あらすじ
ごめんねといってはいけないと思った。「ごめんね」でも、いってしまった。―埼玉郊外の下請け会社に、事務として中途入社した、澤野睦美。恋人・四郎と同棲する彼女に、不意に訪れた心変わりとは?話題の表題作ほか、「センスなし」を収録。恋をめぐる心のふしぎを描く魅力あふれる小説集。
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Posted by ブクログ
読書開始日:2022年1月13日
読書終了日:2022年1月15日
所感
【泣かない女はいない】
とても好き。
最後のシーンがなんともいい。
まさに樋川さんがいう「泣かない女はいない」だ。
睦美が四郎に、樋川さんへの気持ちを伝えた部分は潔癖なんかではなく甘え。本当の潔癖なら自分にも相手にも綺麗さっぱりな状態をもたらすべき。
樋川さんはたくさん女の子を知らない間に泣かせてきたのだろう。いい意味で。
同じ女どもと、睦美を区別していた部分も、睦美には大きく響いていたはず。
なんだかとても良かった。
ここ最近で1番好きだ。
【センスなし】
保子は感情の発現が遅い。
自ら遅くしているのではないか。
その場で感情的になっても、自分に自信が無く相手に飲まれるから。
保子はプライドが高い。
だから良一への本当の気持ちも言えない。
精神病棟がもう使われていないことを急に了解したように、良一への気持ちもふいに了解した。
保子は良一のことが大好きなんだと思う。
表裏。
人間はいつでも表裏を彷徨い続ける。
ピサの斜塔は運がいい、救われる気がする
牧歌的
われわれは連帯しながら断絶している
理由も無く佇むということの説明がうまくできない
説明のいらない人
職場の制服の上にコートを羽織ると文字通り公私が入り混じる
恩着せがましいニュアンス
薄暗いカラオケボックスのソファではしゃいでいる人の顔をみて、なぜ寂しいと感じるのだろう
こぼれそうな水を手にすくったまま、からおけぼっあからここまで歩いてきた気がした
汚れた皿を洗うよりもはやく家に帰りたい
ああいう、使い道がないのに消えない記憶や知識は、使えるときに使ったほうがいいんだ。もったいないしそのほうがおもしろいだろう
睦美は樋川さんの靴底を書いていた
自分がへこたれている瞬間に愛すべき人間がなんの悲しみもなく過ごしているというのは、すごく安心することなんだと思った(四郎、あなたもそう思ってくれる)
潔癖がすぎただろうか。甘えだろうか。
潔癖と甘えは紙一重
ウェルカム、というようなひびに
そういう樋川さんは晴々とした表情で、睦美はなぜか少し怯んだ
【センスなし】
馬鹿にされても本当は構わないのだが、良さを説明するのは面倒だった
良一が稼いでくる額面ほどの愛情を自分が相手に注いでいたかというと、保子は自信が持てない
いつでも怒りは遅れてやってくる
蝶番
隠したからといって、自分の好きな物を自ら貶めたことには、ならないんだよ
打ち明け話ができない。傲慢だから。自分の苦悩が他人になんとかできないと思っているから
いい選択肢などあるはずがない。どのカードも切りたくない
だけど、私はタレが好き
秘密の気配
事後と進行中。みどりには全て事後報告を淡々と、自信満々に話して欲しい。デーモン小暮のように、それでしか生きられないと言わんばかりに
Posted by ブクログ
かっこいい男(樋川さん)を書かせたら実は長嶋先生の右に出る者はなかなかおらぬのではという程のキュンがある表題作。牧歌的な職場やパッとしないシャトルの描写、ありそうでなさそうであたたかな場所にもキュン。再々読。
Posted by ブクログ
ボブ・マーリィの「NO WOMAN、NO CRY」から?
北関東の片田舎の会社を舞台にしたしみじみした話なんだけれど、一つ一つのシーンが不思議な存在感で心に残る。
これって、傑作なのではないでしょうか??
Posted by ブクログ
人には勧めたくないほどの傑作。長島有の描くルーティンの生活の中で細かく積みかせねていく恋愛感情が直接的ではなく表現されていて、最高の読書体験だった。
Posted by ブクログ
好きな小説だった!
文章に余計な装飾がなく、美しくて読みやすい
表題作の『泣かない女はいない』と『センスなし』の中編2作が入っていて、私は泣かない〜の方が圧倒的に好きでした
睦美の目からみたときの樋川さんの些細な仕草や行動、言葉が本当に魅力的で私も樋川さんがかなり好きになってしまった
『泣かない女はいない』という訳し方もまたいいんだ
何だか分からないけど、目で追ってしまうような、存在を意識してしまうような、恋と自覚する前の睦美の心の動きがとても良い
最後のシーンでぐっとくる
女泣くな 女泣くな
それにしても99年ってこういう年だったのか、生きていたけど記憶にないことが多かった
『センスなし』の方はあんまり好みじゃなかったので足して割って本として星4でした
Posted by ブクログ
表題作は都心ではない、かと言って地方でもない、どこか間の抜けた郊外の風景を時にしょうもなく、また時には愛すべき空間として切り取る描写が上手いと感じた。
Posted by ブクログ
長嶋さんの作品、既読のものはどちらも群青劇っぽかった。こっちの作風の方が好きだなあ。「泣かない女はいない」の睦美も「センスなし」の保子も、鈍感なんだけど淡々と生きていてよかった。隠したからといって自分の好きなものを自ら貶したことにはならないんだよ、そうかなあ。
Posted by ブクログ
読みながら何回か「えっ」と声が出たほど、上品で小さな驚きがいくつか。あとは特に壮大なことが起きるでもない、平熱といった感じの2編でしたが、ストーリーがどうでもよくなるくらい、都会的な文章に惚れ惚れします。おしゃれで美しい。
Posted by ブクログ
いいなあ、いいなあ。
なーんにも起こらないんだけど、長嶋有さんの小説はとてもいい。
「泣かない女はいない」って、ボブマーリーの歌からのタイトルだったのかあ!
私も確かにあの曲の歌詞カードに「女 泣くな」って書いてあったの覚えてる。なんじゃそりゃ、と思ったっけ、その時は(笑)
表題作より「センスなし」の方が好き。
焼き鳥は塩よりタレっての、すごいわかる。
なんかみんな、「タレ」って言うより「塩」っていう方が「通」な感じするって思ってそうで嫌(個人調べ。特に私の旦那の身内(笑))。私は昔から焼き鳥はタレで食べてたから、塩だとなんか物足りない感じする。ホントにみんな、そんなに塩?とか思っちゃう。
Posted by ブクログ
表題作と『センスなし』の二篇。表題作は中途採用された会社で働く女性、もうひとつは夫が若い女と浮気をしてほぼ家に帰ってこない女性が主人公。しっかりと、でもやわらかい雰囲気。初夏に近い春の筆で秋の日常を描いている感じ。2000年前後が舞台なので、時おりカセットテープなどの時代を感じるものが登場するが、古臭い感じはあまりしない。
Posted by ブクログ
こういう何でもないひとの平凡な日々を丹念に書く作品は読み手のメンタリティと嗜好にかなりの部分左右されると思う。
今回はそれが合致していてすごく好きな雰囲気だった。
裏表紙のあらすじほど恋人の別れ感は薄く、特に終盤まではお仕事小説の色合いが強い。
埼玉にあるメーカー子会社の物流会社に転職した主人公。
働いていない恋人とふたり暮らし。
同僚の女性社員は実家通いで給料はおこずかいに遣ってしまうような子ばかりで、なんとなく空気が違う。
些細な出来事を積み上げて、だんだん親しくなっていくという描写が優しい。
物語自体も、事件やで変化により動きがあるので冗長さもなかった。
主人公がどういう性格なのかあえて掘り下げられないのが、ラストシーンの切なさに効いていると思う。
Posted by ブクログ
そんなに可愛いとか思ったこともない女性に、いきなり告白めいた事を言われて、急にゾワッとしたって感じ。
泣かない、淡々とした女が見せた最後。
本当に淡々としていて、田舎の町にあまり考えもなく来てとりあえず仕事して…
一緒に住んでいる人はいるものの、特筆するほど出てこない登場人物の一人で。
そんな生活にもちゃんとドラマがある。大手の下請け工場でも、静かにも激しい感情の揺さぶりは起こる。それはとても当たり前の事なんだけど、作者の切り口がほんの少しのほころび程度の感情の描き方なので、最後の鮮明な描写にハッとさせられ、呼吸を乱される。
元社長の入院の後、奥さん綺麗でしたねの一言で和む場面。ちゃんと君はムードを作れているじゃないか。
自分がへこたれている時、愛すべき人がなんの悲しみもなく過ごしているというのは、すごく安心することなんだ。
の一言に、この主人公の人の良さを感じる。そして思いを伝えてもいない人の事を、同棲相手に話しちゃうとことか。
結局伝えられない、シーンで野球のボールを大事に持ってるとか、少女漫画みたいなんだけど、美しくも気だるい切なさが伝わってくる。
評判が良くて読んだ、初めて読んだ作家だが、とても文体が心地よかった。どんどん読んでみよう。
エレカシの生活が聴きたくなった。
あとね、彼女は買い物の帰り道
Posted by ブクログ
主人公の変に冷めてる感じと、周囲の人のちょっと変な感じとが、妙になまなましいというかなんというか。
出てくる人たちは「きらきら」してない。特別に大きな幸福も不幸も無い。絶妙な「普通」に生きている人たち。
物語に登場するからにはなにかしら、こう、「きらきら」していてもよさそうだが、全然「きらきら」しない。
ので、日常にすんなり溶け込んでくる。
Posted by ブクログ
いかにも「泣かせまっせ、今回は!」と売り出した出版社が足を引っ張ってる気がした。
長嶋有の作品はそういうんじゃない、と思う
否、思いたい。
表題作『泣かない女はいない』は、よくある物流会社の日常と、生まれていく繊細な恋愛のようなものと、変わっていくものものを描いている。
『センスなし』は、壊れていく夫婦と壊れない女の友情とを交互に描いている。
本文中の表現で
激情して夫を置物で殴ろうとして避けられた主人公と、新聞記事にて同状況下フライパンで殴打され死んだ男(妻の攻撃を一度も避けなかった)の対比。
慰謝料では慰謝されないから、額に肉と入れ墨してと頼み、それはすごくいい案だと思った矢先に「バカじゃないの?」と一喝されるなどなど、うまいなあと思う。
主人公は淡々と生きていくように描かれている。
2作とも「泣かない女」が主人公だ。
そんな2人が真に追い詰められたときを、陰からそっと見守るような話。
落ちていくかに見せて
救いを残し、浮上させていく様に安心する。
Posted by ブクログ
劇的なものはないゆるやかに流れる日常の中の社内での片思い。
長嶋有の凄さは人物描写のさじ加減で、出すぎることなく好感の持てる人物を描き出している。
まいったなーと連呼させずにはいられない作品。
Posted by ブクログ
「泣かない女はいない」と「センスなし」という中篇がふたつ。「泣かない〜」が景気悪そうな小さい会社の事務職に就職したOLの話、「センスなし」が夫に愛人ができて離婚しそうな主婦の話。どちらにも、雪の日が出てくる。長嶋有の小説はやっぱり好きだなと思った。なんだかすごく淡々としている感じとか。なのに、妙なところですごく細かい部分にこだわるようなところとか。(「センスなし」で主人公がデーモン小暮のファンってことで、やけに詳しい話がおもしろかったり。)主人公がいろんなところでわかっているようなわかっていないようなあやふやな感じとか、結論らしいものがないところとか。でも、なんとなくさわやかなようなところとか。うまく説明はできないけれど。わたしは長嶋有の小説の主人公を嫌いと思うことはないような気がする。
Posted by ブクログ
こんな感じだったな、駆け抜ける感じ。サイドカーに犬とかかなぁってこと。大宮駅のシャトルも渋いし、会社勤めの日々を淡淡と階段のない屋上とか近所の発見した公園の入口のベンチが魚臭いとか通勤の縦一列に歩く中学生とは違うし道端に置いてある板が後々そういうことだと振っている。激しい変化もなくて、でも社長の横田さんに桶川さんが辞めるのと好きな気持ちを言わない事とか、何て言えばいいのかわからないけど、夢中で読みました。スッキリした気分になりました。という割にはセンスのないを流し読みしてしまいましたとほほ。
Posted by ブクログ
初長嶋有。
表題作と「センスなし」からなる中編集。
1999年って、カセットテープと携帯電話が共存する不思議な時代だったんだよなー。ってことを思いながら読んでました。
泣かない女はいない。
タイトルがめっちゃ素敵。
変化がまるで感じられないような日常の中、昨日とは何かが違うと感じ取れる睦美の心の変化がリアルに伝わってきて、何だか切なかったな。
だって惹かれる気持ちって誰にも止められないんだもん。
泣いたことがない。という彼女が泣いたとき、それは幸せな涙であってほしいけど、人は案外幸せな場面では泣いたりしないのかも。ということを思いながら読んだ一冊でした。
でも、最後の場面では追いかけて行って欲しかったな。というのが私の思いです。
「センスなし」は、額に『肉』くだりがよかったです。
Posted by ブクログ
男性作家さんだと思い込んでいた。
後で思い返すとそれほど印象に残ってはいないが、読んでいる間はほんわかしていて、なかなか好きだった気がする。
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ごめんねといってはいけないと思った。「ごめんね」でも、いってしまった。ーー埼玉郊外の下請け会社に、事務として中途入社した、澤野睦美。恋人・四郎と同棲する彼女に、不意に訪れた心変わりとは? 話題の表題作ほか、「センスなし」を収録。恋をめぐる心の不思議を描く魅力あふれる小説集。
Posted by ブクログ
この人の小説は初めて読む。名前からてっきり女性の作家かと思っていたが、折返しの作者紹介欄を見てびっくり。文章はシンプルで淡々としていて中性的。別れ際のアラサー女性を書いた中編2編。
『泣かない女はいない』は知らぬ間に他の男に心を惹かれていて、そのことを自覚していく様子にとてもリアリティーがあった。一目惚れなんてのはほとんどなくて、この話みたいに少しずつ疑惑から確信に変わっていくのがリアルな感覚だよなあと思った。最後の場面もよかった。存分に悲しみを味わえた。一つ気になったのは、展開が強引なところが少しある気がした。
『センスなし』こちらの方が個人的にはよかったと思う。夫に愛人が発覚したばかりの、相手をいまでも好きなのか嫌いなのかどう思えばいいのか自分でもよく分かってない感覚がとてもよく伝わってきた。昔ハマったバンドに対する感じ方と夫に対する気持ちとの対比がよかった。空虚感の伴う切なさに胸が詰まった。
Posted by ブクログ
風景描写が多く取り入れられてたり、主人公の心情が絶妙なバランスで伝わるかんじ。
ただの平凡なOLの話なんだけど、ひとつひとつのシーンが印象深い。
桶川さん、かっこいい。
会社の雰囲気も、ゆるく距離がありながらも些細な出来事で近付いてる感じが自然ですき。
好きな分は、
使い道がないのに消えない記憶や知識は、使える時使った方がいい。
我々は連帯しながら断絶している。
Posted by ブクログ
中途入社した先での人間関係や恋人とのこと。そして心変わり。
浮気して出ていった夫とのやり取り。それを告げられないまま交わす友人との電話。
二作それぞれに何か淡々とした女性の心理を感じる。
2815.1.12
Posted by ブクログ
中篇2作とも身近なものへの感性が非常に鋭敏な割に、世間との距離感をうまくつかめない女性の日常を描いた作品です。
視点が優しく細やかで、男性が書いたとは思えない味わいがありました。
Posted by ブクログ
てっきり長嶋有さんを女性作家だと思いこんで読んでいて、後になって男性だと知り驚きました。
心理描写の描き方が淡々としているのだけど、繊細で質の良さを感じる文章だと思いました。
Posted by ブクログ
作風としてはかなり淡々として劇的な変化も無いような日常生活をつづっているのですが、なんというか、品がある。質が高い。穢れが無いというのかな。それでいて、現実的。 不思議な文章。
にしてもタイトルが(笑)まあ、いないだろうけど、泣かない男もいないと思う!と関係ないことを書いておきます。
Posted by ブクログ
巻末に各作品ごとの初出が記載されているが、ここにあった書き下ろしの「二人のデート」というのが点字データには含まれていなくてがっかりした。というのはさておいて、「どこかでこんな話読んだんだか聞いたんだかしたことあるなあ」という妙な既視感を感じた。