長嶋有のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
いかにも「泣かせまっせ、今回は!」と売り出した出版社が足を引っ張ってる気がした。
長嶋有の作品はそういうんじゃない、と思う
否、思いたい。
表題作『泣かない女はいない』は、よくある物流会社の日常と、生まれていく繊細な恋愛のようなものと、変わっていくものものを描いている。
『センスなし』は、壊れていく夫婦と壊れない女の友情とを交互に描いている。
本文中の表現で
激情して夫を置物で殴ろうとして避けられた主人公と、新聞記事にて同状況下フライパンで殴打され死んだ男(妻の攻撃を一度も避けなかった)の対比。
慰謝料では慰謝されないから、額に肉と入れ墨してと頼み、それはすごくいい案だと思っ -
Posted by ブクログ
「 忙しいんだね、いいじゃない。そういおうとしたが、やっぱりやめて
『トロントってカナダだっけ』にする。」
この、
そういおうとしたが、やっぱりやめて
「 ~ 」にする。
って感じがすごく、しっくりくる。
いかにも昔付き合ってた子との会話って感じがする。
昔みたいな軽口をたたこうとしたけど、どこまで踏み込んでいいかわからず思いとどまるみたいな。
そういう自分の感覚と妙にマッチした表現。
「やっぱりやめて~にする。」
やっぱりこの表現好き。
あのときそばにいた人がいなくなるのは悲しい。
単純なことだけど、
でも、あのときいたことは変わらない。
かわらない友情と、かわっていく愛情。 -
Posted by ブクログ
まず、カテゴライズに悩んだ一冊でした。「書評」としてもよかったのだろうけど、それは何だか違うだろうと。書評という軸を持った私小説だろうと判断したので、私小説としました。
AV監督である主人公が離婚調停中の妻への気持ちと我が子への想いを、調停などの過程に沿って綴ったものです。ひとつひとつのチャプタごとに一冊の本を取り上げて進んでいきます。あくまでフィクションとして。
町山智浩の解説までぜひ読んでほしいです。
ふと思ったことは、穂村弘はモテ、枡野浩一は非モテだということ。
暗い気持ちになるし、離婚のごたごたばっかり文章にしやがって、という気持ちもあって、評価に悩みました。でも、それだと読まなきゃい -
Posted by ブクログ
表題作を含む4つの短編集。
長嶋有の小説は好きなのだが、どこがどういう風に、とレビューとして書くのは、いつも難しい。
何か大きな事件が起きる訳でもなく、何かを暗示するような象徴的な出来事がある訳でもなく、その登場人物たちの日常に起きたちょっとした事(このちょっとした事というのが重要なのだが)が丹念に描かれているように思う。
私が一番好きなのは、『三十歳』という話。
上司との不倫で、勤めていたピアノ教室を辞めた秋子は、せまい部屋にグランドピアノを置いている。そして働き始めたのはパチンコ屋の景品係。そこで年下の安藤という男と親しくなっていく。
この秋子の激昂するでもない、淡々とした感情が -
Posted by ブクログ
表題作/夜のあぐら/バルセロナの印象/三十歳、の四篇。
路傍に潜む心の引っ掛かりは、あるものとして、在り続ける。「どこか」を、目を開いたまま無意識に渇望する常態。
かすめるのは、漫画について思わず判を押したように反応してしまう世代感だったり、聞きなれない電化製品のネーミングとの距離感だったり、何かを発する人や土地と居場所へ腑に落ちるまでの時間だったり、人の少しだけずれた行動に気がついた時のひそやかさが逆に安定させる高揚だったり。
やっぱり好きだなぁ、長嶋さんの文章。描かれた佇まいがふんわり浮かぶ。それはきっと人それぞれで。さらりとしてるのに切実。零れ落ちるものたちの、容赦なさと優しさ。呆然と泰 -
Posted by ブクログ
「泣かない女はいない」と「センスなし」という中篇がふたつ。「泣かない〜」が景気悪そうな小さい会社の事務職に就職したOLの話、「センスなし」が夫に愛人ができて離婚しそうな主婦の話。どちらにも、雪の日が出てくる。長嶋有の小説はやっぱり好きだなと思った。なんだかすごく淡々としている感じとか。なのに、妙なところですごく細かい部分にこだわるようなところとか。(「センスなし」で主人公がデーモン小暮のファンってことで、やけに詳しい話がおもしろかったり。)主人公がいろんなところでわかっているようなわかっていないようなあやふやな感じとか、結論らしいものがないところとか。でも、なんとなくさわやかなようなところとか
-