あらすじ
遙か南の島、代々続く巫女の家に生まれた姉妹。大巫女となり、跡継ぎの娘を産む使命の姉、陰を背負う宿命の妹。禁忌を破り恋に落ちた妹は、男と二人、けして入ってはならない北の聖地に足を踏み入れた。
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Posted by ブクログ
読みおわった日付:2022.3.22
~本の内容に関すること~
■本の要点
男とは、女とは。
それぞれを陥れることなく、男女の違う側面を美しい文章で、個人の話として語られる。
愛する男に殺された、黄泉の世界の女の気持ち。
神と人の違い。
■感想、意見
古代の神々が出てくるものの、美しい口語でお話しされるので、読みやすく面白かった。
イザナミ様の胸の内は、人である私には理解しきれないと思うと、それも含めて孤高で悲しく畏怖の念を抱く。
ナミマの無念や解明欲は、理解できる。
女神と人の差を、それぞれの感情を表現して伝えているのは、新鮮で面白かった。
そうだよね、まあわかる、なるほど、と女性という性の一面を知った気分になった。
■調べたいこと
新作 『燕は戻ってこない』も読んでみたい。
■本を読むことになったきっかけ
VERY4月号での対談
■本の中で気になった言葉
『神だとて、出産で死ぬのは、いつも女』
■所要時間 3-4時間
Posted by ブクログ
すごい。息を呑む、とはこのことか。とんでもなく面白い。
女に生まれ、生きる、その苦しみ。
「絶対に消えるものか。生きる楽しみを謳歌した者に、黄泉の国に追いやられた者の気持ちなどわかるわけがない。これからも怨んで憎んで殺し尽くすのだ。」(イザナミ、p.258)
これは男として生まれた者に対する怒りなのかもしれない。
桐野夏生さんが、『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ、2020)の選評で、「この国で女に生まれることは、とても憂鬱なことだ。女たちの憂鬱と絶望を、優れたフィクションで明確に表した才能と心意気は賞賛されるべきだ。小説でなければできないことがあるのだ。」と書いていたことを思い出した。
Posted by ブクログ
登場人物の分類される重要な立場が女か男かのふたつだと感じた。
主人公は女という概念がナミマという皮を被っただけであるし、イザナミ、イザナギ、マヒトもまた同じ。
陰にされた女、陽になった男、
自分勝手な男、昔のことを忘れる男、突き放され怨む女、昔に戻れればそれでいいはずの女。
徹底的にイザナギを恨み尽くすイザナミと、マヒトに優しくされたら揺らぎそうなナミマがいるが、ナミマだけが独白の文体があって感情移入しやすいし、多くの女性はイザナミよりナミマ寄りなのでは。
そのナミマがラストでイザナミに尽くすことを誓ったということは、多くの女性にイザナミと同じく男に屈しないことを奨励している?
イザナギとイザナミは神だからか言動が明快、絶対的で軸がぶれないが、人間たちは言動がいきあたりばったりで、未来が予測できず、他人の心が読めず(人の心情描写が少ない)、自分の行動原理もわかっていなさそうなのが現実に似ている。
これから日本は人口が減ると言われているが、物語のラストでイザナギが千五百の産屋を建てなくなるのに、イザナミは千を殺すのをやめないというのはそれになぞらえてあるような。
古事記での神は人間臭いが、ここでのイザナミは嫉妬、憎悪、怨恨などの感情はあるもののその他の明るい感情が感じられないので人間を超越した存在だと感じる。
人間になったイザナギを殺してしまうことでイザナミの絶対性が浮き彫りになる。これはなんなんだろう、男が滅びても女は生き続けるということかな?
この作品は存在も心情も極めて陽に立ち向かう陰としての女寄りにえがかれている。
陰の世界、陽の世界、それらが混じり会う人間界のみっつが感じられて楽しい。
"魂"の字を見ただけでなんの違和感もなく、なんとなく脳内に魂の表象が思い浮かぶ。魂の存在を疑っていない人がこの物語の魂の描写を読むとなにか根底にあるものが安心すると思う。
Posted by ブクログ
桐野作品の中でもこれはダントツはまった。ひきこまれた。感動を通り越して、こういう神話を作った?日本人のソウルみたいなものにただただ脱帽という気持ち。
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古事記をモチーフにした「新しい神話」。古事記を知らなくても面白く読める。こういう話、かの時代には本当にあったんじゃないかと思うくらい私にはリアルに感じられた。込められたテーマが沢山ありそうなのも神話的。
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再読。
前編は海蛇島で生まれたナミマと死を司る女神のイザナミ神。
後半はイザナキ神が人間の姿になった八岐那彦と従者の宇為子。
最後はイザナミ神とイザナキ神が遂に再会する。
この世は陰陽で全てが成っている。
生と死、光と闇、昼と夜、男と女、姉と妹、
そして陽=清浄、陰=穢れと優劣が存在する。
古事記に触れた時に男女不平等を感じたことはなかったが、もし神代から男尊女卑が染み付いているのならばそう簡単にはなくならないのも当然だ。
今も神事の際に女人禁制は確かに存在する。
イザナキ神は完全に人間になり死と共に成仏できたのに、何故イザナミ神だけが救われずに黄泉国で死者を選び続けなければならないのか。
どうしたらイザナミ神は苦しみから解放されるのか。
そんなことを考えることこそが
『神と人間は違う。私の苦しみは、お前の苦しみとは違うのだ』
とイザナミ神に一喝されてしまうのかもしれない。
ナミマの心は救われないし、読後感がスッとする展開ではないのだが、まるで桐野さんが実際体験してきたかの様な主人公の語り口にまた読みたくなる不思議な魅力がある。
Posted by ブクログ
なんとも言えない独特の世界の話。
少し話が、飛躍し過ぎ・大きくなりすぎ・現実離れしてるとも思えるけど、それもまた許される。
小さな1つの島の中から話が始まり、海上・他の島・海の底・神の世界と進んでいく。主人公も一人の小さな女の子から大人になり、色々な物に姿を変えて行く。小さな島の小さな女の子の小さな恋。そこから、ここまで大きな話に移り変わるのはすごい。
突拍子もないけれど、話しの繋がりもしっかり書かれているので違和感なく読み進める事ができる。
主人公の立場で読むと、あまりに辛く切ない物語。
仲の良かった姉妹なのに運命が大きく分かれて、やっと見つけた幸せも偽物だった、たった1つ守りたかった娘も奪われる。
自分の命が尽きても、見るのが怖い現実から目を背けずに直視した。
だけど、この物語で本当に幸せになった人は最後まで居なかったように思う。ハッピーエンドにはならないけれど、辛くて切ない独特の世界を読むと【私はまだまだ!】とツライ事が小さく思えて前向きに頑張れるような、そんな小説だと思う。
Posted by ブクログ
ヤマトの南の海上に位置する海蛇島の、巫女の家系に生まれたナミマという女性が主人公の物語です。
彼女は幼い頃、一つ年上の姉であるカミクゥから引き離され、「陰」の巫女として、毎日カミクゥの食べ物を届ける役目を担うことになります。やがてナミマは、第二巫女の家系のマヒトという青年とともに、カミクゥの残した食べ物を口にするという禁忌を犯し、その後ナミマはマヒトの子を身ごもります。
ある日、マヒトは島を出ようとナミマに言い出し、ナミマはそれを受け入れて、2人は舟で沖へと出ていきます。ナミマは、海上で娘の夜宵を出産しますが、その後マヒトは、ナミマの首を絞めて殺してしまいます。
死んだナミマは黄泉の国に行くことになり、そこで女神のイザナミに仕えることになります。やがて彼女は、スズメバチの姿になって生者の世界を見ることになりますが、そこでマヒトはカミクゥの夫となり、ナミマが生んだ夜宵はマヒトの妹として育てられていました。マヒトの裏切りに恨みを抱いたナミマは、マヒトを刺し殺しますが、死んだマヒトは自分の罪もナミマのことも忘れてしまっていました。恨むべきマヒトの不甲斐なさに、ナミマはもって行きどころのない怒りに苛まれます。
一方、イザナミの夫であったイザナギは、八岐那彦(やきなひこ)という人間の名前で暮らしていました。自分の愛する女たちがイザナミによって殺されることを知ったイザナギは、人間へと身をやつしてイザナミのいる黄泉の国へとやってきて詫びますが、イザナミはそんな彼を許そうとはせず、黄泉の国の神として、死者を選ぶ仕事を続けます。
愛の恨みを抱く女たちと、その恨みを受け止めるだけの強さもない男との対比が一方の軸となり、恨みを募らせるも恨むべき男の不甲斐なさに恨みを貫けずかえって苦しみを負うことになるナミマと、同じく人間となったイザナギに失望しながらも、神として冷徹な姿勢を選び続けるイザナミの対比がもう一方の軸となって展開していく物語として読みました。
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怨みと憂い‥これらにいつも苦しみ、とらわれるんだよな‥。神様とて同じことなんですかね。
神様になっても女は強いのです。桐野様の女性讃歌と、思いたい。
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古事記。この最古の名作を読むのは、なかなか大変だろう。この名作をモチーフに、主人公を通してイザナミ、イザナキの描写が後半に向け徐々に盛り上がる。ここから古事記に入っていくのもよいかもしれないなと感じた。
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ずいぶん景気良く神様生み出すんだなイザナギとイザナミ。
天照大神がイザナギひとりで産んだ神様なのは知らんかった。
出産で死んで夫に約束破られた挙句離縁されてイザナミ踏んだり蹴ったりだし
ナミマもカミクゥもマヒトの母ちゃんも気の毒だし、マヒトもまあ気の毒といえば気の毒。
神話からして男と女って対等じゃないのか。こりゃ男女共に性根の中にべったり男尊女卑がくっついとるはずだわ。
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文章が美しいため一気に読んだけども、なぜ、これを今書かねばならんのかよくわからず、しばし読後に頭をひねってしまいました。
古事記の今語りとしても、これを今書かねばならんテーマ性ってなんだろう?
でも、よく考えてみれば、私が頭が悪いせいかもしれないけど、桐生様の作品には、
よくわからないものが多いかもしれません。
Posted by ブクログ
桐野さんは本当に女の業を書かせると右に出る者がいないのではないだろうか。
それほど作品数を読んでいないけれど、
共感できなかったとしても想像することは難しくない苦しみがよく書かれています。
Posted by ブクログ
多くの人がイザナギ・イザナミの神話を「永遠の二項対立」の物語と理解しているだろう(私もそうだ)。イザナキは生命を産み続け、イザナミは生命を奪い続けるのだと。しかし本書で桐野氏は神話を物語として発展させ、イザナミにもっと過酷な現実を突きつける。
語り手であるナミマは人間であるため、憎むべき男が些かでも改心したかと感じられれば安らぎを得ることが出来た。イザナキは男神ゆえ己の運命すら覆して「死を経験できるかと思うと嬉しい」と言う。
しかし愛する男によって突然黄泉の国に送られ、閉じ込められたイザナミは、決して変わることが出来ない。許すことも仕事を放棄することもできない。
「真の破壊者」となってすべての運命を背負う。
「女は哀しい」「女であることは苦しい」という解釈も可能であるが、桐野氏がその他の作品でも貫く「真に強いのは女である」というメッセージを感じられる。
ナミマの物語がやや冗長なのと、その分後半の神話を超えた部分が短い気がしたので星は3つ。
Posted by ブクログ
巫女の家系 古い島の厳しいしきたり 妹のナミマ 姉のカミクゥ 少年マヒト 陰と陽の宿命 村八分 ミクラ様 ナミノウエ様 黄泉の国 女神イザナミ様 日本神話 古事記 イザナミとイザナキの夫婦喧嘩? 女性のもつ苦しみ 自分が死んだあとの世界など見ない方がいい? 怨みはあれど相手が記憶を亡くしてすっ惚けているのはやるせない…
Posted by ブクログ
古事記!? 神話!?
読み切るのは難しそう。
そう思いながらも買って、結構すぐに手をつけた。
読み方が難しいし、カタカナの名前がどんどん出てくるし。
心の中で泣きそうになりながらも読み切れたのは、適度に流す術を身につけたからだろう。
何年か時間を置いて読み直すのもいいかもしれない。
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遥か南の島、巫女の家に生まれた姉妹。六歳の誕生日、姉は家族から引き離された。大巫女となり、後継ぎの娘を産むのだ。やがて姉の元に食事を届けることが妹の役目に。--ひもじくても、けして食べてはならない。--だが島の男と恋に落ちた妹は、禁忌を破り、聖域に足を踏み入れてしまう。激しい求愛の果て、地下に落ちた妹が出逢ったのは、愛の怨みに囚われた女神・イザナミだった。性と死の神話を、現代に編み直す!
Posted by ブクログ
小さく貧しい南の島には光の国の巫女と闇の国の巫女がいて、闇の巫女として生を受けたナミマはその運命を受け入れることはしませんでした。さすが桐野夏生さんといった感じの、不気味なで陰鬱なストーリーです。後半以降は黄泉の国のイザナミ様が話の中心になっていきますが、そこのインパクトは前半と比べると少し落ちるかなといった印象です。