柴崎友香のレビュー一覧
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◆心に刺さったワード◆
⚫一日の中に締切があると、規則正しく進む
⚫中途半端な人こそ自分を天才に見せようとして横柄になる
⚫仕事してる間は、自分の内側のことで悩まなくていい。それに、金銭が発生すると「社会に必要とされてる」と思えて、自分のなかの欠落感が埋まった気になる。その「必要とされてる感」を失う怖さ。今仕事がなくなったときに、その欠落とうまく付き合う 技術や、人間 力への自信がない。そこから来る 強迫観念かもしれませんね。
⚫強い心は強い肉体に宿る
◆読んでみたい本◆
⚫変な恋愛の短編を集めたアンソロジー 岸本佐知子 『恋愛小説集』
⚫肩の力を抜きたい人 森鷗外 高瀬舟
⚫世界の実相をつかみたい人 古井由吉 辻
⚫次から次に変人が出てくる 村上龍 ライン -
Posted by ブクログ
第151回芥川賞受賞作。くわえて、単行本未収録短編二点と、書下ろし短編一点を収録。
表題作『春の庭』は、妙な出会いというか縁というかによって話をするようになった、取り壊し間近の同じアパートに住む主人公・太郎と西という女性漫画家。この二人を主要人物として物語は進んでいきます。しかしながら、物語はどうなっていくのか、中盤まで読み進めていってもまったく先が読めません。僕にとっては「物語」というものの引き出しの外にある「物語」で、つまりは自分にとっての新種の「物語」なのかもしれない、なんて思いました。あるいは、「物語」のどのようなコードに対してもそのまま従うということをしない、というカテゴリに分類される「物語」なのかもしれません。とはいっても、僕の中にある「物語」の類型のストックがまだまだ少ないがために断言はできないのですが、それでもおそらく未踏の地を行く冒険家の類いの作風なのではないかと思いました。くわえて言うならば、派手な物語ではないのだけれど、現実というものの質感のある物語であるといったところでしょうか。
それが残り40ページくらいのところから、怪しい感じ、つまりこの先に何かあるなあ、という感覚になりました。それからそれまで三人称で語られていた人称がいきなり変わり、「え」と楽しくあたふたし、その後まもなく「やっちまってるじゃないか!」というふうにそれまで納まってきていた枠外に飛び出し、ねじれていく物語にわくわくしながらめまいを感じました。これは語りの技術だし、独自の表現方法でした。それで仕舞いの一行ですとんとそしてぐにゃりと着地させる技があります。その一行までのあいだの40ページくらいでは、ぎりぎりのところで読者をおきざりにするかしないかみたいな、でも技術的にはテンポやトーンを変えていて「ついてこれますか」と走っていくんです。さらに背後から忍び寄るような緊張感が漂いだします。それをたった最後の一行で見事に回収する、というか、解放する、というか、無に帰す、というか。相撲や柔道で、うまく投げられてしまった、という感じ、それに似ていたかもしれません。
全体をぼんやり見てみると、平常の感覚では、日常はつるんとしたものだ、と、とくに疑いもなくとらえている。それがなにかひとつ、気にかかったことをきっかけとして注意を与えると、そのつるんして見えてきた日常に実は存在している凹凸が見えてくる。たとえばそれは、小説を作るという一連の流れと似ていたりもするかもしれない(作り方にもよるけれど)。つるんとした細部の決まっていないアイデアを、粘土を練り造形するみたいに凹凸をこしらえていく、あるいは探り当てていきますから。そんなふうにもこの作品からは感じられました。
その他の短編も含めて、住んでいるアパートやマンションの重要度が高く扱われていました。本書の特徴の一つだと思います。そして、どこか不穏で、でもなまぬるさのようなものがあって、健全なのか不健全なのかわからないような安穏がある。
その他の短編のなかでは、書下ろしの『出かける準備』がとくに気に入りました。女性二人による、亡くなった知人の男の噂話のところがぐっときたのです。男と昔いっしょだった職場で、主人公ではないほうの女性がとてもしんどくてどこか遠くへ行きたくなっていたとき、男はなにげなく「だいじょうぶ?」と声をかけ、でも、冗談のようにそれはうやむやになるのだけれども、女性はそれで救われた、と今になって涙を流すのです。この男についての噂話はまだあって、それで一人の人間の多面性、立体性が浮かび上がりながら最後にこのエピソードで締められていて、ここらのあたりの没入感は違いました。
というところです。なんとなくですが、著者は実直に原稿に向う方なのかな、という気がしました。でも、他の作品をまた手に取ってみないとわかりませんし、一作だけの印象ってあてにならなかったりします。またそのうち、違う作品に触れてみようと思います。 -
Posted by ブクログ
独身で、恋愛もしてなくて、働きながら一人暮らしをしている主人公の生活に憧れる。
今の私と同年代だから、余計に。
ひとりを楽しみながら生きていけるのって素敵。
大きな浮き沈みもないけど、地に足をつけた生活。
いいなあ。かっこいい。
ご近所のゆかりさんは少しおせっかいだけどおしゃべり好きでいい人だし、こんなおばさまとご近所だったら楽しいかな?うっとうしいかな?と考えながら読んでしまった。
20代で新婚の沙希が、自分勝手とも思える言動だけどその危なっかしい不安定さは、素直さの表れなのかもしれない。
みんなそれぞれ事情はある。それを表に出さないだけで。 -
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【収録作品】「男」 角田光代 絵/網中いづる/「ガラスの便器」 石田衣良 絵/松尾たいこ/「さよなら、猫」 島本理生 絵/鯰江光二/「水の恵み」 阿川弘之 絵/木内達朗/「タイムリミット」 辻村深月 絵/吉田尚令/「ヘビ」 西加奈子 絵/西加奈子/「ふたり流れる」 市川拓司 絵/いとう瞳/「ハントヘン」 堀江敏幸 絵/中村純司/「雲の下の街」 柴崎友香 絵/田雜芳一/「衣がえ」 長野まゆみ 絵/望月道陽/「おしっこを夢から出すな」 穂村弘 絵/ささめやゆき/「さらば、ゴヂラ」 高橋源一郎 絵/しりあがり寿
夢だけにシュールな感じを引きずる。続き…はないのかな。 -
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ネタバレ単行本でも文庫でもカバーに3人の女性が描かれている。
私は沙希を、きらたかし「赤灯えれじい」のチーコのド金髪で思い浮かべていたのだが、文庫カバーではゆるふわな黒髪だった。
確かに直球ヤンキーな長距離トラックドライバーと、マイルドヤンキーとはいえ医院の受付とは、随分違う。
解釈違いだった。
柴崎友香の小説で私が好きなのは、カッコつきの「淡々とした日常」の中で、視点人物が町や建物や対人関係についてあれこれ考える、そのどこかのタイミングで日常がグニャリと変容するような気づきを得る……結果的に高度な都市論や記憶論が小説として展開されている、という点。
その意味で本作はやや「淡々とした日常」寄りすぎるかな、とか、「毎日新聞」連載だから読者層を慮っているのかな、とか邪推したが、そんな自分の読書中の感想は、間違っているな、と読後気づいた。
作中、様々な形で、「生きづらさ」や、性愛や生殖にまつわる「抑圧」が、押しつけられる。
40がらみの男性として、アラフォー女性の「昨今のあるあるネタ」だろうと軽く見ていた、かもしれない。
春子は、その都度、それこそ「グニャリとする」くらいの怒りを、覚えていたのかもしれないのだ。
わかりやすい漫画なら「はい~このオッサンブッ殺す」と書いていたかもしれないレベルの抑圧が、たびたび差し挟まれているのだろう(5ちゃんねるのスレッドが思い浮かぶ)。
しかもその「圧」は、年配男性からだけではなく、図式的にいえば同胞であってもいいゆかりや沙希からも、(ゆかりの場合)やんわりと、(沙希の場合)ツンケンと、齎される。
……非公開の読書メモ用に、誰が何をしたというあらすじをメモしながら読んでいたが、そこには反映しきれなかった、「春子はこう思った」という点こそが、作者のメッセージなのだろう。
似た状況の読者にとっては、春子はある意味で救い主(日常生活と地続きの「ヒーロー」)のように感じられるのだろう。