の背後に、あのピジョン氏が写っているのを発見した!

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  • 影が行く
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    現代SFの真の育ての親、キャンベルの珠玉・中短編集。南極大陸の大氷原の下から探検隊が見つけた、おどろおどろしい物体の話「影が行く」、人類がその尊厳と価値を忘れ去ってしまった二万年後の未来を描いた「薄暮」、原子力発動機にだけ頼ろうとする異星人と人類との闘いを描く「エイシアの物語」など、どの作品も創意にあふれている。28歳のときの作品「影が行く」は、『遊星よりの物体X』(1951)、『遊星からの物体X』(1982)として二度映画化されている。

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