アガサ・クリスティーのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
推理小説においてワクワク出来る舞台装置は色々有るけれど、その一つとして挙げられるのは本作が扱う「大富豪の遺産を巡る殺人」だろうね
大富豪ゴードン・クロードの後ろ盾を頼りに生活してきた一族が彼の死と戦後の空気に拠って困窮していく様子はどう捉えても殺人事件の土台が整えられているとしか受け止められないもの
その一方で舞台が整えられ過ぎているとも言えるのが本作の面白いところ
ゴードン・クロードの遺産を横から掠め取るようにして手にしてしまった哀れなロザリーン。誰も彼もが彼女の死や不義を願うのは理解できる流れとして、その感情を後押しするように様々な噂が錯綜するのだから奇妙な話になってくる
事件が起きる2年も前にロザリーンの前夫が現れるとポアロの前で予言する少佐、事件直前にもクロード一族の女性が霊のお告げでロザリーンの前夫が死んでいないとポアロに教える
そして実際にロザリーンの前夫、ロバート・アンダーヘイを思わせる男性が現れるのだから本当に奇妙で面白い
舞台は非情に整っている。だからこそ、整っていない部分が引っ掛かりとなって事件をより意味不明なものとしていくわけだ
本作の特徴をもう一つ上げるなら、事件を起こす動機を持つ者が多すぎる点が挙げられるのだろうね
遺産を巡る心理的動揺がクロード一族やロザリーンの兄、デイヴィッドに巻き起こっているから誰が殺人を犯しても可怪しくないように思える
実際に私も読んでいる最中は「あの人が犯人だろうか?」と思った数分後には「いや、あっちの人が犯人なのでは…?」と迷ってしまうほど
誰も彼もが戦後の苦しさから遺産を自分の手元に呼び寄せたいとロザリーンの不幸を願ってしまう。それが誰が犯人になっても可怪しくない空気感を醸成し、ミステリドラマとして読み応えある内容となっていたよ
どのような事件だろうと、名探偵ポアロが関わるなら犯人は明らかになる。本作も例に漏れず混迷を極めた事件推移だろうと犯人は最終的に明示される
個人的には「そう来るか!」と様々な意味で思えるラストでしたよ
最高に面白いというわけではないけど、人間ドラマに絡めたミステリとしてはかなりの一品として仕上がっているね -
Posted by ブクログ
ポアロシリーズはメロドラマ的なスタートから始まる事が多いが、今作でも元女優の美しい女性とスポーツマンでとても美青年が物語の主軸になる。
舞台となる美しいリゾートホテルは描写だけでも煌びやかで、お金持ちが宿泊する。評判のホテルだ。ポアロは休暇で訪れていたが、案の定、事件を呼び寄せてしまう(笑)ホテルに宿泊する人達は個性豊かな人達が多く、こんなコミュニケーションが求められるのは嫌だなぁと現代的に感じてしまう。一癖、二癖と持っている登場人物達は、ある意味で冒頭からミスリードを誘う様な描き方もされており、結末で結局は良い人だった、悪い人だったが当然ある訳だが、少々大袈裟だろうと苦笑いしてしまった。
ポアロと宿泊客達は漠然としているがどこと無くこのホテル内で「悪」の存在を意識しており、おかしな牧師は悪魔について語る様な有様だ。ただし間違い無く異様な空気は漂っており、冒頭、それはあらゆる男性を虜にしてしまう(タコの様だと言われており笑ってしまった。当時の人達の悪口はシリーズ通して辛辣なんだ(笑))元女優に向けられているが、彼女の死をきっかけに本当の「悪」が炙り出される。
ポアロの彼らしさは普段より少ないかも知れないが、今回の細かい、何気ない事柄が真相に繋がっていく様はまさしく作中で述べられている様にジグソーパズルのピースの様な役割だ。彼の作品は事件が何度も起きる、第二、第三の事件が発生する事もしばしばあるが、今作では様々な部分がまとまっており、とても読みやすい作品だった。
16歳の少女が登場人物として役割を与えられているが、当時ではこの年齢はまだまだ子供の部分が強いのだと感じた。現在の中学生くらいのイメージが受け入れやすい。感受性豊かな世代であり、事件にも関わるが、最後、一人にしてはいかんだろうと思ってしまった。こういう部分も踏まえて読者を欺こうとするのは良いが、今作はやりすぎている様で、登場人物達とポアロ達がコミュニケーションを取る場合に、全員が何かしらおかしな事をしており(笑)。少し狙いすぎだと思う。
(今作の空気感には合っている感じだ。)
まあ、何だかんだ面白い事には変わりない。フーダニットに関しては流石のクリスティだった。 -
Posted by ブクログ
クリスティの長編ミステリー。ポアロシリーズ。
何よりもまず。戦争とは悲劇であり、世界中不幸であり。過去の小説などを読むと恐ろしさや怖さがとても感じられる。今作は戦争が少し落ち着いた時代のイギリスが舞台なわけだが、一体罪とは何なのだろうか、と疑問に思う。当時、今回の様な事が時と場合で許容されるのはナンセンスだと思うし、一方の事件(ネタバレにならない様に注意するが)は現代ではでは当然積みに当たるしまあ、仕方がないには絶対ならないだろう。
ある意味でポアロはよくこういう事をする訳だが、「オリエント急行」や「ナイルに死す」等は受け入れられるが、今作は違う(笑)。真実を知るのはポアロと事件の真相を打ち明けられた数名のみなので当然、彼らが打ち明けなければおもてに出ることは無いのだが。ポアロ自身、リンに対してはポアロの好きなタイプでは無いと言っており、そういった人物には今まで「ポアロおじさん」は発動しなかったのだが。少し不満の部分だ。
金持ちが空襲で亡くなり、若い未亡人とその兄が生き残る。金持ちは一族に大きな影響力を持っており、財政的な援助なども踏まえ、彼なしでは破綻してしまう様な一族だ。遺書等もなく、巨額の財産は未亡人が受け継ぎ、一族は困窮してしまう。そんなおり、とある謎の人物が一族の住む村に現れじけんに繋がっていく。
フーダニットがベースではあるが、そもそも序盤から練り込まれたトリックがあり、最後に衝撃を喰らう。再読だが、初めて読んだ時はインパクトがあり記憶に残っていたが、大人になってから読むと昔ほど印象深い作品ではなかった。
登場人物達が綿密であり、クロード一族は今後衰退していくだろう。当たり前のものが当たり前ではなくなる、自分が手に入るはずだったものが他人のものになる。そんな時に生まれる人間の嫌な部分が詰まっている作品であり、少しだけセンチメンタルになった気分だ。
トリックの面白さ、登場人物達の灰汁の強さはシリーズにおいても面白い方で、ポアロのメロドラマ的な部分も充分楽しめた作品だ。最初の数冊には勧めないが幾つか読んでからの方が味が出る作品だ。 -
Posted by ブクログ
エルキュール•ポアロが自身に対して失敗を認めることは、ポアロシリーズの後半にはよくある事で、「私はなんて間抜けだったんだ!!」と反省しては真実に辿り着く事がある程度お約束の部分ではあるが、今作「エッジウェア卿の死」においては真相究明までに何度も誤った道筋を辿り、ようやく終盤にて真犯人を導き出すという状態である。冒頭、ヘイスティングスにより、ポアロはこの事件への関与を公表したくなかったと述べているが、珍しく名探偵が犯人に丸め込まれる一歩手前まで来ていた様な事件で、今作の犯人の秀逸さがみてとれる。
舞台女優とそれを取り巻く人達。大女優は夫と離婚したいが認められず、彼女は殺してしまいたいと周囲に吹聴しているが、食事の席でポアロを見つけ、うまいこと夫の考えを翻す協力を依頼する。ポアロ自身エッジウェア卿に興味もあり依頼を受け彼を訪ねるが、エッジウェア卿は既に離婚を認めており、書面を数ヶ月前に送ったという。
全く予想だにしない結末から、その後、エッジウェア卿が何者かに殺害されたとポアロの元に連絡が入り、捜査がスタートする。
クリスティ得意のトリック、人の入れ替えや手紙の謎が主な構成になっているが、いずれも趣向を凝らしており、一本調子では無く一つ、二つと撚りが聞いている。そもそもエッジウェア夫人が逮捕され、アリバイがあり容疑者から外れる一連から既に読者は欺かれており、相変わらずクリスティ作品は凄まじいと驚嘆してしまう。被害者については不幸な結果になっているが、真犯人については処刑に至るまでらしさを備えている。最後、犯人からの手紙があった事、自身の能力を過信している事(ここは職業柄、納得のいく部分ではある)等見事に描写している。
今回、ポアロは中々苦戦を強いられたが、探偵小説では事件か連続しなければ犯人を突き止められないのではと思う事がしばしばある。今作でも容疑者が逮捕されている状態から第三の殺人が起きてしまえば、明らかに犯人は別だという事になってしまい、綻びが出てしまうのだが、その方が作品としては面白いのだろう。いずれにしろ、やはりトリックは秀逸で思いもよらない犯人と結末だった。 -
Posted by ブクログ
クリスマスプディングの冒険
クリスティの短編集。冒頭挨拶でクリスティがクリスマスについて述べているが、やはりイギリスのクリスマスは特別な様だ。クリスティがこの作品集を読者へのクリスマスプレゼントとして発表してくれた事に感謝を持ちながらも、8月末という全くの季節外れに目を通している罪悪感を踏まえて(全く風流でないなあ)感想を書く。
クリスマスプディングの冒険
表題作。探偵役はポアロ。とある皇太子が若さ故に犯したトラブル。家系に伝わるルビーの盗難事件。持ち出した謎の女。とある一族の屋敷で昔から行われているイギリスの古き良きクリスマスパーティに彼女達も参加すると聴き、乗り気では無いながら渋々了承し、ポアロも潜入捜査、一族と共にクリスマスパーティに参加する。
イギリスのプディングの風習なども面白いし、探偵ポアロにイタズラを考える少年達や、その目論見を理解しながら反対に少年達を驚かす仕掛けをするポアロ。更にそこにルビーを取り返す段取りも盛り込んでおり、最後は見事な結末に至る。
短編長編問わず完成度は抜群に感じたし雰囲気もトリックもいい。ポアロの活躍に最後までほっこりとする様なクリスマスプレゼントには間違いない傑作だ。
スペイン櫃の秘密
探偵役はポアロ。櫃のなかで見つかった刺殺体。逮捕されたのは友人のリッチ少佐。殺害されたクレイトン夫人との関係を疑われている人物。
クレイトン夫人は魅力的な人物であり、男を虜にしてしまう。犯人はリッチ少佐か下男のバージェスしかいないが下男が殺人をする理由が浮かばず。調査のなかで、とあるきっかけから第三の可能性を見出し、真相に到達する。全てが女性に狂った人物の凶行だ。
負け犬
短編の為か、ありきたりな内容。殺人事件が起き一人逮捕されるが彼が犯人であるとは信じられない女性がおり遣いの女性がポアロの元に訪れる。ポアロは老嬢をたずね、彼女の直感により犯人を提示される。捜査を進めると色々なことが明るみになり、真相へ。途中、催眠術師等が登場したりあまり馴染めない。また、通常であれば犯人指摘後、二転三転あるはずだが、そのまま解決していく。ジョージの活躍が素晴らしい。
二十四羽の黒つぐみ
ポアロが友人のボニントン氏と食事中。その店に決まった曜日に必ずやってくる老人。ウェイトレスの話では数年来毎週火曜日と木曜日にやってくるが先週は月曜日にやってきたという。しかも注文する食事も普段と全く違うものを注文している。ポアロはその話を聞いただけで不審に思う。
三週間後、老人が事故で死んだ事をきき、ポアロは不信感をもち事件を調べ始める。
ポアロらしい観察、推理が冴えている作品。短編だがとても面白い物語だ。
夢
とある金持ちから不思議な依頼。毎日同じ時間に自身が拳銃で自殺してしまう夢を見るという。
それ以外にも不思議な事が多くある依頼人を困惑気味に対応するポアロ。結局は何事もなく依頼は終了するが数日後、依頼人が本当に拳銃で死んだとポアロの元に連絡がくる。
彼の家族と事実を紐解きながら、真実を解き明かす。この作品も短いがとても面白い作品だ。
グリーンショウ氏の阿房宮
現代では余りイメージ出来ない事だが、人の縁とは不思議なもので過去においては今作のような関わりもあったのだろうと推察する。
とある老婦人の遺言書の証人になるレイモンド。家政婦が全財産を相続する手筈で、その代わり手当は支払わないという。不思議な人物に不思議な屋敷。レイモンドは家族にそんな話をするが、一方それを聞いていたマープルはひどく心配する。
遺言書を巡る殺人事件と人物入れ替えトリック。クリスティの作品ではお約束ではあるが短編として読みやすい作品だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレクリスティの長編ミステリー。ポアロシリーズ。相棒はオリヴァ夫人。
冒頭のオリヴァ夫人の葛藤はクリスティのそれを反映したものだろう。スピーチへの嫌悪感や分別の無いファンへの煩わしさというのはとても共感を持てる。売れっ子作家としての人生は本人達でなければ気づく事は出来ないが、様々な苦労があるのだろうと勘繰ってしまった。
今作は作中でも触れられているが「五匹の子豚」と対をなしているイメージだ。過去に戻りながら事件の真相に辿り着くという一連は、どちらにも共通しているテーマだ。
今回珍しく幾つかの作品に触れられており、上記作品と「マギンティ夫人は死んだ」、「ハロウィン・パーティ」についても簡単だが言及がされている。ネタバレ等はないが少しヒントが出ている為未読の人は注意が必要だ(五匹の子豚はだいぶ言及されている)
結婚を控えた若い二人の男女。男の継母がオリヴァに近づき(オリヴァが女性の方の名付け親だった為)息子の相手の両親が拳銃で死んだ事件について根掘り葉掘り引き出そうとする。オリヴァは娘の母親と面識はあるが、当時、オリヴァが海外にいた為、事件の真相はわからず、更には警察などでも詳しい内容の究明がされないまま、自殺という事で決着した。オリヴァはなんとか継母から逃げ仰せたが該当事件の真相が気になりポアロに相談する。
クリスティ作品でありがちな全く事件に関係無さそうな手掛かり(夫人の四つのかつら。かつらを四つ持っているのは違和感。飼っていた犬が夫人に噛み付いた事。愛犬は警察よりも賢いというポアロの皮肉が印象的)を皮切りに、警察に保管されている当時の資料や当時事件に関わった人達への聞き込み等(オリヴァ夫人も活躍!!)を繋ぎ合わせ、ポアロが悲しい事件の真相に辿り着く。
クリスティ作品は古典にあたり、現代と表現や感覚、考え方が難しい部分がある。今回、事件の真相には一卵性双子の入れ替えが関わるが、彼女達の遺伝的な考え方や過去の殺人についての姉への処遇等について、理解が難しい部分が多い。
一方で、若き娘シリヤの両親や家庭教師ゼリーが家族愛に溢れ、全てが報われないドロシアへの愛故の行動である事は、シリヤへの救いであり、シリヤの相手であるデズモンドの継母の怪しげな行動についてもデズモンドの実母から多額の遺産が入り、それが原因であるという事も作中では真実として知る事ができ、読者としては物語通して納得のいく物語だった。
クリスティ作品は意外にコッテリした味付けが多く、最後真相究明後、家庭教師とポアロがその場に留まって会話をしていたため、残りページは全くないながらももう一つ変化があるのかと期待してしまった。悪い癖だ(笑)出来栄えは「五匹の子豚」に軍配が上がると思うが二作連作で読むとそれぞれ何倍にも面白さが膨らむ様に思う。
「象は忘れない」の諺は教訓になるだろうが、知らない人から見れば「サファリに象狩りに・・・」となるのだろう(笑) -
Posted by ブクログ
ポアロもの。
大富豪ゴードン・クロードが死亡し、その莫大な財産は若き未亡人ロザリーンが相続しましたが、実質はロザリーンの“兄”・デイヴィッドのコントロール下にある状況です。
そして、ゴードンに経済的に依存しまくっていたクロード一族の人々は、“後ろ盾”がなくなってしまい、金銭的窮地に立たされてしまいます。
クロード一族と、ロザリーン&デイヴィッド兄妹の間に不穏な空気が流れる中、ある日村にロザリーンの前夫(ゴードンの前の夫)を知るという人物が現れて・・・。
解説にも本作品が「ドラマ重視」と書かれていましたが、確かに“事件”が起こるまでのヒリついた人間模様がしっかり描かれていますね。
そして、一応ヒロイン的ポジションのリンを巡る三角関係も並行していて、以前からの婚約者で朴訥な農夫・ローリィと、ロザリーンの兄で危険な魅力(?)を備えたデイヴィッドとの間で揺れるリンの心理描写にもご注目です。
(私からすれば、“どっちもどっち”という感じでしたが・・汗)
そんな人間ドラマの土台の上で展開するミステリ部分も秀逸で、ポアロ言うところの“まともでない”という表現の通り、“動機と犯行が合わない”という状況に翻弄されてしまいました。
思い返せば、あちこちにヒントが散りばめられてはいたのですけどね~。
(例えば、ポーター少佐の“あの台詞”に、“ん?”となったのは、私だけではないはず・・)
このように、人間ドラマとしてもミステリとしてもグイっと読ませる本作品。
ちょいと登場人物達のキャラが弱いかな・・と思わんでもないですが、個人的にはフランセスとケイシイが何気にいい味出していたかも。と思いました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレクリスティの長編ミステリー。
マープルシリーズ。古典作品の読みにくさがこれでもかと詰まった作品だ。(笑)
女主人、現在の夫、1番目の夫の継子と実子。そして養子の娘、2番目の夫の子供二人、ここに付き添い人や使用人、医者等中々難しい環境設定のため序盤は苦しんだが、後半迄に何とか整理して読み進める事が出来た。さらに、舞台設定が非行少年たちを集めた少年院であり、すべてが作用しながら非常に面倒臭い、異様な世界観を漂わせている(人間関係の設定の難しさも作風に合わせている様に思っている。)
マープルの旧友であるルースは自身の妹であるキャリイをとても心配しているが原因がわからない。マープルは昔から空気感をよむ鋭さがある為、キャリイの住む邸に赴き(マープルに生活苦を演じる様にすればキャリイはきっと招待してくれるという、何とも屈辱的な依頼だが)不穏な空気の原因を探る様に依頼される。
(現在の少年院とは少しイメージが違うが、生まれや生い立ちなどにより罪を犯したり精神的に不安な少年達を改心させ、優秀な仕事や役割を与える住み込みの学校の様なものだ。)
そんな環境下においてエドガーという一人のおかしな青年が、キャリイの夫であるルイスに陰謀論等をふっかけて部屋に立て篭もり銃を発射する事件が起こる。結局、実際に弾は発射されるが空騒ぎに終わり、事なきを得るが、実は同じ邸の別の部屋にて銃殺された死体が見つかる。
マープルシリーズ特有の特殊な殺害現場、方法であり今回は安楽椅子探偵ではなくマープルが自ら乗り込んでいる点が面白い。マープルシリーズでは警察も協力的であり、現代ではありえないが皆んなで考えようの精神があり、捜査で発見された謎は次々と共有される。
トリックも手の込んだアイデアで、正にそれが一番しっくりくる方法だ。夫ルイスはキャリイを愛している事に変わりはないし、実はキャリイが狙われている場合には犯人の割り出しは彼女の遺産などから検討しなければならない。今回、様々な「魔術」がクリスティによってかけられており、①キャリイが実は狙われているという偽装②キャリイに毒が盛られているのが嘘だという偽装、③ホール内での立て篭もりが実は二人の共犯でありトリックの肝だという偽装。④動機がキャリイに関わるものではなくルイスの横領によるものだという事実。
つまり幾重にも罠が張り巡らされており、読者を惑わし偽装へ誘う。少なからず世界観もある作品の為引き込まれていく。
残念な事に最後、犯人の結末が滑稽で勿体ない退場の仕方だ。二人が実は親子だった事や夫婦は少なからず本当に愛し合っていた事等を踏まえ、もっとスリリングな、衝撃的な結末があった様に思う。(終盤にまとめて発見される二人の死についてもおざなりな印象を受けてしまう。死体が一つじゃ足りないから・・・的な印象を持ってしまった。)
クリスティの作品でよく言われるが、夫婦の殺人は相手を疑うはもはや王道であり、結局王道に至るのだがそういう結末だと終盤迄感じさせない描写力が今作の魅力だ。最後、批評にてマープルを魔女と評しているが、今作の彼女はどちらかと言えば友人への優しさが溢れる役回りであり、一瞬で真相を突く恐ろしさは控えめだった様な思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ⚠️2022年放映の映画版についても言及があるため、未視聴の方は軽いネタバレにご注意ください⚠️
今回の教訓:愛は人を変える
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
エジプトのエキゾチックな景色の後に後半バタバタと展開していった映画版と違い、小説ではウィンドルシャム卿とリネットの結婚問題にページが割かれていたため、リネットがサイモンを奪うまでの過程が見られ、じわじわと迫り来る嫌な空気を味わうことができました。
ジャクリーンとの友情が壊れるだろうことは予測できたのですが、まさかジョウアナまでリネットを脅かしていたとは……油断ならないリネットの身の上を思うと、せつなくなります。映画を観てからかなり経っているため記憶が朧気なのですが、映画ではジョウアナについては確かあまり触れられていない(というかアラートン親子も出てこない)ため、船上にいない人物の話が度々出てきて伏線となっているのも、小説ならではだなと思いました。(私が覚えていないだけかもしれない)
とても巧妙なトリックで舌を巻くばかりなのですが、あまりに複雑すぎて自分の理解が追いつきませんでした。話は5点満点ゲージ突き破ってますが、悔しかったので私情で-0.5です笑
個人的に自分で考えながらじっくり読み進めたい方には原作、エジプトの景色を目で楽しみたい方(本の事件とは対比的なエジプトの雄大且つ神秘的な情景描写もお見事でしたが)、比較的サクッと話を楽しみたい方には映画がおすすめかなと思いました。 -
Posted by ブクログ
ミステリにはパターンだとかテンプレだとかが山のように存在していて「口の軽い人間が不用意な発言をした、又はしそうになって殺される」なんてそれこそ数多のミステリで用いられてきた要素
本作はその口の軽い人間の死が全てを掻き回していく様が非常に面白く描かれているね
また、舞台設定の特殊性も言及したくなるかも
出版されたのは1953年、まだ戦争の残り香がそこかしこに有る頃であり、同時に大英帝国の終焉期。それもあってか登場人物の二極化が見られるね
発端となったリチャード・アバネシーの大邸宅は時代を間違えたとしか思えない代物。そんな人物が死んで遺産目当ての遺族が睨み合いを始めるなんてやはり時代錯誤
けれど、登場人物全てが貴族時代の名残があるわけではなく、借金漬けや配給頼りの生活をしていたり、新時代に向けて準備する女性が居たりと様々
いわば時代の狭間が本作には横たわっていて、それが作品の深みに一味加えているね
本作で発生する事件はどれも特別なトリックは何も見当たらない。ちょっと人の目を盗めば誰だって犯行可能なタイプ
だからこそ、事件現場から証拠を見つける方法なんて無いし、むしろ現場を見る意味すら薄い
そのような事件なら尚更にポアロの出番となるわけだね
事件に対するポアロの調査方法は現場に赴いて証拠を探し回る遣り方ではなく、ひたすらに関係者の話に耳を傾けるというもの
その中で発せられる容疑者達の発言が読者を煙に巻きつつ、事件に対し更に奥深さを持たせるものになっているね
本作を語る際、事件の発端となる「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」という発言はどうしたって取り上げたくなるが、もう一つ取り上げようとするならば、犯人の動機だろうか
上述したような舞台設定が整った作品であのような理由で殺人に及ぶ人間が居るとは!と衝撃を受けてしまう
とてもしっかりしたボリュームの本作だけど、推理パートは軽めに。それは真相が簡単なものだったというわけではなく、推理ショーの際にポアロは犯人逮捕に関する部分しか語らなかったと言うだけ
あの推理ショーでポアロが語らなかった部分を想像しつつ隅々を読み直すとまた違った色が見えてくるかもね