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Posted by ブクログ
「なんにもないことが悩み、などと言ったら、きりちゃんに笑われるやろうなと、ふと思った。なに言うてんの、って。なに言うてんの。なにもないって、不幸や深刻な問題がほしいわけじゃないねん。わたしは、頭の中できりちゃんの声に向かって説明した。そういうものじゃなくて、もっと、自分が確かだと思えるような、基準みたいな、理由みたいなもの。なんでもあって、なんでもしていいから、さあ選びなさいって言われて、これでいいって思えるような、なにか。」
柴崎友香の小説を読んでいると、まるで写真集を眺めているかのような気分になってくる。その写真はどれも一見、見慣れたような街の風景写真のようにも思えるのだが、どこかに小さな違和感を生む種が埋め込まれてもいる。もともと柴崎友香が風景を巧みに切り取る作家であることを認識してもいるし、その描写のなかにいつの間にか心情が織り込まれているのに気付くのが常でもあるけれど、恐らくこれまでもいつもどこかで少しだけ違和感を感じてもいて、その疑問符の答えが知りたくて、どうしても駆け足で読んでしまいそうになる。そんなバランスのあやうさも込みで、やっぱりこの作家のことをとても気に入っている。
柴崎友香の小説は、写真集のようではあるけれど、そして一般的な意味では日常以外に何か特別なことがある訳ではないけれど、読み終わると何か深々とした余韻が残るような文章に満ちていて、すぐれて小説的であると思う。小説的と言っているのは、何も大きな物語にはらはらしたり、どこかへ引き摺られていったり、するどい刺激に翻弄されたりするようなことがなくても、作家が切り取ろうとしたものを通して、作家の内部で起こった化学反応を読むものの中に自然に発生させている、というような意味である。そしてあざとさがないところがよい。もちろん、保坂和志に強く感化された意見である。
一つの特徴として、柴崎友香の切り取る風景にはその風景に染み付いている筈の匂いが余りしない。多分それは、その風景に対して作家が何かを感じつつも、彼女自身の中にあるはずの何かをどう投影してよいのか測りかねているからなんじゃないかなあ、と漠然と思ったりする。何かを強く意識すれば、写真には撮影者のその意識が色濃く写ってしまうものなのに、柴崎友香の景色は写したものの意識が乗り移っていないように見える。逆説的にはその断定しない潔さのような立ち位置が柴崎友香の魅力の一つでもあるのだけれど、根源的には、その中庸な感じが小さな違和感の元にもなっている。人ってやはり理由を知りたがる生き物であるから。
しかしよく見てみればその風景の中には小さく写り込んだ人物が居るのだ。その女性はいつもどこか一箇所をじっと見つめているように佇んでいる。そうやって景色を見つめていることだけで幸せであると、彼女を見ているものが直ぐに気付いてしまうような姿でそこに写っている。同時に、彼女は被写体として「問われている」。何か、どう答えてよいのかさえ解らないことを、彼女を見るものから問われている。この「星のしるし」の中で、柴崎友香は珍しくその問われている立ち位置の不安定さについて、主人公に語らせている。
しかし相変わらず、柴崎友香は性急に答えを出すことをしない。風景を切り取り続ける。その文章となった景色を読み取り続けると、頭の中では風景が再構築されるのではなく、その景色を切り取った作家の意識が小さな波のように再現され始める。それは一見何も生み出さないようでいて、とても力強く一つの勇気を読むものに与えてくれる。柴崎友香は、誰も彼もが好きになる作家ではないかも知れないが、自分にとってなくてはならない作家なんだなあ、と納得する。
Posted by ブクログ
30歳になる女性・野村果絵の揺れる心。
日常の何気ないことを観察している冷静な視点。
恋人はいるが結婚の予定はない。
職場の先輩の薦めで、ライフカウンセリングの先生の所に行くと、ヒーリングでマイナスエネルギーを調和して貰ったらしく、熟睡して肩こりが軽くなるが、1万5千円するのでそれ以上通う気にはなれない。
とくに不幸でもないが、すごく幸福というのでもない、どうしてもと思う指針やこだわりもない…
友達と占いに行ってみたりしながら、何となく過ぎる日常。
淡々としている中で、それぞれの生きているちょっと奇妙で少しだけ必死な感じがじわっと来ます。
著者は1973年生まれ。2008年10月発行。
Posted by ブクログ
30目前のOLとその彼氏と友達たちの何げない毎日。コレと言って何かが起こるわけではなくて。だけど何も起こらないわけでもなくて。このままで自分はいいのだろうか と思ったりするけど、だからって何か変えようと思うほど今に不満があるわけでもない。そんな毎日をとても丁寧に書いている。うん こういうの好きだな。何かが変わる直前ってもしかするとこんな風にじわじわと予感のような温度の変化のようなモノがあるのかもしれないな。「もっと、自分が確かだと思えるような、基準みたいな、理由みたいなもの。なんでもあって、なんでもしていいから、さあ選びなさいって言われて、これでいいって思えるような、なにか」を探しているんだよ、きっと、みんなさ。
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