道尾秀介のレビュー一覧
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いわゆる連作短編の構成なのだけど、それぞれの短編の関係性はかなり不思議です。こっちの短編では生きていた人が、次の短編に行くと死んでいたり、逆に死んでいたはずの人が、違う短編では生きて成長している姿を見せたり。
それぞれの短編を単独で見ても、あるいは連作長編として見ても、道尾さんらしさを感じます。ミステリ的な仕掛けから明らかになる真実は、喪われた人に対する罪悪感であったり、哀しみであったりと少しほろ苦く、寂しさや切なさの残るもの。
ただ一流の作家さんの場合は、こうした感覚が味わい深くもあります。そして道尾さんも自分の中ではそんな作家さんの一人。言っていることは矛盾しているかも知れませんが各短 -
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「骸の爪」
背の眼に続く真備庄介霊現象探求所シリーズの第2作目。
「背の眼」に続く、とありながら、前作は未読です。道尾秀介作品はオカルトジャンル以外を読む方なので、こちらは未開。どうやら前作とは、場面やオカルトテイスト、謎解明までの起承転結等が異なる模様。
ホラー作家の道尾が訪ねた滋賀県の仏像工房・瑞祥房。彼はそこで恐怖の体験をする。笑う千手観音に、頭から血を流す鴉枢沙摩明王。そして、ある女性の名前を呼ぶ声を聞く。翌日、工房の仏師の一人の行方が分からなくなる。道尾は霊現象探求家の真備とその助手・凜と再び瑞祥房を訪ねるが、そこには20年前の事件の因縁が潜んでいた。
表にあまり出てこ -
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なんていいお話なんだろうと思った。
涙脆いわたしは、3つ目の『物語の夕暮れ』の後半部分から思わず泣いてしまった。
この3つの物語は、それぞれの話に出てくる主人公たちが描く童話でそれぞれが深く繋がっていて、その童話もとてもいい。
ミステリーというと、誰かが死んでその犯人は。。。みたいなものに慣れ親しんでいるわたしは、第一話で些細な思い込みから騙されてしまい、二度ほどページを戻って読み返してしまった。第二話は完全に「あぁ、この子はやってしまったんだな」という嫌な気持ちになったことをいい意味で裏切られた。読み誤るのは、自分自身の考え方や感じ方がよくない風に凝り固まっているからで、なんだかこのまま -
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2019年、27冊目は、今年、初の道尾秀介。
掛川夏都は、バツイチ。彼女は、実の姉の息子である、智弥と二人暮らし。移動デリを営むも、その生活は楽なものではなかった。ある日、夏都は営業前に車ごと拉致されてしまう。彼女を、拉致したのは、アイドル、カグヤとそのファン達であった。そこから、夏都、智弥、智弥の塾の先生、菅沼はカグヤとそのファン達の企てに巻き込まれてゆく。
正直、フィクサー的存在は道尾ファンなら(自分程度でも)、想像出来る範囲内。ソレでも今回は第五章と終章で、道尾流のフックを、かなり拾い直してくれる親切設計。元々が女性週刊誌連載と、道尾作品に馴染みがない方々のためかもしれない。そのため -
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ー お話の世界に逃げ込むという意味じゃないんだ。物語の中で、いろんなものを見て、優しさとか強さとか、いろんなものを知って、それからまた帰ってくるんだよ。誰かのつくった物語でも、もちろんいい。でも、自分でつくったほうが、知りたいものを知れる。もし知りたいものが何なのか、わからなかったとしても、きっと見つかってくれる。自分でつくる物語は、必ず自分の望む方向へ進んでくれるものだから。
「それを聞いて初めて、やってみようって思った。強くなるのでもいいし、優しくなるのでもいいし ー とにかく、変わりたかったんだ。そのときの自分を変えたかった。そうすることで、自分のいる世界を変えてやりたかった」 ー
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夫の浮気による離婚。
夫と2人で始めようとしていた移動デリの仕事。
姉の弟との同居。
主人公のナツは、リアルな現代の女性像を
ありのままに描かれている。
女の強がり、見栄、本音の寂しさ、
意地。負けん気。
そんな事を言ってられない現実。
そんな中、有名女優の姉のスキャンダルを
もみ消したいアイドルのカグヤ一味による
ナツの拉致事件。
姉のスキャンダルを暴露させまいと
作戦を練り協力していく様が、
面白おかしく描かれている。
衝撃の黒幕。からの黒幕。
みんな人間で、心があって、
本音を隠しながら強がって、
それでも生きてるんだ。
それが家族なんだと。
著者が男性なのもまた、一興。 -
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ネタバレそれが当たり前であるかのように高校生の甘酸っぱい青春を描いた物語を読んでも自分にはあまり共感できないことが多いが、本作が描いている小学生時代の好奇心や思い出には懐かしい気持ちを味わうことができた。登場人物の小学生らしい天真爛漫な言動は大人になった自分にはとてもまぶしい。とはいえ、ただそれだけでは終わらないのはさすがの道尾秀介。最後の解説を読むまでは市里修太という作家は実在するのだと思っていた。
道尾秀介作品は文体というか全体的な雰囲気として独特の寂寥感を感じるものが多いと思っているが、『光』は物語のテーマも相まって特にその色が強く感じた。またさらに年を取ってから改めて読みたい作品だ。 -
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中学生の逸夫と敦子。
逸夫の家は旅館を経営してて、女将を引退した祖母いくの過去には、嘘と罪が。
敦子は母子家庭で、まだ小さな妹がいる。
そして、学校では過酷ないじめにあっていたが、逸夫はそれに気付かずにいた。
ふたりは文化祭をきっかけに交流をもち、夜の小学校に忍び込んで、タイムカプセルを開け……。
いくと敦子、それぞれの嘘。
蓑虫。べっちゃんぐるま。たづちゃん。ダム湖。
生きてくうえで、辛い何かを、忘れるのか、乗り越えるのか。
呆けて、忘れてしまったようにみえたいくが、なお自分の罪の思いから開放されていなくて、涙して謝る姿が胸に痛い。
人の罪は、誰かに赦されないとならないのかもしれな -
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ー もし子供を持っていたなら、あるいは将来的に持つことがあるなら、どうしても教えてあげたいことが一つある。
息子でも娘でもいい。わたしたちは二人並んでゆっくりと歩いている。足下にあるのは、ぬかるんだ土かもしれないし、乾いたコンクリートかもしれない。周囲の風景に、色は多いかもしれないし、少ないかもしれない。どこだって関係ない。いつの季節だって同じことだ。
わたしは子供の顔を振り向かず、景色にも目を向けず、ただ顔を少し上向けて、あの頃を見る。そして教える。
もし本当に綺麗な、眩しい光に出会いたいと思うなら。
いつでも目を開けていなさいと。何があっても、両目に映る景色がどんなものであっても、決し