1986年春、ある証券会社の福岡支店に入社した3人の新入社員を主人公にした小説。プロローグとエピローグを除いた小説の舞台は、1986年から1990年代初めの福岡と東京である。
この時期は、バブル景気の時代と呼ばれる。日本のバブル景気は、1986年12月から1991年2月までの51カ月間の、資産価格の上昇と好景気、およびそれに付随して起こった社会現象とされている。最近、日本の株価が上がりつつあるとニュースで取り上げられることが多いが、日経平均株価の最高値は、いまだにこのバブル景気時代のもので、具体的には1989年12月29日の38,957円である。これが、バブルのピークの1つである。バブルの崩壊は1992年の2月頃と言われているので、それからおおよそ30年間以上、日本経済は当時の株価を上回ることが出来ない低迷を続けているという言い方もできる。
バブル景気は、私が大学を卒業して数年後にやってきた。私自身は、メーカーに勤めていたので、不動産業や金融業ほどの勢いではないが、それでも、世の中の景気の良さは感じていた。今から振り返ると、やや異常な時代でもあった。バブル当時の世の中で信じられていたのは、「土地と株価はずっと値上がりが続く」といったことであった。私は首都圏に住んでいたが、首都圏の土地の値上がりは激しく、また、マンション価格も高騰を続けており、普通のサラリーマンでは、通勤時間の長くかかるところにしか自家を取得出来なくなっていた。しかし、マンションは、買った時よりも値上がりするのが当然という雰囲気もあったし、また、株もずっと値上がりするものだと思われていた。そういった根拠のない考え方が、更に土地と株価の値上がりを呼んでいた。それがバブル景気だ。
バブル前夜に証券会社に入社した主人公たちは、株価の高騰、バブル景気の膨らみとともに、のし上がっていき、そしてバブルの崩壊とともに破滅を味わう。この小説は、時代を利用し、しかし、最後には時代に翻弄され裏切られた若者の物語である。
証券会社というバブルの渦の中心を舞台にしており、その当時の世相が、よく描かれている。私も、当時の様子を思い出しながら小説を読んだ。ただ、小説の前半は、やや「バブルあるある」的な物語が続き、そんなに面白く読んだわけではない。小説の後半も、「バブル崩壊あるある」的な物語ではあったが、急に小説の緊迫感が増し、面白く読めた。