村田喜代子のレビュー一覧

  • 屋根屋

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    表紙絵はマルク・シャガールの『街の上の恋人たち』。その絵からイメージを膨らませたような不思議な話だった。
    家の屋根を修理しに来た屋根屋に明晰夢の見方を指南してもらい、私は屋根屋と一緒に夢の中の旅をする。
    2人の旅は夢の中とはいえ、なんとも甘美。シャガールの空を飛ぶ恋人たちのように。黒鳥になる場面は「レダと白鳥」を彷彿させる。
    2人が訪ねるのは、福岡市の東経寺大屋根、奈良の瑞花院吉楽寺、法隆寺の五重塔、フランスのノートルダム寺院、シャルトル大聖堂、アミアン大聖堂など。国宝建造物の屋根の上からの景色。フランス料理や極上ワインを楽しみ、水の中を泳ぎ、ヒマラヤの峰々の上を飛ぶ。夢のような旅(夢なんだけ

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    2021年01月16日
  • 村田喜代子傑作短篇集 八つの小鍋

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    8篇の村田喜代子傑作集。

    このひとは「おばあさん」を描かせたら最高。
    ほのぼのあり、しみじみありだ。

    中でも「白い山」の中にたくさん出てくるおばあさんのなかで、腰がひらがなの「く」の字ではなく「つ」の字になっているおばあさんがあったという、卓越した表現にはまいってしまった。

    いるいる。「つ」の字ねぇ!ご本人はつらくて大変だろうけれども笑えてしまう。

    ほんと、うまい作家と思う。

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    2020年08月19日
  • ゆうじょこう

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    よくある花魁モノとは全然違う。
    作者はこの時代この場所におったんか?ってくらい細かい描写が廓の地獄をよりリアルにする。
    でも主人公の性格のせいか、地獄の描写が暗くない。カラッとした不幸、滔々たる不遇。
    絶対だった物の崩壊と、女達の闘い。学問の必要性。

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    2020年07月11日
  • 焼野まで

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    灰の舞う薄暗い世界の淵を、その先にあると信じる小さな、たった一粒の小さな光を探し彷徨っているようなとても疲れる作品。
    そう。わたしも照射されているようにリアルだから余計疲れるのだけど、これだけの描写をやってのける作者の力は凄まじい。
    選択できるのであれば、なにがどうでも選択したいと思う。
    その可能性に縋りたい。

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    2020年01月09日
  • 掌篇歳時記 春夏

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    24節気を3等分した72候があることを知って、日本には季節を細かく愛でる文化があったのだと再認識した.その季節感を念頭に置いて、著名な作家が短編を綴るという贅沢な本だが今回は春夏を読んだ.村田喜代子の雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)が面白かった.戦前の裕福な家庭に育った姉妹だが、それぞれにねえやがいて、様々な世話をするという、今では考えられない家庭内のやり取りが出てくる.あんな時代があったことは、映画や小説の中でしか接することはできないが、この姉妹の会話からその情景が想像できることが新しい発見をしたような感じだった.

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    2019年11月06日
  • 掌篇歳時記 春夏

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    トップバッターの 瀬戸内先生のが 一番俗っぽかったな と思うほど 瀬戸内先生 相変わらず かわいらしい人を書くんですね ほぼほぼ 幻想的で不思議な短編 ちょっと読むには 分かりにくいものもある 芥川賞作家が多いからでしょうか

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    2019年08月22日
  • 火環

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    ネタバレ

    『八幡炎炎記』が「第一部」となっていたので、少なくとも三部はあるに違いないと楽しみにしていたのだが、これで「完結編」!?
    村田さんの体調が悪いのだろうか、それとも第一部が売れなかったからなのか・・・。
    しかし、これも十分面白かった。
    村田さんは「ヒナ子」だと思うが、中学を出た後、働きながらシナリオライターを目指して家を出ようとするところまでなので、せめてシナリオライターの夢は破れ、小説を書こうとするところくらいまでは書いてほしいなあ。八幡製鉄所がまだ活気に満ちていたころ(朝鮮戦争特需、神武景気、岩戸景気があり、日本がどんどん豊かになっていったころ)の話なので、寂れてしまった北九州の様子も書いて

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    2019年08月16日
  • 村田喜代子傑作短篇集 八つの小鍋

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    何が言いたかったのか全く分からない作品ばかりだったが、不思議と読んで損したなどとは感じず、最後まで読んでしまった。情景の描写が個性的ではありながら豊かで、空気の匂いまでも伝わってくるよう。これまで読書は主にストーリーを楽しむものと思っていたが、描写や表現そのものの味わいを楽しむという読み方もあるのだと知らされた。

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    2020年02月17日
  • 蕨野行

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    独特の表現で初めは驚いたが、お姑よい、ヌイよい、と呼びかけあう会話にだんだんと引き込まれる。
    押伏村では60歳になると、村から離れたワラビ野(いわゆる姥捨て山)へ行かなければならない。
    ワラビ野衆となったお姑よい達の、死へと向かうはずの生活が凄まじいのだが、滑稽な明るさもあり逆に生命力を感じる。
    非常に心に残る作品です。

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    2019年04月07日
  • 八幡炎炎記

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    終戦後の北九州、八幡の街の描写が素晴らしい。自分の親の世代はこのような雰囲気のある時代だったのかと思いながら読み進めた。続きが楽しみ。

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    2019年03月17日
  • 火環

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    製鉄の街・八幡を舞台に、戦後の復興期から高度成長期にの昭和の世相と、そこに住む人たちを"火"や"光"に託して描いた作品です。『八幡炎炎記』の続編というより炎炎記と本作を合わせて一つの作品ですね。
    他人の妻や愛人にだけ昏い情欲を感じる克美は、妻のミツ江の子宮癌を機に献身的な介護を始め、その死後は情欲をミツ江に持ち去られたように、暖かな晩秋の雑木林のような明るさを持ち始める。その一方で天真爛漫・自由に飛び跳ねていたヒナ子は、中学生になると映画の世界に浸りこみ、シナリオライターになりたいと情動を持つようになる。対象は違うけれど克美からヒナ子に「業」が移ったよう

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    2019年03月09日
  • 屋根屋

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    夢と屋根を組み合わせて、その組み合わせが絶妙でしょう。なかなか品の良い、コース料理をいただいたような読後感でした。こんな本が好みだなぁ。

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    2019年02月10日
  • 八幡炎炎記

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    戦後復興期の製鉄の街・八幡を舞台にした村田さんの自伝的小説です。
    八幡に暮らす三人の姉妹は、みんな実子を授からず、それぞれ養女を得ている。
    上の姉・サトは夫の長兄の娘・百合子を養女にし、離婚した百合子の子・ヒナ子も戸籍上はサトの娘にしている。下の姉・トミ江は金貸しの亭主が借金のカタに連れてきた(と言うより、親元に置くのが不憫で連れ帰った)タマエを養育しており、末の妹・ミツ江は洋裁師である夫・克美の弟の娘・緑を育てているという複雑な家庭環境。
    そしてヒナ子が著者・村田さんの様ですね。

    主に女好きの克美と小学校2年生のヒナ子の視点で語られます。
    元は親方の妻だったトミ江と駆け落ちした克美は、人の

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    2019年02月09日
  • 八幡炎炎記

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    ネタバレ

     黒澤明が監督した最後から二つ目の映画「八月の狂詩曲」の原作者が村田喜代子。原作の名は「鍋の中」(文春文庫)。

    長崎の被爆者の老婆と孫の姿を描いた秀作だが、その映画には、主人公「鉦おばあちゃん」のハワイにいる孫、クラークを演じたリチャード・ギアが「もうアリとは共演しない」と言い残したという後日談がある。蟻の行列を撮影するための待ち時間が余りにも長かったという、撮影の苦労話なのだが、映画がクローズアップした「蟻」とは原作者村田喜代子にとって何だったのか。

    彼女の自伝的長編といわれている近著、「八幡炎炎記」・「火環-八幡炎炎記完結編」(平凡社)にその謎解きがあった。

    《ミツ江と駆け落ちしなけ

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    2019年01月29日
  • 蕨野行

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    六十を過ぎた者は里を離れ野に建つ小屋に寝起きし、毎日里を訪れて仕事を貰い日々の糧を得るという暮らしに身をやつす。そうして老い衰えた者をふるいにかけ、豊かならぬ里は新陳代謝を図っていく。
    長雨続きの不作で、生まれた赤子は濡紙を口に当てられ、若い嫁は嫁ぎ先に暇を出され生家にも入れて貰えず行き処を失う。過酷な暮らしで弱り果てていく老身。
    憐れで惻々とした物語でありながら、姑レンと年若い嫁ヌイの間で交わされる語りかけに込められた慈愛と思慕の情が作品を優しさと温かみで縁取り、最後には一握りの安らぎと救いとがもたらされてもいる。

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    2019年01月13日
  • 火環

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    八幡炎炎記から続けて読書。ヒナ子が少しずつ大きくなるに連れて周りの大人の様子も変わってくる。

    戦後の復興と共に思想も生き方も仕事の仕方も変わって行く子供達や大人達。この後編ではその波に乗って行く子供達や若い世代と、信心深く立ち居振る舞いも昔のまま変わらない老人達との違いも浮き彫りになって来ていたと感じる。

    ヒナ子、まっすぐ育ってね、と思いながら読んだ。克美とミツ江の最後の落ち着き方もなるほどな、と。やっぱり生きている間に大事にしないとね。

    戦後というのがだんだん遠い時代になるにつれ、こういう本を書ける作家も少なくなって来てしまうのかな。

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    2018年11月02日
  • 八幡炎炎記

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    終戦後の八幡を舞台にした物語。親が生まれた頃の日本はこういう感じだったのかー、と思いながら読んだ。皆貧乏だけど日々の中で幸せや楽しみをみつけて生きて行く様子がたくましい。複雑な事情を抱えながらも元気に育って行く子供達、一方でそんな子供達の目には映っていないだろうけど、実は大人達もまたそれぞれ浮気や駆け落ちなどの事情を抱えていて、大人なりに悩む日々が描かれており、子供を描写している時の「陽」と大人の心情を描写している時の「陰」の空気の変わり方が面白い。

    運動会が町をあげてのイベントであるのが面白かった。今と違うなあ、娯楽の少ない時の良さだろう。あと、皆が製鉄所を自慢に思っている所も印象的。その

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    2018年11月02日
  • 屋根屋

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    ネタバレ

    さて、不思議な小説です。

    雨漏りの修理に来た夢を自在に操れる屋根屋とともに、主婦の「私」が夢の中で様々な屋根をめぐる旅をする内に。。。

    二人が訪れる建物や屋根の描写が緻密です。日本の寺社や五重塔の空に飛び立つような屋根の反り。瓦の裏や法輪に書かれた大工や僧の落書きの面白さ。フランスの大聖堂建築のフライングバットレスや身廊(ずいぶん前ですがケン・フォレットの『大聖堂』を読んでいるので構造が目に浮かびます)。何か吐瀉しているように見えるガーゴイル(雨樋から流れてくる水の排出口)の魔物彫刻の群れ。それだけでも読み応えがあります。

    ゴルフ三昧の夫とクラブ活動に夢中な息子。特に大きな不満も無いが、

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    2018年04月01日
  • ゆうじょこう

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    ネタバレ

    熊本の遊郭に売られた15才の少女の物語。

    主人公のイチは硫黄島の漁村で生まれ育った。
    しかし、生活が苦しい家族によって熊本の遊郭に売られてしまう。
    彼女は、これまで自然豊かな島でどちらかというとプリミティブな生活を送ってきており、教育も受けたことが無い。
    元々は健康ですごくピュアな感性を持っている明るい子である。
    それがいきなり慣れ親しんだ故郷の島を離れ、熊本の遊郭で働くことになる。
    悲劇以外の何物でもない。

    イチを通して描写される遊郭という世界。
    舞台は現代からたかだか100年ちょっと前の時代である。
    貧しい家から娘達が売られてきて、毎日のように体を売り10年程の年季明けるまで遊郭という

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    2018年02月11日
  • ゆうじょこう

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    明治の熊本の遊郭を舞台にした作品。
    「吉原炎上」やら、荷風その他の男性作家の作品と大きく違う。
    硫黄島から、両親に売り飛ばされた娘、イチ。
    その境遇は苛酷だけれど、「かわいそうな女性」と、ヘンに美化されない。
    その体の上に起こる様々な状況、生々しい身体感覚も、意外とドライに描かれる。
    だからこそ、心を動かされる。
    イチの一本気な性格によるところもあるのかもしれない。

    イチの人柄は、彼女が女紅場で師匠の鐵子さんに出す日記によく表れている。
    皮肉なことに、彼女は遊郭に売られて、始めて文字を覚えた。
    それ以来、書くことに憑かれたようになる。
    鐵子さんも没落士族の娘で、かつて遊郭に売られた身。
    イチ

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    2018年01月24日