町田康のレビュー一覧
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沖永良部島から薩摩への帰路、嵐に見舞われて遭難し朝鮮へ漂着してしまった藩士安田義方の日記を基に書かれた長篇小説。話す言語が違うので遣り取りのすべてにおいて漢文の筆談を強いられ、漸く通じ合ったと思えば相手国役人の“役人らしい生真面目”な繰り返しの確認作業に煩わされて帰郷の段取りは遅々として進まず、そのうえ法律のせいで上陸が許可されず生活(藩士船人合わせて二十五名)は半ば崩壊して水浸しの船の上。詩の達人と勘違いされてはやたら次韻や評を求められ、鼻持ちならない役人や細々とした問題へのひとり奔走。と書出せばキリが無い過酷の連続はもし自分だったら正気を保てそうになく、漠然とやっぱり武士って凄いなという感想を抱いたりもした。けれど、そんなつらい日々の中にも希望となって繋がり合う朝鮮国側の人達もいて、この部分が、とは要するに言葉や文化が自分とは違っても、互いを尊重し慮って助けようとする心の動きは在るのだと示している部分がこの小説の核だと私は思う。排外主義的な言説が罷り通る今の日本だからこそ大きな意味のある作品ではないでしょうか。
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Posted by ブクログ
ネタバレ19世紀末に実際に起きた殺人事件をモデルに、殺人犯となった一人の男の生涯を描く怪作。圧倒的なボリュームで「人はなぜ人を殺すのか」が描かれる。
主人公の熊太郎は自分の思考を言語化することがとにかく苦手で、幼少期から大人に至るまで他者とのコミュニケーションを上手に取ることができない。決して頭も性格も悪いわけではないのに社会の中で生きづらさを感じている。現代でいうところの発達障害のような描かれ方だが、当時は誰にも理解されない。そんなわけで、熊太郎はろくに働きもせず博打ばかりに日常を費やしている。
そんな男が大量殺人に至るまでの過程を、圧倒的な心理描写で描き切る。作品全体を通じて河内弁の独特の文体が徹底されており、重いテーマのはずなのに滑稽かつ虚無的な独特の雰囲気を作ることに成功している。読んでいる最中に、何度も爆笑してしまった。その分、終盤のシリアスな殺人描写、ラストの熊太郎の慟哭が際立っている。
読み進めるうちに、熊太郎にとても共感してしまった。以下は、特に共感した場面。
○p.490
『道を歩いていて突然、暴れ込んだときの自分の台詞を思い出し、「あ。うーん」と呻き、両手で顔を覆って畦道にうずくまったりした。或いは、大きな声で、「えべらぼんべん」などと意味不明のことを口走るなどした。』
↑の熊太郎のように、自分自身も過去の嫌なことを思い出した時に突発的に叫んでしまうことがよくある…
○p.723-724
熊太郎が殺害を決意する心理描写にもとても感情移入した。自分自身、前職の職場の上司を心底憎んでおり、生きる価値がないと思っている。「殺す」はないにしても、未だに「死ねばいい」と常々思っている。熊太郎が松永家に対して「悪の芽はこれを摘んでおかなければならない。正義のために。殺す。」と決意するが、自分も全く同じことを元上司に思った。パワハラするやつ、それを容認するやつ、軒並み社会から淘汰されるべきである。
このように、社会の中で失敗した経験や抑圧された経験を持つ人には圧倒的にブッ刺さる作品だと思った。ただし、本作の最も凄いところはそうした恨みの感情を爆発させたところで、下記のように虚無に終着することを描いている点である。
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曠野であった。
なんらの言葉もなかった。
なんらの思いもなかった。
なにひとつ出てこなかった。
ただ涙があふれるばかりだった。
熊太郎の口から息のような声が洩れた。
「あかんかった」
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復讐を単純に美化しているわけではない。
読者に対して「恨みは終わらせないといけない」ことも描いている。まさしく、何度裏切られても「人の正義」を信じ続けていた熊太郎のように生きないといけない。
とにかく凄い作品だった。「平成を代表する一作」と言われることも納得。 -
Posted by ブクログ
最初、関西弁のやり取りがかなりコッテリ過ぎて、関東人の私には無理かも、と思ったけど、頑張って読んでる内に、なんかエセ関西人になりそうな感じで、本読んで無い間も、脳みその中エグい関西弁で考え事してまんな。
登場人物が多すぎて、少なく見積もっても3桁はいるやろうし、家族や一族だとやたら名前が似てるし漢字が難しくて次のページでルビが無くなると途端に読めなんくなるし、誰と誰が戦ってるのかとか、イマイチよく分かんまま、関西弁のエエ感じに流されて読んでしもうた。
何だかんだで文句は言いつつも、結構おもろうなってきよって、次どうなるんやろって感じでどんどんワールドにハマっていき、電車の中で思わずぐへっとか笑ってしまう始末。
ラブ&ピースってほんまなんやねん。
めっちゃどつきたくなるけど、これ中毒性あるけ、ヤバい本掴んでもうた。 -
Posted by ブクログ
特別に面白い展開はなくても文章の面白さでぐいぐい読めた。リズムが気持ちいい。主人公はダメダメだけど育ちがいいからところどころで教養が滲み、ユーモラスで惨めで憎めない。お見合いを滅茶苦茶にするシーンなんか最高だった、馬鹿で不細工。
解説で池澤夏樹が、(類似作家としてよく挙げられる太宰と違って)町田康は没落者ではなく、日本全体が没落したのではと指摘してて興味深かった。「泡沫景気が崩壊して、自信を失い、目標を失い、当惑している。何かが終わってしまって、次が始まらない。教養はあるけれどその使徒がない」。きれぎれを読んでいて何となく他人事ではないと焦るような気持ちになったのは、作中を漂う空虚さが限りなく現実のものだったからだと思う。 -
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二篇所収
・「くっすん大黒」4⭐️⭐️⭐️⭐️
野間文芸新人賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作品。
怠惰で仕事を辞め、妻にも出て行かれたダメ男の主人公楠木正行。部屋にある無用の置物・大黒様、これが不安定で設置困難。楠木はこれを捨てようと行動するが、登場する人物たちも、特に女性が一癖ある人達で、物語の展開が面白く読んでいて楽しい。
・「河原のアパラ」5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
「くっすん大黒」が面白かったので、これ以上はないだろうと思っていたら、「河原のアパラ」がより最高に楽しかった。
町田康という人がデビューしたのは、日本に一人の才能が現われたのだと思う。
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Posted by ブクログ
ミルクティー飲みたい やつは変えてないよ。さんがお勧めしていた作家さんなので、手に取りました。
絡んだものが絡んだまま、なにかそこから察して感じて!というような書き方で、オチはここだったのかな。そもそもオチはないのかな?と読み終わった後に考えていました。
最初の短編、「エゲバムヤジ」がとても気に入って何回も読みました。
題名になっている「記憶の盆踊り」。これも面白く、もしかして主人公は死んでる?と予感させる終わり方。幽霊になったら、なにもかもがぼんやりとしか思い出せないのかな?などと、あちら側からみたこっちの世界に想いを馳せました。
少し異色で面白い作家さんで気に入りました。他の本も読んでみよう!