アガサ・クリスティーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
【ポアロ中編】
1937年クリスティ47歳の作品。
1936年『ABC殺人事件』、37年『ナイルに死す』、38年『死との約束』、39年『そして誰もいなくなった』と、信じられないほどの名作が続くこの年代に書かれた中編集。
どの年代もそれぞれの魅力があるけど、この年代は特に神がかっていると思う。
中編なので長編に近い面白さがあり、読み応えのある1冊だった。(とは言ってもクリスティの本領はやっぱり長編だと思う。)
『死人の鏡』
密室で起きた殺人。「何が1番救いになるか」を考えるポアロの人間味、それを描くクリスティの優しさが染みる。
どんなに鋭い推理力があっても、人の心まで考えられなければ、本当の意味で事件を解決したことにならないのかもしれない。
ポアロの人間の弱さや痛みに深く寄り添う温かさに惹かれる。
最後のセリフに切ない余韻が残る。
『砂にかかれた三角形』
短編なのにいつまで経っても殺人が起きない。人間観察にページをたっぷり使っているので、短編とは思えない人間ドラマの濃さに引き込まれていると、驚きの真相が。
どの作品も人間心理の裏側を突いてくる。
クリスティには毎回まんまと騙されてしまう。だからクリスティはやめられない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ1935年刊行なので、分類としてはクリスティ中期の作品にあたるのかな。ミステリ書くで!という気合が伝わってくる。密室、見取図、怪しげな凶器、怪しげな容疑者たち、被害者の遺産、美男美女の恋愛、暗号的メモ……など面白ミステリの要素がてんこ盛り。その割にトリックは地味というか、そんなんでうまくいくか? と大いに疑問が残る筋書きなので、ちょっと肩透かし感。解説者が書いているように、『そして誰もいなくなった』への布石として、そして“テキストを読むというゲーム性”に注目すると面白いのではないかと思う。
それから、蜂。蜂を出す意味はあったんだろうか。検死して毒の種類まで突き止められているから、蜂による死因と思わせられる可能性は最初から低い。その他の人が蜂に刺される可能性だってある。もちろん搭乗前から小箱に閉じ込めておいているだろうから、酸欠で死ななかったんか? 羽音は周りに聞かれなかったんか? 吹き矢と毒針を残しておくんだったら、色々リスクを冒してまで蜂を使う意味はなかったんじゃ? 蜂はメイドのマドレーヌ(実はアンヌ・モリソー)を舞台に上げるための理由づけに過ぎないとも思ってしまう。というかアンヌ・モリソーは実母であり標的ミセス・ジゼルのそばを通っておいて何もアクションを起こさなかったのか? それも物語のハイライトになりそうなくらいドラマチックな出来事では? とか色々考えが膨らみ、話がとっ散らかっている感が否めない。
原著『Death in the Clouds』のカバーを見ると、ででんと蜂がモチーフに登場するものばかり。見栄えがするから蜂を出したのか、編集者から蜂を出せとでもリクエストされたのか、などとも勘ぐってしまう。
ただ、「騙された!」とどんでん返しを楽しむポイントは要所要所にあり(阿津川氏の解説でその驚きが深まる)、ミステリを読んだ満足感は十分にある。
そして地味なトリックと言ってしまったけれど、この「スタッフに化ける」という他のミステリで散々使われている定石、1935年当時は非常に斬新だったのでは? もしかしてクリスティが最初に考えた? と思ったら、やはりすごい作品なのだと思う。
ちなみにこのトリック、現代の飛行機内では絶対成立しない。航空券の取り方も全然違うし。そんな訳で、約90年前の当時に思いを馳せられる作品でもある。
フランス人・アメリカ人・アイルランド人・イギリス人(どの地方出身かも)の違いが謎を解くのに関わってきたりと、やはりクリスティ作品は時代性を理解していないと楽しみきれないところがある(それが面白い)。 -
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【ポアロ短編】
1947年クリスティ57歳。
元気になりたい時はクリスティ。
久しぶりのポアロで泣きそう。
クリスティ短編は苦手なのであまり手を付けていないけど、今作でははじめて楽しめた。
なんだかポアロが優しい。
いつもよりも人の事情に寄り添うような優しさを感じる。
特に『ネメアのライオン』と『ゲリュオンの牛たち』が良かった。
どの作品も短いのに人間が濃厚で、さらに驚きがあって楽しい。
攻略本に『ヘラクレスの十二の難行』を下敷きにしているので、元の物語を知っているとより楽しめると書いてあった。
本当にその通りで、読む前にググってざっと調べておいてよかった。
元の物語を知っていると、世界観や12の物語との重なり方も楽しめる。 -
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大富豪の家の子エリーと駆け落ち同然の恋をして結婚した主人公マイクはジプシーが丘といういわくつきの土地に家を建てて二人で生活する。しかし結婚直後にエリーは不自然な死を迎え、多くの財産をマイクは手にする。エリーの友人で身の回りのことを全て担っていたグレタとマイクは実は昔から面識があり一連の事件を描いていたことが発覚。最後はマイクがグレタを締め殺して終わり。後半50ページから突然話の展開が進んであっという間に読み終わった。
母親も建築家サントニックスもマイクの魂胆をうっすら理解してはいたがマイクは彼らとは別の道を進み終わりなき夜へと向かってしまう。逆にエリーは朝ごと夜ごと甘やかな喜びに生まれつく人となりその対比が面白い。 -
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なんと言うか…アガサの時代から、男女、夫婦、家族って変わらないんだなぁ、って思った。スカダモア家の皆様はジョーンが鬱陶しくて仕方ないらしいけど、私はジョーンの気持ちがすごく分かる。
だって、私、間違ってないじゃない。
そりゃぁ、全てに大満足ではないけれど、子どもたちは皆、それぞれに独立し人さまにご迷惑をかけずに暮らしている。
夫は仕事で成功している。
ねぇロドニー、いつだって私が家族のことをちゃんと判断できる女で良かったと思わない?
ていうか、実際そうじゃん…
弁護士やりたくない、農場やりたい。良家の子女より不良と付き合いたい。したいことをしたい。そうしたいからそうする。なのにいつもお母様が邪魔をする!…って。
何なんだこの家族。
やってみなきゃ分からないこともあるけど、リスクを突きつける人がいなかったら、あんたたち家族全員、今頃路頭に迷ってたかもしれないよ?今、あなたたちがジョーンの悪口を言えるのは、ジョーンが不自由しないように切り盛りした結果、普通以上の暮らしができてるから。なのにジョーンの犠牲には誰も気づかないのね。
実際、次女のボーイフレンドはろくでなしだったし、旦那が買おうと思ってた農場は、結局抵当に入ってるじゃん(あんた、この農場はたまたま不運が重なっただけですぐ持ち直すって言ってたよね?)。ジョーンがロドニーに唯々諾々と従い、潰れかけの農場でその日暮らしになったとしても良かったの?
ま、仮に農場経営にシフトしたとしても、ジョーンならうまく切り盛りして、結局繁盛させたと思うけどね!
今ならこんなのがSNSにでも上がれば「家族に搾取されてますよ!」「全力で逃げて!」「自分の人生を生きて!」って言われそう〜。 -
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ノンシリーズ(メアリ・ウェストマコット編)。
本作品は、ヴァーノン・デイアという一人のだめんず・・もといw、若き気鋭の音楽家(作中ではまだ原石ですが)の愛と苦悩、そして彼をめぐる人々の波乱の人生を描いた、“ミステリではないクリスティー”でございます。
美しい屋敷(アボッツ・ピュイサン)で生まれ、空想に耽った繊細な幼少期から始まり、従妹のジョー、幼馴染のセバスチャンやネルと過ごした少年期。
音楽に目覚め、美しく成長したネルと恋に落ちる青年期、そして圧倒的な歌声を持つオペラ歌手・ジェーンとの出会い、さらに戦争の勃発・・と、ヴァーノンをメインに五人の男女が運命に翻弄されながら生きていく展開です。
主人公ヴァーノンは「純粋で芸術的才能はあるけれど、付き合うと絶対に苦労する男」で、彼の“夢見るお子ちゃま”っぷりにはイラッとさせられっぱなしでしたw
そんなヴァーノンを巡るネルとジェーンという二人の女性の対比が特に印象的でしたね。
前半はキラフワ系女子だったネルが、戦時中に病院で一生懸命に働く姿はとても健気で良かったのに、彼女の病院勤務を「看護なんて、きたない仕事じゃないか」と、否定して自分の理想ばかり押し付けるヴァーノンにまたイラつく私・・(-_-;)。
(で、ネルが不安になった絶妙なタイミングで金持ちおじ様・ジョージ登場という・・ま、これはミセス・ヴェリカーの策略だと思いますが・・)
一方、大人の魅力に溢れていたジェーンですが、終盤でネルに対してかなり意地悪な牙を剥いたりと、そんな女の執念というか、剥き出しのエゴの描き方にゾクゾクさせられました。
さらに、奔放で自らしんどい恋愛に走ってしまうジョー、冷静に時流読む眼を持ち事業で成功していながらもジョーへの切ない想いを抱き続けるセバスチャン・・。
といった、それぞれ悩みや葛藤を抱えた登場人物たちが織りなす物語に、つい引きこまれてしまった次第です。
かなりのヴォリュームでしたが、読み終わった瞬間、思わず深い吐息が漏れてしまうような・・そう、まるで一本の重厚な映画を見終えたかのような読後感を味わっております。
ということで、クリスティの天才的な人間描写の上手さが遺憾なく発揮された、濃厚な人間ドラマを堪能させて頂きました。
未読のクリスティー作品は、ノンシリーズ(と戯曲)のみなので、残りを少しづつ読んでいきたいですね~。