村田喜代子のレビュー一覧
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先日花魁道中を見に行った。
これがあの八文字かと胸を高鳴らせた。
混み合っている中、そばにいた中年女性が連れに言った。
「女なら憧れるわよねえ。綺麗な着物着てさ」
確かに綺麗な着物には憧れるけれど、実際の花魁に憧れを持つかといえば、どうだろう?
身体を売ることに抵抗がある(だからと言ってその職にいる人を貶めるつもりはない)だけではなく、病になっても医者に見せてもらえずそのまま命を落としたり、誇りを踏みにじられたり、親に借金をどんどん増やされたり......。
苦界そのものだ。
男たちの作った世界、彼らが思い描き、その思い通りの時間が流れる中で、女たちはどれほど犠牲を払い辛い目にあってきたの -
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南の小さな島で、貧しい漁師の家に生まれたイチは、15歳で熊本の遊郭に売られる。
広い海で大きな海亀と泳ぎ暮らしていた少女は、きらびやかな牢獄で囚われの日々を送ることになる。
鄙で生まれ育ったイチは、訛りがきつい。「ください」は「けー」、「ここへ」は「こけー」、「これ」は「こー」、「食え」は「けー」、「来い」は「こー」。口数の少ない少女が必要最低限のことをしゃべると「こけー、こー、けー、こー」とまるでニワトリのようであった。
体は真っ黒に日焼けし、行儀も何もなく、小柄で痩せてサルのよう。
どたばたと歩き、訛りを隠すための遊郭独特の言葉もまったく身につかない。
およそ人間らしくない野生児が、突然、 -
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先日『ゆうじょこう』を読んで気に入った村田さん。今度は多分村田さんの本領らしい短編集です。
恐らく村田さん本人の経験や見聞をもとに、主人公や舞台を少し変えて書かれたものと思われます。私小説ではないけれど、そんな匂いのする文学作品、さすが芥川賞作家というところです。とはいえ、独りよがりな雰囲気や晦渋さはなく、密度は濃いけど読みやすく。
最後の「楽園」は地中湖の探検の、「山の人生」は山中の無人村での一夜を、「夕暮れの菜の花の真ん中」はタイトルの示す通り、そして「関門」は夜の海を、全体にタイトルこそ『光線』ですが、闇を主題にした短編集のようです。
最近、お気楽、お手軽な作品ばかりに手を出す私で -
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「熱愛」とあれど緩慢な「ぼく」による殺人に見えた
1987年に97回芥川賞を受賞した「鍋の中」を含む短編集です。芥川賞に女流文学賞、平林たい子賞、紫式部文学賞、川端康成文学賞と諸々の賞を受けている大作家さんですが、お恥ずかしながら初めて知りました。
最初の「熱愛」が短いのだけどもぐいっと惹きつけて離さない力量のある作品で。
1980年代後半という30年近く前の世界が、私にとってはとても古い時代であるのですが、この文章の中にはその古さが無いなあ、なんて思いながら、相当バイク好きなのだろうか、と思わせる臨場感あふれるツーリングの描写。
「熱愛」というタイトルではあるが緩慢な「ぼく」による殺 -
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ゴルフ三昧の夫と部活に熱中する息子との日常に退屈している平凡な主婦と、妻を亡くした孤独な屋根屋との、夢の中だけの屋根を巡る旅。
大人の少女漫画という感じ、逆説的だけれど。主人公は、したたかで強い女だ。男性の方がロマンチストで、そして脆い。主人公が介入してこなければ、屋根屋は孤独だけれど、波のない夢の中での屋根を巡る旅を心穏やかに楽しめただろうに。
最初の方の、主人公が料理を振る舞う中で2人の距離が縮まり、初めて主人公が屋根の瓦を踏む、そして夢で二人が屋根の上で会う、その流れが心地よかった。後半の展開は、永瀬だけが追い詰められて主人公は結局何も失わないのがはがゆく、もう少し、なにかえぐられるもの -
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屋根の修理に来た永瀬という大男、すなわち『屋根屋』。彼の話から夢にただならぬ興味を持ち始める主人公の主婦。
「奥さんが上手に夢を見ることが出来るごとなったら、私がそのうち素晴らしか所へ案内ばしましょう」
その言葉通り、屋根に魅せられた二人が夢の中で様々な所を訪れる。
夢の世界なのに、夢とは思えぬほど丁寧でこと細やかな描写。
読んでいる自分自自身も夢の小旅行を体感しているかのよう。
結末には衝撃と物悲しさが残った。
一体どうなってしまったのだろう、と。
でもこれでよかったのかもしれない。
夢の続きがもう少し見たかったな、そんな気分になった。 -
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ネタバレ姥捨山に捨てられた老人達のサバイバルの物語!…はちょっと違うけど。(と思ったら、解説の辺見庸さんも「老人たちが余儀なく突入していくサバイバルゲーム」と表現していてびっくり。)
里の若い者達の食いぶちを減らすため、もう里には戻らない覚悟で自ら山にはいるが、それでも山で鳥やウサギを採ったり魚を捕まえたりしながら必死に生き延びようとする年寄りたちの姿が印象的だった。そのうえ里が飢饉にみまわれると、里に残した子や孫に山の肉をやろうと必死に罠を仕掛けるおじいちゃん…。生きるってこういうことだ!というものをどーんと見せつけられた気がする。そこには「姥捨」の伝説から受けるネガティブなイメージは、ない。
みん