長岡弘樹のレビュー一覧
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著・涌井学、原作・長岡弘樹、脚本・君塚良一『映画「教場 Reunion」ノベライズ』小学館文庫。
木村拓哉主演の映画『教場 Reunion』のノベライズ。
原作小説の映画脚本のノベライズだけに原作小説のエピソードが至る所に、散りばめられている。原作小説の場合、長岡弘樹の読者を冷たくあしらうような、まるで風間公親の如き表現が多々見受けられるが、映画脚本のノベライズとなると解りやすく、逆に物足りなさを感じてしまう。
『プロローグ』と『第一話 モデリング』、『第二話 製造特徴』、『第三話 デスマスク』、『第四話 欠損』、『エピローグ』から構成されるが、『エピローグ』に描かれる結末が尻切れトンボだ。もしかしたら、来月刊行予定の『映画「教場 Requiem」ノベライズ』で続きが描かれるのだろうか。そして、映画は2本作られるのだろうか。
『プロローグ』。父親が警察官であることから何となく警察官になる道を選択した矢代桔平は大学時代の飲み会の帰り道に交番で拳銃自殺を図ろうとする警察官の生命を救う。
『第一話 モデリング』。神奈川県警察学校の第205期に入校し、風間第三教場でカメラ係を任された門田陽光は自分にも他人にも興味が薄く、そのせいで良い警察官になれないのではと悩んでいた。そんな中、風間教官の目の前で、遠野刑事を刺殺し、風間教官の右目を奪った逃亡中の十崎波琉捕まえようと、かつての風間教場生が集まる。
『第二話 製造特徴』。風間第三教場の生徒が犯した犯罪を見破る風間教官。
『第三話 デスマスク』。格闘技に自信を持つ若槻の犯した失態から、重大な弱点を見抜いた風間教官。
『第四話 欠損』。珍しく風間教官は、隠し事をしていた笠原を退校とせず、逆に激励する。
『エピローグ』。逃亡中の十崎波琉捕まえるために、妹の十崎紗羅を囮にしようと企む、かつての風間教場生たち。
本体価格610円
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ネタバレ2014年本屋大賞の続編
復讐・妄信・罪と罰が静かに交錯する連作集だった。どの犯人も一見“追い詰められた末の犯行”だが、風間は決して情に流されず、わずかな綻びを拾い上げて真相へ迫る。
特に、火薬アレルギーの娘が父の罪を知ってしまう第1話や、形見の時計が復讐を暴く第3話、盲目を装い自ら視力を失った科学者の慟哭が描かれる第6話は、犯人の“歪んだ正義”が胸に刺さる。
どの事件も、動機の切実さが読者の同情を呼びつつ、風間の冷徹な観察眼がその迷いを断ち切る。終章では彼が警察学校の教官となる経緯が明かされ、シリーズ全体へのつながりも感じられる一冊だった。 -
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2014本屋大賞の続編
「退校者を出すことで、警察官としての覚悟と資質を問う」形式から一転して、本作では“落伍者ゼロ”という真逆の課題が風間に課せられる。
校長から与えられた「半年間、一人も辞めさせるな」という条件は、風間の教官としての哲学を根底から問い直す試練でもある。シリーズを通して「鬼教官」と呼ばれた風間が、初めて“守る”側に立たされる。
最も印象的なのは、風間公親という人物像の変化だ。
これまでの彼は「冷たい炎」と評されるほど、非情な合理主義の体現者であった。生徒の弱さを暴き、警察官にふさわしくない者を容赦なく退校させる姿は、鬼教官そのものだった。
だが今作では、そうした姿勢に“人間的な温度”が加わる。
遅刻癖のある学生、喫煙の噂、入校早々に退学を考える者、妊娠問題、、従来なら切り捨てていたような生徒に対して、風間は「残す方法」を模索する。
それは単なる温情ではなく、“弱さを抱えたまま立つ力”を見出す指導法への進化である。彼は「鍛える者」から「支える者」へと変わったのだ。
この変化が、かつての教え子との関係に象徴的に表れている。彼らは風間の過去の指導を継承しつつも、彼自身をも変えていく存在として描かれる。
“落伍者ゼロ”という命題は、単なる校長の気まぐれではなく、風間という人物に対する信頼と挑戦の表れだ。
校長は一見嫌味で古臭い上司のように見えるが、実際は風間の力量を知り尽くし、その人間性を試そうとしていた。
本作の終盤で明かされる、校長の意図と風間の応答には、“教育とは、失敗させないことではなく、立ち直らせることだ”という教場シリーズの新しいメッセージが込められている。
構成的にも精神的にも、シリーズの“締めくくり”にふさわしい内容だった。
風間がこれまでの“冷徹な審判者”から“成熟した教育者”へと至ったことで、彼の物語は一つの円環を閉じたように感じられる。
派手な事件も謎解きもないが、その静けさの中に、長岡弘樹が描いてきた「人を育てることの痛みと希望」が凝縮されている。
冷徹さを貫いた初期『教場』を愛する読者には物足りなさを感じるかもしれないが、
教育というテーマの深化、人間ドラマとしての厚みという点では、本作はシリーズの到達点に位置する。
“辞めさせる物語”から“残す物語”への転換――その構造の変化こそが、風間という教師が歩んだ成長の証である。
静かな筆致の中に、長岡弘樹らしい観察眼と温かい人間理解が光る、滋味深い一冊だった。 -
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アンソロジー作品『Jミステリー2023 FALL』を読みました。
全篇書下ろしの短篇を収録した贅沢なアンソロジー作品です。
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ミステリー界の最前線で活躍する作家陣による、全編書き下ろしの超豪華アンソロジー「Jミステリー」。
この秋も誰もがよく知るあの作家たちが競演! 大好評だったあの作家の再登板も……これを読まずして日本ミステリーを語ることなかれ。
『Jミステリー2023』もお見逃しなく。
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2023年(令和5年)に刊行された作品で、以下の6篇が収録されています。
■どうして今夜の彼女は魅力的に映るんだろう 東川篤哉
■スプリット 逸木裕
■笑う君影草 長岡弘樹
■名探偵名前が適当 似鳥鶏
■夏を刈る 太田愛
■最後のひと仕事 宮内悠介
読み味、色とりどり……これぞ日本ミステリーの醍醐味! 東川篤哉、宮内悠介、長岡弘樹らミステリーで確固たる地位を築く作家から、着実にファンを集める逸木裕、昨年秋号が大好評につき再登板となった太田愛と似鳥鶏まで、大人気ミステ リー作家たちの新作書下ろしを収録した贅沢なアンソロジー第4弾。
初めて読んだ作家の作品が多かったので新鮮だったですね……そんな中でイチバン面白かったのは、烏賊川市シリーズのユーモアミステリで、公園の女子トイレで消えてしまい、その後、別な場所で殺害されて発見された少女の謎を解く、東川篤哉の『どうして今夜の彼女は魅力的に映るんだろう』ですね、、、
その他では、
超短時間で容疑者5人の中から犯人を「坂田である!」と推理して名探偵は立ち去ってしまうが、容疑者の中に坂田という名前の人物はおらず残された警察は困惑する……名前を間違えたことことにも合理的な理由が説明される似鳥鶏の『名探偵名前が適当』、
アルバム収録中のスタジオで、ロックグループのコースティック・タングスのメンバが殺害されたにも関わらず、その死体を放置したままレコーディングを続けたヴォーカリストの謎を解く宮内悠介の『最後のひと仕事』、
が印象的だったかな……プロ野球のドラフト会議を背景にしたスカウトと高校球児の物語を描いた逸木裕の『スプリット』は、ミステリというよりもスポーツ小説として愉しめましたね。
たまにはアンソロジーも良いですね……。 -
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ネタバレ2014年本屋大賞
『教場』長岡弘樹 ――人を削ぎ落とし、人間を残す試練の場。
警察学校という「閉鎖空間」を舞台に、そこに集う訓練生たちが心身ともに追い詰められながら、警察官としての覚悟を問われていく。
長岡弘樹『教場』は、ミステリの形式を借りつつも、本質的には“人格の矯正装置”としての警察学校を描いた群像劇である。
本書は連作短編の形で進み、各話が一人の訓練生を主人公に据える。物語を通して、白髪の義眼を持つ教官・風間公親の存在が一貫した軸となる。彼は一見冷徹で非情な人物だが、その厳しさの根底には「命を預かる職への責任感」がある。
風間は生徒を救わない。だが、見放しもしない。ただし「生き残れる者」だけを導く。そこにこの作品の倫理がある。
風間は、いわゆる「正義の教師」ではない。
彼は生徒を追い詰めることで、彼らの“人間の根”をあぶり出す。
嘘、恐怖、保身、憎悪、復讐──その全てを曝け出した上で、それでも立ち上がる者だけが卒業できる。
彼の義眼は、「人の本性を見る眼」の象徴だ。
片目を失ったことで、もう一方の眼(洞察)が異常に研ぎ澄まされている。
風間が求めるのは完璧な警察官ではなく、欠落を自覚した人間だ。
つまり『教場』とは、**“正義を学ぶ場”ではなく、“人間の限界を知る場”**なのだ。
「教場」とは、警察官以前に“人間”を選別する場所
『教場』は、警察学校を舞台にしたミステリとして読めるが、その本質は哲学的である。
それぞれの物語で問われるのは「正義」でも「友情」でもなく、**“現実の重さに耐えられる人間か”**という一点だ。
長岡弘樹の筆致は感情を排し、淡々とした観察者の視点を保つ。
しかし読後には、倫理や人間の弱さについて深く考えさせられる。
警察学校を舞台にしていながら、実は「社会の縮図」そのものを描いているのだ。