道尾秀介のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
背負った「贖罪」を「嘘」で塗り固めて得た「平穏」と、背負った「贖罪」の「真実」を語りたいと思う人とは
道尾秀介さんの作品は毎回読後に考えさせられるものが多い。世間から離れた「周縁」の人物が、日常から離れた「周縁」の出来事に出会い、そして「周縁」の存在であった自分の「社会」としての「家族」としての、「自分」としての存在価値を見つめ直す。物語の構造としてそこには確かに「行って、戻ってくる」、「カタルシス」などが存在する。
その中で今回は前述した「嘘」と「真実」について考えた。自分に引け目を取る、贖罪の意識があるとき、「嘘」を付くことで得られるものはなんだろう。一時の平穏、自分にとって都合の良い状況、そこで得られる繋がり。一方で「真実」を語りたいと思える相手とはどのような人だろう。それはどこか自分と重なる、自分に共感してくれるであろう境遇がある者ではなかろうか。
「嘘」も「真実」も周りの人や社会に対する自分の安定、安心などにおいては同義。ただその中でそれを語る自分に残るものは怯えや引け目であるか、安堵であるかそれは、それを語る「自分」の価値観や見方考え方で反転するものではなかろうか。変わらない事実に対して自分が「どのように向き合うか、受け入れるか」その自分の心の中にある「セカイ」がどうなって欲しいのか、どうなりたいのか。後ろ向きから前向きに、卑屈ではなく主体的にこのセカイを見渡すためには自分の中にある「セカイ」をどのように変革していくか。それが大事なのではないかと感じた。 -
Posted by ブクログ
種明かしをされても前作程の驚きは無かった。主人公が仕掛ける側だった為か緩急の落差が前作程大きくなかったからではないかと思う。
またキョウについても不憫には思えど、主人公に責任を取らせるという考えはあまりに筋違いで、境遇や年齢、性格等を鑑みても納得いかず、まひろほどではないが親身な心持ちにはなれなかった。主人公は最終的に全部キョウに騙されていたのかも、と懐疑的だったが、キョウには危ういところが多いのでさすがに買いかぶりかと思う。結果オーライで良かったね、取り返しがつかないことにならなくて良かったねとやや冷ややかな感想になってしまった。
前作の登場人物達が真っ当な人生を歩み、親交を温めている様子が伺えたのは良かった。ただテツさんの件は早めに打ち明けておいてあげてほしかったように思う。隠さなきゃ姉妹が真っ当に戻れなかったということもないだろうし、特にトサカの件はやり過ぎで相当傷ついていた筈だから。 -
Posted by ブクログ
目次のあとにあるタロットカード風のイラストは、最初に見た時と読み終えた後とで印象が大きく変わった。
読み始めは怪しい雰囲気や色味から「ミステリーなのかな」と勝手に想像していたのに、読み終えた頃には「たしかにこのイメージがピッタリだ」と思えて、少し可笑しくなるほどだった。
一番のお気に入りの場面は、大洞さんがカープ・キャッチャーで釣りをするシーン。
無口な人が淡々と、しかし計画的に動いていく姿が妙に魅力的で、登場人物たちが次第に集まっていくあの場面は特に印象深い。
大洞さんの行動の背景には、離婚した娘の様子をブログのフォロワーとしてそっと見守りながら、娘が「バイト先の景品であるあの箱の中身は何なのか知りたい」という願い(興味)。
その小さな望みを叶えてあげたいという、静かな父親の愛情があった。
その気持ちを知ると、彼の無口さや行動の一つひとつがより温かく見えてくる。
全体としてコメディを前面に押し出しているわけではないのに、登場人物たちが真剣に取り組めば取り組むほど、どこかくすっと笑ってしまう。
そして物語の中に散りばめられた伏線が、最後に心地よく回収されていく流れも読後感をさらに良いものにしてくれた。
現在の自分と過去の自分。
自分の人生の領域の中にあった出来事が、誰かの人生とも静かに繋がっている。
この作品から、そんな温かい感覚を受け取ることができた。 -
Posted by ブクログ
音声と小説を融合させた「体験型ミステリ」
作中に二次元コードが登場して、それを再生すると、ある音や映像が流れてきて、物語の真相が分かるという仕掛けの短編集。
道尾さんの小説で最後の一枚の写真で真相がわかる「いけない」シリーズがあるけど、それと同じくらいわくわく感があった。しかし、肝心のオチがどういうこと…?となる話が多くてちょっと惜しいと思った。もっと面白くできそうなのに。
二話目の「にんげん玉(表記は鏡文字)」が今回の手法にがっちりはまった感じで一番面白かった。動画だから突然大きな音が出たりびっくり映像みたいなのがないかびくびくしてたけどそれはなかったのでよかった。ただ音声をよく聞きとろうと大音量にしてたらCMの音量にビビらされるかもしれません。
一話目の「きこえる」に登場する夕紀乃ちゃんの歌声かわいいなって思ってたら、最後のクレジットで「朝が来ますように」Shusuke Michioの文字が。え…?!ボイスチェンジャーで歌ってるの?と一瞬思ったけどさすがに違うか。しかし作詞作曲までできるなんて多才な人だなぁ。 -
Posted by ブクログ
【2026年23冊目】
ホームレス家具職人として日々糊口をしのぐ東口の前に「弟子にしてください」と現れた西木奈々恵。最初は疎ましく思っていた東口だったが、徐々に彼女がいる生活に慣れ始めていく。だが奈々恵が現れてからというもの、東口の周辺ではおかしなことが起こり始めて――疫病神が耳元で囁く。
「透明カメレオン」を思わせるお話でした。ミステリーとも言えるし、ちょっとファンタジーとも言えるんですけど、そこに人間味が混じってきて切なさを醸し出していました。ホームレスを題材にして、人間の光と闇を上手く描けているなと思う一作です。
基本的にみんな明るいんですが、底抜けに明るいわけじゃないというか、心のどこかで常に不安を抱えている人たちばかりで、それはホームレス云々が関係はしているけれども、かといってそうでない人たちが幸せかというと違って。誰しもが持っている闇をくどくどしない程度に描いているのがさすがでした。
どこに真実があるのか、疫病神の言葉にも惑わされつつ、実は物事って存外ストレートだったりするものなのかなと思ったり。この世界の何処かで起こっていそうなお話。登場人物たちが前向きにひたむきに生きていけてるといいなと思いました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ主人公の坂木錠也はサイコパスだ。そのために過酷な出来事の中をくぐらなくてはならなかった。
妊娠8か月の母親が父親に散弾銃で撃たれ、瀕死で運ばれた病院で、僕(坂木錠也)は生まれた。
父には別に家庭があった。
引き取ってくれた児童養護施設でこんな生い立ちの話を園長から聞いた。園長と母は同じ施設にいたことがあったという。
アルバイトをしながら高校を卒業し、卒園の前に知った。
園で好きになったひかりさんが僕のような人はサイコパスというのだといった。
常に心臓の鼓動はおなじ動きを続けていて狂うことがない。恐怖感もない。
何かに向かう時は自分を抑えるためにひそかに手に入れた鼓動を早める副作用がある薬品を飲む。
メール便で走る時間は、恐怖感を待たない僕は誰よりも早かった。
それを見込まれ出版社のスクープゲッターと言われる間戸村の調査を手伝って生活が潤っている。
僕が中学一年生のとき、施設に少し遅れて入ってきた迫間順平という並外れて体格のいい男がいた。彼は少し鈍く温厚だったが、なぜか彼の方から近づいてきて一緒にいるようになった。僕は母親が坂木逸美という名だということしか知らず、身寄りがないことを話すと、順平の父親は捕まって刑務所にいるといった。祖父と暮らしている頃は極貧でうどん屋の廃棄物を拾って暮らしていたそうだ。
祖父は死んでしまい今は一人で暮らしている。その話から「うどん」と呼ぶことにした。
暫く会わないでいた僕にうどんから連絡があった。約束に遅れそうで気がせいていた僕は、とめていたバイクを乱暴に扱われ、ついぶちのめしてしまった。だが胸を押さえてみたが鼓動に変化がなかった。
待ち合わせ場所に行くと、うどんの父が刑務所から出てきて一緒に住んでいるといった。
父親の犯罪の話をした。うどんが生まれてすぐ店に強盗に入ってそこの女の人を撃ったらしい、名前は坂木逸美という。お前の母親と同じ名前?
僕は間戸村に頼んで事件当時の新聞を手に入れて確かめていた。犯人は田子庸平、なぜうどんと名前が違うのか。
うどんは父と別れた母親の姓で暮らしてきたらしい。そうなのか。
しかし僕は「その事件は違う」と言って席を立った。
ひかりさんは包丁で刺されて死んだ。
うどんの父親が殺された。
刑事が僕のところに来たが、証拠がなく髪の毛をもって帰っていった。
僕は煩わしくて部屋を出てラブホテルに入った、風呂も清潔で悪くない。
父を殺されたうどんが僕を襲った。
なぜか途中で引っかかりながら一度は最後まで読んだ。
そういうことならもう一度確かめてみよう。再読必至というミステリもある、これもそうなのかもしれない。
ストーリーのなかでサイコパスは5人だなと目星をつけた。話の流れは道尾さんの狙いだったのか、複雑でもないストーリーがねじれている。
死人が増えていく。こういう話はサイコパスでもなければ成立しないだろう。
僕の生まれてきた世界の辛さ暗さ、暴力に巻き込み、巻き込まれ、その悲惨さ、全体を覆うそれぞれの不幸。
もう少し流れを整理しねじれを直せばいい読後感が得られたように感じるが。
力が余って曲げすぎた技が邪魔をしたのか、面白いが残念なところがある作品だった。
レビューに書けないところが変に面白い。 -
Posted by ブクログ
神隠しが起こった白峠村の「白早川」へ行くと、風の音と共に声が聞こえてきてー
物書きの主人公が自身の霊体験の相談に旧友に会いに行くお話。
旧友は「霊現象探究所」なんで怪しい事業をやっているが、本人のルックスも相まってメディア露出、本の出版など順調の様子。
そんな旧友真備(まきび)の元には白峠村周辺の相談者から心霊写真が5通も届いていた。
いずれの写真にも背中に眼のようなものが映り込んでいて、撮影後被写体は自殺している。
白峠村の霊現象と、背中に目の映った心霊写真は繋がっているのかいないのか。真備はなぜ探究所を開業したのか。
オカルトを真面目に取り上げ科学的にも解説しつつ、とてもライトで読みやすいお話でした。 -
Posted by ブクログ
道尾秀介の長篇ミステリ作品『雷神』を読みました。
道尾秀介の作品は、昨年3月に読んだ『スタフ staph』以来ですね。
-----story-------------
ある日かかってきた一本の脅迫電話。
その言葉が、30年前の忌まわしい過去を呼び醒ます。
最後の一行まで最上級の驚愕がつづく神業ミステリ。
「今回は、昔の自分には絶対不可能だったと言い切れる、自信作。僕が理想とするミステリのかたちがいくつかあるのですが、そのうちの一つが書けました。」――道尾秀介
あの日、雷が落ちなければ、罪を犯すことはなかった――。
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人を襲った脅迫電話。電話の主が店に現れた翌日、娘の夕見から遠出の提案を受ける。
新潟県羽田上村――幸人と姉・亜沙実の故郷であり、痛ましい記憶を封じ込めた地だった。
母の急死と村の有力者の毒殺事件。
人らが村を訪れると、凄惨な過去が目を醒ます。
どんでん返しの連続の先に衝撃の一行が待つミステリ。
-----------------------
2020年(令和2年)1月から同年10月に新潮社から発行されている週刊誌『週刊新潮』に掲載された後、2021年(令和3年)に刊行された作品……神シリーズとか神三部作と呼ばれているシリーズの第3作、本シリーズは一昨年の11月に読んだ第2作の『風神の手』以来ですね。
■第一章 平穏の終幕と脅迫
■第二章 記憶の崩壊と空白
■第三章 真相の解明と雷撃
■第四章 怨嗟の文字と殺人
■第五章 映像の暗示と遺体
■第六章 最後の殺意と結末
■終章 雷神
■解説 香山二三郎
ミステリの神業を見よ……著者会心の一撃は、“小説ならではの企み”を追求した圧巻の集大成!!
一本の脅迫電話が、凄惨な過去を呼び醒ます……最後の1行まで驚愕が待ち受ける神業ミステリ! あの日、雷が落ちなければ、罪を犯すことはなかった――。
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話……それが惨劇の始まりだった、、、
昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」……真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。
すべては、19歳の一人娘・夕実を守るために……なぜ、母は死んだのか、、、
父は本当に「罪」を犯したのか……村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。
後に世間を震撼させる1通の手紙……父が生涯隠し続けた1枚の写真、、、
そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇……ささいな善意と隠された悪意。
決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。
過去と現在が複雑に交錯しながら深い哀しみと衝撃へ導く作品……雪の早朝、そして翌日の雷の早朝、これが事件の謎を解くキーワードでしたね、、、
ミステリ作品としての謎解き要素も愉しめるのですが、むしろ印象に残るのは、家族の罪と赦し、善意と悪意の境界、そして運命の残酷さといったことが、静かに、しかし確実に胸に残る点ですね。
読後に残るのは爽快感ではなく、どこか湿った空気のような哀しみ……なのですが、それでもページを閉じたあと、しばらく物語の余韻が抜けない、、、
そんなタイプのミステリですね……家族の物語としての情感が印象深く、じわじわと心に沈んでいく痛みが魅力の作品でしたね。