作家アリスシリーズの短編集の中でも、この作品は割と正統派のミステリだった。
4話入ってるけど、表題作の「スイス時計の謎」がほぼ半分を占める中編。
やっぱり当たり前のようにアリスにお誘いの電話を掛けてくる火村センセは謎。ほとんど精神安定剤なんじゃないか。
有栖川さんの短編はいつも質が高いとは思うんだけど、短編として成立させるべくミステリの不可欠要素を最優先で残して構成されていて、でも省略したであろう一見無駄な描写(アリスと火村の下らないやりとりとか)が物語に豊穣をもたらすのだから、つまり、長編読みたい!(笑)
・あるYの悲劇…Yと読めるダイイングメッセージが鍵となった話。書き順と書かれた場所からの類推は非常に論理的で気持ち良かった。
「山崎」で「ヤマモト」と読む名字は知らなかった。
冒頭で、アリスが街で目にしたティッシュ配りの若者から事件を思い出した訳だけど、その思い出す要因となったエピソード(犯行時間浜本がティッシュ配りのバイトをしてたのにアリバイを立証できなかった)が薄すぎて笑った。
・女彫刻家の首…首無し死体は大抵、首に何か犯人を仄めかす証拠が残ってるから持ち去られたと考えるのがセオリーで、凶器や死因を探られないためじゃなければ何なのか、ってところが見どころ。
あとがきにあるように、彫刻家でなければならない理由が弱いかも。
あと、被害者がイマイチどんな素材の彫刻作ってたのかよく分からなかったけど、住宅地にアトリエを構えるのは近所への気遣いが足りないかなぁと思った。
・シャイロックの密室…倒叙モノ。強力な磁石は扱いが難しそう(昔指を挟んで痛い思いをしたことがある)。
関係ないけど犯人の性別が最後まで分からなかった。
・スイス時計の謎…撲殺事件の現場に(火村に呼ばれて)駆けつけたアリスは、被害者が高校の同級生だったことに気付く。目立つ存在だった6人が卒業後も定期的に会っていて、被害者が殺されたのはそのプチ同窓会の催された日だった。
事件解決の糸口は、例によって火村の重箱の隅をつつくような細かすぎる推理なんだけど、容疑者でもある彼ら同級生とアリスとが再会することで絡んでくる高校時代のエピソードの方を面白く読んだ。
高校時代のアリスの想い人が恋文を渡したその日に自殺未遂を起こしたという話はここが初出じゃないけど、大人しくてパーソナルスペースの広い今のアリスの人格を形成した重要な挿話だと改めて思う。小説家になったアリスへの同級生の反応なんかもリアルだったし、アリスの小説家という仕事への思いも知れて、キャラ好きには楽しい作品だった。彼女が自分の小説を読んでたことが分かって、アリスの傷心もちょっとは癒やされたみたいで、良かった。