【感想・ネタバレ】星のしるしのレビュー

あらすじ

世界はしるしに満ちていて、もろく、美しい――。『春の庭』で第151回(2014年上期)芥川賞を受賞した柴崎友香の傑作!
30歳を目前にした会社員・果絵と、その恋人、友人、同僚、居候らが大阪の街を舞台に織りなすゆったりとしたドラマ。祖父の死、占い、ヒーリング、UFO、宇宙人……。日常の中にごくあたりまえにあるいくつもの見えない「しるし」が、最後に果絵にひとつの啓示をもたらす。繊細で緻密な描写力によって、世界全体を小説に包みこむ方法を模索してきた、純文学の世界で最も注目される作家の集大成的作品です。

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Posted by ブクログ

「なんにもないことが悩み、などと言ったら、きりちゃんに笑われるやろうなと、ふと思った。なに言うてんの、って。なに言うてんの。なにもないって、不幸や深刻な問題がほしいわけじゃないねん。わたしは、頭の中できりちゃんの声に向かって説明した。そういうものじゃなくて、もっと、自分が確かだと思えるような、基準みたいな、理由みたいなもの。なんでもあって、なんでもしていいから、さあ選びなさいって言われて、これでいいって思えるような、なにか。」

柴崎友香の小説を読んでいると、まるで写真集を眺めているかのような気分になってくる。その写真はどれも一見、見慣れたような街の風景写真のようにも思えるのだが、どこかに小さな違和感を生む種が埋め込まれてもいる。もともと柴崎友香が風景を巧みに切り取る作家であることを認識してもいるし、その描写のなかにいつの間にか心情が織り込まれているのに気付くのが常でもあるけれど、恐らくこれまでもいつもどこかで少しだけ違和感を感じてもいて、その疑問符の答えが知りたくて、どうしても駆け足で読んでしまいそうになる。そんなバランスのあやうさも込みで、やっぱりこの作家のことをとても気に入っている。

柴崎友香の小説は、写真集のようではあるけれど、そして一般的な意味では日常以外に何か特別なことがある訳ではないけれど、読み終わると何か深々とした余韻が残るような文章に満ちていて、すぐれて小説的であると思う。小説的と言っているのは、何も大きな物語にはらはらしたり、どこかへ引き摺られていったり、するどい刺激に翻弄されたりするようなことがなくても、作家が切り取ろうとしたものを通して、作家の内部で起こった化学反応を読むものの中に自然に発生させている、というような意味である。そしてあざとさがないところがよい。もちろん、保坂和志に強く感化された意見である。

一つの特徴として、柴崎友香の切り取る風景にはその風景に染み付いている筈の匂いが余りしない。多分それは、その風景に対して作家が何かを感じつつも、彼女自身の中にあるはずの何かをどう投影してよいのか測りかねているからなんじゃないかなあ、と漠然と思ったりする。何かを強く意識すれば、写真には撮影者のその意識が色濃く写ってしまうものなのに、柴崎友香の景色は写したものの意識が乗り移っていないように見える。逆説的にはその断定しない潔さのような立ち位置が柴崎友香の魅力の一つでもあるのだけれど、根源的には、その中庸な感じが小さな違和感の元にもなっている。人ってやはり理由を知りたがる生き物であるから。

しかしよく見てみればその風景の中には小さく写り込んだ人物が居るのだ。その女性はいつもどこか一箇所をじっと見つめているように佇んでいる。そうやって景色を見つめていることだけで幸せであると、彼女を見ているものが直ぐに気付いてしまうような姿でそこに写っている。同時に、彼女は被写体として「問われている」。何か、どう答えてよいのかさえ解らないことを、彼女を見るものから問われている。この「星のしるし」の中で、柴崎友香は珍しくその問われている立ち位置の不安定さについて、主人公に語らせている。

しかし相変わらず、柴崎友香は性急に答えを出すことをしない。風景を切り取り続ける。その文章となった景色を読み取り続けると、頭の中では風景が再構築されるのではなく、その景色を切り取った作家の意識が小さな波のように再現され始める。それは一見何も生み出さないようでいて、とても力強く一つの勇気を読むものに与えてくれる。柴崎友香は、誰も彼もが好きになる作家ではないかも知れないが、自分にとってなくてはならない作家なんだなあ、と納得する。

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2009年10月07日

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このオチのない感じが好き。今回もそんな感じ。
人と人との距離とか、癒しとか、仕事とか現在の自分のすぐそばにあることが出てくるかんじ。

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2009年10月04日

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神様は信じてるけどサンタさんは最初から信じてなかったし、神様は場合によっちゃとても胡散臭くて、だから、神様を信じてます、神様のようにあなたをお慕いしております、といった時にもっとかっちりくる言葉があると思ってた。
「もしかして神さまに祈ったり願ったりするのは、こういう感じかもしれないと、思った。どこかで、自分を見ていてくれたらいいのにって思うような、そういうの。」
こういうのを集めてたら見つかるかな。

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2015年04月18日

Posted by ブクログ

「また会う日まで」より面白かった。何を書きたいかがはっきりしていたと思う。分かりやすかったというか。しかし、雰囲気がホントに浅野いにおの作品とそっくり。アタマの中で、登場人物は浅野いにおの絵になっていました。

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2011年07月18日

Posted by ブクログ

30歳になる女性・野村果絵の揺れる心。
日常の何気ないことを観察している冷静な視点。
恋人はいるが結婚の予定はない。
職場の先輩の薦めで、ライフカウンセリングの先生の所に行くと、ヒーリングでマイナスエネルギーを調和して貰ったらしく、熟睡して肩こりが軽くなるが、1万5千円するのでそれ以上通う気にはなれない。
とくに不幸でもないが、すごく幸福というのでもない、どうしてもと思う指針やこだわりもない…
友達と占いに行ってみたりしながら、何となく過ぎる日常。
淡々としている中で、それぞれの生きているちょっと奇妙で少しだけ必死な感じがじわっと来ます。
著者は1973年生まれ。2008年10月発行。

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2009年10月07日

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30目前のOLとその彼氏と友達たちの何げない毎日。コレと言って何かが起こるわけではなくて。だけど何も起こらないわけでもなくて。このままで自分はいいのだろうか と思ったりするけど、だからって何か変えようと思うほど今に不満があるわけでもない。そんな毎日をとても丁寧に書いている。うん こういうの好きだな。何かが変わる直前ってもしかするとこんな風にじわじわと予感のような温度の変化のようなモノがあるのかもしれないな。「もっと、自分が確かだと思えるような、基準みたいな、理由みたいなもの。なんでもあって、なんでもしていいから、さあ選びなさいって言われて、これでいいって思えるような、なにか」を探しているんだよ、きっと、みんなさ。

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2011年08月01日

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焦り。
答えのないことへの焦り。問い自体がなんなのかわからない焦り。
得体の知れないものへの期待と不安。

勝手な解釈をさせてもらえば、ことごとく分業化、効率化され、生の実感、生の充実を感じられないことからくる焦燥が見えないものへの期待感を高めるのだと思う。
もっと自然に、もっと土に、もっと原始に近づいていかなければいけないのだと思う。

そういういろいろな部分で感じる独身30の不安定さ寄る辺のない孤独をみせつけられる。
個人的には怖い作品のような気もする。

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2009年10月04日

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大阪在住の独身女性果絵。彼あり、友人夫婦あり、実家あり、仕事あり。彼の家で仲間達と集まるシーンなどはリアリティーあり。

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2023年01月26日

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・わたしは祖父が死んだ実感がないままだったが、火葬場で職員が枦の扉を閉めた時やっと、わたしのおじいちゃんを燃やさんといてよ、と思った。(25)
・ほんで死んで会われへんようになっても、それまでとなにも変わらへんし、かえって考えるようになったから、おるときはおらへんかったのに、おらんようになったらおるっていうか。(120)

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2021年12月28日

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柴崎友香の小説はいつものことながら会話がとてもよい。
日常的過ぎて意識をするっと透過してしまいそうなんだけど、ふとした瞬間にこの本のエピソードを思い出しそう。

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2015年08月04日

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ネタバレ

頻繁に交流があったわけではない祖父が、亡くなった。
それまで日常で思い浮かべるような存在でもなかった人が、亡くなった途端にやけに思い出が蘇ってくる。

穏やかな恋人の朝陽に、占いにはまる友人の皆子、UFOや霊感についてやたら感心を示す放浪人のカツオ。
移転する小さな職場に、悩みなんてないサバサバした年下の先輩。怪しげででも効果テキメンのマッサージ屋を紹介してくれた女性同僚。

一回だけ、結婚を破断にしてしまったことがある果絵さんだけど、今の生活に特に悩みも何もなく、しかしそれで大丈夫だろうかと、不安になってみたりもする、不安になることで悩んでいる自分を演じているような、そんな日常。

これといって何かが起きるわけじゃないんだけど、仕事を細々とするOLが通勤で読んだりすると面白いの、かな。

どういうわけかこの著者の話は頭にうまく入ってこないんだよね~。
ところどころで誰の発言?何にたいする話?ってなるときもあって、今まで敬遠していたけどこれから頑張って読んでみようと思う。)^o^(

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2014年12月16日

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びっくりするくらい何も起こらないし、何も解決しない。だけど、なんだか文体が好きなんだよね。血液型に縛られてるのは日本人だけとか。だから日本人に限っては血液型で性格が決まるとか。それ真意な気がする。ただ私自身スピリチュアルとか信じないし、占いも行かないのでその辺はよくわからんかった…。最後はなんか駆け足だった気がする。2011/451

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2013年10月08日

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〈内容〉UFO、占い、家族…30歳を前にした会社員・果絵と周囲の人々をつなぐ、いくつもの見えないしるし。悩みがないわけじゃない。でも、いいあらわせない大切なものが輝きはじめる。街と人々をやさしく包みこむ、著者の新たなる傑作。

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2012年09月26日

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たまにはジャケ読みしてみるか!と、偶然装丁が目に止まった『星のしるし』を手にとりました。

この本の装丁は「冬の曇った窓ガラスを思わせる、ぼんやりとした低温度な世界」といった印象で、小川洋子さんと似た系統だったら嬉しいな~なんて期待から読み始めました。(残念ながら違いましたが^^;)

世界観、舞台設定:★★★(3)
⇒冬の関西の街を舞台に、30歳目前のOL・果絵の日常が淡々と描かれます。
⇒全くドラマティックなことはなく、主人公の人生のある期間をただ切り取っただけ…といった印象です。

登場人物の魅力:★★★(3)
⇒どの人物も強い感情を出さず、「なんとなく」放つ台詞のみで構成されており、そこがこの作品の色を作っていると感じます。
⇒終始低温度な会話が、読み手側の上を通り過ぎていくような感覚なので、特に登場人物に魅力を感じることはありませんでした。そして、この物語はそれで良いのだと思います。(まさに装丁通りの世界!ここまでシンクロしている装丁は初めてかもなぁ。)

ストーリー:★★★(3)
⇒低空飛行の物語をどう持っていくのかな~?と見守っていたら、残り10ページ程で突然の展開が起こり「ん、そういう物語にしたかったのか?!実は不思議ファンタジーだったのか?!」と構えたら、やはりそんなこともなく…最後まで安定の低空飛行だった…という印象でした^^;

読み返したいか:読み返すことはない
文体:一文一文はシンプルだが、描写をきっちりしているので、ちゃんと書いてあることを頭で描こうとすると、ちょっと大変…そんな文
読後の気分:ぼんやり・なんだか淡~く不安が残る・読み終わって物語について何か考えることもなく、そのまま日常に戻ってしまうような読後感

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2012年09月11日

Posted by ブクログ

あまりに『ヘヴン』がつよい本だったので、さすがにインパクトは弱い。200頁足らずの中に、いろいろな要素が詰め込まれているのだけど、どれも消化不良のように感じてしまった。
わたしが占いや宇宙人といったものにあまり興味が無い(というかどうでもいい)からというのもあるかもしれない。

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2012年06月09日

Posted by ブクログ

 『文学界』掲載作品で、『文藝』を中心的な発表の舞台としてきた柴崎作品としては、今までとはまた少し違う雰囲気の作品となっている。

 占いやヒーリング、果ては宇宙人まで、オカルトにはまる人たちがテーマになっていて、柴崎がこういう作品を書いているのは意外な気もするし、最初の印象としては、若干作風からズレているのではないかとも感じるところだ。

 淡々と日常を語っていく語りの中に、占い、ヒーリング、血液型、UFO、信仰、ネイティブアメリカンまで豊富なオカルトネタが日常に溶け込んだ形で登場し、ごく普通の人がそれらに触れるありようが書き込まれていく書きぶりは、かなり怖い。

 日常に潜む怪異というか、普通に生きる人々が生み出す怪異(=幻想・妄想)を描いている。P136では占いにはまることについて、語り手が自分には何もないが、何か確かなもの、基準みたいなもの、理由みたいなものが欲しいと語る箇所があるのだけど、結びではこの語り手はかなり「怖い」場所まで行ってしまう。

 三島由起夫の『美しい星』にも似ている作品だと思う。柴崎の淡々としたシャープ文体がホラー小説/怪談に向いていることがわかる作品だが、この作品自体はあまりうまくいっているわけではないと思う。柴崎の自分の資質を開いていく試みとして評価したい。

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2011年02月02日

Posted by ブクログ

占いやらヒーリングやら
ツボな要素はたくさんあったが
それを生かしきれていない感じ。
逆に言えば、上記のようなもので
日常が劇的に変わるもんでもない、
ってことがよくわかる話。

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2011年01月31日

Posted by ブクログ

ラジオですごい評価されていたので、ワクワクして読んでみたが
ただただ日常の様子が描かれて、淡々とすぎて行くだけだった。
主人公と同年代、まさに考えていることも似てたりして共感はもてたのと、大阪の地名、話し方がより身近に感じさせてもらえたが
この作者は、淡々とただただ描くということを得意としているのだろう。
映画「きょうのできごと」もそうだったなーと読み終わって気づいた。
こういうの好きだから、たまにはいいよ。

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2010年04月07日

Posted by ブクログ

こんな風に、もしも自分の人生が流れていたとしたら、
なんて自分を投影してみればすぐに感じる、そら恐ろしさ。

こんな世界に自分がふとはまり込むことのうそ寒さ、よりも、
もしも、いつも何気なく付き合っている友人たちが、
こういう世界にあるいは、いるのかもしれないことのうそ寒さ。

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2010年03月16日

Posted by ブクログ

決して孤独でも不幸でもないものが描かれているのに、どこか心の奥がシン、と冷たくなる・・・なにか怖くて胸の中の温度が下がるようなラストだった。

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2009年10月12日

Posted by ブクログ

最後がよくわからんかった。ふわっとしすぎだ!!
わたしは占いにはハマらない、と思ってたけど、
占いにハマる人の心理がよくわかった。
人間てむずかしい。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

この作家さんの作品は、
「こないだ友達と同じような会話したなー」みたいな感じで登場人物を身近な友人に配役しやすいんですよね。

なんともない毎日の日常をただただ描いている、いつもの友香ワールドです。今回は、30歳目前の女性が主人公。

物語に浮き沈みが全くないから若干退屈なんだけど、ついつい読んでしまう作家さんです。

良いことだけしか信じないけど、占いに行きたいなーって思いました☆

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

弱気なときは、占いとかそういうもんに縋りたくなる気持ちを、最近知りました。柴崎さんの大阪弁は、非常にナチュラル。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

“両方の下瞼に溜まっていた涙が、頬に落ち、膝にも落ちた。微かな重さと温度があった。
もしかして、神さまに祈ったり願ったりするのは、こういう感じかもしれない、と思った。どこかで、自分を見ていてくれたらいいのにって思うような、そういうの。”

こういう話も結構好き。
若干涙目。
息抜きに読むには丁度いい感じ。
さらっと軽く読める。

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2009年10月07日

Posted by ブクログ

柴崎友香が「30代」&「死」を描くようになったー.
印象に残る台詞多数.相変わらずな関西弁おっとり世界の中に,ちょっとずつ異分子が混じってる感じ.
ラストの2ページがほんと巧い.

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

相変わらずの描き方で

相変わらずの世界を想像させてくれる


作者が何を伝えたいか。
なんてことは僕にはどうでもよくって

読んだままを素直に感じて、素直に想像したい。



鮮やかなカラーが見えるのです。

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2009年10月07日

Posted by ブクログ

たしかにカツオは独特だ。
さざえさんのイメージが強いけど。
占いをモチーフにした小説って、中々ないよね。

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2009年10月04日

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