法月綸太郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
4+
名探偵の苦悩極まれり。
著者が言うには、『頼子のために』『一の悲劇』『ふたたび赤い悪夢』の順(刊行順)で三部作を構成するとのことだが、物語の流れとしては本作は『雪密室』と『頼子のために』の続編にあたる。『一の悲劇』は本作よりも後の話、『雪密室』と『頼子のために』は直接の関わりはない。本作のみ読んでも、過去の事件との関わりが多少わかり難いだけで、そこそこ楽しめるとは思うが、遡って読む場合には、重要な点がネタバレになってしまうのでやはり刊行順に読むのが望ましい。
ちなみに本書巻末の笠井潔の解説には前もってネタバレの注意喚起が記載されているが、クイーンの作品については予告なくネタバレしている。それは困るという向きにはいっそ解説を読まない方が良い。『頼子〜』の池上など著者の文庫は解説に恵まれない印象がある。
過去作と大きく絡んでいるせいで単独で手を出しづらいのは難点だが、この時の著者の言いたいこと、書きたいこと、書けること、を、これでもかと何とか全てひねり出したかのような真剣な姿勢が垣間見え、それが悩める探偵像と重なり、従来作にない重厚な雰囲気を醸している。そのシリアスさは物語と非常にマッチしており、個人的には、本作までに発表された長編の中では最も良い出来と思う。物語の終わりには苦悩を消化し、一定のケリをつけた探偵像が描かれ、それがどこか書ききった感のようなものにも見え実に清々しい。ただし著者自身の苦悩は本作発表後も延々と続いていくのだが。 -
Posted by ブクログ
お膳立てばっちしの本格推理小説。
最初は、語り口がちょっと芝居がかりすぎているように感じていたが、クラスメイトの一人が主人公に自殺未遂をした経緯を語る場面で「これは凄い!」と膝をただした。
この心理描写、その切迫感、そして絶望感。ともすれば絵に描いた餅のような滑稽さに陥りかねない(中二的な意味で)その感情を、ここまで研ぎ澄まされた言葉で語る著者の筆力に感心した。
それ以後は、物語世界にぐっと興味が湧いてとても面白く読めた。
教室にあった48の机と椅子が消えた中で級友が死んでいたという奇妙な密室、という設定をじわじわと生徒たちの反応を交えて描いていく様子や、主人公と警部との軽妙な腹の探り合いなど、非常にスリルがあってどきどきした。
それだけに、担任教師・大神(ネロ)の造形があまりにもごてごてしくて、鼻についたのが気になった。これでは読者は彼が怪しいと思うに決まっている。キャラを立てるにしても、周りとの調和を考えて、もう少し自然な感じにできなかったものか・・・。
一長一短な印象も大いに受けた作品だったが、ミステリーとしてのまとまりもなかなか。トリック自体はそれほどのものではないが、やはり心理描写の上手さが作品を生き生きとさせていると思った。
高校時代の危うい人間関係や自意識をほろ苦く、かつトリッキーに描いた作品であり、そういうところが私はとても好きだった。 -
Posted by ブクログ
西村頼子の事件以来、出口の見えないスランプに陥っていた
作家の法月綸太郎のもとに、深夜かかってきた電話は、
アイドル歌手畠中有里奈からの救いを求める電話だった。
ラジオ局の一室で刺されたはずの有里奈は無事で、
彼女を刺したはずの男が死体で発見されるという奇妙な状況。
しかし、有里奈は、ただ不思議な体験をしたというだけで
混乱し、恐怖に追い詰められたわけではなかった。
彼女の精神を極限まで追い込んでいるものは、
有里奈の双子の兄と、有里奈の父を惨殺し
自殺を遂げたという実の母親の影だった。
自分の中にも、やはり人殺しの血が流れていたのだ――。
そう思いつめ、心を閉ざしてしまった有里奈を救うべく
綸太郎は父親の法月警視とともに、事件の謎に挑んでいく。
法月綸太郎シリーズの第5作。
今まで読んだ法月綸太郎の作品の中では一番の大長編だった。
読むのになかなか時間がかかったが、
ストーリーが最後までだれることもなく、楽しめた。
目次の前のページにあるいささか異質の献辞や、
冒頭の数ページを読めばすぐにわかることだが、
本作は、「頼子のために」の内容を受けての作品となっている。
どうやら、「頼子のために」でとある形で問題提起された、
作者のほうの法月綸太郎が頭を悩ませている
「後期クイーン問題」とやらに関しての、
ひとつの決着が描かれている作品であるらしい。
それくらいはなんとか読み取れるのだが、
いかんせん「後期クイーン問題」とか
神がどうのこうのといった話には詳しくないため、
作者がどんな主張を物語に込めたのか、
そのほとんどは理解できずじまいだった。
ただ、「探偵という立場」というものに関しては
京極夏彦の諸作品の中で中禅寺が語っていたり、
西尾維新の戯言シリーズの中で言及されていたりしたので
それに似たようなことを言っているのかな、
などと想像したりはした。
だが、普通に楽しく読めたので特に不満はない。
複雑なプロットと、何人もの人間の思惑を
幾重にも絡み合わせた構成はやはり見事。
それでいて、綸太郎という“名探偵”の存在をはじめとした
本格ミステリ的なガジェットのおかげで
作品全体がどことなくちっぽけに感じられるところも
やはり相変わらずなのだが、
そこがむしろ逆に、作者である法月綸太郎の
ミステリに対する偏愛を感じさせ、微笑ましいと思う。
作中の綸太郎が自嘲気味に評したところによれば、
頻出する比喩表現は「くだらない比喩」だそうだが、
人物の仕草や表情を描写するときの独特の表現は
“文章ならでは”のものであって、素晴らしいと感じた。
おそらく作者にとっての転換点になった作品なのだろう。
以降の作品も手にとるつもり。
楽しみである。