桐野夏生のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「細雪」のモデルとなった谷崎潤一郎の妻、松子とその妹、重子、松子の前の夫との間にできた息子(重子の養子)の嫁・千萬子が小説家谷崎の家庭生活と創造生活を全てを司る様子が、重子の1人語りとてもリアルに表現されていて、これは重子の肉声なんじゃないかとさえ思ってしまった。
人気作家のわがままに翻弄されているのは結局のところ誰なのかわからない。最後、老い始めた谷崎を平伏させてしまうような重子なのか、それとも実は谷崎が重子に自分を足蹴にするように仕向けているのか。小説が現実を模しているのか、現実が小説を真似ているのか。
女たちの自分の存在意義を賭けた駆け引きや嫉妬などが繰り広げられるのだが、そこで生まれる不安やちょっとした哀しみは、小説家である男の庇護のもとで生活すること代償だ。創作意欲を与え続けることで、男を生きながらえさせる。それこそが自分の存在を証明するものなのだし、彼の働きがないと生活も苦しくなるのだから、舞台で踊り続けるだけだ。それでも、そんなに「支配されて抑圧された」感がないのは、何かそこにしたたかな生命力、図太さやしぶとさのようなものがあるからかな、と思う。桐野夏生が女を描くとこうなる。 -
Posted by ブクログ
神の恩寵という意味のバラカ。飲んだくれで自己中心的な父親と神にすがる母親に連れられて行ったドバイで母親を失い、人身売買組織に売られ、そこを訪れた日本人の女に買われ、最後は原発事故を起こしたフクシマで行方不明になり、お爺さんに拾われた女の子。日本にたどり着いてからは、周りの人間の自己実現や社会正義の実現のために利用されつつ、自分を見失わずに生き延びた女の子。親代わりになったお爺さんの豊田さんでさえ、バラカに娘のような愛情を抱いていたのか、それとも自分の正義のために彼女を連れていたのか、結局のところはよくわからない。でも、守ってくれる人や見方になってくれる人との途切れ途切れに現れては消えていく儚い繋がりのようなものが、彼女を生き延びさせてきた。神の御加護なのかもしれない。
読者である私の現実の生活などはつまらないもので、冒険も挑戦もなく毎日淡々とすぎていくのだが、桐野さんの書く女はいろんな理由で生き延びるために、それぞれのやり方で戦っている。こういうハードボイルドな女たちを見たいから、私はこの人の本を読むのかなあとぼんやりと考えた。こういう登場人物に、私は耳元で囁いてもらいたいのかもしれない。がんばろう、やっていこう、たたかおう、と。バラカはミロに次ぐヒロインだと思う。
桐野バージョンのフクシマ後の日本では、原発4基が爆発して首都は遷都となっている。8年前の大事故はなかったように全てがコントロールされ、反対派はひっそりと確実に消されていく。東京の高所得層は関西や外国に逃げているため、東京には多国籍の外国人の居住区となっている。被曝した地域は農業もままならないが、同時に帰還地域では、子供たちが学校で楽しく過ごす様子などを広報している。ディストピアではあるが、そんなに驚きがないということに少し驚いた。 -
Posted by ブクログ
1971年頃は、大学のバリケードの撤去が始まり、学生たちの全共闘運動も一段落といった風潮だった。
その後、際立った活動をした一つが連合赤軍だった。
山岳ベースで武闘闘争のために訓練を行っていたグループの集団リンチ事件が明るみとなり、凄惨な状況は社会を騒がした。
その後、官憲から逃走したグループは、あさま山荘に籠って銃撃事件を引き起こす。
そして、これらの事件解決後、日本の過激派と呼ばれる極左運動は完全に地下に潜ることになり、日常社会は穏やかになったとの印象が私には遺っている。
社会問題に対してデモ闘争を繰り返しても、鉄壁の官憲の壁は崩すことができず、国会では強行採決が繰り返されていた時代だ。
その後の若者たちの政治的関心は、体制側の見事な管理が功を奏して完璧に希釈され、一見平和的な社会となったような気がする。 -
Posted by ブクログ
桐野夏生の作品は久しぶりに読んだ。高校生が主人公のものは確かもう一つあったと思うんだが、これは家に帰れない(というか家庭がない)女の子たちが生き延びるために必死に戦う話。女の子たちの生き様にハラハラして、とにかく危ない目に合わずに最後まで小説終わりますようにと願いながら読んだ。フィクションとはわかっていても、主人公が心に残って生き続ける感覚があって、そこが桐野夏生の物語の美しさなのかなと思う。
桐野夏生の描く女はいろいろだけど、だいたい出てくるのがハードボイルドな生き様の女。人を頼れない、いろいろあるから頼りたくない、孤独だけどそれを受け入れて生きていく。それしかできないし、それが自分だから。傷ついても傷ついたことも言えずに、大丈夫大丈夫と言い聞かせながらでも。同じような子たちと助け合って頑張って、生きていく。
これ読んだ後に、朝日新聞で受験がどうとかの記事を目にした。そんなことより、ジャーナリズムを通して、必死で生き延びようともがいてる子たちのことがもっともっと社会で認知されて、守られるように大人たちが頑張る方が大事だ。私も、ご飯作ってあげたいと思った。今日もがんばったね、大変だよねっていって、ご飯作ってくれる大人もいないような環境で育つ子たちが少しでも減るといい。私にも娘も息子もいて、特に息子の1人はいろいろ大変な子だけど、ご飯作ってあげられるだけ本当に幸せな環境だと思う。子供は自分では何一つ選べないから。生まれてくる親も、家庭も、何もかも、与えられた場所でしか生きることができないからこそ、大人が守っていかないといけない。
こういう本は中学高校生の必読書にするといい。悪い奴らや無関心な奴らがたくさんいること(大人の私もその1人かもしれない)を知らしめるべく。子供や若い子を搾取する世界を受け入れないという意味で、反社会的になるべきと。 -
Posted by ブクログ
読みおわった日付:2022.3.22 ~本の内容に関すること~ ■本の要点 男とは、女とは。
それぞれを陥れることなく、男女の違う側面を美しい文章で、個人の話として語られる。
愛する男に殺された、黄泉の世界の女の気持ち。
神と人の違い。
■感想、意見
古代の神々が出てくるものの、美しい口語でお話しされるので、読みやすく面白かった。
イザナミ様の胸の内は、人である私には理解しきれないと思うと、それも含めて孤高で悲しく畏怖の念を抱く。
ナミマの無念や解明欲は、理解できる。
女神と人の差を、それぞれの感情を表現して伝えているのは、新鮮で面白かった。
そうだよね、まあわかる、なるほど、と女性という性の一面を知った気分になった。
■調べたいこと 新作 『燕は戻ってこない』も読んでみたい。
■本を読むことになったきっかけ VERY4月号での対談 ■本の中で気になった言葉 『神だとて、出産で死ぬのは、いつも女』 ■所要時間 3-4時間 -
Posted by ブクログ
やっぱりだいすき!ミロシリーズ!
物語が進んでいくテンポがとても好み。主人公のミロの目線で、いろんな事象のちょっとした違和感とか着眼できるストーリーの組み立て方もほんとうに素晴らしい。親切なんだけど、絶妙に読者(少なくともわたしには)には謎解きしきれないから、クライマックスには毎度驚かされる。
1stシリーズの「顔に降りかかる雨」の時からだけど、登場人物の服装や身だしなみに言及することが多くて、その人となりを想像するのに有効だと思うし、時間の経過とかも感じられるからすごく効果的だと思う。そして個人的にファッションに興味あるから嬉しい。笑 著者もそうなのかな?
欲を言えば最後、トモさんにもう一度出てきてミロに寄り添う描写があって欲しかったけど、そうしなかったのも著者の意図があるんだろうな。
次のシリーズも積読になっているので、早く読みたてうずうずしてます。
個人的に、新装版の解説をされているのが柚木麻子さんなのもうれしかった。
-
Posted by ブクログ
これを読んで好きな小説家が増えた。『柔らかな頬』のときも感銘を受けたが今回もそうだった。日常の中でふっと訪れる狂気。それは何も特別ではなく、他者の眼差しで冷ややかに見つめる自分自身も同じ狂気に染まっていた、といった安住のなさがある。こと「安住のなさ」にはいくつか在り方があるのだが桐野夏生の場合のこれは好きだ。別の在り方としては真実で四方八方を追い詰めるやり方だがそもそも真実とは?といった果てのない疑問を残すのだが、『錆びる心』の場合は「何を信じるのか」から出発するので問題の回答権を自身が掌握することができる。答えることのできる問題。そのようなものに挑戦できるのがこの著者の書く小説の真骨頂なのだと感じた。
-
Posted by ブクログ
ネタバレまさに奴隷状態に置かれている人々をモチーフ(?)に書いた短編集。
設定はさまざま。ボコ・ハラムに誘拐された女子生徒たちと思われるものや、北朝鮮の人民を連想させるもの、何の情報も得られず、閉ざされたコミュニティでひたすら働くしかない炭鉱労働者、江戸時代に国外逃亡した男、など。
一つだけ現代の日本の女の子(の母)を題材にしたものがあって、「アイドルになりたい」という夢の”奴隷”となり、あらゆることを犠牲にしている、という設定なんだけど、かなりシリアスだった。AKBやら乃木坂なんちゃらやら、次々に現れては消えていくアイドルの、華々しい活躍の陰に、こういう”奴隷化”された人たちがいるんだな…と、ちょっと背筋が寒くなる。
私たちは平和な日本にいて、ニュースで中東のテロや、ボコ・ハラムの誘拐事件を聞いても、「死者何十人」とか、「数百人誘拐された」とか、本当は驚くべき数字だが、多すぎてもうピンと来なくなっている。でもその「数百人」の一人一人は、当たり前だがちゃんと尊厳を持った、大切な一人一人で、その当たり前のことに想像力を働かせて書かれている「泥」という一編は圧巻だった。社会的な問題提起だけが作家の仕事ではないと思うけど、問題提起というか、どんな遠くの国の出来事でも、ここまで想像力を働かせることができる、という意味でとても意義深いと思った。 -
Posted by ブクログ
まず著者群の面子を見て、少なくとも既知の名前において、それぞれの発信することばを追いかけている人が多いことを確認。演繹的に、その他の著者についても、かけ離れた立場にはないであろうと判断。あわよくば、今後の人生指針になり得る存在と出会えることも期待。前置き長いけど、そんな考えの下、発売前から気にかけていた本書。日本学術会議任命拒否問題についても、どこかでちゃんと読まなきゃと思っていたけど、その欲求も本書で満たされた。中曽根時代から綿々と受け継がれて今に至るってのも、何とも根深くて嫌な感じ。そのあたりまで遡って、ちゃんと勉強しなきゃ。あとは、己でさえままならない自由の取り扱いを、更に次世代に伝えることの困難も、改めて実感。自分も不断の努力を続けることにしか、それに対する答えはないですわな。