長嶋有のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
不完全な大人たちを、それを見つめる子どもの感覚からじっくりと書かれた純文学。芥川賞受賞作。面白かった。
【あらすじ】
主人公は慎(まこと)。小学五年生。両親が離婚し、祖父母が暮らす北海道の団地に二人で身を寄せていたが、小学校に上がる前に公団住宅に引っ越し、母と二人で暮らしている。母はガソリンスタンドで働きながら保育士の資格を取り、引越しを機に就職したものの長続きせず、今は市役所で働いている。そんなある日、映画に行こうと連れ出された車の中で「私、結婚するかもしれないから」と告げられる。慎は驚き、少し黙って「すごいね」と返す。
やがて現れたのは、父親になるかもしれない慎一。手塚治虫のサイン本を持ってきてくれたり、「アイスの蓋はなめるよね」と気さくに笑いかけてくれたりする人物で、慎も取り乱すことなく適度な距離感で彼を受け入れていく。
【感想】
慎が子どもだからといって過剰に悲劇のヒーローぶったり、大人に甘えたりしないのと、母もそんな慎を過度に子供扱いしないのが良い。その距離感が絶妙で、読んでいてドライな中にある美しさのようなものを感じる。慎は子供ながらの無邪気さを持っていないし、母は〝ちゃんとした大人〟ではない。それはこういう生活を通して欠落したものだと思うんだけど、それでもいいじゃんと思わせてくれる。単純に二人を応援したくなった。
子ども独特の鋭さで「お母さんも一人の人間」と捉えているのがすごくて、その感覚が瑞々しさを保ったまま文学として再現されていた。自分も小さい頃、大人を見て「あ、今イラついてるな」「この人とこの人仲悪いな」「壁を作りながら話しているな」などと考えていたのを思い出した。
大人だって完璧じゃなくていいし、子どもだってそんなに弱くない。
実際「大人ってもっとちゃんとしてると思っていたけど、全然そんなことなかった」って、大人になってから気がついた人は多いと思う。
あと、併録されていた『サイドカーに犬』もめっちゃ良かった。こちらは文學界新人賞を受賞し、芥川賞候補作にも選ばれている。こちらも子ども目線で書かれたお話で、家出した母と入れ替わるようにやってきた、父の愛人・洋子さんとの夏の思い出を書いている。
カレー皿にザッと苺を盛ったり、麦チョコを食べながらサバサバと接してくれたりする洋子さんは、主人公の少女・薫にとって、実の母が作った「ルール」の外側にあった。こんなことしても良いんだ、と目から鱗が落ちたように、「自由」に触れていく。 -
Posted by ブクログ
ある部屋に住んだ歴代住人達の日常生活を描いた話。主人公は人というよりも、部屋そのものであるように思える。
歴代住人の生活が順番に描かれるのではなく、些細なつながりを起点にして、住人の様子が描写が目まぐるしく行ったり来たりする。解説で村田沙耶香も触れているように、住む時期の異なる住人が同時に存在している感触を持った。この空間を固定したがゆえに可能になった、他の物語にはない時間性がこの作品にはあり、こういう物語の描き方があるのかと驚く。
何でもない日常が、本人達の知らないところで、つながったり、重なったりすることに感動した(月並みな表現だけど‥‥‥)。日常生活の細部を描ける長嶋有の長所が上手く生きた作品だと感じた。
補足だが、時事ネタを丁寧に盛り込んだ点も、ある住人の残酷な未来が飾られることなく一行でポンと置かれていてぞくっとするところも、良かった。 -
Posted by ブクログ
長嶋先生特有の人間描写、言葉の選び方がそれぞれ光っています。夏のプールの水面に映る水しぶきが、同じに見えてもいっ時いっ時すべてが違っているように唯一無二の輝きです。私は特に長嶋先生がもとより大好きなので贔屓目も入ってしまうのだけれど、小さな事柄の楽しみ方の向かう方向、行き着くところが同じ気がするので。
マンションの中庭の子どもプール、地域の市民プール、果ては与那国、ロンドンにまで場所を広げての人と人のかかわり合い。それぞれの視点から淡々とそれでも心根は熱く読み込めて何度もページをひっくり返しながら。
夏の濃い緑の林の木漏れ日、プールの塩素のかすかな匂い、暑すぎる日差しが感じられる小説です。 -
Posted by ブクログ
これ凄い好き。
私なんか全然本読んでないなーって思った。
若林さんがそもそも繋がっている、なんなら飲み仲間作家さんとの鼎談から始まって。初めましての作家さんも登壇してくるんだけどこんな会話繋がって凄いなー掘り下げてるなー面白いなーってのが連続するんだから。
タイムリーにみたかったなー。もっと対談して欲しい作家さんいるなー。私が好きな作家さんの本がお勧めされてて嬉しいなー。
もう紹介されてる本片っ端から全部読みたいっ!!すべての回でその時話題に上がったテーマでお勧めの本を作家さんが紹介するんだが、これが垂涎なんです。紹介の仕方にも唸る、だってどれもこれもすっごく読みたくなる。
沢山の本の中からキラっと光る物を探し当てた気分。 -
Posted by ブクログ
▪️サイドカーに犬
洋子さんが薫に「私の脚さわってみる?」と聞くシーンが好きだ。寂しさや怖さを紛らわせるために抱きつく場合を除いて、子供が大人に触れることは何かタブーのような気が当時はしていた。少なくとも大人の脚に触れた記憶は自分にはない。(忘れているだけかも知れないが)
脚に触れるとき、きっと薫はドキドキしたであろう。大人ってこうなんだと。大人ってかたいんだと。脳内にある大人という存在に感触が加わることは薫の世界を広げてくれたであろう。
ヤマシタトモコさんの『違国日記』(漫画)を読んだ際にも感じたが、ルールは大人から与えられるものではなく自分で決めていいものなのだ。大人なんて実は大したことないのだ。と気づかせてくれる存在は本当に貴重だと思う。
自分が初めてそれに気づいた時、おい、だったら人生ってめちゃくちゃ楽しいじゃねぇかと、まだ自分は人生のスタートラインに立っていなかったのかと、瞳孔を開いてこれまで見ていた景色を再度見渡したことを思い出した。
修羅場から逃亡するお父さん、ダサくて最高だったな。 -
Posted by ブクログ
アナログ世代にはわかりずらいかも知れない内容だけれど、長嶋有先生の芯は私もやっぱり同じなのかも!と思わずにいられない。
あらゆる場面での言葉の選び方、感情表現の仕方が丁寧でこちらも丁寧に読み込んでしまう。連作短編集なのかも、という形を取ってはいるけれど全て繋がっていることに意味があり、登場人物たちも笑っちゃうほどイキイキしている。うっかりそこいらへんですれ違ったらわからないけど、彼らの会話を聞いたりしたら十年来の友人を装って声かけてしまいそう。
専門用語わからないにしても、雰囲気だけはわかったつもりになって相槌打つ自分が見える気がする。笑われそうだけど。
毎回、新刊のたびにベクトルの向き方が一緒と考えているけれどおこがましいにも程がありますが、楽しみにしていた新刊、またじっくり眺め回してます。
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Posted by ブクログ
『サイドカーに犬』と『猛スピードで母は』の2編
個人的には前者の方が好みなのでそちらについて感想を書きたい。
ドイツ製のライトは洋子さんの芯の通った1人の女性を体現するアイテムだったと思う。
洋子さんと私の一夏の関係を描いた作品だったが洋子さんの存在が現在の私にどう影響し最後の「そろそろ」とは何を指すのか。
恐らくこの期を逃せば、私は独り立ちのできない理想をいえば洋子さんのような女性にはなれないのだろう。母のハンドバックを借りたと言う描写から未だに親離れしていと考える。
偽装硬貨が夏休みの終わりを知らせるベルというのは粋で最高のオチであった。
この作品は夏休みという限られた期間、無駄のない文といくつかのアイテム(チェーホフの銃)という必要最小限に洗練された話だった。
後者について一言書くとすれば
憂鬱でどんよりとした話であったが心が沈むほどには重く感じない。慎の成長とラストの爽快な絵がそうさせているのか救いようのないバッドエンドの手前であったからなのか。