【感想・ネタバレ】夜の夢こそまこと 人間椅子小説集のレビュー

あらすじ

江戸川乱歩をはじめとする文学、怪奇、幻想をテーマとした音楽性で注目され続ける人気ロックバンド「人間椅子」。国内外から高い評価を受ける彼らの楽曲を題材に、大槻ケンヂら各ジャンルから集結したトガり切った執筆陣が小説を執筆! 土俗ホラー、ディストピアSF、異形の青春――音楽と文芸の融合が奏でる、暗く、熱く、激しいビートがあなたを包み込む。

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Posted by ブクログ

本気が感じられるアンソロジーだ。全編、妥協がない。絶対に楽しい。

「地獄のアロハ」には、池田貴族など、早逝した友人たちをモデルにした人物が出てくる。オーケンの昔のエッセイをよく読んでその時代の空気感に憧れていた90年代生まれのわたしは、ホロリときた。そして後半のカオスにオーケンやっぱり天才か…と。
「なまはげ」には東北の寒さと閉塞した雰囲気にちょっぴりの優しさ(情けかも)を加えた味わいが。
「超自然現象」には圧倒される。人間椅子と文芸を好きでいたおかげで、今日もまた新たな興奮と刺激と出逢うことができました。物語は様式美的なカタストロフィ。
「遺言状放送」を読む前に、作者の長嶋さんが芥川賞を取った『猛スピードで母は』を予習して、この作家の文章に溢れる不思議な多幸感とともに、「この人は確実にロックを信じている」という確信があったので、期待大でした。そして期待はもちろん裏切られなかった。
そしてワジーの「暗い日曜日」。彼のDNAには乱歩や太宰のみが受け継がれているわけではなくラヴクラフトだって含まれていて、その世界観を日本の風土に出現させることなど、彼の才をもってすればわけないのだ。

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2023年02月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

元々、制作する楽曲の多くが、過去の文学作品を礎にしている人間椅子、彼らの作品が今度は小説のモチーフになったということで、いわば音楽界から文芸界への逆輸入、という発想がまず面白い。
そして、そのような出自であるからして、彼らの楽曲がノヴェライズのベースとして馴染まない訳がない。
まず選ばれた5曲を見てみると、1つは筋肉少女帯との共作だが、残り4作はすべて和嶋慎治氏の手による詞、ということに少し驚いた。
また、著名な代表曲ばかりということはまったくなく、むしろコアなファン以外にはすぐにピンとこないであろう作品も。

口火を切る大槻ケンヂ氏の「地獄のアロハ」、イカ天をリアルタイムで観ていた世代にとっては、その時代の空気感が生々しく甦ってくるかのような描写の数々が妙に懐かしく、史実ないまぜのふわふわとした感覚がまた心地良い。
どこまでが実体験ベースで、どこからが完全なフィクションなのであろうか。

「なまはげ」という題材にふさわしく? 教訓めいた民話のような雰囲気をまとう伊東潤氏の噺は、まるでテレビドラマ「世にも奇妙な物語」の小話のような結末を迎える。
歴史小説家という印象が強い著者なので、こうした展開もあるのか、とやや意外だった。

空木春宵氏のチョイスはまさかの「超自然現象」、中身を読んで思ったのは、「大予言」でもハマったかも? なんて。
ちょうど旧統一教会を巡る問題が論じられている昨今、偶然か必然か、タイムリー性も抜群だった。
巻末の一言解説で、和嶋慎治氏が「『新青年』収録の作品」と書いているが、正しくは「異次元からの咆哮」なので、この勘違いを誰も正さなかったのは一体どういう了見なのだろうか。

芥川賞作家である長嶋有氏の「遺言状放送」は和嶋氏が述べている通り、まさに青春こじらせ小説と呼ぶべき、シリアスと見せかけて実は軽やかなタッチの一作。
受賞作の「猛スピードで母は」も、純文学というカテゴリーにしては読み易かった印象があるが、さらにエンタメ性がトッピングされた感じか。
主人公の少年は恐らく私と同い年であるはずなので、作中へのシンクロ感は個人的に大きく増した。
また、これも和嶋氏が触れているが、長嶋氏は実は筋金入りの人間椅子フリーク? と思うぐらいに小ネタがこれでもかと散りばめられていて、古いファンとしては嬉しくなる。
プラクティカル・ジョークという言葉をここで目にするとは!
思わずベスト盤「ペテン師と空気男」のライナーノーツを読み返した。

掉尾を飾るのは和嶋慎治氏による「暗い日曜日」。
雑誌「怪と幽」で一足先に読んでいたが、自分で書いた詞を下敷きにして小説にまで膨らませる、という行為はさぞかし難しかっただろうと想像する。
結果、産み出されたのは、曲中の各世界とはまったく異なるものであった。
恒川光太郎氏が書く世界に通じる匂いが感じられたり、あるいは藤子・F・不二夫のSF作品を彷彿とさせたり。
まさしく最後は、暗い、憂鬱な幕引きであった。

もちろんミュージシャンの両氏が綴る文章も商業作品として充分に足るクオリティではあるが、その他の3名が職業作家たる地力をしかと見せつけてくれたな、というのが全体を通して得た印象。
あと、鈴木研一氏の一言があっさり過ぎて、思わず苦笑、で本を閉じたのであった。

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2022年11月26日

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