ロジャー・ゼラズニイの1960年代中盤までに発表した中短編15作を収録した短編集。
すごく良かった。
40年以上昔の作品なのに、古臭さを感じさせずなんとも言えないカッコよさと深い余韻に浸れるSF短編集でした。この本が今は絶版であるのは勿体無い。
アイデアやプロットや登場人物、シチュエーション等は
...続きを読む面白かったり驚かされたりするのに、文章が野暮ったいなあ、回りくどいなあと感じて中身にあまり引き込まれなかったり、その結果友人に勧め難かったりする小説があります。
この短編集は、そのような小説とは異なり、アイデアやプロットは50年代のSF小説にもありそうな古い設定のものもありますが、兎に角カッコよく、一気に引き込まれ、読み終わった後更に含みがあるのではとあれこれ想像しながら心地良い余韻に浸れ、友人にも自信を持って勧められると思いました。
ただカッコよさも、クールさや淡々としているだけというのでは無く、コミカルさや逆にシリアスな状況、深い情感も文章でちゃんと表現されているので、ただのスタイリッシュなだけの小説とは違う味わい深いカッコよさが伝わるのだろうと想像します。
私のこの感想が、野暮ったくて、回りくどいので伝わり難いのですが、私にとってゼラズニイは、クールすぎずホットすぎず”ちょうどいいカッコよさ”を伝えてくれる貴重な作家だなあということです。
この短編集の作品は、どれもカッコよさの中に深い情感とコミカルさまたは哀愁を味わえる、私にとっては傑作ばかりでした。
その中でも特に好きなのは、『その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯』『この死すべき山』、『十二月の鍵』、『伝道の書に捧げる薔薇』、『このあらしの瞬間』です。
<備忘録>
●この死すべき山
惑星ディースルにある誰も征服したことが無い山の登攀にまつわる話。
●十二月の鍵
極寒惑星に適応するため猫形態に改造された人間たちが、新生爆発の影響で目指すはずだった惑星が消滅したところから始まる話。
●その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯
金星の海に棲息する巨大魚竜(通称イッキー)捉えることに命を賭する人々の熱くしかしコミカルにも感じる話。
●伝道の書に捧げる薔薇
探検隊の一員として火星にやってきた詩人(言語学の専門家でもある)が、火星人の歴史的・宗教的文書を読み解いていくことろから始まる話。火星の美しい娘との恋愛も絡んでくる。
●このあらしの瞬間
「白鳥の国」と呼ばれる辺境の惑星で、害獣から市民を守る仕事につく男の話。