村上喜代子小説の中でも、好きなタイプ!
読み始めてすぐに、そう感じる。
読み終えて今、この静かな何かが心の中に広がっている。
村上・新刊と言うことで何の情報も無いまま読んだので、
てっきり日本を舞台にした、ファンタジーめいた小説家と思っていた。
どっこい!
太平洋戦争下のアメリカ。
それも舞台
...続きを読むはロスアラモスだ。(当初は明かされない)
日系3世の主人公アデラは婚約者ベンジャミンと共に
極秘の旅に出る。
折しも日系人は収容所へ入ることになるかもしれないという。
そんな中、二人が着いたは秘密の研究所だったわけ。
オッペンハイマー、ファインマンらビッグネームが続々と現われるので
歴史を知る読者には、ベンジャミンが何の研究をしているのか、が
わかる。
秘密の土地はもともと先住民の世界。
基地のすぐ外の動物病院の受付係として雇われたアデラは
先住民の手伝いの女性とも親しくなる。
同僚はイタリア系、仲良くなった奥さんはユダヤ系・・・
アメリカはいろいろな祖先をもつ人の集まりなのだ。
村上氏は、淡々とした筆致でアデラの目線で
原子爆弾の研究に携わる国、男達について問いかける。
それは現代の私達が感じる疑問。
でも・・・
ヒトラーより早く原子爆弾を開発しなければ・・・と
言う気持ちは当時の本音だったのだろう。
そこはアデラも同じ。
彼女mアメリカ人なのだから。
それでも原子爆弾の実験に成功したそのときは?
研究者は、その余りの威力に驚き、使用に当たって申し入れをするも後の祭り。
このあたり、小説の元になったのはフィッシャーの妻による日記だという。
(この翻訳にまつわる巻末のエピソードも興味深い)
・・・「新古事記」の意味は、思った通り。
それを期待以上に、淡々と知的に描くのが、村田喜代子流。
何度も繰り返し読んでいきたい小説。
余談だが、今、サティの「ジムノペティ1」を弾き聴いている。
タイトルの意味は古代ギリシアで詩人が戦死者を悼む祭だそうだ。
なるほどよく聴くと恋の歌ではない。
たゆとうような調べは村田喜代子「姉の島」のイメージだなぁと感じる。
「新古事記」の荒涼たる景色も、どこか通じる気がした。