Posted by ブクログ
2020年01月10日
いわゆる連作短編の構成なのだけど、それぞれの短編の関係性はかなり不思議です。こっちの短編では生きていた人が、次の短編に行くと死んでいたり、逆に死んでいたはずの人が、違う短編では生きて成長している姿を見せたり。
それぞれの短編を単独で見ても、あるいは連作長編として見ても、道尾さんらしさを感じます。ミ...続きを読むステリ的な仕掛けから明らかになる真実は、喪われた人に対する罪悪感であったり、哀しみであったりと少しほろ苦く、寂しさや切なさの残るもの。
ただ一流の作家さんの場合は、こうした感覚が味わい深くもあります。そして道尾さんも自分の中ではそんな作家さんの一人。言っていることは矛盾しているかも知れませんが各短編の結末は、寂寥感が穏やかに心に根を下ろすような、不思議な感覚を覚えます。
各短編、登場人物は同一人物なのに、生者と死者が入れ替わることで、一種のパラレルワールドのように様々な展開が生まれます。それによって見えてくるのは、前の短編では語られなかった登場人物の側面と、生者としての思い。
まるで、一見同じ姿なのに、実はあべこべに物事を映している鏡のように、話はつながっていきます。一応短編集の最終話で、鏡と物語の関連について言及らしきことがされるのですが、個人的にはこの本一冊が、道尾さんの技巧によって鏡の世界に変えられ、読者である自分はそれぞれの鏡写しのような物語世界を、一編、一編辿っているような感覚を覚えました。
大切な者の喪失を、ミステリの技法と繊細な文章力、そして鏡のような世界で表現した道尾さん。そして、それを包み込む最終話。様々な喪失と、それにともなう人の思いの揺れを読んできたからこそ、最終話の展開、そして最後に待つ光景の美しさはより心に刻まれます。
道尾さんの小説家としての技巧と文章力が合わさって生まれた、少し不思議で少し寂しくて切ない、そして美しい作品でした。