村田喜代子のレビュー一覧
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両親により貧しさのために遊郭に売られた少女が読み書きを覚え言葉を通して自分の世界を広げていく姿は健気で美しくて希望を感じます。そしてその希望は社会の理不尽さや大人達の搾取によって容赦なく踏みにじられていく。10代の少女達がそんな現実をどう受け止めたんだろう、とても痛ましく思いました。
1万円札でお馴染みの福沢諭吉。女性にも教育を!と立ち上がってくれていたのかと思いきや「娼婦は人間以下」と語る場面には心底がっかりし、時代の残酷さを感じました。
どなたかのレビューで東雲さんを壇蜜さんをイメージしながら読んでいました、という方がいらっしゃいましたが私は木村多江さんでした。 -
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倉田美土里(くらた みどり)は、夫の寛宣(ひろのぶ)(80歳)を亡くして未亡人となった。
彼女のまわりには、何となく未亡人が集ってくる。
まだ夫を失ったことがないので、共感するとか、分かる、というふうにこの小説を読む事はできない。
けれど、もうそれなりの歳なので、勉強させていただいた。もちろん、自分が先に逝くという場合もあるかもだけど。
長年連れ添った夫を亡くした場合、若いカップルが相手を失ったような瑞々しい喪失感や号泣というものは伴わないであろうと思う。
美土里の友人・山埜くら(やまの くら)によれば、長年一緒に過ごした夫婦には「夫婦ぐせ」というものがあり相手をなくして時間が経つにつれ、だ -
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「新古事記」(村田喜代子)を読んだ。
村田喜代子さんよくぞこのタイトルを見つけてくれました。 見事だよ。
オッペンハイマー所長を中心に研究◦開発を続ける所員たちは自分たちが手がけているその対象物ゆえにか強度のストレスを抱え、そして何も知らされていない妻たち(とペットの犬たち)はそのストレスを一身に受け止めながらも凪いだ日常を送る。
そんな妻の一人日系三世アデラの祖母のノートには海を渡ってきた祖父の国の創世神話が記されていた。
神ならぬヒトの手によって産み出された新たな火によってもう一度泥濘の中から新しい世界を創世する顛末はまさに新古事記なのだ。
凄まじき業火を産んだロスアラモスという -
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御年97歳の初音さん、その娘の満州美と千里を視点人物として、「かつての自分」が「いまの自分」になってしまった認知症の老人たちと、その様子を戸惑いながら見つめる子供世代の日常が描かれる。興味深いのは、それぞれの生きた戦争と戦後に囚われ、意識を固着させてしまった老人たちの世界と子供たちの世界とが基本的に切れており、ごくわずかな糸でしか結ばれていないこと。だから、子供たちは老人たちに見えている世界が理解できず、認知症の老人たちにはそもそも子供たちが誰なのかさえ分からない。しかし、老親たちのちょっとした振る舞いや言動から、彼ら・彼女らが「あの時」をどう生きていたのか、自分たち自身はどう生きてきたのか
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村上喜代子小説の中でも、好きなタイプ!
読み始めてすぐに、そう感じる。
読み終えて今、この静かな何かが心の中に広がっている。
村上・新刊と言うことで何の情報も無いまま読んだので、
てっきり日本を舞台にした、ファンタジーめいた小説家と思っていた。
どっこい!
太平洋戦争下のアメリカ。
それも舞台はロスアラモスだ。(当初は明かされない)
日系3世の主人公アデラは婚約者ベンジャミンと共に
極秘の旅に出る。
折しも日系人は収容所へ入ることになるかもしれないという。
そんな中、二人が着いたは秘密の研究所だったわけ。
オッペンハイマー、ファインマンらビッグネームが続々と現われるので
歴史を知る読者 -
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元ネタは、アメリカで原爆開発に携わった若い科学者の妻が書いた『ロスアラモスからヒロシマへ』という手記だそうです。その主人公を咸臨丸から抜け出した日本人の孫娘に置き換え、彼女が婚約者の理論物理学者と共に、ニューメキシコに向かう所から始まります。主人公の一人称小説。失礼ながら著者のお年を感じさせない、若い女性の弾みを感じられる文体です。
父母にさえ住所を教えることもできない秘密研究所。そのゲート外に作られた動物病院に勤める主人公の目に映るのは、研究者たちのペットの犬達のベビーラッシュ。次に原子核物理という新しい学術部門ゆえの若い研究者とその奥さんたちの妊娠・ベビーラッシュ。そして、手伝いに来るイン -
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一言、素晴らしい。
でも、残念なことに私にはその素晴らしさを分析する能力も無ければ表現するウデも有りません。
一言で言えば、自らの体験に基づくガン闘病小説です。(但し癌治療方法の優劣や是非を問うような物語ではありません)
主治医や婦人科の看護婦である娘と喧嘩してまで、摘出手術を拒み、子宮体ガンには効果が無いと言われる放射線治療を選ぶ主人公。彼女は一人ウイークリーマンションを借り、特殊な放射線治療を行う九州の最南端の地の放射線センターに通院します。強い放射線宿酔に苦しみ痩せさらばえつつも毎日センターに通い、帰宅すれば食べる気力もなくベッドに寝転がるばかりの日々。
病気に打ちひしがれながらも生き