長嶋有のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
今作も作者ならではの、言葉にできないちょっとした気持ちの機微を見事に表現してくれる文がいくつもあって楽しめた。
話はMSXという昔のパソコンをキーワードにそれを昔もっていたり持っていなかったりした人が少しづつ関わっていって、「ロードムービー」というより、ちょっと少ないロバートアルトマンの群像劇的的。
世代的にはギリ当てはまるのだけど、MSXは見たこともないので、そのを熱く語られてもよく分からず。いつも作品よりより今回はいろんなことが「起こる」のだけど、だからと言って印象がドラマチックにならないところがさすが。今のところすぐに2回目を読もうとは思わなかったから3点。でもまた読みたい。 -
Posted by ブクログ
表紙がとても綺麗で手に取りました。
二十四節気は知っていても、それをさらに三等分した七十二候は知らない人が多いのでは?
わたしも今回初めて知りました。
雉始雊(きじはじめてなく)というように、動詞で示されているのが、分かりやすい。
どれも現代人にも理解できるもので、時代が変わっても季節の移ろいは変わらないものだなと思います。
この本では、二十四節気の春夏部分を抜き出し、また、各節気の真ん中の七十二候をタイトルに各自が短編をお書きになっています。
思えば、短い作品は触れてこなかったので、どれも不思議な余韻を残す終わり方で、こちらの想像力や読解力を掻き立てるなぁと短編の面白みを初めて知りました。
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Posted by ブクログ
星子、娘・拠(より)、恋人・称(かなう)、友人・志保、大人だってたくさん楽しみがあり、恋もする。そんなことを思い出させてくれる一冊。登場人物たちの名前がとってもタイプ。
p.106
「人って、なにかに失敗してからずっと、失敗したままの状態で過ごすことって、なかなかないじゃないですか。たとえば、花瓶が割れたらーそれは失敗だけどーでもすぐに片付けるでしょう。花瓶の破片を」
「たしかに、ずっと割れたままの部屋で暮らし続けないですね」
「そうしないと、少しずつ荒みますよね。部屋に死体があるみたいにすごく悲惨なことではないけど、いちいち破片を意識して暮らすのって」言いながら、ダーツを持つ手の肘から先だけを幾度か動かしてフォームを定めている。星子は緊張してきた。先生が20のトリプルを出したらさらに重大な言葉が出てくるかのように思えてきた。
「深刻ないじめとか、不登校とか、そういう、いかにも問題モンダイしていないモンダイってのも生徒にはあるんですよ」
「そうですね」先生ついに投じ方を定めたか、ダーツを持つ手を大きく動かした。放る!
「......いや、拠ちゃんは別のことでモンダイモンダイしてるかもしれないんだったわ」放らなかった。星子の方をみたときの眉の動きで、塾の講師の噂のことだと思い出すことができた。
「とにかく拠ちゃん、放課後とか進路室に遊びにきてるとき、なんかよくない、卑屈な笑い方をするようになってて。それは、そうなるのももっともだし、心配なんだけど・・・・・・心配よりも先に『よくない、ダメ!』って思っちゃって」
p.209 でもそのとき、そこに、星子さんがいなかったんですよ」そんなことでと星子はいいかけてやめた。そんなことで、人を好きになるの?
、それからそのことをずっと気にかけて生きてきた…・・・・わけあらへんけど、あの日、あのとき同じことが起こって、星子さんと話せたことで、あのとき映画を観て『ないことになっていた』自分が再び、生き始めたっていうか。…・・・・それで、短編でいいから作りたい映画を作ってみようって、その日思ったんです」
「ありがとう」
「ありがとう、て」称君は年上の男みたいに笑って、星子の額に口づけた。
「好き」という言葉は、少し前の暗闇で抱かれながら何度も言ってしまったので、今の「ありがとう」はまだ心のそこらに余っていた言葉を手に取って言った、みたいな感じがした。
「言葉」はいつでも心のそこらに、固体のように石のように、無造作に転がっている。たとえば穏やかに暮らしているとき、怒りにまつわる語彙はごろごろ転がりっぱなしだ。いざ怒ったとき、適当なそれらを拾って放る。そうしてみると「好き」とか、セックスに至る際に用いるようなむき出しの言葉は、かなり長いことごろんと置かれていたな。もうあと何回使うんだろう。いつまで続くかまるで分からない、今だけかもしれない恋人の手にもたれながら星子は目を開いた。ホテルのカーテンは分厚く、光は差し込まなかったがきっと明け方だ。いつもと感触の違う枕の裏からスマートフォンを取り出して時刻と着層を確認する。拠からは前夜の〔呑みすぎ注意!〕以後、新たなメッセージは来ていない。夜食を一人で食べてまたこんこんとノートを埋めている娘の姿を浮かべ、少しだけ胸が痛んだ。
p.281
「準備の足りない人も、実力が足りない人でも唯一、なんのコストもなしにすぐに持てるものが一つだけある」
「なに?」
「それは勇気です」
うん。拠は頷いた。あのとき志保が書きかけて送しなかった言葉を、書いている小説にも使ったし、形を変えてどうやら今朝、若者を一人鼓舞した。まあいい、手柄はもらっておこう。
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Posted by ブクログ
東日本大震災の爪痕も生々しい2011年7月~2014年4月までの出来事を春菜、美里、神子の三人を中心に綴られている
実際にあったことをベースに書かれているので、誰かのゴシップや亡くなったことなど…ああ、こういうことあったなと当時を思い返すことが多かった
辛い出来事がどれだけたくさんあっても、それでも日々は続いていくという予感で終わっている所が良い
そこにただ生きる人々を真摯に描いている
読み終わったあと、トムラウシ山遭難事故を調べたけど、中々凄惨な内容だった…
こんな大規模な遭難事故なのに、全く知らなかった自分にちょっとショックを受けた -
Posted by ブクログ
2003年〜2010年に各誌で発表された短編を集めた一冊。それぞれに共通のテーマや関連はないが、どれをとっても長嶋節という感じ。
穏やかならぬ展開を見せる作品も中にはあるものの、日常の他愛ない場面を切り取って、誰しもが心にちょっとだけ引っかかっている感情を呼び起こすテイストが通底している。
PHS、オザケンの『LIFE』を録音したMD、木村カエラの『sakusaku』、「四角いニカクがまあるくおさめる」やつ、などスマホ前時代の風物がちょっと懐かしい。
さらには、浅香唯の『セシル』や夕方の『特捜最前線』再放送など、作者と同い年の自分からするとノスタルジーも甚だ。
高校時代の不良との甘塩っぱい思い出をクールかつエモーショナルに描く『マラソンをさぼる』と、非日常シチュエーションに似つかわしくない由無し事がつい頭に浮かんでしまう女性主人公のアンビバレントさが面白い『噛みながら』が特に印象に残った。
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Posted by ブクログ
事故、自殺、早逝…誰かの不慮の死の報せに触れたとき、人は全く関わりがなく関心もなかったはずの他人の人生に思いを馳せたくなる。
誰もが思い当たるこの心情に踏み込むニッチな語り口。
この小説は、2011年の大震災で多くの生命が失われたことを契機にしている。2024年の元旦、能登でまた大きな地震があり予期せず失われた生命が多くあったことを報じる様子を聴きながら、このレビューを書いている。
巻末に「本作に登場する主な死者と死因」のリストが掲載されている。殆んどは現実に起きた(2014年以前のものだが)有名・無名の人の死ではあるが、明確に憶えているものもあれば、すっかり忘れかけていたものもある。
人は自分の生き方を選ぶことはできても、自分の死に方を選ぶことは難しい。
ましてや自分の死が他者にどのような思いを抱かされるのかなど制御のしようもない。
そんな儚い普遍に改めて気づかされる。
久々に長嶋有を読んだが、登場人物の境遇や心情の機微を拾う視点のユニークさは相変わらず。
そのディテールの綿密さを、書くほうも読むほうも楽しむという面がある。
セガサターンへの偏愛は著者の趣味の反映そのものだと思うし、大学講師・布田や蕗山フキ子の造形なんかはちょっと悪ノリを感じる。