長嶋有のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
爽やかな読後感だった、の様に表す事が少し憚られるが…、私がその様に(爽やかだったと)感じるのは、自分が概ね主人公と同世代で、就いた職種こそ違えど時代ごとの同じ様なモノ、コト、に興味を持ち、同好の士と集い、語らい、…という経験を経て来ているからであろう…
私が「憚られる」と書いたのは、主人公とその周りの人物がいずれも「オタク」的な視点、生きがい、興味の対象、を持っている事が生き生きと描かれているからかもしれない。その生き生きとしたさまに多いに頷かされるのだが、果たしてこの楽しさを自分の身の回りの人(非オタクが多い)にすべからく上手く伝えられるか?、と言うと疑問ですらあったからである。
ただ、作者が創作した登場人物は全て愛すべき、「オタク」達である。また、同世代ばかりで無く、少し上の世代、はたまた今どきの若者世代までの広く、友好的な反応を楽しめる事も作品としての優しさを感じる。
…実は装丁を見た時からわくわくしていた。だいたい知っているもの達のコラージュであったので。ただ、1、2枚だけ「オタク」とは場違いなスポーツカーの画像が挿し込まれており、疑問を感じていたのだが…、最終章まで読み終えて納得した。 -
Posted by ブクログ
中編「トゥデイズ」と短編「舟」。どちらも良かった。3.5。
前作「ルーティーンズ」に続き「ズ」がつくのも、何か意図があるのか。
「トゥデイズ」はマンションで起きた飛び降り事件をきっかけに、何かが起きる、、、ことはなくそれぞれの日常が淡々とユーモラスに進んでいって、でも、小さな一つ一つの出来事は少しづつ生活に影響を与えてるような、いないような、という作者の真骨頂。それにしても今回は何も起きな過ぎな気もするけど。
「Battery Low」とか「ゴアテックス」とか日常に聞く言葉もちゃんと立ち止まると楽しいということを毎回ながら再認識させられる。
「ゴアテックスというドスの利いた呼び名のその素材にも信をおいた」とか、
寝かしつけのときに「寝ないと朝が来ないよ」と言うのも素敵だと思った。
今回も「要約では意味がない、とにかく全部読まないと良さがわからない、読んでも時々わからない」、という素晴らしい体験が出来た。再読したい。
「舟」は「水平リーベ、僕の舟」というなんだか「言いたい」フレーズから始まる短編だった。コロナ禍の高校生が読んでもリアルな感じなのかな?と高校生を遠く離れた自分は思った。
同じ作者の「僕は落ち着きがない」とかを思わせる学校小説。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ⚫︎感想
離婚しそうな、またはシングルの親を持つ設定の2篇。どちらもタイトルにインパクトがあり、同じく大人との距離と自立がテーマだと思った。
「サイドカーに犬」母の家出後、洋子さんという父の愛人と暮らすことになる。母とは全く違うタイプで自由な女性。「猛スピードで母は」は彼氏はできるが長続きせず、そんな母を見ながら育つ少年。
どちらも、スカッとしたカッコいい女性像でありながら、100%そういうわけでもない一面を見て、少年少女は彼らの生活を通しながら、少しずつ少しずつ精神的に大人になる。母に大きな出来事が起こっても、冷静な自分を発見し、驚くという場面が二作ともあった。そこがまた、現実味がある気がした。なんにせよ、日常は否応なしに続いていくから。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
「私、結婚するかもしれないから」「すごいね」。小6の慎は、結婚をほのめかす母をクールに見つめ、母の恋人らしき男ともうまくやっていく。現実に立ち向う母を子どもの皮膚感覚であざやかに描いた芥川賞受賞作に加え、大胆でかっこいい父の愛人・洋子さんと小4の薫の奇妙な夏の日々を爽やかに綴った文學界新人賞受賞作「サイドカーに犬」を収録。子どもの視点がうつしだすあっけらかんとした現実に、読み手までも小学生の日々に引き戻される傑作短篇2篇。 -
Posted by ブクログ
アンティークというよりも古道具屋然としたフラココ屋。その2階の倉庫に居候する主人公の"僕"は、ほとんど売れない店番をしながら、どのような客が訪れたかをメモしている。のほほんとして商売気のない店長、毎日訪れてはお気に入りの長椅子に座っていく瑞枝さん、裏に住む大家の孫で、いつもノコギリで木を切っている美大生の朝子さん、時々フラココ屋の掃除などを手伝ってくれる、定時制高校生で朝子さんの妹の夕子さんとのちょっとした日常を綴るアンソロジー作品。
作中の登場人物にも直接指摘される「透明な」主人公は、何の欲もなくとにかく流されていく。元金持ちだという瑞枝さんには風呂の道具を押し付けられ、ちゃぶ台を持って電車に乗る。安い給料の代わりに、家賃無しで倉庫に寝泊まりしているだけだが、店長をはじめとしたいろいろな人に気に入られていく。
一方で、他の登場人物は軒並みクセが強く、様々な小さな事件を巻き起こすが、みんな楽しそうなのだ。
この手の芥川賞的な(これは大江健三郎賞だが)、純文学を志向する作品は、どことなく破滅的で退廃的な雰囲気の登場人物が多いが、本当にこの作品の良いところは、スクーターでコケても、大きな絵が偽物であっても(かどうかはわからないが)、高校生なのに妊娠しても、どこかみんな、あっけらかんと明るく過ごしているところが、この作品の醍醐味であろう。
長嶋有の他の作品にもあった、ライトノベル的にト書き分で会話や会話の返答を示したりするため、ところどころ読みにくいと感じるかもしれないが、この人はこういう作風なのである。だからといって高尚とか小難しいとか考えなくて良い。単純にエンターテインメントとして楽しんだら良い作品であろう。 -
Posted by ブクログ
好きな小説だった!
文章に余計な装飾がなく、美しくて読みやすい
表題作の『泣かない女はいない』と『センスなし』の中編2作が入っていて、私は泣かない〜の方が圧倒的に好きでした
睦美の目からみたときの樋川さんの些細な仕草や行動、言葉が本当に魅力的で私も樋川さんがかなり好きになってしまった
『泣かない女はいない』という訳し方もまたいいんだ
何だか分からないけど、目で追ってしまうような、存在を意識してしまうような、恋と自覚する前の睦美の心の動きがとても良い
最後のシーンでぐっとくる
女泣くな 女泣くな
それにしても99年ってこういう年だったのか、生きていたけど記憶にないことが多かった
『センスなし』の方はあんまり好みじゃなかったので足して割って本として星4でした -
Posted by ブクログ
久しぶりの長嶋さん、随分楽しめました。
中編「トゥデイズ」と短編「舟」の2編。
「トゥデイズ」はちょっと古いけど大きなマンション群に暮らす一家を描いた作品。冒頭が同じ棟で起きた飛び降り自殺という不穏なスタートですが、やんっちゃ盛りの5歳の息子を見守るごく普通の夫婦の日常を描いた作品です。
長嶋さんらしく、特に何か大きな事件など起こるわけでは無いのですが、読むにつれどんどん引き込まれて行きます。同じように大きなマンション群に住み2歳の息子を育てている娘夫婦のことなど思い出しながら、「そうだよな~」「そうなんだろうな~」と思いつつ読み終えました。
一方「舟」はコロナ下で歯列矯正に通う女子高校生の恋とも言えないような淡いときめきを描いた作品です。やや古風なタイプにも思えますが、多分普通の女の子ってこんなものなのかな。なんかホッとする短編でした。 -
Posted by ブクログ
妻に浮気され離婚したゲームデザイナーの七郎は、9月のはじめに津田の同僚の大輔の結婚式に呼ばれる。結婚式後にキャバクラで津田のお気に入りのサオリと同僚のゲームマニアの娘に気に入られる。ゲーム制作から離れた七郎は、気に入っていた過去の会社と妻への愛着から離れられないが…。
長嶋有のぼんやりした話で、9月からの日々と津田と妻との思い出とを交錯しつつ語る長編。津田のパラレルで平行に進む女性関係を描きつつ、七郎の妻や津田、サオリとの交わりかけては交わらない人間関係など、ダブル、トリプルミーニングのタイトルに繋がっていく。
数年前なら「掴みどころがないぼんやりした作品」とレビューしていただろうが、さすがに慣れてきたな。むしろ平行にどこにも収束しない話は、リアリティを感じる不思議な感覚である。
ぼんやりした七郎、ドライで全くこだわりのない女性陣、ボケというか全方向に全力で誰の意見も聞いていない津田など、取り立ててものすごいでもないキャラクターもうまく使い分けられているため、混乱も少ない。
ストーリーの起伏の弱さは素人向けではない部分も多い作品ではある。芥川賞的な作品なので、流れをそのまま素直に読むべき作品である。