村田喜代子のレビュー一覧

  • ゆうじょこう

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    両親により貧しさのために遊郭に売られた少女が読み書きを覚え言葉を通して自分の世界を広げていく姿は健気で美しくて希望を感じます。そしてその希望は社会の理不尽さや大人達の搾取によって容赦なく踏みにじられていく。10代の少女達がそんな現実をどう受け止めたんだろう、とても痛ましく思いました。
    1万円札でお馴染みの福沢諭吉。女性にも教育を!と立ち上がってくれていたのかと思いきや「娼婦は人間以下」と語る場面には心底がっかりし、時代の残酷さを感じました。

    どなたかのレビューで東雲さんを壇蜜さんをイメージしながら読んでいました、という方がいらっしゃいましたが私は木村多江さんでした。

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    2025年10月17日
  • 蕨野行

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    棄老...姥捨......という一見むごい風習を描きながら、読めば「ヌイよい」「お姑よい」と、遠い二人の心の対話が不思議な浮遊感を生む。そのままするすると物語に惹き込まれていく。
    山野には異界への入り口があるみたいだ。順繰りに訪れる死。夢と夢のあわいをまどろみ、生きとし生けるものへの慈しみをよぎって、読み終わる頃にはむごくも哀れでもない充足と祝福が見えてくる。
    枯れたものが土に還りまた次の命を結ぶ円環。こんなふうに満ち足りた老い先を迎えられたらと放心してしまう。この方の描く老いはなぜこうも憧れを起こさせるのかな。

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    2025年09月29日
  • 美土里倶楽部

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    倉田美土里(くらた みどり)は、夫の寛宣(ひろのぶ)(80歳)を亡くして未亡人となった。
    彼女のまわりには、何となく未亡人が集ってくる。
    まだ夫を失ったことがないので、共感するとか、分かる、というふうにこの小説を読む事はできない。
    けれど、もうそれなりの歳なので、勉強させていただいた。もちろん、自分が先に逝くという場合もあるかもだけど。

    長年連れ添った夫を亡くした場合、若いカップルが相手を失ったような瑞々しい喪失感や号泣というものは伴わないであろうと思う。
    美土里の友人・山埜くら(やまの くら)によれば、長年一緒に過ごした夫婦には「夫婦ぐせ」というものがあり相手をなくして時間が経つにつれ、だ

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    2025年08月05日
  • 美土里倶楽部

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    もしも私より先に夫が亡くなったら、もう一度、この本を読もうと思った。
    自作(?)のお経を家族で読むシーンもステキだが、夫を亡くした女性たちの日々、最後に渡り鳥のハチクマを見に行くシーンは、本当に素晴らしい。
    「仲のよかった夫婦は、片方が死んでもいつまでも泣き暮らすことはない」
    は名言だと思う。後悔がないからなのか。
    美土里倶楽部、みたいな倶楽部、「その時」が来たらあるといいな。
    この本にもまた門司港が登場。ますます行ってみたい。

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    2025年08月01日
  • 新古事記

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    「新古事記」(村田喜代子)を読んだ。
    
村田喜代子さんよくぞこのタイトルを見つけてくれました。
見事だよ。
    
オッペンハイマー所長を中心に研究◦開発を続ける所員たちは自分たちが手がけているその対象物ゆえにか強度のストレスを抱え、そして何も知らされていない妻たち(とペットの犬たち)はそのストレスを一身に受け止めながらも凪いだ日常を送る。
    
そんな妻の一人日系三世アデラの祖母のノートには海を渡ってきた祖父の国の創世神話が記されていた。
    
神ならぬヒトの手によって産み出された新たな火によってもう一度泥濘の中から新しい世界を創世する顛末はまさに新古事記なのだ。
    
凄まじき業火を産んだロスアラモスという

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    2025年06月08日
  • エリザベスの友達(新潮文庫)

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     御年97歳の初音さん、その娘の満州美と千里を視点人物として、「かつての自分」が「いまの自分」になってしまった認知症の老人たちと、その様子を戸惑いながら見つめる子供世代の日常が描かれる。興味深いのは、それぞれの生きた戦争と戦後に囚われ、意識を固着させてしまった老人たちの世界と子供たちの世界とが基本的に切れており、ごくわずかな糸でしか結ばれていないこと。だから、子供たちは老人たちに見えている世界が理解できず、認知症の老人たちにはそもそも子供たちが誰なのかさえ分からない。しかし、老親たちのちょっとした振る舞いや言動から、彼ら・彼女らが「あの時」をどう生きていたのか、自分たち自身はどう生きてきたのか

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    2025年03月29日
  • 新古事記

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    神々とか、人為とか、自然とか、科学とか、いろいろ考えさせられる。なぜ原爆は開発され、使用されたのか。そのアポリアを、開発の現場にいる核物理学者の奥さまや愛犬たちの日常から透かし見る。日系の血筋を意識する主人公アデラや先住民のアーイダから見る世界観も心惹かれる。

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    2024年10月08日
  • 蕨野行

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    とても良い。世界観に引き摺り込まれた。
    文体と形式が独特で、最初は少し読みづらいが、しばらく読み進むと分かってくるし慣れる。
    途中、もの悲しく感じる部分もたくさんあったが全体としては悲しい話ではなく、むしろ明るいものなのかもしれない。
    この作品を良いと感じるのは、登場人物の女性ならではの繊細な視点から、生活や人生が語られていることが理由かと思う。また、姑と嫁の堅い絆もよい。
    最後の伏線回収もすばらしい!

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    2024年09月16日
  • 屋根屋

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    ビル・チャーラップとリニー・ロスネスのピアノデュオ作品「ダブルポートレイト」のジャケットと同じシャガールの作品が表紙となっていて、ジャケ買いですですが、村田喜代子さんは、「新古事記」を読んでいて素晴らしかったので、別の作品を読むよい機会になりました。夢を自由に操る屋根屋の永瀬と夢の中で落ち合って、日本の寺院やフランスの聖堂の屋根を巡るという、不思議で少しロマンチックな話です。

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    2024年08月04日
  • 新古事記

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    村上喜代子小説の中でも、好きなタイプ!
    読み始めてすぐに、そう感じる。
    読み終えて今、この静かな何かが心の中に広がっている。

    村上・新刊と言うことで何の情報も無いまま読んだので、
    てっきり日本を舞台にした、ファンタジーめいた小説家と思っていた。

    どっこい!

    太平洋戦争下のアメリカ。
    それも舞台はロスアラモスだ。(当初は明かされない)
    日系3世の主人公アデラは婚約者ベンジャミンと共に
    極秘の旅に出る。
    折しも日系人は収容所へ入ることになるかもしれないという。
    そんな中、二人が着いたは秘密の研究所だったわけ。

    オッペンハイマー、ファインマンらビッグネームが続々と現われるので
    歴史を知る読者

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    2023年09月27日
  • 新古事記

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    元ネタは、アメリカで原爆開発に携わった若い科学者の妻が書いた『ロスアラモスからヒロシマへ』という手記だそうです。その主人公を咸臨丸から抜け出した日本人の孫娘に置き換え、彼女が婚約者の理論物理学者と共に、ニューメキシコに向かう所から始まります。主人公の一人称小説。失礼ながら著者のお年を感じさせない、若い女性の弾みを感じられる文体です。
    父母にさえ住所を教えることもできない秘密研究所。そのゲート外に作られた動物病院に勤める主人公の目に映るのは、研究者たちのペットの犬達のベビーラッシュ。次に原子核物理という新しい学術部門ゆえの若い研究者とその奥さんたちの妊娠・ベビーラッシュ。そして、手伝いに来るイン

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    2023年09月20日
  • 飛族

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    ネタバレ

    NHK FM新日曜名作座で現在放送されている本作の事が気になり読んでみた。孤島養生島には母親イオさんと海人友達のソメ子さんしか住んでいない、そんな島に娘のウミ子がやって来る、出来れば島から連れ出したい、しかしこの老婆二人は島を離れる気はない、そして台風に襲われてウミ子もこの島で住もうと決心する。しかし限界集落は問題になっているが孤島の無人島化はもっと問題だ、泥棒のような中国人が空きあらばと狙っているのだ、ミサイルを買うだの国防論議が盛んだが、無人島になってしまった島に公務員を常駐させるのが先だろ。

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    2023年02月03日
  • ゆうじょこう

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    かなり厳しく過酷な世界を、天真爛漫なイチ、一級の花魁東雲さん、女教師の鐵子さん、主に3人の視点から描く。
    頻繁に挟みこまれるイチの日記が、もう面白くて面白くって。
    突き放した優しい文体も素晴らしい。
    とにかく面白かった、読書の醍醐味はこれだよなー。

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    2022年08月11日
  • 屋根屋

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    なんと切ない物語だろうか。
    長瀬屋根屋はどこに行ってしまったのだろう。

    夢の中で旅するシュールなお話かと思っていましたが、本当に切ない物語です。
    もし長瀬がずっとここで暮らそうと言う言葉に従っていたら?
    私も夢の中で旅してみたいな。

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    2022年03月11日
  • 飛族

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    文庫になって、電車用にサイズがいいなと手に取ったのだが、とても面白いのであっという間にに読み終わってしまった。
    どことなくマジックリアリズムのような雰囲気もあり、一瞬沖縄が舞台かと思ったが、九州のようだ。
    島に残る老女二人のなんともあっけらかんとした話が、時に不思議な世界感で、梨木香歩さんや恒川光太郎さんが好きなら読んでも間違いないと思う。

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    2022年02月13日
  • エリザベスの友達(新潮文庫)

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    長女がジャケ買いしたけど私向きだと思い読み始めたら止まらなくなった。いろいろな世界の対比がくっきり描かれていて、久しぶりに本の中の世界に自分もたたずんでいるような気分になる。現在老いてしまった母親、戦争を生き延びたけれど辛い思いもした祖母や母のことを否応なく思わされる。もっと歳を重ねた時、再読できるだろうか。

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    2022年01月05日
  • ゆうじょこう

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    村田喜代子さんにハマって三冊目。
    明治後期の九州にある遊郭が舞台の物語。
    貧しい親に売られた娘たちが次々と送り込まれてくる。
    その遊郭は一番格の高い店ではあるけれど、行われていることは残酷だ。でもそれを受け入れないと生きていけない。
    そして遊郭の外にも店はあり、そこでは一体何が行われているのかは分からない、という言葉にはぞっとした。
    主人公のイチは遊女のための学校に通い、読み書きを覚えて、いきいきと自分を表現し始める。
    悲惨な環境の中で、光のかたまりのようなイチの素直な心に、不思議と励まされ救われるような気持ちがする。

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    2021年12月28日
  • エリザベスの友達(新潮文庫)

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    介護施設で暮らす痴呆を患った母初音さんと、満州美、千里の2人の娘。 夢うつつの初音さんの気持ちがさまよう、かつて暮らした天津租界が、やはり今回も気になりました。 介護の鉄則、逆らわない、叱らない、命令しない。 今後の自分のために絶対忘れないようにしようと思います。

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    2021年11月02日
  • 火環

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    面白かった!
    ヒナ子の成長ぶりも、克己さんの逡巡も大好きだ。
    サトばあさんになりたい。
    いいとか悪いとかを超えて、生きてることと死ぬことがよくわかる。
    作家さんは、目の前に広がる世界を、心の動きをニヤッとしながら写し取っているみたい。
    とても好きな小説。

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    2021年09月18日
  • 焼野まで

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    一言、素晴らしい。
    でも、残念なことに私にはその素晴らしさを分析する能力も無ければ表現するウデも有りません。

    一言で言えば、自らの体験に基づくガン闘病小説です。(但し癌治療方法の優劣や是非を問うような物語ではありません)
    主治医や婦人科の看護婦である娘と喧嘩してまで、摘出手術を拒み、子宮体ガンには効果が無いと言われる放射線治療を選ぶ主人公。彼女は一人ウイークリーマンションを借り、特殊な放射線治療を行う九州の最南端の地の放射線センターに通院します。強い放射線宿酔に苦しみ痩せさらばえつつも毎日センターに通い、帰宅すれば食べる気力もなくベッドに寝転がるばかりの日々。
    病気に打ちひしがれながらも生き

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    2020年10月21日