長嶋有のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
意外に面白かった。
もっと嫌になるかと思ったからだ。
私は主人公よりもその妻に近いところにいる。
2人にとっての真実がどこにあるかはわからないから、ここでその是非を問うても意味はないだろう。
そもそも、人と人との関係において正しさは無力で、正しくても正しくなくても暮らせないものは暮らせない。そして、自分がどうしても子供を失いたくないと思えば、正しくないことだって私ならするなと思った。
ただ、著者はおそらくとても正直な人で、ここに書かれたことは彼の世界の真実なのだということは信じられる気がした。
書評という体裁を取っていることは、私には功を奏しているように思えた。ことの顛末についてそのま -
Posted by ブクログ
横浜北部にある第一藤岡荘。都内へのアクセスもよく、かと言って郊外だし家賃はお手頃。出来た当初の60年台は4人家族が住める、火災報知器も完備と謳った風変わりな間取り。
その角部屋でもない五号室に住んだ人々の暮らしを描いている。
60年台から10年台の50年間。
言わば五号室の生涯だ。
五号室の間取りは極めて詳細に描かれている。
日本が変化した時代。それぞれライフスタイル、年代、人数、性別、出身国も異なる人々を、五号室という額(フォーマット)に収めて鑑賞する形だ。
額である五号室は読者が思い浮かべられるほど鮮明に、壁のコゲ一つまで描写される。これにより人々の暮らしへの解像度が上がるという仕組みに -
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Posted by ブクログ
若林さんは不思議な人だ。
めっちゃ自意識過剰で自己防衛本能が強くて、見栄っ張りでカッコつけ。本音は言わない。
だけどスッと人の懐に入ってくる可愛げもあるんだなぁ。
この本では、若林さんのそんな部分が遺憾無く発揮されていて、終始ほっこり見守る気持ちで読むことができる。
人が死ぬ本ばっかり読んでたアタマが癒される〜。
私が好きなのは、羽田圭介さん&藤沢周さんの回。
この回は、若林さんが話すボリュームも多くて、羽田さん、藤沢さんとの相性の良さを感じる。話してることもほどよくカタくて、良い意味で、男同士っぽい感じ。小気味よくてずっと読んでたい。一冊丸ごとコレでもいいなぁ。
あとは角田光代さん -
Posted by ブクログ
ネタバレ懐かしの昭和後期。芥川賞候補作と受賞作。どちらも読みやすい。昨今の芥川賞、設定が凝りすぎているものも多くて読むのがしんどいなってときはこの年代の作品を読み返すのもありかな。
サイドカーに犬
芥川賞候補作。母が家を出て知らない女が家に来た。
猛スピードで母は
芥川賞受賞作。ハードボイルドな母は強し。
サイドカーの主人公は小四女子、猛スピードの主人公は小六男子、この二作品は一冊の本として纏められてしかるべき作品だ。バラバラだと魅力は半減するかもしれない。母と子の関係を通した昭和の空気感がとても懐かしい。タイパ、コスパというものがまだ存在しない時間の流れに身を浸すことができた。
長嶋さん19 -
Posted by ブクログ
長嶋有さん、好きだー。
車で移動する主人公たちの、連作ロードノベル。
乗り合うメンバーは少しずつ入れ替わり、目的地も変わり、みんなの人生がなんとなく動いていく(車にいっしょに乗るって、独特の距離感だよね)。
「男の子」の好きな漫画、歌がたくさん出てくる。
この小説でも殺し文句がいくつも登場するが、いちばんぐっときたのが、
「男の歌を口ずさむこと以上に、好きな車がある女は皆、素敵だ」
というくだり。
『猛スピードで母は』もそうだったけど、わたしは長嶋さんの女性への目線が好きだ。過重な評価ではないけれどちょっぴり背筋を伸ばさせられる、こうでありたいというかたちを、浮き彫りにしてくれる感じの。