冲方丁のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
【短評】
第169回直木賞候補に選出された冲方丁(うぶかたとう)による長編ホラー。
なかなかにチューニングが合わず、物語に没入する迄に相応の時間を要した。しかしながら、一旦物語に入り込んでしまえば、精神を蝕まれるが如き濃密な読書を堪能することが出来た。
大手ディベロッパーのIR部に籍を置く松永光弘(まつながみつひろ)は、渋谷再開発地区の地下深くで祭祀場めいた「穴」を発見する。這々の体で「穴」から帰還した光弘だが、その日を境に彼の日常が歪み始める。謎の渇き。骨を焼くような嫌な匂い。聴こえる筈の無い声。「穴」から這い出た何かが現実が侵食する。
「そう来たか」という着想がお見事。本著のタイトルでもある「骨灰」が示す忌まわしさに思わず身震いする。地面が気味悪く感じるというのは稀有な体験だ。
主人公が正気を失っていく様が緻密に描写されるため、中てられる類の作品だ。正気と狂気の変わり目が掴めない程、静かに巧みに「あちら側」に連れて行かれる感覚は凄いと思った。
他方、段々と迫ってくる類の怪異かつ光弘が割と理知的な人間であるため、序盤になかなかのめり込めず、正直に言えばやや退屈だった。「堕ちて」からはぐいと惹き込まれ、ラストシークエンス等は眼が離せなかったので、そこだけが惜しまれる。
【気に入った点】
●「渇き」の描写が見事。「骨を焼く」というのは凡そ想像しうる乾燥の最上位だと思う。主人公に移入する類の作品につき、不思議と喉が渇く作品である。
●終始全てが信頼できない不安定な感覚が付き纏う。アイツもコイツも何か怪しいのである。それでいて「主人公が何かを間違っている」ことが確かに感じられるため、どうにも腰の座りが悪いのだ。気持ちが悪いのだ。
【気になった点】
●感情移入に時間を要した。正直に言えば、理由は定かではない。上手く言語化が出来ない。序盤に限った話ではあるが、ここ最近の読書で最も眼が滑ったように感じた。他に類を見ない怪異であるため、どういう立場で臨めば良いか、測りかねていたというところか。
現実が凌辱されていく様を緻密な筆致で描く一冊。得体の知れない恐怖を感じているのも一興だろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ相変わらずの情報量。そもそもの三つ巴の勢力争いに大量のキャラクター、今刊はオフィスとクインテットが敵とも味方ともなる複雑な駆け引きあり、戦闘でも異能力バトルに限らず心理戦、法廷戦、それに選挙戦まで加わってきた。
以下備忘録。
オフィス
・共感を失ったシルヴィアを保護し、情報を引き出してあわよくば味方につけようと歓待。
・ウフコックの体内に癌のような異物。シザーズ陣営から「新たなザ・ハンド」と目されている?
・エリアス・グリフィンを市長候補に
・ジェラルド医師、マルコム連邦捜査官はシザーズ
ハンター陣営
・シルヴィア、ラスティが共感を失う
・バジルとシルヴィアが結婚、妊娠
・ハンター、ルシウス・オクトーバーを選挙コンサルタントに市長選を戦う
・トーチ、ヴェンヴェリオも共感を失い暴走
・シルヴィア奪還作戦中、「天使たち」に予期せぬ動き?
・「戦魔女」が暴走?裏切り?
・「ガーディアンズ」のモルチャリーに怪しい動き
冒頭のシルヴィアの葬儀は本物か、偽装か。保護証人を死亡させたことでオフィスの有用性の証明には打撃だが、犯人は誰なのか?
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Posted by ブクログ
そこそこ面白かった。
解説文にもあるけれども、12人の〜といえば、「12人の怒れる男」か「12人の優しい日本人」を思い浮かべる。この2作品は裁判の有罪、無罪を協議する陪審員の話だけど、本作はちょっと毛色が違う。タイトルの通り「死にたい子供たち」が12人集まる、ということは命を自ら終わらせたい子供達が集まるというやや重ためな内容。ただ、重たいだけではなくてエンターテイメントとして仕上がっているところが流石だなと思った。
とあるサイトを通じて集まった死にたい少年少女が12人。集まったのは撤去が決まっている元病院の建物。それぞれの境遇や悩みを抱えたキャラクターが、順番に集まっていく。最後を迎える予定のベッドが12台。しかし、皆が集まったそのベッドの上にはすでに息を引き取った13人目が横たわっていた。そんな予定外の出来事から、話し合いを通じて真相を解明しようとしていく。そんなミステリー要素も本作の魅力だ。
正直キャラクターが多すぎる上に、病院内の構造や、番号やら名前やらごっちゃごちゃになってちょっと追いつかない部分もあった。終盤は流石に名前とキャラクターは一致してきたけど、トリック(というか真相部分)についてはもう諦めた。ああ、そういうことね、うんうん、はいはい、てな感じで流し読み。それでもなんとなくわかったのでそれでも良かった。重要なのは話の本筋の部分かなと思うので。
他の12人〜ものと同じく、舞台はほとんど一つの場面で展開する一幕劇の作りだ。会話で展開していくけど、途中途中、それぞれのキャラクターの目線で語られていくので、飽きずに読み進めることができた。ただし、どんなに話し合いは真相解明を行なっていっても、最後は自らの命を絶つ人たちなんだよなー、と思うと、この話し合いは一体なんなんだろうと思いながら読んでしまう(実際そういった発言をするキャラクターもいるし)。
キャラクターが多く、設定も細かいので、頭の中だけで理解しようとすると疲れる。だけど、巻頭の病院見取り図などを駆使して読み進めると納得のラストを迎えることができる。モヤモヤする展開もあるけど、最後は爽やかな読後感を感じることができるものであった。面白かった。
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Posted by ブクログ
面白かった〜!
息もつかせぬアクション、アメリカ、中国、ロシア入り乱れての亡命劇。日本の中も一枚岩ではなく、主人公の真丈と義弟のバディが離れた場所から真相を解き明かし、二人にとっての「勝利」を模索していく。サスペンス部分もしっかりしているし、亡命もミグ25事件を下敷にしているので違和感なく読める。冲方丁の真骨頂。
とはいえ、長編、しかも昨今のラノベとは違って、難解な単語も平気で混ざった文章、とっつきにくい人も多いのでは。参考文献の数の多さは、それだけ小難しい文章を理解した証。
だが、それがいい。事件が離れた場所で同時進行、義弟の方では頭脳戦メインで、主人公の方では肉体派のおはなしあい、まるで、フロド達を思いながら、ペレノール野の戦いに突っ込んでゆくガンダルフの様ではないか。
SFとは違う形ではあるが、冲方丁節全開。いいものを読ませてもらった。このバディ、シリーズ化を希望する。
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Posted by ブクログ
なかなか面白かった。東棟、どう見てもスクランブルスクエアやん。
ホラーの醍醐味というか、それを文学たらしめている所以として、名もなき弱者の声を可視化するという点がある。近頃は田舎ホラーや実話怪談にたびたび他者への差別的なまなざしが見られることについて盛んに指摘がされており、わたしもその点は多くのホラー好きが認識すべきだと思うが、一方、おおっぴらに声を上げることがかなわない存在の苦しみや悲しみを掬い上げることができるのもまたホラーなんだよな。
本書はこうした名もなき弱者の犠牲を描き出しているわけだが、建物の建設にともなう祭祀というモチーフを使いながら、再開発に浮かれる都会の大企業とその陰でひっそりと暮らすホームレスたちを対比させていてじつに巧いなァ。最後のところで、主人公の松永が日常の平和な暮らしを続けるためには、犠牲となった人々を見ないようにするしかないというのも、皮肉が効いている。