村田喜代子のレビュー一覧

  • 八幡炎炎記
    戦後復興期の製鉄の街・八幡を舞台にした村田さんの自伝的小説です。
    八幡に暮らす三人の姉妹は、みんな実子を授からず、それぞれ養女を得ている。
    上の姉・サトは夫の長兄の娘・百合子を養女にし、離婚した百合子の子・ヒナ子も戸籍上はサトの娘にしている。下の姉・トミ江は金貸しの亭主が借金のカタに連れてきた(と言...続きを読む
  • 八幡炎炎記
     黒澤明が監督した最後から二つ目の映画「八月の狂詩曲」の原作者が村田喜代子。原作の名は「鍋の中」(文春文庫)。

    長崎の被爆者の老婆と孫の姿を描いた秀作だが、その映画には、主人公「鉦おばあちゃん」のハワイにいる孫、クラークを演じたリチャード・ギアが「もうアリとは共演しない」と言い残したという後日談が...続きを読む
  • 蕨野行
    六十を過ぎた者は里を離れ野に建つ小屋に寝起きし、毎日里を訪れて仕事を貰い日々の糧を得るという暮らしに身をやつす。そうして老い衰えた者をふるいにかけ、豊かならぬ里は新陳代謝を図っていく。
    長雨続きの不作で、生まれた赤子は濡紙を口に当てられ、若い嫁は嫁ぎ先に暇を出され生家にも入れて貰えず行き処を失う。過...続きを読む
  • 八幡炎炎記
    終戦後の八幡を舞台にした物語。親が生まれた頃の日本はこういう感じだったのかー、と思いながら読んだ。皆貧乏だけど日々の中で幸せや楽しみをみつけて生きて行く様子がたくましい。複雑な事情を抱えながらも元気に育って行く子供達、一方でそんな子供達の目には映っていないだろうけど、実は大人達もまたそれぞれ浮気や駆...続きを読む
  • 火環
    八幡炎炎記から続けて読書。ヒナ子が少しずつ大きくなるに連れて周りの大人の様子も変わってくる。

    戦後の復興と共に思想も生き方も仕事の仕方も変わって行く子供達や大人達。この後編ではその波に乗って行く子供達や若い世代と、信心深く立ち居振る舞いも昔のまま変わらない老人達との違いも浮き彫りになって来ていたと...続きを読む
  • 屋根屋
    さて、不思議な小説です。

    雨漏りの修理に来た夢を自在に操れる屋根屋とともに、主婦の「私」が夢の中で様々な屋根をめぐる旅をする内に。。。

    二人が訪れる建物や屋根の描写が緻密です。日本の寺社や五重塔の空に飛び立つような屋根の反り。瓦の裏や法輪に書かれた大工や僧の落書きの面白さ。フランスの大聖堂建築の...続きを読む
  • ゆうじょこう
    熊本の遊郭に売られた15才の少女の物語。

    主人公のイチは硫黄島の漁村で生まれ育った。
    しかし、生活が苦しい家族によって熊本の遊郭に売られてしまう。
    彼女は、これまで自然豊かな島でどちらかというとプリミティブな生活を送ってきており、教育も受けたことが無い。
    元々は健康ですごくピュアな感性を持っている...続きを読む
  • ゆうじょこう
    明治の熊本の遊郭を舞台にした作品。
    「吉原炎上」やら、荷風その他の男性作家の作品と大きく違う。
    硫黄島から、両親に売り飛ばされた娘、イチ。
    その境遇は苛酷だけれど、「かわいそうな女性」と、ヘンに美化されない。
    その体の上に起こる様々な状況、生々しい身体感覚も、意外とドライに描かれる。
    だからこそ、心...続きを読む
  • 屋根屋
    明晰夢の話…といったらなんの感慨もないけれど、どこまで本当なのかが、本当にわからなくなる話。なんだか、明晰夢を極めたくなっちゃいます。
  • ゆうじょこう
    粗にして野だが率直で利発、磨かれる前の原石そのもののイチがどう成長していくのか、廓の天国と地獄の狭間でハラハラしつつ興味が尽きない。
    「踏みしめる足場のない所」で垣間見える鐵子さんや東雲さんの優しさにホロッとくる。三人の心が交流する紅絹の休みの話が好きだなぁ。
    反面、娼妓を取り巻く世間や環境は怒りが...続きを読む
  • ゆうじょこう
    先日花魁道中を見に行った。
    これがあの八文字かと胸を高鳴らせた。
    混み合っている中、そばにいた中年女性が連れに言った。
    「女なら憧れるわよねえ。綺麗な着物着てさ」

    確かに綺麗な着物には憧れるけれど、実際の花魁に憧れを持つかといえば、どうだろう?
    身体を売ることに抵抗がある(だからと言ってその職にい...続きを読む
  • 八幡炎炎記
    充分面白いのですが、まだ続くみたいだから☆4つ。昭和の頃は誰かが子どもの世話をしていたのねえ。家で仕事していた人が多かったんだなあ。
  • ゆうじょこう
    時代は明治初期、場所は熊本の遊郭。ちょっと変わった設定だが苦界に身を置かざるをえなくなった少女を中心に、社会の変化に戸惑いながらも新しい時代を逞しく生きる女性の姿が描かれる。方言で綴られた少女の日記が効果的にその真摯な思いを訴える。
  • ゆうじょこう
    南の小さな島で、貧しい漁師の家に生まれたイチは、15歳で熊本の遊郭に売られる。
    広い海で大きな海亀と泳ぎ暮らしていた少女は、きらびやかな牢獄で囚われの日々を送ることになる。
    鄙で生まれ育ったイチは、訛りがきつい。「ください」は「けー」、「ここへ」は「こけー」、「これ」は「こー」、「食え」は「けー」、...続きを読む
  • 光線
    先日『ゆうじょこう』を読んで気に入った村田さん。今度は多分村田さんの本領らしい短編集です。
    恐らく村田さん本人の経験や見聞をもとに、主人公や舞台を少し変えて書かれたものと思われます。私小説ではないけれど、そんな匂いのする文学作品、さすが芥川賞作家というところです。とはいえ、独りよがりな雰囲気や晦渋...続きを読む
  • 村田喜代子傑作短篇集 八つの小鍋
    「熱愛」とあれど緩慢な「ぼく」による殺人に見えた

    1987年に97回芥川賞を受賞した「鍋の中」を含む短編集です。芥川賞に女流文学賞、平林たい子賞、紫式部文学賞、川端康成文学賞と諸々の賞を受けている大作家さんですが、お恥ずかしながら初めて知りました。

    最初の「熱愛」が短いのだけどもぐいっと惹きつけ...続きを読む
  • 村田喜代子傑作短篇集 八つの小鍋
    「熱愛」「白い山」「蟹女」が圧巻だったんだけど、でも正直短編集でいうと『鯉浄土』のほうが数段好みだなあ。あの薄氷みたいな張りつめた雰囲気の短編がまた読みたい。
    「熱愛」のオートバイを運転している時の描写がすごすぎた。こういう作品は村田さんの中では珍しい作風なのではないだろうか。

    村田さんの作品は家...続きを読む
  • 屋根屋
    こんな空想的な発想を、瓦職人の小説て表すなんて素晴らしいです。ホノボノして面白く、最後のオチもメルヘンチックです。
  • 屋根屋
    ゴルフ三昧の夫と部活に熱中する息子との日常に退屈している平凡な主婦と、妻を亡くした孤独な屋根屋との、夢の中だけの屋根を巡る旅。
    大人の少女漫画という感じ、逆説的だけれど。主人公は、したたかで強い女だ。男性の方がロマンチストで、そして脆い。主人公が介入してこなければ、屋根屋は孤独だけれど、波のない夢の...続きを読む
  • 屋根屋
    屋根の修理に来た永瀬という大男、すなわち『屋根屋』。彼の話から夢にただならぬ興味を持ち始める主人公の主婦。

    「奥さんが上手に夢を見ることが出来るごとなったら、私がそのうち素晴らしか所へ案内ばしましょう」
    その言葉通り、屋根に魅せられた二人が夢の中で様々な所を訪れる。

    夢の世界なのに、夢とは思えぬ...続きを読む