スピンオフをアンソロジーで読んで、面白かったので本編を購入。奥深い、味わい深い面白さ。
生身の人間と変わらない外見や動きを備えた機械人形が存在するようなSF性と、武士や忍びが活躍する江戸風の舞台。歯車やバネがみっしり詰まっているのに、関取に想いを寄せたり願掛けをする人形。由来も仕組みも説明のつかない
...続きを読む、この時代の中で浮いた存在である伊武に、久蔵も甚内も惹かれているが、伊武自身が何か行動して物語が動くわけではない、というところも良かった。信じたり欺いたり、助けたり殺したり・・・動いてかき回すのは人間だ。だから行動に破綻や不可解さはなく、時代小説のように読んでいける。SFに寄りすぎていないバランスが好みだった。
「どうやってその証を見せる」
「あるからこそ、今、それを失うのだ」
機械人形に心は宿るのか、という命題も組み込まれている。
「人の体をどんなに細かく腑分けしても、機巧と同様、その人の心を現すものや感情や記憶を思い起こさせるものなど、一切出てこないのだ。――振る舞いの中に命がある」
それと装画がカッコよくて忘れられないインパクト。くじらの模様の帯を持つ"太夫"。